百鬼夜行絵巻 (松井文庫)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
松井文庫の『百鬼夜行絵巻』に描かれている妖怪の一つ白うかり

百鬼夜行絵巻』(ひゃっきやぎょうえまき)は、熊本県八代市の財団法人「松井文庫」が所蔵する日本妖怪絵巻。『百鬼夜行図巻』とも。八代城主の松井氏に伝えられた絵巻物であり、制作は1832年天保3年)。作者は巻首に「尾田淑」と記されており、江戸時代八代絵師・尾田淑太郎(郷澄)である。[1][2]

概要[編集]

百鬼夜行とは、妖怪たちが集団で跳梁する様子のことであり、室町時代に描かれた『百鬼夜行絵巻』などはその通り妖怪の集団が行列をしている様子を描いたものだが、本項の『百鬼夜行絵巻』はそれとは異なり、妖怪を描いた個々の絵1点1点に名称を添えて紹介しており、図鑑またはカタログに近い様式をとって製作されている(ただし、2体に名称が添えられていない)。題は多数の妖怪が描かれていることを示して「百鬼夜行」と名付けられたと考えられている[3]

冒頭には行灯を取り囲んでいる人々の絵が描かれており、これは百物語を行っている人々の様子を描いたものであろうと見られている[4]

本作品と同様の形式で妖怪を多く描いている妖怪絵巻は、1737年(元文2年)に佐脇嵩之によって描かれた『百怪図巻』などが知られているが、本作品に収録されている妖怪の数は『百怪図巻』の倍近くの58点におよび、2006年(平成18年)までに確認されている妖怪絵巻の中では最も多くの妖怪を収録した作品である[5]。その中には河童ろくろ首雪女などのように説話や民間伝承の上でその存在が知られているもの、ぬらりひょん赤舌黒坊などのように詳細は未確認だが『百怪図巻』などの絵巻物に描かれているもの、後眼胴面いそがし五体面など『百怪図巻』の系統には見られないが他の妖怪絵巻(『ばけ物つくし帖』など)に類例の見られるもの、海座頭牛鬼手目坊主などのように鳥山石燕による『画図百鬼夜行』の模倣と見られるものなどがある[5][6][7]

収録数の多さや、『百怪図巻』の系統には見られない妖怪が多く含まれている事から、本作品は図鑑様式の妖怪絵巻の研究の上、重要な資料であると評価されている[5]ばけ物つくし帖』など、21世紀に入って新たに確認された資料によって、本作品のみが独自に描いていると見られていた妖怪が他の妖怪絵巻の類にも描かれているという事実も確認された[7]

尾田淑太郎[編集]

尾田淑太郎(郷澄)は肥後細川家御用絵師・矢野派の流れを汲む絵師であり、八代城の御用絵師であった甲斐良郷(かい よしさと)の門人である。松井文庫には当作品以外にももう1本、尾田淑太郎による「百鬼夜行図」は存在するという[8]。松井文庫に『百鬼夜行絵巻』が製作された経緯などは伝来しておらず、古くから(製作当時から)保管されていたことのみが言い伝えられている[9]

作品一覧[編集]

本作品の収録順に示すと以下のとおりである。いずれも掲載されているのは名前と絵のみであり、解説文は一切ないため、どんな妖怪を描いたのかは想像や推測の域を出ていない。

黒坊幽霊、逆髪、にがわらい猫また、あすこここ、川太郎、赤入道、毛一杯馬鹿いそがし雪女わゐら土蜘蛛、一目坊、元興寺どふもこふも、(名称無し)、じゅうじゅう坊五体面姑獲鳥幽谷響後眼撫坐頭ぬらりひょん山姥大ふき、黄粉坊、青女坊ぬっぺらぽう、覘坊、白うかり、山親父、胴面いが坊濡女二本足赤がしら白子ぞう赤舌、うわんうわん、犬がみひょうすべり、野狐、金槌坊べか太郎、(名称無し)、山童ぶらり火、横目五郎、山あらし、天狗裸子、海坐頭牛鬼窮奇(かまいたち)、手目坊主狸の腹鼓[10]

百怪図巻』の系列で描かれる例が無い、主な妖怪を列挙する。

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ 『松井文庫の精華―その歴史と美術―』 八代市立博物館未来の木、1991年、82-83頁。
  2. ^ 谷川健一監修 『別冊太陽 日本の妖怪』 平凡社1987年、4頁。ISBN 978-4-582-92057-4
  3. ^ 湯本豪一 『江戸の妖怪絵巻』 光文社光文社新書〉、2003年、163-164頁。ISBN 978-4-334-03204-3
  4. ^ 『松井文庫の精華―その歴史と美術―』 八代市立博物館未来の木、1991年、46、86。
  5. ^ a b c 湯本豪一編著 『続・妖怪図巻』 国書刊行会2006年、154頁。ISBN 978-4-336-04778-6
  6. ^ 多田克己 『妖怪図巻』 京極夏彦・多田克己編著、国書刊行会、2000年、130-138頁。ISBN 978-4-336-04187-6
  7. ^ a b 湯本豪一 『妖怪あつめ』 角川書店、2002年、70頁
  8. ^ 『松井文庫の精華―その歴史と美術―』 八代市立博物館未来の木、1991年、83頁。
  9. ^ 湯本豪一 『妖怪あつめ』 角川書店、2002年、57-59頁
  10. ^ たばこと塩の博物館 編『武家の精華 八代・松井家の美術工芸』2002年 105-110頁 ISBN 4924989193

関連項目[編集]