銀の弾丸

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銀の弾丸(ぎんのだんがん、: silver bullet)とは、で作られた弾丸で、西洋の信仰において狼男悪魔などを撃退できるとされ、装飾を施された護身用拳銃と共に製作される。

概要[編集]

銀には高い殺菌作用があるほか、ヒ素化合物のひとつである硫化ヒ素と反応して黒変する性質があるため、古くから病をもたらす未知の存在へ対抗する手段として経験則的に知られている[1]。こうした背景から、通常の弾丸では通用しない吸血鬼や狼男、魔女なども銀の弾丸なら射殺できるとされ、伝説やフィクションの世界で多用される存在となった[2]

比喩表現としての銀の弾丸[編集]

現代においては文字どおりの弾丸を意味するものではなく、狼男や悪魔を一発で撃退できるという意味から転じた比喩表現として用いられる場合が多い。例えば、ある事象に対する対処の決め手や特効薬、あるいはスポーツで相手チームのエース選手を封じ込める選手などを表現する場合に用いられる。また、ソフトウェア工学の分野においては、フレデリック・ブルックスが1986年に発表した論文で「No Silver Bulletノー・シルヴァー・ビュレット」(銀の弾などない)という句を用い、全ての問題に通用する万能な解決策などは存在しないと論じたことから、理想論的なソフトウェア設計について否定的な意味で用いる例もある。似たような意味で使われる語句としては、次のものがある。

  • 王の道
  • 魔法の弾丸
  • ゴールデンハンマー(マズローのハンマー、道具の法則):一つの目的に作られた物を複数の用途に使用する行為についての確証バイアスの事。心理学者のアブラハム・マズローは「興味深いことに、金槌しか道具を持っていない人は、何もかも釘であるかのように取り扱う。」と言ったことから。マズローより昔からバーミンガムスクリュードライバーは金槌の意味で使われている。

文字通りの銀の弾丸[編集]

現実における銀は弾丸として用いるには高価な金属なので、宗教的・象徴的な存在としてのみ用いられる。銃規制の比較的緩い国で銀の弾丸が製造される例が無いわけではないが、お守りやおもちゃに近い存在である。銀の弾丸を使用したとしても、銀の比重は10.49との比重(11.36)よりも軽く、一般的な鉛の弾丸と比べて優れた殺傷力が得られるわけではない。弾丸の比重が軽いと銃口初速が増すため命中率の向上などの効果をもたらす可能性はあるが、銀より比重の軽い金属は数多く存在する(鋼鉄は7.87、真鍮は8.45など)ため、比重の軽さを目的にあえて高価な銀を使用する理由はない。

銀の弾丸が登場する物語[編集]

  • グリム童話『二人兄弟』 - 兄は当初鉛の通常弾で魔女を木から撃ち落とそうとするが果たせず、服の銀ボタンを3つちぎり取って装填し、今度は魔女を転落させることに成功する。
  • スティーヴン・キングIT』(文春文庫・全4巻) - 「それ」(IT)と呼ばれる謎の怪物に襲われた6人の少年少女が、銀のばら玉(薔薇の形をした銀製アクセサリー)を武器として立ち向かう。
  • スーパーナチュラル - ほぼ全編でウィンチェスター兄弟が使用。
  • 鎌倉ものがたり- 作中での鎌倉警察署の署員は、銀の弾丸を発射可能なピストルを携行している設定となっている。
  • HELLSING - 対化物用の銃弾として、法儀された銀の弾頭が用いられる。

参考文献[編集]

  • Frederick Phillips,Jr. Brooks著、滝沢徹・富沢昇・牧野祐子翻訳『人月の神話 - 狼人間を撃つ銀の弾はない』 ピアソンエデュケーション 2002年 ISBN 4894716658
  • 佐藤有文『怪奇ミステリー』 学研ジュニアチャンピオンコース

脚注[編集]

  1. ^ 特に中世ヨーロッパでは食物へのヒ素混入による毒殺を防ぐため、王侯貴族の間で銀製の食器を使用することが流行した(「武蔵野大学薬学部特別講演『薬剤師への道標』」第2回 佐谷圭一 2004年4月8日)。
  2. ^ ウルフェン』、『マトリックス・リローデッド』、『怪奇ミステリー』、『二人兄弟』など。