「ウミベミンク」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
m編集の要約なし
出典の書式修正
(他の1人の利用者による、間の1版が非表示)
2行目: 2行目:
|省略=哺乳綱
|省略=哺乳綱
|名称 = ウミベミンク
|名称 = ウミベミンク
|地質時代 = [[完新世]]後期
<!--|画像=[[画像:XXX.jpg|250px]]
|画像=[[ファイル:The Canadian field-naturalist (1988) (20332897078).jpg|250px|四つん這いになって座っているミンクを描いたペンとインクによる線画。尻尾はふさふさしていて、足は小さく(座っているせいかもしれないが)、指は長く、耳は大きい。ミンクの右側だけが見える。]]
|画像キャプション = '''ウミベミンク'''-->
|画像キャプション = 1988年に{{仮リンク|Canadian Field-Naturalist|en|Canadian Field-Naturalist}}誌に発表されたウミベミンクの線画
|亜綱 = [[獣亜綱]] [[w:Theria|Theria]]
|亜綱 = [[獣亜綱]] [[w:Theria|Theria]]
|目 = [[ネコ目|食肉目]] [[w:Carnivora|Carnivora]]
|目 = [[ネコ目|食肉目]] [[w:Carnivora|Carnivora]]
11行目: 12行目:
|科 = [[イタチ科]] [[w:Mustelidae|Mustelidae]]
|科 = [[イタチ科]] [[w:Mustelidae|Mustelidae]]
|亜科 = [[イタチ亜科]] [[w:Mustelinae|Mustelinae]]
|亜科 = [[イタチ亜科]] [[w:Mustelinae|Mustelinae]]
|属 = '''[[イタチ属]]''' ''Mustela''
|属 = [[イタチ属]] ''Mustela''
|種 = '''ウミベミンク''' ''M. macrodon''
|種 = '''ウミベミンク''' ''M. macrodon''
|学名 = ''Mustela macrodon''<br /><small>(Prentiss, [[1903年|1903]])</small>
|学名 = ''Mustela macrodon''<br /><small>(Prentiss, [[1903年|1903]])</small>
|シノニム =
{{collapsible list|
* †''Lutreola vison antiquus'' <br><small>[[Frederic Brewster Loomis|Loomis]], 1911</small>
* †''Mustela macrodon''
* †''Mustela vison macrodon''
* †''Neovison vison macrodon''<ref>{{cite web|url=http://explorer.natureserve.org/servlet/NatureServe?searchName=Neovison+macrodon|title=''Neovison macrodon''|publisher=NatureServe Explorer|accessdate=13 July 2017}}</ref><ref>{{MSW3 Carnivora| id= 14001483| page=619}}</ref>
}}
|和名 = ウミベミンク
|和名 = ウミベミンク
|英名 = [[w:Sea Mink|Sea Mink]]
|英名 = [[w:Sea Mink|Sea Mink]]
|生息図 = [[ファイル:Wpdms nasa topo gulf of maine.jpg|200px|メイン湾の沿岸地域を描いた地形図で、陸地は緑色に塗られている。アメリカ北東部、ノバスコシア州、ニューブランズウィック州、ケベック州南東部が見える。]]
|生息図キャプション = ウミベミンクは[[メイン湾]]地域で見られた。
|status = EX
|status = EX
| status_system = IUCN3.1
|status_ref=<ref>Turvey, S. & Helgen, K. 2008. [http://www.iucnredlist.org/search/details.php/40784/all ''Mustela macrodon'']. In: IUCN 2008. ''[http://www.iucnredlist.org/ 2008 IUCN Red List of Threatened Species]''. <www.iucnredlist.org>. Downloaded on 16 June 2009.</ref>
| status_ref = <ref name=IUCN>Helgen, K.; Turvey, S.T. (2016). "''[https://www.iucnredlist.org/species/40784/45204492 Neovison macrodon]''". [[レッドリスト|IUCN Red List of Threatened Species]]. 2016. 2017年11月6日閲覧。</ref>
| authority = ([[wikisource:Author:Daniel Webster Prentiss|Prentiss]], 1903)
}}
}}


'''ウミベミンク'''(海辺みんく、学名:''Neovison macrodon'')は、[[食肉目]](ネコ目)で最大の[[イタチ科]]に属し、北米の東海岸に生息していた{{仮リンク|ミンク (総称)|en|Mink|label=ミンク}}の{{仮リンク|近年絶滅した哺乳類の一覧|en|List of recently extinct mammals|label=近年の絶滅種}}。[[ミンク]](Neovison vison、以下アメリカミンクと呼ぶ)に最も近縁だったが、ウミベミンクはアメリカミンクの亜種(その場合は学名がNeovison vison macrodonとなる)とみなされるべきか独自の種とみなされるべきかどうかについての議論が続いている。別種とされる主な理由は、2種のミンクの間の体長の違いだが、赤い毛皮のような他の特徴でも区別される。唯一知られている遺骸は、アメリカ先住民の貝塚から出土した骨片のみである。実際の体長は、主に遺された歯に基づいた推測値である。
'''ウミベミンク'''(海辺みんく、学名:''Mustela macrodon'')は、[[食肉目]](ネコ目) [[イタチ科]]に属する[[ミンク]]の一種。[[絶滅|絶滅種]]。[[北アメリカ]][[大西洋]]岸の[[ニューブランズウィック州]]から[[マサチューセッツ州]]にかけての海辺に生息していた。別名'''ウミミンク'''、'''ニューイングランドミンク'''。


ウミベミンクは、絶滅後の1903年に初めて記述された。外観や習慣に関する情報は、推測や毛皮商人やアメリカ先住民が作成した記録からのものである。アメリカミンクより海生の傾向が強いが、似た行動をしていた可能性があり、おそらく[[縄張り]]を維持し、{{仮リンク|多夫多妻性|en|Polygynandry}}で、同じような食生活をしていたということになる。おそらく[[ニューイングランド]]と[[沿海州 (カナダ)|沿海州]]の海岸に生息していたと思われるが、[[最終氷期]]にはさらに南下していたかもしれない。逆に、その生息域はニューイングランド沿岸、特に[[メイン湾]]かその近くの島々だけに限定されていたのかもしれない。ミンクの中で最大のウミベミンクは毛皮商人に好まれ、19世紀後半から20世紀初頭に絶滅した。
==概要==
全長80cm、体重は[[アメリカミンク]](''M. vison'')の2倍程度だった。主食は[[魚介類]]で、泳ぎが大変上手かった。深さ6mまで潜り、30分も水中にいられたという。


