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'''非メバロン酸経路'''(ひメバロンさんけいろ、{{lang-en-short|non-mevalonate pathway}})は、[[テルペン|イソプレノイド]](テルペノイド)の出発物質となる[[イソペンテニル二リン酸]](IPP)と[[ジメチルアリル二リン酸]](DMAPP)の[[生合成]]経路である<ref>{{cite journal |author=Rohmer M |title=The discovery of a mevalonate-independent pathway for isoprenoid biosynthesis in bacteria, algae and higher plants |journal=Nat. Prod. Rep. |volume=16 |issue= 5|pages=565–574 |year=1999 |pmid=10584331 |doi=10.1039/a709175c |last2=Rohmer |first2=Michel}}</ref>。IPPとDMAPPの合成には他にも[[メバロン酸経路|メバロン酸回路]]が知られている。代謝中間体として2-C-メチル-D-エリトリトール-4-リン酸(MEP)および1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸(DXPまたはDOXP)を生合成することから、'''MEP経路'''、'''DXP経路'''、'''DOXP経路'''、'''MEP/DOXP経路'''とも呼ばれる。
'''非メバロン酸経路'''(ひメバロンさんけいろ、{{lang-en-short|non-mevalonate pathway}})は、[[テルペン|イソプレノイド]](テルペノイド)の出発物質となる[[イソペンテニル二リン酸]](IPP)と[[ジメチルアリル二リン酸]](DMAPP)の[[生合成]]経路である<ref>{{cite journal |author=Rohmer M |title=The discovery of a mevalonate-independent pathway for isoprenoid biosynthesis in bacteria, algae and higher plants |journal=Nat. Prod. Rep. |volume=16 |issue= 5|pages=565–574 |year=1999 |pmid=10584331 |doi=10.1039/a709175c |last2=Rohmer |first2=Michel}}</ref>。IPPとDMAPPの合成には他にも[[メバロン酸経路|メバロン酸回路]]が知られている。代謝中間体として2-C-メチル-D-エリトリトール-4-リン酸(MEP)および1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸(DXPまたはDOXP)を生合成することから、'''MEP経路'''、'''DXP経路'''、'''DOXP経路'''、'''MEP/DOXP経路'''とも呼ばれる。


非メバロン酸回路は主に[[細菌]]に分布している。しかし、[[光合成]]を行う真核生物がもつ[[葉緑体]]は、[[細胞内共生説|細胞内共生]]によって取り込んだ[[藍藻|シアノバクテリア]]由来の非メバロン酸経路によりIPPとDMAPPを生合成する。一方で光合成真核生物の[[細胞質]]および光合成をしない他の真核生物はすべて[[メバロン酸経路]]を利用している。すべての[[古細菌]]および一部の細菌もメバロン酸経路を保持している。
非メバロン酸回路は主に[[細菌]]に分布している。しかし、[[光合成]]を行う真核生物がもつ[[葉緑体]]は、[[細胞内共生説|細胞内共生]]によって取り込んだ[[藍藻|シアノバクテリア]]由来の非メバロン酸経路によりIPPとDMAPPを生合成する<ref>{{Cite journal|last=Lichtenthaler|first=Hartmut K.|date=1999-06|title=THE 1-DEOXY-D-XYLULOSE-5-PHOSPHATE PATHWAY OF ISOPRENOID BIOSYNTHESIS IN PLANTS|url=http://www.annualreviews.org/doi/10.1146/annurev.arplant.50.1.47|journal=Annual Review of Plant Physiology and Plant Molecular Biology|volume=50|issue=1|pages=47–65|language=en|doi=10.1146/annurev.arplant.50.1.47|issn=1040-2519}}</ref>。[[アピコンプレックス門]]の原生動物も非メバロン酸経路をもつ。一方で光合成真核生物の[[細胞質]]および光合成をしない他の真核生物の大部分は[[メバロン酸経路]]を利用している。すべての[[古細菌]]および一部の細菌もメバロン酸経路を保持している。


合成さるIPPおよびDMAPPは、タンパク質の[[プレニル化反応|プレニル化]]、[[細胞膜]]の調整、[[ホルモン]]、[[脂質固定タンパク質]]そして、[[N-グリコシル化|''N''-グリコシル化]]など様々な生合成経路に使われる[[テルペン|イソプレノイド]]化合物の基礎となる重要な分子である。
== イソプレノイド生合成経路の相違点 ==
[[メバロン酸経路]]、もしくは[[HMG-CoAレダクターゼ]]経路は、[[真核生物]]および多くの[[バクテリア]]の[[細胞]]において重要な代謝経路である。この経路で合成さるIPPおよびDMAPPは、タンパク質の[[プレニル化反応|プレニル化]]、[[細胞膜]]の維持、[[ホルモン]]、[[脂質固定タンパク質]]そして、[[N-グリコシル化|''N''-グリコシル化]]など様々な生合成経路に使われる分子の基礎となる重要な分子である。


