蛇腹楽器

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概要[編集]

蛇腹楽器(じゃばらがっき)は、手で「ふいご」状の蛇腹を動かすことで楽器の中に空気を出し入れしてフリー・リードを鳴らす気鳴楽器の総称。英語の俗語でsqueezebox(直訳すると「圧搾箱」)、ドイツ語でHandzuginstrument、中国語で“手风琴”(手風琴)[1]と総称される一群の楽器を指す。具体的には、アコーディオンスタイリッシュハーモニカバンドネオンコンサーティーナ等が含まれる。

歴史[編集]

蛇腹楽器の技術的特徴は「蛇腹、鍵盤、金属製のフリーリード」である。
蛇腹と鍵盤については、ヨーロッパでは中世から超小型のパイプオルガン「ポルタティフ」があった。
金属製のフリーリードについては、18世紀ごろ中国の「」がヨーロッパに持ち込まれ、その発音原理が西欧の学者のあいだでも知られるようになった。
1820年代、産業革命期における工業技術の進歩や、特許制度の確立、新興の市民階層が手軽に楽しめる新しい楽器に対する需要などが要因となり、ドイツ、イギリス、オーストリアで、新しい「蛇腹楽器」が発明された。
初期の蛇腹楽器はおおむね小型軽量で安価であったが、時代が下るにつれ、複雑な機構をもつ大型の蛇腹楽器が次々と開発された。

主な蛇腹楽器[編集]

  • アコーディオン 1822年にドイツのフリードリッヒ・ブッシュマンが原型を発明した、あるいは、1829年にオーストリアのシリル・デミアンが発明したとされる。当初はダイアトニック式のみだったが、後にクロマティック式も開発された。
  • コンサーティーナ アコーディオンとは別個に、同時期のイギリスで発明された。当初はクロマティック式だったが、後にダイアトニック式の機種も開発された。
  • バンドネオン 本来は重厚低音化した大型のコンサーティーナであったが、後に独立した楽器とみなされるようになった。

楽器の形状[編集]

蛇腹楽器のサイズや形状は多種多様であるが、基本形は同じである。
ふいご状の蛇腹の左右に「箱」がついている。楽器は、両手で抱えるようにもつ。箱には鍵盤やボタンが並んでおり、それぞれの空気穴を指で開閉することで、フリー・リードの音を鳴らす。[2]

蛇腹楽器の多くは、コンサーティーナもバンドネオンも、ボタン式鍵盤を備えている。アコーディオンやスタイリッシュハーモニカは、ボタン式の他に、ピアノ式鍵盤を備えたタイプもある(日本国内ではピアノ式鍵盤のアコーディオンが主流だが、外国ではむしろボタン式アコーディオンも普及している)。

楽器分類の中での位置づけ[編集]

蛇腹楽器に含まれる楽器は全て、楽器分類学では「自由気鳴楽器」に分類される。また楽器の実用的分類では「鍵盤楽器」に分類される。
ハーモニカやリードオルガンも「自由気鳴楽器」であるが、空気を送り込む方法(これも演奏方法の重要な要素である)がアコーディオン等とは全く違う。
ピアノもオルガンも、アコーディオン等と同じ「鍵盤楽器」であるが、打弦楽器であるピアノと、フリー・リード楽器であるアコーディオンでは、音色も演奏のフィーリングも、楽器の製造や修理・メンテナンス・調律の方法も、全く異なる。
科学的には「気鳴楽器」という分類が適切であり、運指から見れば「鍵盤楽器」という分類が便利である。楽器の販売・流通・演奏教授法も含めた総合的な実用的分類としては、「蛇腹楽器」というくくりかたが便利である。

実際、アコーディオンやバンドネオン、コンサーティーナは、それぞれ楽器の形や運指法が大きく異なるにもかかわらず、演奏にあたっては蛇腹の押し引きの加減による演奏テクニック「ベローイング」が重要であるなど、共通性も大きい。そのため、例えばタンゴ音楽の伴奏で、バンドネオンの代わりにピアノ式鍵盤アコーディオンを使うことも、よく見られる。

楽器業界においても、アコーディオンの販売・修理を手がける楽器店が同時にバンドネオンやコンサーティーナも扱うなど、楽器の流通面でも蛇腹楽器としてのまとまりが存在する。

上記のような理由で、楽器メーカーや楽器店、演奏者は、楽器の構造と実態に即した「蛇腹楽器」という実用的分類をよく使う傾向がある。[3]

脚注[編集]

明治時代の本の手風琴の図。
  1. ^ 日本語「手風琴」(てふうきん)も、中国語“手风琴”(手風琴)も、本来は(1)アコーディオン、(2)蛇腹楽器、の二つの意味がある。しかし中国では、欧米と違い、バンドネオン(中国語で“班都尼昂琴”)やコンサーティーナ(中国語では定訳が無く“六角风琴”“六角形手风琴”等と訳される)を弾く人は少ないため、単に「手風琴」と言うと、普通はアコーディオンだけを指す。また現代の日本で「手風琴」と言うと、明治から昭和初期にかけて「オイチニの薬屋さん」が使っていたような、古い小型のダイアトニック式の蛇腹楽器、というイメージがある。
  2. ^ 蛇腹をもつ気鳴楽器であっても、持ち運べる小型パイプオルガン「ポルタティフ」(w:en:Portative organ)や、日本の小学校でよく見かける「足踏みオルガン」(リードオルガン)、インド音楽の「ハルモニウム」などは、この基本形からはずれるため、通常「蛇腹楽器」の範疇には含めない。
  3. ^ 谷口楽器 タニグチサンデートーク 加藤徹氏「コンサーティーナについて」

関連項目[編集]