無事之名馬

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無事之名馬(ぶじこれめいば、無事是名馬とも)とは、競走馬を指して「能力が多少劣っていても、怪我なく無事に走り続ける馬は名馬である」とする考え方を表した格言である。

馬主でもあった作家菊池寛による造語として有名だが、実際は時事新報の岡田光一郎によるものである[1]。岡田はまた菊池の『日本競馬読本』の代筆も行っている。菊池が競馬関係者からを求められた際に、『臨済録』にある「無事是貴人ぶじこれきにん」に想を得て色紙揮毫していたのが言葉の始まりとされた[2]。「無事是貴人」とは、本来「自然体の内に悟りを啓く者が貴人」という意味の禅語で、茶道において一年の無病息災を寿ぐ言葉として転用された。

菊池は日本競馬会の雑誌『優駿』に寄せた随筆で、馬主としての経験から「樂しみを覺える割合ひに較べれば、心配や憂鬱を味はふ時の方が多い。馬を持つてゐることの樂しみが二、三割だとすれば、心配や憂鬱の率は、まづ七、八割にも及ぶであらう。それも、大部分は馬の故障から来るのだ」と語り[2]、「馬主にとつては、少しぐらゐ素質の秀でてゐるといふことよりも、常に無事であつてくれることが望ましい。『無事之名馬』の所以である」としている[2]。この考えは馬主のみならず多くの競馬関係者の共感を呼び、以後「無事之名馬」は頑健に走る馬を賞賛する言葉として使用されている。

脚注[編集]

出典[編集]

  1. ^ 優駿 1968, p. 53.
  2. ^ a b c 優駿 1941, pp. 18–19.

参考文献[編集]

  • 菊池寛無事之名馬」(PDF)『優駿』、日本競馬会、1941年6月、18-19頁、 オリジナルの2016年3月14日時点におけるアーカイブ、2011年10月29日閲覧 
  • 「<座談会>優駿三〇〇号に想う」『優駿』、日本競馬会、1968年12月、53頁。 
  • 「『優駿』に見る日本の競馬60年 復刻!!もう一度読んでみたい懐かしの名作集 - 菊池寛『無事之名馬』」『優駿』、日本競馬会、2002年4月。