== 分類と語源 ==
ウミベミンクが絶滅したのは、その毛皮が人間に珍重されたからである。
[[File:MinkforWiki.jpg|thumb|left|近縁種の[[アメリカミンク]] (''Neovison vison'')|alt=淡い茶色の毛並み、濃い茶色の目、長い指、細い尻尾を持つ濡れたアメリカンミンク。頭を右に向け、水辺の岩の上に立っている。]]
[[アメリカ州の先住民族|先住民]]も[[毛皮]]と[[肉]]を目的としてミンク狩りをしていたが、ヨーロッパからの移住者はさらに熱心で、[[毛皮貿易]]の対象となった。いくら泳ぎが上手くて魚介類が[[主食]]だからといっても、別に水中生活をしているわけではない(sea mink を「ウミベミンク」と訳したのはおそらくその辺りへの考慮であろう)から、陸上にいるところを[[犬]]を使って追い込んだり煙で燻したりすれば捕らえることができた。
ウミベミンクは、絶滅後の1903年に、医学博士で鳥類学者のダニエル・ウェブスター・プレンティス ([[wikisource:Author:Daniel Webster Prentiss|Daniel Webster Prentiss]])によって、アメリカミンクとは異なる''Lutreola macrodon''として初めて記述された。プレンティスは、ニューイングランドのアメリカ先住民の貝塚から回収された頭蓋骨の断片に基づいて記述している。ウミベミンクの遺体は、そのほとんどが頭蓋骨の断片であるが、完全な標本は発見されていない<ref name=Sealfon07/><ref name=prentiss>{{cite journal|url=https://repository.si.edu/bitstream/handle/10088/13698/USNMP-26_1336_1903.pdf|first=D. W.|last=Prentiss|year=1903|title=Description of an extinct mink from the shell-heaps of the Maine coast|journal= Proceedings of the United States National Museum|volume=26|issue=#1336|pages=887–888|doi=10.5479/si.00963801.26-1336.887}}</ref>。
個体数が減ってもおかまいなしに毛皮の需要に合わせて乱獲されたため、[[1880年]]、あるいは遅くとも[[1890年]]までには、ウミベミンクは絶滅した。

唯一の生息地がアメリカ東部からあまりに近すぎたせいか、ミンクの[[養殖]]が軌道に乗るまで生き延びることはできなかった。
ウミベミンクが独立種なのか、それともアメリカミンクの亜種なのかについては議論が起きている。ウミベミンクは亜種であると主張する人たちは、しばしば''Neovison vison macrodon''と呼んでいる<ref name=graham2001/><ref>{{cite book|title=Mammals of North America|year=2009|publisher=Princeton University Press|isbn=978-0-6911-4092-6|url=https://books.google.com/books?id=YjIIRZwbWIEC&pg=PA180|edition=2nd|last=Kays|first=R. W.|last2=Wilson| first2=D. E.|page=180|oclc=880833145|location=Boston, Massachusetts}}</ref>。1911年にアメリカの古生物学者{{仮リンク|フレデリック・ブルースター・ルーミス|en|Frederic Brewster Loomis}}が行った研究では、アメリカミンクとウミベミンクの違いはあまりにも微細で、後者を別種として分類するには不十分であると結論付け、''Lutreola vison antiquus''と命名した<ref name=loomis>{{cite journal|first=F. B.|last=Loomis|year=1911|title=A new mink from the shell-heaps of Maine|journal=American Journal of Science|volume=31|issue=#183|pages=227–229|doi= 10.2475/ajs.s4-31.183.227|url={{google books|plainurl=yes|id=lzlSAQAAMAAJ|page=227}}}}</ref>。ミード (Mead)らによる2000年の研究では、最大のウミベミンクの標本の大きさの範囲はアメリカミンクのそれを超えており、それによって別の種になっていると主張し、ルーミスに反論した<ref name=mead/>。しかし、グレイアム (Graham)による2001年の研究では、この大きさの違いはウミベミンクを独自の種として分類するには不十分であり、亜種とみなすべきだと結論づけた。グレイアムは、この大きさの違いは環境要因によるものではないかと推測した。さらに、ミードは、小型のミンクをアメリカミンクとし、アメリカミンクの範囲外の大型のミンクをウミベミンクとしていたと報告しているが、これは、すべての標本がウミベミンクであり、大型のものをオス、小型のものをメスとする性的二型性の場合であった可能性がある<ref name=graham2001/>。2007年の研究では、ウミベミンクとアメリカミンクの歯型を比較し、両者は2つの別種と見なすのに十分な違いがあると結論づけている<ref name=Sealfon07/>。

{{Cladogram|title=新世界のイタチ|align=left|caption=[[イタチ亜科]]内のウミベミンクの関係<ref>{{cite journal|first=K.|last=Nyakatura|first2=O. R. P.|last2=Bininda-Emonds|year=2012|title=Updating the evolutionary history of Carnivora (Mammalia): a new species-level supertree complete with divergence time estimates|journal=BMC Biology|volume=10|issue=#12|pages=12|doi=10.1186/1741-7007-10-12|pmc=3307490|pmid=22369503}}</ref>
|cladogram={{clade |style=font-size:90%; line-height:65%;width:300px;
|label1=[[イタチ亜科|Mustelinae]]
|1={{clade
|1={{clade
|1={{clade
|1=''{{仮リンク|アマゾンイタチ|Amazon weasel|label=Mustela africana}}''
|2=''{{仮リンク|コロンビアイタチ|Colombian weasel|label=Mustela felipei}}''
}}
|2=''{{仮リンク|オナガオコジョ|Long-tailed weasel|label=Mustela frenata}}''
}}
|2={{clade
|1=''[[ミンク|Neovison vison]]''
|2='''''Neovison macrodon'''''
}}
}}
}}
}}

ミンクの分類は2000年に改訂され、その結果、ウミベミンクとアメリカミンクのみを含む[[ミンク属]]が新設された<ref>{{cite journal|url=http://bionames.org/bionames-archive/issn/0320-9180/8/357.pdf|first=A. V.|last=Abramov|title=A taxonomic review of the genus ''Mustela'' (Mammalia, Carnivora)|journal=Zoosystematica Rossica|year=2000|volume=8|pages=357–364}}</ref>。以前は、両方のミンクが[[イタチ属]]に分類されていた。種名のmacrodonは「大きな歯」を意味する<ref>{{cite web|url=http://www.scotcat.com/scientific_names/scientific_namesm.html|title=Etymology pages "M"|publisher=www.scotcat.com|accessdate=16 August 2017}}</ref>。ウミベミンクは別種ではないと主張する動物学者のリチャード・マンヴィル (Richard Manville)によると、その近縁の亜種は同じくニューイングランド地方に生息するcommon mink (N. v. mink)であるという<ref name=manville/>。

