ヤマアラシ

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ヤマアラシ
ヤマアラシ科
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: ネズミ目(齧歯目) Rodentia
亜目 : ヤマアラシ亜目 Hystricomorpha
: ヤマアラシ科 Hystricidae
アメリカヤマアラシ科 Erethizontidae
学名
Hystricidae
Fischer de Waldheim, 1817
Erethizontidae
Bonaparte, 1845
英名
Porcupine

ヤマアラシ(山荒、豪猪、学名:Hystricidae)は、ヤマアラシ科およびアメリカヤマアラシ科に属する草食性齧歯類の総称である。体の背面と側面の一部に鋭い針毛(トゲ)をもつことを特徴とする。

旧世界ヤマアラシと新世界ヤマアラシ

ヤマアラシという名で呼ばれる動物は、いずれも背中に長く鋭い状の体毛が密生している点で、一見よく似た外観をしている(針毛の短い種もある)。しかし、“ヤマアラシ”に関して最も注意すべきことは、ユーラシアアフリカ旧世界)に分布する地上生のヤマアラシ科と、南北アメリカ新世界)に分布する樹上生のアメリカヤマアラシ科という2つのグループが存在することである。これらは齧歯類という大グループの中で、別々に進化したまったく独立の系統であり、互いに近縁な関係にあるわけではない。

両者で共有される、天敵から身を守るための針毛(トゲ)は、収斂進化の好例であるが、その針毛以外には、共通の特徴はあまり見られない。齧歯目(ネズミ目)の分類法には諸説があるが、ある分類法では、ヤマアラシ科はフィオミス型下目、アメリカヤマアラシ科はテンジクネズミ型下目となり、下目のレベルで別のグループとなる。つまりアメリカヤマアラシ科はヤマアラシ科よりも、テンジクネズミ科とのほうが系統が近い。

2群の動物が、現在に至るまでヤマアラシという共通の名前で呼ばれているのは、そもそもヨーロッパから新大陸に渡った開拓者たちが、この地で新たに出会ったアメリカヤマアラシ類を、まったくの別系統である旧知のヤマアラシ類と混同して、呼称上の区別をつけなかった名残りに過ぎない。特に区別する必要があるときは、それぞれ「旧世界ヤマアラシ」「新世界ヤマアラシ」と呼び分けるのが通例である。

分類

ヤマアラシはヤマアラシ科およびアメリカヤマアラシ科の2つの科からなる。 ヤマアラシ科はアジアとアフリカ(およびヨーロッパのごく一部)に生息する地上性のヤマアラシである。夜行性で、昼間は岩陰や地中に掘った巣穴に潜んでいる。アメリカヤマアラシ科は北アメリカ南アメリカに生息するヤマアラシで、丈夫な爪をもち、木登りが得意である。こちらも夜行性で、昼間は岩陰や樹洞に潜んでいる。

針毛(トゲ)による防御

個体から抜け落ちた針毛

他にもハリネズミ目ハリネズミカモノハシ目ハリモグラなど、体が針で覆われた哺乳類が知られているが、それぞれが独自に進化の過程において針を獲得してきた。

通常、針をもつ哺乳類は外敵から身を守るために針を用いるが、ヤマアラシは、むしろ積極的に外敵に攻撃をしかける攻撃的な性質をもつ。肉食獣などに出会うと、尾を振り、後ろ足を踏み鳴らすことで相手を威嚇するだけでなく、頻繁に背中の針を逆立てて、相手に対し後ろ向きに突進する。本種の針毛は硬く、その強度はゴム製長靴を貫く程であり、また捕食された場合でも針が相手の柔らかい口内や内臓を突き破り感染症や疾患を引き起こさせ、場合によっては死亡させることが知られている。この為、クマやトラといった大型の捕食動物でも本種を襲うケースは少ない。前述の攻撃的な性質はここに要因するとみられている。

ケープタテガミヤマアラシ Hystrix africaeaustralisなどの針は白黒まだらの目だつ模様をしている。これはスズメバチの腹の黄黒まだらの模様と同じく、警告色の役割をしていると考えられる。

生態・形態的特徴

ヤマアラシは通常、頭胴長63-91cm、尾長20-25cm、体重5.4-16kg。夜行性で、穀類果実、木の、樹皮、などの植物を食べる。群れをつくらず単独行動で生活している。1度に出産する子供の数は1-2頭と少ない。

雑事項

妖怪のモデル

ヤマアラシまたはヤマオロシという妖怪が伝えられており、この動物がモデルであるとの説がある。

哲学用語

「ヤマアラシのジレンマ」[注 1]とは、「自己の自立」と「相手との一体感」という2つの欲求によるジレンマ。寒空にいるヤマアラシが互いに身を寄せ合って暖め合いたいが、針が刺さるので近づけないという、ドイツ哲学者ショーペンハウアー寓話に由来する。その日本語訳は以下の通りである。

ある冬の寒い日、たくさんのヤマアラシたちが暖を求めて群がったが、互いのトゲによって刺されるので、離れざるを得なくなった。しかし再び寒さが彼らを駆り立てて、同じことが起きた。結局、何度も群れては離れを繰り返し、互いに多少の距離を保つのが最適であるのを発見した。これと同様に、社会における必要に駆り立てられ、人間というヤマアラシを集まらせるが、多くのトゲや互いに性格の不一致によって不快を感じさせられる。結局、交流において許容できるような最適の距離感を発見し、それがいわゆる礼儀作法やマナーである。それを逸脱する者は、英語では「to keep their distance」(距離を保て)と乱暴に言われる。この取り決めによって、初めて互いに暖を取る必要が適度に満たされ、互いの針で刺されることも無くなる。とは言え、自らの内に暖かみを持つ人間は、人々の輪の外に居ることを好むであろう。そうすれば互いに針で突いたり突かれたりすることも無いのだから。

この概念について、後にフロイトが論じ、精神分析家のベラック(Bellak、1916-2002)が名付けた[1]。心理学的には「紆余曲折の末、両者にとってちょうど良い距離に気付く」という肯定的な意味として使われることもある。

なお、実際のヤマアラシは針のない頭部を寄せ合って体温を保ったり、睡眠をとったりしている。

参考図書

  • 日本雑学研究会『動物おもしろ性態学 』毎日新聞社, 2005, 284p

脚注

  1. ^ 英語では、原義どおりに"Porcupine's dilemma"(「ヤマアラシのジレンマ」)と呼ぶ場合も、形状の似た別の動物に置き換えて"Hedgehog's dilemma"(「ハリネズミのジレンマ」)と呼ぶ場合もある。

出典

  1. ^ 清水書院『用語集 現代社会+政治・経済 '12-'13年版』6ページ

外部リンク