聖母子と少年聖ヨハネ、二人の天使

『聖母子と少年聖ヨハネ、二人の天使』
	イタリア語: Madonna con Bambino, San Giovannino e due angeli; 英語: Virgin and Child with the Young St John the Baptist and Two Angels
作者	サンドロ・ボッティチェッリ
製作年	1468年ごろ
種類	テンペラ、板
寸法	85 cm × 62 cm (33 in × 24 in)
所蔵	アカデミア美術館、フィレンツェ

『聖母子と少年聖ヨハネ、二人の天使』（せいぼしとしょうねんせいヨハネふたりのてんし、伊: Madonna con Bambino, San Giovannino e due angeli, 英: Virgin and Child with the Young St John the Baptist and Two Angels）は、イタリアの盛期ルネサンスの巨匠サンドロ・ボッティチェッリが1468年ごろに制作した絵画である。テンペラ画。ボッティチェッリ初期の聖母子画で、師であるフィリッポ・リッピ、およびアンドレア・デル・ヴェロッキオの強い影響がうかがわれる。もともとはフィレンツェの最古の病院であるサンタ・マリア・ヌオーヴァ病院（英語版）が所有した作品で、現在はフィレンツェのアカデミア美術館に所蔵されている^[1]^[2]^[3]^[4]^[5]。

作品[編集]

本作品はボッティチェッリ初期の一連の聖母子画に含まれるが、その中でも師フィリッポ・リッピがウンブリア地方の都市スポレートに移って以降の作品とされる。当時のボッティチェッリはフィリッポ・リッピの影響が残っている反面、アンドレア・デル・ヴェロッキオの新しい影響が強く表れている^[2]^[3]。ボッティチェッリはこの図像モデルを他の絵画でも使用し続けた^[2]^[3]。

聖母子は少年の姿をした2人の天使および洗礼者聖ヨハネとともに描かれている。画面左には天使が2人おり、そのうちの1人が幼児のイエス・キリストを抱えて聖母マリアに差し出している。聖母マリアも天使から幼児キリストを受け取って、膝の上で抱いており、また幼児キリストも両手を聖母に向かって伸ばしている。この幼児キリストの仕草はヴェロッキオの聖母子画から引用したものである^[2]。一方で聖母マリアが着ているマントの蛇行する縁飾りや、頭部の透けて見えるヴェールはフィリッポ・リッピの影響である^[6]。洗礼者聖ヨハネは画面右の聖母の背後で右手を胸に当て、十字架を左手に持って立っている。聖母が腰かけている椅子は本作品の特徴的な細部の1つで、赤色のセラフィムの形をしている^[2]。背景には当時のボッティチェッリの聖母子画でしばしば見られるホルトゥス・コンクルスス（英語版）や、風景の描写はなく、青空のみが描かれている^[2]。

彼らのうち聖母マリアと洗礼者聖ヨハネは幼児キリストを見ているが、目を伏せた表情は物思いに沈んでいるようである。これに対して幼児キリストは視線を天空の高い場所に向けている^[2]^[3]。このキリストの視線や青空のみ描かれた背景、あるいは赤いセラフィムの椅子は、天国におけるキリストの未来を暗示している^[2]。天使のうち一方は聖母マリアを見上げ、もう一方の天使は鑑賞者のほうを見ている^[3]。

サイズが小さいことから、個人的礼拝のために依頼されたと考えられているが、発注者や絵画が設置されていた場所は不明である^[3]。

美術史家ヴィルヘルム・フォン・ボーデ（英語版）によるボッティチェッリへの帰属は、ハーバート・ホーン（英語版）とアドルフォ・ヴェントゥーリ（英語版）を除くほぼすべての研究者によって受け入れられている^[4]。

1979年に貴石博物館（英語版）によって修復された^[3]。また1980年代に後代の大幅な修正が除去された。それ以降、本来の品質が高く評価されている^[5]。

来歴[編集]

もともと絵画を所有していたのはサンタ・マリア・ヌオーヴァ病院であったことが知られている。同病院が絵画を所有するに至った経緯は明らかではない。病院長が患者たちの希望となるような絵画をボッティチェッリに発注したか、裕福な家族によって患者の病室を飾るために制作されたのち、病院に寄贈された可能性が考えられる^[2]。いずれにせよ絵画は1900年までサンタ・マリア・ヌオーヴァ病院にあり、同年にウフィツィ美術館に収蔵され、1919年にアカデミア美術館に移管された^[3]^[5]。直近の保存作業は2011年に行われた^[3]。

ギャラリー[編集]

関連作品

アンドレア・デル・ヴェロッキオ『聖母子と二人の天使』1467年-1469年ごろロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵
サンドロ・ボッティチェッリ『聖母子と二人の天使』1468年–1469年ごろカポディモンテ美術館所蔵
フィリッポ・リッピの模倣者『聖母子と天使』 1480年ごろロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵

脚注[編集]

^ 『西洋絵画作品名辞典』p.697。
^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f ^g ^h ⁱ 『ボッティチェリとルネサンス』p.122。
^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f ^g ^h ⁱ “Virgin and Child with the Young St John the Baptist and Two Angels”. アカデミア美術館公式タイト. 2023年9月9日閲覧。
^ ^a ^b “Madonna con Bambino e San Giovannino”. ウフィツィ美術館公式サイト. 2023年9月9日閲覧。
^ ^a ^b ^c “Botticelli”. Cavallini to Veronese. 2023年9月9日閲覧。
^ バルバラ・ダイムリング、p.12。