ウミベミンクを狩った毛皮商人たちは、この種にwater marten(水の貂)、red otter(赤い獺)、fisher cat(漁師猫)などの様々な名前をつけた。おそらくこの種の最初の記述は、1500年代後半に{{仮リンク|ハンフリー・ギルバート|en|Humphrey Gilbert}}卿が「グレイハウンドのような魚」としたのが始まりで、これは海への親和性と、グレイハウンドに似た体形と歩き方に言及したものである。{{仮リンク|フィッシャー (動物)|en|Fisher (animal)|label=フィッシャー}} (Pekania pennanti)は、毛皮商人の間では"fisher"としても知られていたウミベミンクと間違えて識別されたことから、その名がついた可能性がある<ref name=mowat>{{cite book|url=https://books.google.com/books?id=dBiWBQAAQBAJ&pg=PA160&lpg=PA150#v=onepage&q&f=false|first= F.|last=Mowat|orig-year=1984|year=2012|title=Sea of slaughter|publisher=Douglas and McIntyre|pages=160–164|isbn=978-1-77100-046-8|oclc=879632158|location=Vancouver, British Columbia}}</ref>。[[アベナキ族]]のインディアンは「濡れたもの」を意味する"mousebeysoo"と呼んでいた<ref name=manville/>。本種は、常に毛皮商人によって海岸近くで発見されたので、"sea mink"と名付けられ、その後、アメリカミンクはしばしば"wood mink"と呼ばれていた<ref name=manville/><ref name=hollister/>。

== 生息域 ==
ウミベミンクは、19世紀後半から20世紀初頭に絶滅するまで、ニューイングランドや[[沿海州 (カナダ)|沿海州]]最南端の海岸周辺の岩場に生息していた[[海洋哺乳類]]である。ほとんどのウミベミンクの遺骸は、メイン湾岸で発掘されている<ref name=savage98>{{cite journal|url=https://www.unb.ca/fredericton/arts/departments/anthropology/pdfs/dwblack/blackreadingandsavage1998seamink.pdf|first=D. W.|last=Black|first2=J. E.|last2=Reading|first3=H. G.|last3=Savage|year=1998|title=Archaeological records of the extinct sea mink, ''Mustela macrodon'' (Carnivora: Mustelidae), from Canada|journal=Canadian Field-Naturalist|volume=112|issue=#1|pages=45–49|access-date=2017-07-13|archiveurl=https://web.archive.org/web/20171011080315/https://www.unb.ca/fredericton/arts/departments/anthropology/pdfs/dwblack/blackreadingandsavage1998seamink.pdf|archive-date=2017-10-11|url-status=dead}}</ref>。一時は[[コネチカット州]]や[[ロードアイランド州]]にも生息していたと推測されているが、一般的には[[メイン湾]]内の[[ファンディ湾]]沿岸で捕獲されており、以前は[[ノバスコシア州]]南西岸にも生息していたと言われている<ref name=manville/>。異常に大きなミンクの毛皮がノバスコシア州から定期的に採取されているという報告があった<ref name=mowat/><ref name=hollister/>。[[マサチューセッツ州]]{{仮リンク|ミドルボロウ (マサチューセッツ州)|en|Middleborough, Massachusetts|label=ミドルボロウ}}で出土した標本の骨は、塩水域から19km(12mi)離れたところにあり、約4300±300年前のものと[[放射性炭素年代測定|年代測定]]されている<ref name=savage98/>。ウミベミンクは川を遡上してこの地域に到達したのかもしれないし、ネイティブアメリカンがこの地域に連れてきたのかもしれない。メイン州の[[カスコ湾]]とマサチューセッツ州南東部の間では、他のミンクの遺体が発見されていないため、後者の可能性が高い<ref>{{cite journal|first=J. H.|last=Waters|first2=C. E.|last2=Ray|year=1961|title=Former range of the sea mink|journal=Journal of Mammalogy|volume=42|issue=#3|pages=380–383|doi=10.2307/1377035|jstor=1377035}}</ref>。カナダでもウミベミンクの骨が出土しているが、メイン湾からアメリカ先住民によって運ばれてきた可能性がある。メイン州の{{仮リンク|ダウン・イースト|en|Down East}}地域の険しい海岸線は、彼らの生息域の最北端を決める障壁となった可能性がある<ref name=savage98/>。ミードは、アメリカミンクだけが本土に生息し、ウミベミンクは海岸沖の島々に限り生息していたと結論付けた。もしこれが事実ならば、本土で発見されたすべての遺体は運ばれてきたことになる<ref name=mead/>。グレイアムはこの仮説に異議を唱え、すべてのウミベミンクの標本が一つの個体群に由来するとは考えにくいと述べた<ref name=graham2001/>。

1万2000年前の[[最終氷期]]には、ウミベミンクの生息域はメイン湾の南側に広がっていたかもしれない。当時のメイン州は氷河に覆われていたため、そこで進化した可能性もあるが、最古の標本は約5000年前のものである。あるいは、最終氷期の後に進化し、新しい生態系の[[ニッチ]]を埋めたのかもしれない<ref name=Sealfon07/>。

== 記述 ==
[[File:N. macrodon & N. vison dentition.png|thumb|シーミンクの上顎の歯列(左)とアメリカンミンクの歯列(右)|alt=左がウミベミンクの上歯、右がアメリカンミンクの上歯をペンとインクで描いたもの。ウミベミンクの歯はアメリカンミンクの歯よりも、わずかだが目立って大きい。]]
ウミベミンクは断片的な遺体からしか記述されていないため、その外観や行動は十分に文書化されていない。その近縁種や毛皮商人やアメリカ先住民の記述から、この動物の外観と生態学的な役割についての一般的な考えが得られている。ニューイングランド/大西洋カナダ地域のネイティブアメリカンの記録によると、ウミベミンクはアメリカミンクよりも太った体をしていたと報告されている。ウミベミンクは独特の魚臭い匂いを発し、毛皮はアメリカミンクよりも粗くて赤いと言われている<ref name=Sealfon07/><ref name="day">{{cite book| last = Day| first = David| title = The encyclopedia of vanished species| publisher = Universal Books | year= 1981| location = London| isbn = 978-0-947889-30-2| page = 220}}</ref><ref name=hardy>{{cite journal|url={{Google books|plainurl=yes| id=j0QhAQAAMAAJ|page=125}}|last=Hardy|first=M.|year=1903|title=The extinct mink from the Maine shell heaps|journal=Forest and Stream|volume=LXI|number=#I|page=125}}</ref>。[[博物学者]]の[[ジョゼフ・バンクス]]は1776年に[[ベルアイル海峡]]で本種に遭遇し、キツネより少し大きく、足が長く、尻尾が長く先細りでグレイハウンドに似ていると表現している<ref name=mowat/>。