== 反応経路 ==
古典的イソプレノイド生合成のメバロン酸経路と対照的に、[[植物]]と[[アピコンプレックス門]]の原生動物はそれらの[[色素体]]で非メバロン酸経路を使ってイソプレノイドを合成している<ref>{{cite journal |author=Lichtenthaler H |title=The 1-Deoxy-D-xylulose-5-phosphate pathway of isoprenoid biosynthesis in plants |journal=Annu Rev Plant Physiol Plant Mol Biol |volume=50 |issue= |pages=47–65 |year=1999 |pmid=15012203 |doi=10.1146/annurev.arplant.50.1.47}}</ref>。加えて、ほとんどの[[真正細菌]]は非メバロン酸経路でIPPとDMAPPを合成している。


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2021年7月13日 (火) 20:53時点における版

非メバロン酸経路(ひメバロンさんけいろ、: non-mevalonate pathway)は、イソプレノイド(テルペノイド)の出発物質となるイソペンテニル二リン酸(IPP)とジメチルアリル二リン酸(DMAPP)の生合成経路である[1]。IPPとDMAPPの合成には他にもメバロン酸回路が知られている。代謝中間体として2-C-メチル-D-エリトリトール-4-リン酸(MEP)および1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸(DXPまたはDOXP)を生合成することから、MEP経路DXP経路DOXP経路MEP/DOXP経路とも呼ばれる。

非メバロン酸回路は主に細菌に分布している。しかし、光合成を行う真核生物がもつ葉緑体は、細胞内共生によって取り込んだシアノバクテリア由来の非メバロン酸経路によりIPPとDMAPPを生合成する[2]アピコンプレックス門の原生動物も非メバロン酸経路をもつ。一方で光合成真核生物の細胞質および光合成をしない他の真核生物の大部分はメバロン酸経路を利用している。すべての古細菌および一部の細菌もメバロン酸経路を保持している。

合成されるIPPおよびDMAPPは、タンパク質のプレニル化細胞膜の調整、ホルモン脂質固定タンパク質そして、N-グリコシル化など様々な生合成経路に使われるイソプレノイド化合物の基礎となる重要な分子である。

反応経路

反応

反応は以下の通りである[3]

反応物 酵素 生成物
ピルビン酸
グリセルアルデヒド-3-リン酸
DOXPシンターゼ (Dxs) 1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸 (DOXP)
DOXP DOXPレダクトイソメラーゼ (Dxr, IspC) 2-C-メチルエリトリトール-4-リン酸 (MEP)
MEP 4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールシンターゼ (YgbP, IspD) 4-ジホスホシチジル-2-C-メチルエリトリトール (CDP-ME)
CDP-ME 4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトールキナーゼ (YchB, IspE) 4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリトリトール-2-リン酸 (CDP-MEP)
CDP-MEP 2-C-メチル-D-エリトリトール-2,4-シクロ二リン酸シンターゼ (YgbB, IspF) 2-C-メチル-D-エリトリトール-2,4-シクロピロリン酸 (MEcPP)
MEcPP HMB-PPシンターゼ (GcpE, IspG) (E)-4-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブテニルピロリン酸 (HMB-PP)
HMB-PP HMB-PPレダクターゼ (LytB, IspH) IPP
DMAPP

阻害

ホスミドマイシンは非メバロン酸経路の鍵酵素、DXPレダクトイソメラーゼを阻害するため、抗生物質抗マラリア薬の代替となる[4]

脚注

  1. ^ Rohmer M; Rohmer, Michel (1999). “The discovery of a mevalonate-independent pathway for isoprenoid biosynthesis in bacteria, algae and higher plants”. Nat. Prod. Rep. 16 (5): 565–574. doi:10.1039/a709175c. PMID 10584331. 
  2. ^ Lichtenthaler, Hartmut K. (1999-06). “THE 1-DEOXY-D-XYLULOSE-5-PHOSPHATE PATHWAY OF ISOPRENOID BIOSYNTHESIS IN PLANTS” (英語). Annual Review of Plant Physiology and Plant Molecular Biology 50 (1): 47–65. doi:10.1146/annurev.arplant.50.1.47. ISSN 1040-2519. http://www.annualreviews.org/doi/10.1146/annurev.arplant.50.1.47. 
  3. ^ 総説: Eisenreich W, Bacher A, Arigoni D, Rohdich F (2004). “Biosynthesis of isoprenoids via the non-mevalonate pathway”. Cell. Mol. Life. Sci. 61 (12): 1401-1426. doi:10.1007/s00018-004-3381-z. PMID 15197467. 
  4. ^ Jomaa H, Wiesner J, Sanderbrand S, Altincicek B, Weidemeyer C, Hintz M, Turbachova I, Eberl M, Zeidler J, Lichtenthaler HK, Soldati D, Beck E (1999). “Inhibitors of the nonmevalonate pathway of isoprenoid biosynthesis as antimalarial drugs”. Science 285: 1573-1576. doi:10.1126/science.285.5433.1573. PMID 10477522. 

関連項目