コンテンツにスキップ

トラメチニブ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。Cewbot (会話 | 投稿記録) による 2022年12月2日 (金) 20:15個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (解消済み仮リンクBRAFMEKMEK1を内部リンクに置き換えます (本次bot作業已進行32.1%))であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

Trametinib
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
販売名 Mekinist
胎児危険度分類
  • US: D
法的規制
  • JP: 劇薬、処方箋医薬品
  • US: -only
識別
CAS番号
871700-17-3
ATCコード L01XE25 (WHO)
PubChem CID: 11707110
ChemSpider 9881833
UNII 33E86K87QN チェック
ChEBI CHEBI:75998
ChEMBL CHEMBL2103875
別名 GSK1120212
化学的データ
化学式C26H23FIN5O4
分子量615.39 g/mol
テンプレートを表示

トラメチニブ(Trametinib)は、分子標的薬に分類される抗がん剤の一つである。MEK阻害効果英語版により、細胞の増殖に寄与するMAPK/ERKシグナル伝達経路英語版を阻害して抗腫瘍効果を発揮する[1]MEK1およびMEK2英語版を阻害する[1]。商品名メキニスト。京都府立医科大学分子標的癌予防医学教室の酒井敏行教授とJTが産学連携により創薬した[2]。開発コードGSK1120212。

転移のある悪性黒色腫の内、BRAF V600E変異陽性の腫瘍をターゲットとした第III相臨床試験でトラメチニブは良好な結果を示した。この変異では、BRAF 遺伝子でコードされる蛋白質(B-Raf)の600番目のバリン(V)がグルタミン酸(E)に置換されており、ゆえにBRAFは恒常的に活性化されている[3]

承認取得状況

2013年5月、トラメチニブは単剤でV600E変異またはV600K変異を有する悪性黒色腫に対する治療薬として米国でFDAに承認され[4][5]、2014年1月には、BRAF阻害薬ダブラフェニブとの併用療法が迅速承認された[6]。また2014年4月には欧州でEMAから「切除不能または転移性のBRAF V600変異陽性メラノーマを有する成人患者」に対しての承認を取得した[7]

日本では2016年3月に「BRAF 遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫」について承認された[8]

効能・効果

  • BRAF遺伝子変異を有する切除不能な進行または再発の非小細胞肺癌
  • BRAF遺伝子変異を有する悪性黒色腫

副作用

MAPK/ERK経路の主要要素。“P”はリン酸で、蛋白質(酵素)がリン酸化されて活性化することを示す。最上部では上皮細胞増殖因子(EGF)が細胞膜に存在する受容体(EGFR)に結合しており、これがシグナルカスケード(連鎖反応)の起点である。下流に向けて、RAF→RAS→MEK→MAPK(ERK)と活性化反応が進んで行く。最下部では、シグナルが細胞核に到達してDNAの転写が始まり、蛋白質が合成される。

治験での副作用発現率は、単剤で国内・海外通算97.3%、ダブラフェニブとの併用で89.8%であり、主な内訳は発疹、下痢、AST(GOT)増加などであった。

重大な副作用として添付文書に記載されているものは、

  • 心不全(0.3%)、左室機能不全(0.5%)、駆出率減少(5.7%)などの心障害、
  • ALT(GPT)(8.3%)、AST(GOT)(8.4%)等の上昇を伴う肝機能障害、
  • 間質性肺疾患(0.1%)、横紋筋融解症(0.1%)、深部静脈血栓症、肺塞栓症(0.3%)、
  • 脳出血、脳血管発作などの脳血管障害

である[9](頻度未記載は頻度不明)。

作用機序

MAPK/ERK経路またはRas-Raf-MEK-ERK経路とは、細胞表面での受容体刺激(リガンドと受容体の結合)を細胞核に伝える連鎖反応経路である。BRAF 遺伝子が変異すると、受容体刺激無しでBRAFが活性化して下流にシグナルを送り続け、細胞が無秩序に増殖する。変異したBRAFを阻害する事で異常なシグナル伝達を抑制し、細胞の異常増殖を抑えることができる。

臨床試験

切除不能の悪性黒色腫の患者322名に対してトラメチニブと従来の化学療法(ダカルバジンまたはパクリタキセル)を2対1に割り付けた結果、無増悪生存期間はトラメチニブ群4.8か月対化学療法群1.5か月であり、高度な有意差(p<0.001)が認められた[10]。無増悪生存期間はダブラフェニブとの併用でさらに延長(5.8か月から9.4か月へ、p<0.001)した[11]

移植医療への応用

造血幹細胞移植後の患者では移植片対宿主病(GVHD)が生じ易いので通常免疫抑制剤が使用されるが、この時移植片対腫瘍効果(GVTE)をも同時に抑制するので移植後に血液がんを再発することがあった。MEK阻害薬であるトラメチニブを使用すると、GVTEを抑制する事なくGVHDを抑えられることが動物実験で明らかとなり、ヒト患者を対象とした臨床試験が予定されている[12]

関連項目

分裂促進因子活性化蛋白質キナーゼ(MAPK) - MEKで活性化される蛋白質の一つ

出典

  1. ^ a b Trametinib, NCI Drug Dictionary
  2. ^ 産学連携から生まれた新しい分子標的薬トラメチニブ”. 科学技術振興機構 (2014年2月). 2015年4月28日閲覧。
  3. ^ METRIC phase III study: Efficacy of trametinib (T), a potent and selective MEK inhibitor (MEKi), in progression-free survival (PFS) and overall survival (OS), compared with chemotherapy (C) in patients (pts) with BRAFV600E/K mutant advanced or metastatic melanoma (MM).
  4. ^ “GSK melanoma drugs add to tally of U.S. drug approvals”. Reuters. (May 30, 2013). http://www.reuters.com/article/2013/05/30/us-glaxosmithkline-approvals-idUSBRE94S1A020130530 
  5. ^ GSKの2つの経口抗がん薬、BRAF阻害剤Tafinlar(dabrafenib)と初のMEK阻害剤Mekinist™(trametinib)が単剤療法としてFDAの承認を取得”. グラクソ・スミスクライン (2013年6月12日). 2015年4月28日閲覧。
  6. ^ GSK、Mekinist(trametinib)とTafinlar(dabrafenib)の併用療法についてFDAから迅速承認を取得”. グラクソ・スミスクライン (2014年1月16日). 2015年4月28日閲覧。
  7. ^ 日本発のMEK阻害薬trametinibなどの承認を推奨”. MTPro (2014年4月28日). 2015年4月28日閲覧。
  8. ^ MEKを阻害する抗メラノーマ薬”. 日経メディカル (2016年7月1日). 2016年7月6日閲覧。
  9. ^ メキニスト錠0.5mg/メキニスト錠2mg 添付文書” (2016年3月). 2016年7月6日閲覧。
  10. ^ Keith T. Flaherty, Caroline Robert, Peter Hersey et al. (2012-07-12). “Improved Survival with MEK Inhibition in BRAF-Mutated Melanoma”. N Engl J Med 367: 107-114. doi:10.1056/NEJMoa1203421. PMID 22663011. http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1203421 2015年4月28日閲覧。. 
  11. ^ Combined BRAF and MEK Inhibition in Melanoma with BRAF V600 Mutations. 367. New England Journal of Medicine. (November 1, 2012). pp. 1694–703. doi:10.1056/NEJMoa1210093. PMC 3549295. PMID 23020132. http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1210093. 
  12. ^ MEK阻害剤が、移植における免疫異常を解決することを世界で初めて発見”. 佐賀大学 (2016年6月28日). 2016年7月12日閲覧。