ウミベミンクはミンクの中で最大のものであった。ウミベミンクの骨格の断片的な遺物しか存在しないため、その外形寸法のほとんどは推測であり、歯の測定値だけに頼っている<ref name=Sealfon07/><ref name=manville/><ref>{{cite journal|first=J. I.|last=Mead|first2=A. E.|last2=Spiess|year=2001|title=Reply to Russell Graham about ''Mustela macrodon''|journal=Quaternary Research|volume=56|issue=#3|pages=422–423|doi=10.1006/qres.2001.2268|bibcode=2001QuRes..56..422M}}</ref>。1929年、野生動物作家である[[アーネスト・トンプソン・シートン]]は、この動物の推定寸法は頭から尾まで91.4cmで、尾の長さは25.4cmであると結論づけた<ref>{{cite book|first=E. T.|last=Seton|year=1929|title=Lives of game animals|publisher=Doubleday, Doran|volume=2|page=562|oclc= 872457192}}</ref>。1894年にコネチカット州で採集されたウミベミンクの標本は、頭から尾まで72cm、尾の長さは25.4cmであった。1996年の研究では、この個体は大型のアメリカミンクか[[雑種]]の可能性があるとされている。被毛は尾部と後肢が最も濃く、前腕の間に5×1.5cmの白い斑点があった。左前腕と鼠径部にも白い斑点があった<ref name=manville/>。

[[File:Neovison macrodon.png|thumb|left|[[模式標本]]の頭蓋骨の[[口蓋]]側面|alt=ウミベミンクの口の上部(内側からの視点)を描いたペンとインクによる線画。図面の左側(すなわち、口の右側)には歯が描かれており、図面の右側(すなわち、口の左側)にはteeth socketが描かれている。犬歯と犬歯の間にある前歯がすべて抜けている。]]
[[模式標本]]は、1897年に生物学者のプレンティスと{{仮リンク|フレデリック・W・トゥルー|en|Frederick W. True|label=フレデリック・トゥルー}}がメイン州{{仮リンク|ブルックリン (メイン州)|en|Brooklin, Maine|label=ブルックリン}}で採取したもので、[[上顎骨]]、[[鼻骨]]の一部と[[口蓋]]からなる。口蓋の右側の歯は完全に残り、左側には数本の切歯と一本の小臼歯が残る。犬歯が欠けている以外はすべて良好な状態である。Alaskan minkの最後の切歯から第一大臼歯までの平均距離が2.8cmであるのに対し、本種は3cmであることから、Alaskan minkよりも大きいことがわかる。鼻骨の隆起は鈍く、歯は歯肉との角度がCommon mink(N. v. mink)よりも鋭くなっている<ref name=prentiss/><ref name=manville/>。

これらのミンクは大きくがっしりしており、低い{{仮リンク|矢状稜|en|Sagittal crest}}と短く広い{{仮リンク|後眼窩突起|en|Postorbital process}}([[眼窩]]の後ろにある[[前頭骨]]の[[突起 (解剖学)|突起]])を持っていた<ref name=manville/>。事実、頭蓋骨の最も顕著な特徴はその大きさであり、他のミンク種よりも明らかに大きく、広いrostrum、大きな{{仮リンク|前鼻孔|en|Anterior nares|label=鼻孔開口部}}、大きな[[前眼窩窓]](眼窩の前にある頭蓋骨の開口部)、大きな歯を持っていた<ref name=hollister>{{cite journal|title=A synopsis of the American minks|author=Hollister, N.|journal=Proceedings of the United States National Museum|volume=44|issue=#1965|pages=478–479|year=1965|doi=10.5479/si.00963801.44-1965.471|url={{Google books|plainurl=yes|id=--s_AAAAYAAJ|page=478}}}}</ref>。アメリカミンクの中で現存する最大の亜種であるAlaskan mink(N. v. nesolestes)は、メイン湾に生息環境が似ているアラスカの[[アレキサンダー諸島]]に生息していることから、この大型化は沿岸環境に対応したものと考えられる。ミードは、本種の生息域は沿岸の島々に限られていると結論づけ、その大きさは[[島嶼巨大化]]によるものではないかと示唆した<ref name=mead>{{cite journal|first=J.|last=Mead|first2=A. E.|last2=Spiess|first3=K. D.|last3=Sobolik|year=2000|title=Skeleton of extinct North American sea mink (''Mustela macrodon'')|journal=Quaternary Research|volume=53|issue=#2|pages=247–262|doi=10.1006/qres.1999.2109|bibcode=2000QuRes..53..247M}}</ref>。イタチ亜科のほとんどすべての種が性的二型性を示すので、オスのウミベミンクはメスのウミベミンクよりも大きかったのだろう。ウミベミンクの広いcarnassial teethと鈍いcarnassial bladeは、硬い貝殻をアメリカミンクの歯よりもよく粉砕していたことを示唆している<ref name=Sealfon07>{{cite journal|title=Dental divergence supports species status of the extinct sea mink (''Neovison macrodon'')|last=Sealfon|first=R. A.|journal=Journal of Mammalogy|volume=88|issue=#2|pages=371–383|year=2007|jstor=4498666|doi=10.1644/06-MMM-A-227R1.1|doi-access=free}}</ref>。

== 行動 ==
[[File:Herring Cove (10105704513).jpg|thumb|ウミベミンクは[[メイン湾]]の[[潮間帯]]の捕食者だった。|alt=夕暮れ時の砂浜。下半分は砂、上半分は水と水平線。海岸線を歩いている人たちのグループがいて、写真の右側には、砂地から上に突き出た岩があり、その上には常緑樹がある。]]
海洋性哺乳類の種は生態系の中で大きな役割を果たすことが多いため、ウミベミンクは[[潮間帯]]の重要な捕食者であった可能性がある。ウミベミンクの食生活はアメリカミンクに似て、海鳥やその卵、体の硬い海洋無脊椎動物を、高い割合で食べていたのかもしれない<ref name=Sealfon07/>。毛皮商人の報告によると、ウミベミンクの巣は2つの入り口があり、[[砕波|波]]によって積み上げられた岩の中に作られていたという。巣の周辺では{{仮リンク|ツノナガカジカ|en|Longhorn sculpin}}と{{仮リンク|オーシャンパウト|en|Ocean pout}}の遺体が最も多く、[[ニワノオウシュウマイマイ]]も餌の一つだったと報告されている<ref name=manville/>。魚介類を中心とした食生活をしていたために、体が大きくなったのかもしれない<ref name=graham2001>{{cite journal|first=R.|last=Graham|year=2001|title=Comment on "Skeleton of extinct North American sea mink (''Mustela macrodon'')" by ''Mead et al.''|journal=Quaternary Research|volume=56|issue=#3|pages=419–421|doi=10.1006/qres.2001.2266|bibcode=2001QuRes..56..419G|doi-access=free}}</ref>。毛皮商人によると、ウミベミンクは[[夜行性]]で、昼間は洞窟や岩の隙間に住んでいたという<ref name=mowat/>。アメリカミンクとウミベミンクの生息域は重複していたため、互いに交配していた可能性がある。ウミベミンクは沿岸海域に生息する真の海洋種ではないが、他のイタチ上科の種と比較して非常に水棲性が強く、[[カワウソ]]に次いでこの[[分類群]]の中で最も水棲性の高い種である<ref name=Sealfon07/>。

