インドガビアル上科
インドガビアル上科 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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地質時代 | ||||||||||||||||||||||||||||||
後期白亜紀 - 現世 | ||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Gavialoidea Hay, 1930 | ||||||||||||||||||||||||||||||
属 | ||||||||||||||||||||||||||||||
インドガビアル上科(インドガビアルじょうか、学名:Gavialoidea)は、アリゲーター上科とクロコダイル上科に並ぶ、ワニ目に属する三つの上科の一つ。数多くの化石種が知られているが、現生種はインドガビアル(Gavialis gangeticus)とマレーガビアル(Tomistoma schlegelii)の2種のみが属する。
特徴
[編集]インドガビアル上科はアリゲーター上科やクロコダイル上科と比べて吻部が非常に細長い点が特徴である。この特殊化は魚食性への適応であり、水中で吻部を動かす際の抵抗を軽減し、獲物を捕らえる俊敏な動作を可能としている[2]。
進化史
[編集]小林快次は、著書『ワニと恐竜の共存 巨大ワニと恐竜の世界』(2013年)において、初期のインドガビアル上科としてエオトラコサウルス(マーストリヒチアン期)やトラコサウルス(マーストリヒチアン期 - 暁新世)を挙げている。トラコサウルスはヨーロッパからも化石が産出しているが、両者とも北アメリカ大陸に生息した属である。これらの化石は海岸線の海の堆積物層から発見されており、海棲であったとまでは判断できないものの、沿岸部の環境を好んでいたことが示唆される[3]。
絶滅した南アメリカ大陸のインドガビアル上科は、後期古第三紀から前期新第三紀ごろにアフリカ大陸やアジアから分布を拡大した可能性が高い[4]。プエルトリコの漸新統から産出したアクティオガビアリスの化石からは、彼らが大西洋を渡ってアフリカ大陸から移動したこと、そしてやはり彼らに海水への耐性があったことを示唆している[5]。中新世に入ると南米のインドガビアル上科は多様性を増し、ピスコガビアリスやイカノガビアリスなどが出現した[2]。特にグリポスクス・クロイザティはインドガビアル上科で最大の種とされる。ダグラス・リフらによると、1.4メートルの頭骨から推定される最大全長は10.67メートル、最大体重は2379キログラムに達した[6]。
現生のインドガビアルはインド周辺の淡水域または汽水域に生息しており、祖先と違って海水に生息してはいない。このような淡水での生活は、彼らの進化史から見れば最近の段階で確立された可能性が否めない[2]。
分類
[編集]インドガビアル上科は、マレーガビアルと、アメリカアリゲーターやナイルワニによりもそれに近縁な全てのワニとして、分岐学的に定義されている[4][5]。インドガビアル上科はステムグループで、クラウングループのインドガビアル科よりも包括的である[7]。インドガビアル科に属するのは現生のインドガビアル科の最も近い共通祖先とその全ての子孫だけであるが、インドガビアル上科にはクロコダイルやアリゲーターよりもインドガビアル科に近縁なより基盤的な祖先も含まれるのである。現生種のみで考える場合にはインドガビアル上科とインドガビアル科はシノニムであり、インドガビアル上科は古生物学の文脈でのみ用いられる。
伝統的には、クロコダイルとアリゲーターが近縁とされ、ガビアルを除いたブレヴィロストレス類という分類群が考えられていた。この分類は骨格の形態学的研究に基づくものであった[8]。しかし、後のDNAシークエンシングを用いた研究ではブレヴィロストレス類は棄却され、アリゲーターよりもガビアルとクロコダイルが互いに近縁であることが判明した[9][10][11][7][12]。2003年には新しい分岐群としてLongirostres (en) が命名された[9]。
さらに、マレーガビアルおよびそれに近縁な化石種が実際にはインドガビアル上科インドガビアル科に属することも、DNA研究により示唆された[9][13][14][10][11][7][12]。マレーガビアルはインドガビアルと外見が類似していながら遠縁と考えられており、マレーガビアルの属するトミストマ亜科は伝統的にクロコダイル上科に分類されていた。これも形態学的研究に基づくものであった[13]。
2018年に発表されたLeeとYatesの研究では、形態情報・分子情報・層序からワニ目内の類縁関係が示され[7]、2021年にはHekkalaらが絶滅したヴォアイのDNAを抽出して解析を行ってこれを拡張した[12]。LeeとYatesの解析では、トラコサウルスやその他の化石属がインドガビアル上科から除外された。
ワニ目 |
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(クラウングループ) |
出典
[編集]- ^ Jouve, S.; de Muizon, C.; Cespedes-Paz, R.; Sossa-Soruco, V.; Knoll, S. (2020). “The longirostrine crocodyliforms from Bolivia and their evolution through the Cretaceous–Palaeogene boundary”. Zoological Journal of the Linnean Society. doi:10.1093/zoolinnean/zlaa081.
- ^ a b c 小林快次『ワニと恐竜の共存 巨大ワニと恐竜の世界』北海道大学出版会、2013年7月25日、50-51頁。ISBN 978-4-8329-1398-1。
- ^ 小林快次『ワニと恐竜の共存 巨大ワニと恐竜の世界』北海道大学出版会、2013年7月25日、38頁。ISBN 978-4-8329-1398-1。
- ^ a b Brochu, C. A. (2003). “Phylogenetic approaches toward crocodylian history”. Annual Review of Earth and Planetary Sciences 31 (31): 357–397. Bibcode: 2003AREPS..31..357B. doi:10.1146/annurev.earth.31.100901.141308 .
- ^ a b Vélez-Juarbe, J.; Brochu, C. A. & Santos, H. (2007). “A gharial from the Oligocene of Puerto Rico: transoceanic dispersal in the history of a non-marine reptile”. Proceedings of the Royal Society 274 (1615): 1245–1254. doi:10.1098/rspb.2006.0455. PMC 2176176. PMID 17341454 .
- ^ 土屋健『地球生命 水際の興亡史』技術評論社、2021年7月15日、156-157頁。ISBN 978-4-297-12232-4。
- ^ a b c d Michael S. Y. Lee; Adam M. Yates (27 June 2018). “Tip-dating and homoplasy: reconciling the shallow molecular divergences of modern gharials with their long fossil”. Proceedings of the Royal Society B 285 (1881). doi:10.1098/rspb.2018.1071.
- ^ Holliday, Casey M.; Gardner, Nicholas M. (2012). Farke, Andrew A. ed. “A new eusuchian crocodyliform with novel cranial integument and its significance for the origin and evolution of Crocodylia”. PLOS ONE 7 (1): e30471. Bibcode: 2012PLoSO...730471H. doi:10.1371/journal.pone.0030471. PMC 3269432. PMID 22303441 .
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- ^ Willis, R. E.; McAliley, L. R.; Neeley, E. D.; Densmore Ld, L. D. (June 2007). “Evidence for placing the false gharial (Tomistoma schlegelii) into the family Gavialidae: Inferences from nuclear gene sequences”. Molecular Phylogenetics and Evolution 43 (3): 787–794. doi:10.1016/j.ympev.2007.02.005. PMID 17433721.