紋中紋
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紋中紋(もんちゅうもん)は、主に芸術作品において、あるモティーフ(または主題)の中に、同じようなモティーフが入れ子構造で入っている表現・手法をいう。フランス語ミザンナビーム(Mise en abyme. 「底知れぬ深みに置くこと=入れ子状態に置くこと」といった意)の訳語。原語の語感とはかなり隔たりがあるが、ここでは便宜的に「紋中紋」に統一する。
美術の紋中紋
[編集]西洋美術における紋中紋とは、絵の中であるイメージがそれ自体の複製を含んでいる技法である。その情景は無限に続いているように見える。紋中紋は元々紋章学において、大きな盾の中央に小さな盾がある紋章を表す時に使われた。ドロステ効果も参照。
使用例
映画の紋中紋
[編集]映画における紋中紋は美術の定義と似ているが、「夢の中の夢」という概念を含んでいる。たとえば、ある人物が夢から目覚めるが、実はまだ眠っているのだということに気づく場合である。夢に類似した、無意識あるいはバーチャルリアリティなども紋中紋に含まれる。
文学の紋中紋
[編集]文芸批評における紋中紋は枠物語の一種である。外枠のストーリーが枠物語の何かの面を内に含むように使われた場合である。紋中紋という語は脱構築および脱構築文芸批評において、言葉の間テクスト性の性質の理論的枠組みの中で使われる。つまり、枠の中の枠である言葉が他の言葉に言及し、その言葉も他の言葉に言及し……のために、言語が現実の基盤に決して到達しないということである。
使用例
- 紋中紋(mise en abyme)という語が、初めて文学批評の語として用いられたのはアンドレ・ジッドの『日記』においてである[1] 。
- 日本の作品で意識的に紋中紋の技法が使われた例は、2009年9月に発表された深水黎一郎の『花窗玻璃 シャガールの黙示』である。作中に描写されるランス大聖堂のシャガールのステンドグラスの中に、事件のすべてのからくりが描き込まれている[2]。
脚注
[編集]- ^ André Gide ; Journel 1889-1939,Gallimard, coll.《Pléiade》1984,p.41
- ^ 『本格ミステリーワールド2010』南雲堂p.42「私はいつも作品の重層的な構造に心惹かれる質ですが、特に今回はフランス語でmise en abymeと呼ばれる技法を意識してみました。(中略)つまり全てを読み終えた読者が夏卡爾(シャガール)の花窗玻璃(ステンドグラス)の中に、本書全体の構図をもう一度発見することを作者は望んだのでした。」