他のミンクと同じように、個々のウミベミンクは[[縄張り]]を維持していた可能性があり、オスの方が大きく、より多くの食料を必要としていたので、オスはより大きな縄張りを主張していたのかもしれない。同様に、サイズが大きかったため、オスはメスよりも大きな獲物を狙うことができ、交尾期にはメスを守らなければならなかったかもしれない。他のイタチのように、ウミベミンクは、おそらく両性が複数の個体と交尾する[[多夫多妻制]]だった<ref name=Sealfon07/>。

== 搾取と絶滅 ==
[[File:Whaleback Shell Midden gully - 20070722 07986.JPG|thumb|left|メインの[[貝塚]]|alt=低い草木に囲まれたガリー。ガリーの底には貝殻が溜まっていて、湖につながっている。]]
ウミベミンクは、体長が大きいために毛皮商人によって追求された。そのため、内陸部に棲むミンクの他の種よりも好まれていた。毛皮貿易の規制がなかったことは最終的に、1860年から1920年の間に起こったと考えられている絶滅につながった<ref name=mowat/><ref name=savage98/>。1860年以降、ウミベミンクはめったに見られなくなった。ウミベミンクの最後の2つの殺害記録は、1880年の[[メイン州]]{{仮リンク|ジョーンズポート|en|Jonesport, Maine}}付近でなされたものと、1894年の[[ニューブランズウィック州]][[カンポベロ島]]でなされたものであるが<ref name=mowat/>、1894年の記録は大型のアメリカミンクを誤認したものと推測されている<ref name=manville/>。毛皮商人はウミベミンクを捕まえるために罠を仕掛けたり、犬を使って追いかけたりしていたが、捕まることはほとんどなかった。ウミベミンクが岩棚の小さな穴に逃げ込んだ場合は、シャベルやバールを使って猟師が掘り出した。猟師の手の届かないところにいた場合は、撃たれて、鉄の棒の先にネジが付いているものを使って回収された。隠れていた場合は、燻製にして窒息死させた<ref name=manville>{{cite journal| first=R. H.|last=Manville|year=1966|title=The extinct sea mink, with taxonomic notes|journal=Proceedings of the United States National Museum|volume=122|issue=#3584 |pages=1–12|url= https://repository.si.edu/bitstream/handle/10088/16923/USNMP-122_3584_1966.pdf?sequence=1&isAllowed=y|doi=10.5479/si.00963801.122-3584.1}}</ref><ref name=hollister/><ref name=hardy/>。ミンクの夜行性の行動は、昼間に狩りをする毛皮商人の圧力が原因だったのかもしれない<ref name=mowat/>。

貝塚で発見された脳の遺骨は骨折しており、多くの骨には切り傷が見られることから、アメリカ先住民は食料を求めてウミベミンク狩りをしていたのではないかと推測され、おそらくは交換や儀式のためにも狩りをしていたのではないかと考えられている<ref name=loomis/><ref name=manville/><ref name=savage98/>。{{仮リンク|ペノブスコット湾|en|Penobscot Bay}}の貝塚の遺物を調査したある研究では、ウミベミンクの頭蓋骨が無傷で、他の動物よりも多く発見されていることが報告されており、特別にそこに置かれていたことを示唆している<ref>{{cite book|first=B. J.|last=Bourque|year=1995|title=Diversity and complexity in prehistoric maritime societies: a Gulf Of Maine perspective|publisher=Plenum Press|location=New York, New York|page=341|isbn=978-0-306-44874-4|url={{google books|plainurl=yes|id=kWsQBwAAQBAJ|page=341}}|quote=The ''Mustela macrodon'' cranium is much more complete than those from the rest of the midden, adding to the impression that these bones were placed especially in the cache.}}</ref>。メスよりもオスの方が多く採集されていた<ref name=Sealfon07/>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{Reflist}}
<references/>

== 外部リンク ==
{{Commons category|Neovison macrodon|sea minks}}
*{{Wikispecies-inline|Neovison macrodon|sea minks}}
* [https://web.archive.org/web/20150423161708/http://www.arkive.org/sea-mink/neovison-macrodon/ Arkive.org]

{{DEFAULTSORT:うみへみんく}}
{{DEFAULTSORT:うみへみんく}}
[[Category:イタチ科]]
[[Category:イタチ科]]

2020年8月29日 (土) 08:50時点における版

ウミベミンク
四つん這いになって座っているミンクを描いたペンとインクによる線画。尻尾はふさふさしていて、足は小さく(座っているせいかもしれないが)、指は長く、耳は大きい。ミンクの右側だけが見える。
1988年にCanadian Field-Naturalist英語版誌に発表されたウミベミンクの線画
保全状況評価[1]
EXTINCT
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
地質時代
完新世後期
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
亜綱 : 獣亜綱 Theria
: 食肉目 Carnivora
亜目 : イヌ亜目 Caniformia
下目 : クマ下目 Arctoidea
小目 : イタチ小目 Mustelida
: イタチ科 Mustelidae
亜科 : イタチ亜科 Mustelinae
: イタチ属 Mustela
: ウミベミンク M. macrodon
学名
Mustela macrodon
(Prentiss, 1903)
シノニム
和名
ウミベミンク
英名
Sea Mink
メイン湾の沿岸地域を描いた地形図で、陸地は緑色に塗られている。アメリカ北東部、ノバスコシア州、ニューブランズウィック州、ケベック州南東部が見える。
ウミベミンクはメイン湾地域で見られた。

ウミベミンク(海辺みんく、学名:Neovison macrodon)は、食肉目(ネコ目)で最大のイタチ科に属し、北米の東海岸に生息していたミンク英語版近年の絶滅種英語版ミンク(Neovison vison、以下アメリカミンクと呼ぶ)に最も近縁だったが、ウミベミンクはアメリカミンクの亜種(その場合は学名がNeovison vison macrodonとなる)とみなされるべきか独自の種とみなされるべきかどうかについての議論が続いている。別種とされる主な理由は、2種のミンクの間の体長の違いだが、赤い毛皮のような他の特徴でも区別される。唯一知られている遺骸は、アメリカ先住民の貝塚から出土した骨片のみである。実際の体長は、主に遺された歯に基づいた推測値である。