参考文献[編集]

『西洋絵画作品名辞典』黒江光彦監修、三省堂（1994年）
バルバラ・ダイムリング『ボッティチェッリ（ニューベーシック・アートシリーズ）』タッシェン（2001年）
『ボッティチェリとルネサンスフィレンツェの富と美』ルドヴィカ・セブレゴンディ、木島俊介監修、Bunkamura、NHK、毎日新聞社（2015年）

外部リンク[編集]

アカデミア美術館公式タイト, サンドロ・ボッティチェッリ『聖母子と少年聖ヨハネ、二人の天使』

[1] 『西洋絵画作品名辞典』p.697。

[BR122-2] ^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f ^g ^h ⁱ 『ボッティチェリとルネサンス』p.122。

[FA-3] ^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f ^g ^h ⁱ “Virgin and Child with the Young St John the Baptist and Two Angels”. アカデミア美術館公式タイト. 2023年9月9日閲覧。

[UF-4] “Madonna con Bambino e San Giovannino”. ウフィツィ美術館公式サイト. 2023年9月9日閲覧。

[CTV-5] “Botticelli”. Cavallini to Veronese. 2023年9月9日閲覧。

[6] バルバラ・ダイムリング、p.12。

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表話編歴サンドロ・ボッティチェッリ
初期の作品	『グィーディ・ダ・ファエンツァの聖母』（1465年頃）『聖母子と天使（フィレンツェ）』（1465年-1467年）『ロッジアの聖母』（1467年頃）『聖母子と少年聖ヨハネ、二人の天使』（1468年頃）『聖母子と二人の天使（ナポリ）』（1468年–1469年頃）『聖母子と二人の天使（ワシントン）』（1465年-1470年頃）『セラフィムのいる栄光の聖母子』（1469年-1470年）『バラ園の聖母』（1469年-1470年）『ユディトのベツリアへの帰還』（1469年-1470年）『ホロフェルネスの遺骸の発見』（1469年-1470年）『剛毅』（1470年）『5人の天使に囲まれる聖母子』（1470年頃）『聖母子と天使（ボストン）』（1470年頃）『サンタンブロージョの祭壇画』（1470年頃）『聖セバスティアヌス』（1474年）『聖母子と若い洗礼者聖ヨハネ』（1470-1475年頃）『コジモ・イル・ヴェッキオのメダルを持つ男の肖像』（1475年頃）『東方三博士の礼拝』（1475年–1476年頃）『ジュリアーノ・デ・メディチの肖像（絵画館）』（1478年）『ジュリアーノ・デ・メディチの肖像（ワシントン）』（1478年）『幼児キリストを礼拝する聖母と洗礼者聖ヨハネ』（1475年-1480年頃）
1480年代の作品	『ラウンデルを持つ青年の肖像』（1480年頃）『書斎の聖アウグスティヌス（オニッサンティ教会）』（1480年）『書物の聖母』（1480年-1481年頃）『マニフィカートの聖母』（1481年）『受胎告知（フレスコ）』（1481年頃）『青年の肖像（ワシントン）』（1483年頃）『モーセの試練』（1481年-1482年）『反逆者たちの懲罰』（1481年-1482年）『プリマヴェーラ』（1482年頃）『パラスとケンタウロス』（1482年頃）『ヴィーナスの誕生』（1483年頃）『ナスタージョ・デリ・オネスティの物語、第一話』（1483年）『ナスタージョ・デリ・オネスティの物語、第二話』（1483年）『ナスタージョ・デリ・オネスティの物語、第三話』（1483年）『青年の肖像（ロンドン）』（1483年）『若い女性の肖像』（1480年-1485年）『ヴィーナスとマルス』（1485年頃）『若い婦人に贈り物をするヴィーナスと三美神』（1483年–1486年頃）『七人の自由学芸に紹介されている青年』（1483年–1486年頃）『バルディ家の聖母』（1485年頃）『ザクロの聖母』（1487年頃）『パリスの審判』（1485年-1488年頃）『チェステッロの受胎告知』（1489年）『受胎告知（メトロポリタン美術館）』（1485年–1492年頃）
1490年代以降の作品	『キリストの哀悼（ミュンヘン）』（1490年–1492年頃）『聖母子と3人の天使』（1493年頃）『キリストの哀悼（ミラノ）』（1490年-1495年頃）『聖三位一体』（1491年–1493年頃）『書斎の聖アウグスティヌス（ウフィツィ美術館）』（1490年–1494年頃）『聖ヒエロニムスの最後の聖体拝領』（1494年-1495年頃）『誹謗』（1494年-1495年頃）『聖母子と幼児聖ヨハネ』（1490年–1500年頃）『ゲツセマネの祈り』（1495年-1500年頃）『神秘の降誕』（1500年–1501年頃）『ルクレティアの物語』（1496年-1504年）『ウェルギニアの物語』（1500年-1504年）『聖ゼノビウスの生涯の場面』（1500年-1505年頃）