ウミベミンクは、絶滅後の1903年に初めて記述された。外観や習慣に関する情報は、推測や毛皮商人やアメリカ先住民が作成した記録からのものである。アメリカミンクより海生の傾向が強いが、似た行動をしていた可能性があり、おそらく縄張りを維持し、多夫多妻性英語版で、同じような食生活をしていたということになる。おそらくニューイングランド沿海州の海岸に生息していたと思われるが、最終氷期にはさらに南下していたかもしれない。逆に、その生息域はニューイングランド沿岸、特にメイン湾かその近くの島々だけに限定されていたのかもしれない。ミンクの中で最大のウミベミンクは毛皮商人に好まれ、19世紀後半から20世紀初頭に絶滅した。

分類と語源

淡い茶色の毛並み、濃い茶色の目、長い指、細い尻尾を持つ濡れたアメリカンミンク。頭を右に向け、水辺の岩の上に立っている。
近縁種のアメリカミンク (Neovison vison)

ウミベミンクは、絶滅後の1903年に、医学博士で鳥類学者のダニエル・ウェブスター・プレンティス (Daniel Webster Prentiss)によって、アメリカミンクとは異なるLutreola macrodonとして初めて記述された。プレンティスは、ニューイングランドのアメリカ先住民の貝塚から回収された頭蓋骨の断片に基づいて記述している。ウミベミンクの遺体は、そのほとんどが頭蓋骨の断片であるが、完全な標本は発見されていない[4][5]

ウミベミンクが独立種なのか、それともアメリカミンクの亜種なのかについては議論が起きている。ウミベミンクは亜種であると主張する人たちは、しばしばNeovison vison macrodonと呼んでいる[6][7]。1911年にアメリカの古生物学者フレデリック・ブルースター・ルーミス英語版が行った研究では、アメリカミンクとウミベミンクの違いはあまりにも微細で、後者を別種として分類するには不十分であると結論付け、Lutreola vison antiquusと命名した[8]。ミード (Mead)らによる2000年の研究では、最大のウミベミンクの標本の大きさの範囲はアメリカミンクのそれを超えており、それによって別の種になっていると主張し、ルーミスに反論した[9]。しかし、グレイアム (Graham)による2001年の研究では、この大きさの違いはウミベミンクを独自の種として分類するには不十分であり、亜種とみなすべきだと結論づけた。グレイアムは、この大きさの違いは環境要因によるものではないかと推測した。さらに、ミードは、小型のミンクをアメリカミンクとし、アメリカミンクの範囲外の大型のミンクをウミベミンクとしていたと報告しているが、これは、すべての標本がウミベミンクであり、大型のものをオス、小型のものをメスとする性的二型性の場合であった可能性がある[6]。2007年の研究では、ウミベミンクとアメリカミンクの歯型を比較し、両者は2つの別種と見なすのに十分な違いがあると結論づけている[4]

新世界のイタチ
Mustelinae

Mustela africana()

Mustela felipei()

Mustela frenata()

Neovison vison

Neovison macrodon

イタチ亜科内のウミベミンクの関係[10]

ミンクの分類は2000年に改訂され、その結果、ウミベミンクとアメリカミンクのみを含むミンク属が新設された[11]。以前は、両方のミンクがイタチ属に分類されていた。種名のmacrodonは「大きな歯」を意味する[12]。ウミベミンクは別種ではないと主張する動物学者のリチャード・マンヴィル (Richard Manville)によると、その近縁の亜種は同じくニューイングランド地方に生息するcommon mink (N. v. mink)であるという[13]

ウミベミンクを狩った毛皮商人たちは、この種にwater marten(水の貂)、red otter(赤い獺)、fisher cat(漁師猫)などの様々な名前をつけた。おそらくこの種の最初の記述は、1500年代後半にハンフリー・ギルバート英語版卿が「グレイハウンドのような魚」としたのが始まりで、これは海への親和性と、グレイハウンドに似た体形と歩き方に言及したものである。フィッシャー (Pekania pennanti)は、毛皮商人の間では"fisher"としても知られていたウミベミンクと間違えて識別されたことから、その名がついた可能性がある[14]アベナキ族のインディアンは「濡れたもの」を意味する"mousebeysoo"と呼んでいた[13]。本種は、常に毛皮商人によって海岸近くで発見されたので、"sea mink"と名付けられ、その後、アメリカミンクはしばしば"wood mink"と呼ばれていた[13][15]

生息域

ウミベミンクは、19世紀後半から20世紀初頭に絶滅するまで、ニューイングランドや沿海州最南端の海岸周辺の岩場に生息していた海洋哺乳類である。ほとんどのウミベミンクの遺骸は、メイン湾岸で発掘されている[16]。一時はコネチカット州ロードアイランド州にも生息していたと推測されているが、一般的にはメイン湾内のファンディ湾沿岸で捕獲されており、以前はノバスコシア州南西岸にも生息していたと言われている[13]。異常に大きなミンクの毛皮がノバスコシア州から定期的に採取されているという報告があった[14][15]マサチューセッツ州ミドルボロウ英語版で出土した標本の骨は、塩水域から19km(12mi)離れたところにあり、約4300±300年前のものと年代測定されている[16]。ウミベミンクは川を遡上してこの地域に到達したのかもしれないし、ネイティブアメリカンがこの地域に連れてきたのかもしれない。メイン州のカスコ湾とマサチューセッツ州南東部の間では、他のミンクの遺体が発見されていないため、後者の可能性が高い[17]。カナダでもウミベミンクの骨が出土しているが、メイン湾からアメリカ先住民によって運ばれてきた可能性がある。メイン州のダウン・イースト英語版地域の険しい海岸線は、彼らの生息域の最北端を決める障壁となった可能性がある[16]。ミードは、アメリカミンクだけが本土に生息し、ウミベミンクは海岸沖の島々に限り生息していたと結論付けた。もしこれが事実ならば、本土で発見されたすべての遺体は運ばれてきたことになる[9]。グレイアムはこの仮説に異議を唱え、すべてのウミベミンクの標本が一つの個体群に由来するとは考えにくいと述べた[6]

1万2000年前の最終氷期には、ウミベミンクの生息域はメイン湾の南側に広がっていたかもしれない。当時のメイン州は氷河に覆われていたため、そこで進化した可能性もあるが、最古の標本は約5000年前のものである。あるいは、最終氷期の後に進化し、新しい生態系のニッチを埋めたのかもしれない[4]

記述

左がウミベミンクの上歯、右がアメリカンミンクの上歯をペンとインクで描いたもの。ウミベミンクの歯はアメリカンミンクの歯よりも、わずかだが目立って大きい。
シーミンクの上顎の歯列(左)とアメリカンミンクの歯列(右)

ウミベミンクは断片的な遺体からしか記述されていないため、その外観や行動は十分に文書化されていない。その近縁種や毛皮商人やアメリカ先住民の記述から、この動物の外観と生態学的な役割についての一般的な考えが得られている。ニューイングランド/大西洋カナダ地域のネイティブアメリカンの記録によると、ウミベミンクはアメリカミンクよりも太った体をしていたと報告されている。ウミベミンクは独特の魚臭い匂いを発し、毛皮はアメリカミンクよりも粗くて赤いと言われている[4][18][19]博物学者ジョゼフ・バンクスは1776年にベルアイル海峡で本種に遭遇し、キツネより少し大きく、足が長く、尻尾が長く先細りでグレイハウンドに似ていると表現している[14]

ウミベミンクはミンクの中で最大のものであった。ウミベミンクの骨格の断片的な遺物しか存在しないため、その外形寸法のほとんどは推測であり、歯の測定値だけに頼っている[4][13][20]。1929年、野生動物作家であるアーネスト・トンプソン・シートンは、この動物の推定寸法は頭から尾まで91.4cmで、尾の長さは25.4cmであると結論づけた[21]。1894年にコネチカット州で採集されたウミベミンクの標本は、頭から尾まで72cm、尾の長さは25.4cmであった。1996年の研究では、この個体は大型のアメリカミンクか雑種の可能性があるとされている。被毛は尾部と後肢が最も濃く、前腕の間に5×1.5cmの白い斑点があった。左前腕と鼠径部にも白い斑点があった[13]

ウミベミンクの口の上部(内側からの視点)を描いたペンとインクによる線画。図面の左側(すなわち、口の右側)には歯が描かれており、図面の右側(すなわち、口の左側)にはteeth socketが描かれている。犬歯と犬歯の間にある前歯がすべて抜けている。
模式標本の頭蓋骨の口蓋側面

模式標本は、1897年に生物学者のプレンティスとフレデリック・トゥルー英語版がメイン州ブルックリン英語版で採取したもので、上顎骨鼻骨の一部と口蓋からなる。口蓋の右側の歯は完全に残り、左側には数本の切歯と一本の小臼歯が残る。犬歯が欠けている以外はすべて良好な状態である。Alaskan minkの最後の切歯から第一大臼歯までの平均距離が2.8cmであるのに対し、本種は3cmであることから、Alaskan minkよりも大きいことがわかる。鼻骨の隆起は鈍く、歯は歯肉との角度がCommon mink(N. v. mink)よりも鋭くなっている[5][13]

これらのミンクは大きくがっしりしており、低い矢状稜英語版と短く広い後眼窩突起英語版眼窩の後ろにある前頭骨突起)を持っていた[13]。事実、頭蓋骨の最も顕著な特徴はその大きさであり、他のミンク種よりも明らかに大きく、広いrostrum、大きな鼻孔開口部、大きな前眼窩窓(眼窩の前にある頭蓋骨の開口部)、大きな歯を持っていた[15]。アメリカミンクの中で現存する最大の亜種であるAlaskan mink(N. v. nesolestes)は、メイン湾に生息環境が似ているアラスカのアレキサンダー諸島に生息していることから、この大型化は沿岸環境に対応したものと考えられる。ミードは、本種の生息域は沿岸の島々に限られていると結論づけ、その大きさは島嶼巨大化によるものではないかと示唆した[9]。イタチ亜科のほとんどすべての種が性的二型性を示すので、オスのウミベミンクはメスのウミベミンクよりも大きかったのだろう。ウミベミンクの広いcarnassial teethと鈍いcarnassial bladeは、硬い貝殻をアメリカミンクの歯よりもよく粉砕していたことを示唆している[4]

行動

夕暮れ時の砂浜。下半分は砂、上半分は水と水平線。海岸線を歩いている人たちのグループがいて、写真の右側には、砂地から上に突き出た岩があり、その上には常緑樹がある。
ウミベミンクはメイン湾潮間帯の捕食者だった。

海洋性哺乳類の種は生態系の中で大きな役割を果たすことが多いため、ウミベミンクは潮間帯の重要な捕食者であった可能性がある。ウミベミンクの食生活はアメリカミンクに似て、海鳥やその卵、体の硬い海洋無脊椎動物を、高い割合で食べていたのかもしれない[4]。毛皮商人の報告によると、ウミベミンクの巣は2つの入り口があり、によって積み上げられた岩の中に作られていたという。巣の周辺ではツノナガカジカ英語版オーシャンパウト英語版の遺体が最も多く、ニワノオウシュウマイマイも餌の一つだったと報告されている[13]。魚介類を中心とした食生活をしていたために、体が大きくなったのかもしれない[6]。毛皮商人によると、ウミベミンクは夜行性で、昼間は洞窟や岩の隙間に住んでいたという[14]。アメリカミンクとウミベミンクの生息域は重複していたため、互いに交配していた可能性がある。ウミベミンクは沿岸海域に生息する真の海洋種ではないが、他のイタチ上科の種と比較して非常に水棲性が強く、カワウソに次いでこの分類群の中で最も水棲性の高い種である[4]

他のミンクと同じように、個々のウミベミンクは縄張りを維持していた可能性があり、オスの方が大きく、より多くの食料を必要としていたので、オスはより大きな縄張りを主張していたのかもしれない。同様に、サイズが大きかったため、オスはメスよりも大きな獲物を狙うことができ、交尾期にはメスを守らなければならなかったかもしれない。他のイタチのように、ウミベミンクは、おそらく両性が複数の個体と交尾する多夫多妻制だった[4]

搾取と絶滅

低い草木に囲まれたガリー。ガリーの底には貝殻が溜まっていて、湖につながっている。
メインの貝塚

ウミベミンクは、体長が大きいために毛皮商人によって追求された。そのため、内陸部に棲むミンクの他の種よりも好まれていた。毛皮貿易の規制がなかったことは最終的に、1860年から1920年の間に起こったと考えられている絶滅につながった[14][16]。1860年以降、ウミベミンクはめったに見られなくなった。ウミベミンクの最後の2つの殺害記録は、1880年のメイン州ジョーンズポート英語版付近でなされたものと、1894年のニューブランズウィック州カンポベロ島でなされたものであるが[14]、1894年の記録は大型のアメリカミンクを誤認したものと推測されている[13]。毛皮商人はウミベミンクを捕まえるために罠を仕掛けたり、犬を使って追いかけたりしていたが、捕まることはほとんどなかった。ウミベミンクが岩棚の小さな穴に逃げ込んだ場合は、シャベルやバールを使って猟師が掘り出した。猟師の手の届かないところにいた場合は、撃たれて、鉄の棒の先にネジが付いているものを使って回収された。隠れていた場合は、燻製にして窒息死させた[13][15][19]。ミンクの夜行性の行動は、昼間に狩りをする毛皮商人の圧力が原因だったのかもしれない[14]

貝塚で発見された脳の遺骨は骨折しており、多くの骨には切り傷が見られることから、アメリカ先住民は食料を求めてウミベミンク狩りをしていたのではないかと推測され、おそらくは交換や儀式のためにも狩りをしていたのではないかと考えられている[8][13][16]ペノブスコット湾英語版の貝塚の遺物を調査したある研究では、ウミベミンクの頭蓋骨が無傷で、他の動物よりも多く発見されていることが報告されており、特別にそこに置かれていたことを示唆している[22]。メスよりもオスの方が多く採集されていた[4]

脚注

  1. ^ Helgen, K.; Turvey, S.T. (2016). "Neovison macrodon". IUCN Red List of Threatened Species. 2016. 2017年11月6日閲覧。
  2. ^ Neovison macrodon”. NatureServe Explorer. 2017年7月13日閲覧。
  3. ^ Wozencraft, W.C. (2005). "Order Carnivora". In Wilson, D.E.; Reeder, D.M (eds.). Mammal Species of the World: A Taxonomic and Geographic Reference (3rd ed.). Johns Hopkins University Press. p. 619. ISBN 978-0-8018-8221-0. OCLC 62265494
  4. ^ a b c d e f g h i j Sealfon, R. A. (2007). “Dental divergence supports species status of the extinct sea mink (Neovison macrodon)”. Journal of Mammalogy 88 (#2): 371–383. doi:10.1644/06-MMM-A-227R1.1. JSTOR 4498666. 
  5. ^ a b Prentiss, D. W. (1903). “Description of an extinct mink from the shell-heaps of the Maine coast”. Proceedings of the United States National Museum 26 (#1336): 887–888. doi:10.5479/si.00963801.26-1336.887. https://repository.si.edu/bitstream/handle/10088/13698/USNMP-26_1336_1903.pdf. 
  6. ^ a b c d Graham, R. (2001). “Comment on "Skeleton of extinct North American sea mink (Mustela macrodon)" by Mead et al.”. Quaternary Research 56 (#3): 419–421. Bibcode2001QuRes..56..419G. doi:10.1006/qres.2001.2266. 
  7. ^ Kays, R. W.; Wilson, D. E. (2009). Mammals of North America (2nd ed.). Boston, Massachusetts: Princeton University Press. p. 180. ISBN 978-0-6911-4092-6. OCLC 880833145. https://books.google.com/books?id=YjIIRZwbWIEC&pg=PA180 
  8. ^ a b Loomis, F. B. (1911). “A new mink from the shell-heaps of Maine”. American Journal of Science 31 (#183): 227–229. doi:10.2475/ajs.s4-31.183.227. https://books.google.com/books?id=lzlSAQAAMAAJ&pg=PA227. 
  9. ^ a b c Mead, J.; Spiess, A. E.; Sobolik, K. D. (2000). “Skeleton of extinct North American sea mink (Mustela macrodon)”. Quaternary Research 53 (#2): 247–262. Bibcode2000QuRes..53..247M. doi:10.1006/qres.1999.2109. 
  10. ^ Nyakatura, K.; Bininda-Emonds, O. R. P. (2012). “Updating the evolutionary history of Carnivora (Mammalia): a new species-level supertree complete with divergence time estimates”. BMC Biology 10 (#12): 12. doi:10.1186/1741-7007-10-12. PMC 3307490. PMID 22369503. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3307490/. 
  11. ^ Abramov, A. V. (2000). “A taxonomic review of the genus Mustela (Mammalia, Carnivora)”. Zoosystematica Rossica 8: 357–364. http://bionames.org/bionames-archive/issn/0320-9180/8/357.pdf. 
  12. ^ Etymology pages "M"”. www.scotcat.com. 2017年8月16日閲覧。
  13. ^ a b c d e f g h i j k l Manville, R. H. (1966). “The extinct sea mink, with taxonomic notes”. Proceedings of the United States National Museum 122 (#3584): 1–12. doi:10.5479/si.00963801.122-3584.1. https://repository.si.edu/bitstream/handle/10088/16923/USNMP-122_3584_1966.pdf?sequence=1&isAllowed=y. 
  14. ^ a b c d e f g Mowat, F. (2012). Sea of slaughter. Vancouver, British Columbia: Douglas and McIntyre. pp. 160–164. ISBN 978-1-77100-046-8. OCLC 879632158. https://books.google.com/books?id=dBiWBQAAQBAJ&pg=PA160&lpg=PA150#v=onepage&q&f=false 
  15. ^ a b c d Hollister, N. (1965). “A synopsis of the American minks”. Proceedings of the United States National Museum 44 (#1965): 478–479. doi:10.5479/si.00963801.44-1965.471. https://books.google.com/books?id=--s_AAAAYAAJ&pg=PA478. 
  16. ^ a b c d e Black, D. W.; Reading, J. E.; Savage, H. G. (1998). “Archaeological records of the extinct sea mink, Mustela macrodon (Carnivora: Mustelidae), from Canada”. Canadian Field-Naturalist 112 (#1): 45–49. オリジナルの2017-10-11時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20171011080315/https://www.unb.ca/fredericton/arts/departments/anthropology/pdfs/dwblack/blackreadingandsavage1998seamink.pdf 2017年7月13日閲覧。. 
  17. ^ Waters, J. H.; Ray, C. E. (1961). “Former range of the sea mink”. Journal of Mammalogy 42 (#3): 380–383. doi:10.2307/1377035. JSTOR 1377035. 
  18. ^ Day, David (1981). The encyclopedia of vanished species. London: Universal Books. p. 220. ISBN 978-0-947889-30-2 
  19. ^ a b Hardy, M. (1903). “The extinct mink from the Maine shell heaps”. Forest and Stream LXI (#I): 125. https://books.google.com/books?id=j0QhAQAAMAAJ&pg=PA125. 
  20. ^ Mead, J. I.; Spiess, A. E. (2001). “Reply to Russell Graham about Mustela macrodon”. Quaternary Research 56 (#3): 422–423. Bibcode2001QuRes..56..422M. doi:10.1006/qres.2001.2268. 
  21. ^ Seton, E. T. (1929). Lives of game animals. 2. Doubleday, Doran. p. 562. OCLC 872457192 
  22. ^ Bourque, B. J. (1995). Diversity and complexity in prehistoric maritime societies: a Gulf Of Maine perspective. New York, New York: Plenum Press. p. 341. ISBN 978-0-306-44874-4. https://books.google.com/books?id=kWsQBwAAQBAJ&pg=PA341. "The Mustela macrodon cranium is much more complete than those from the rest of the midden, adding to the impression that these bones were placed especially in the cache." 

外部リンク