江口之隆

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江口 之隆(えぐち これたか、1958年 - )は魔術隠秘学に関する書籍や雑誌記事を執筆した日本の西洋魔術研究家、オカルト・エッセイスト、翻訳家である。長尾豊(ながお ゆたか)という筆名も用いていた。

1980年代から1990年代中頃にかけ、江口之隆名義で多数の英米の魔術書を翻訳した。一方、1990年代初め頃まで、長尾豊名義でもオカルト関係の雑誌記事[1]や書籍を執筆。それらの記事の中で自身が所属するO∴H∴なる魔術結社の存在をほのめかしていたが、後に自らのウェブサイトにてこれをペーパー結社としている。共著に『黄金の夜明け』、訳書にアレイスター・クロウリー『図解777 増補改訂版』『ムーンチャイルド』、フランシス・キング『英国魔術結社の興亡』(黄金の夜明け魔法大系 5)、チック・シセロ『現代魔術の源流・黄金の夜明け団入門』などがある。クロウリー著『法の書』の解説も執筆している。

2000年代には自身のウェブサイト「魔術資料館O∴H∴」と後の「O∴H∴西洋魔術博物館」において、ダイアン・フォーチュンの魔法小説の日本語訳や、自ら茶化して「大家の義太夫」と呼ぶ所の多数のCG画像やエッセイを公開し精力的な更新を行っていた。2015年からは「西洋魔術博物館」のウェブサイトを運営しており、数々の貴重な文献や各種資料を提供して、当該分野における趣味から専門までを含めた学術研究の発展に貢献している。また、ヴィクトリア朝時代の古書籍と美術品の蒐集家としても知られ、それら文化財の写真はウェブサイト付属のTwitterで逐一公開されており、こちらの寄与についても高い評価を受けている。

略歴[編集]

  • 1958年、福岡県生まれ。
  • 1982年、怪奇同人雑誌「黒魔団」が縁で知己となった、当時国書刊行会の編集者であった朝松健より、儀式魔術を紹介するシリーズの企画の依頼を受ける。これは江口之隆・亀井勝行監修「世界魔法大全」全5巻として結実した[2]
  • 1983年黄金の夜明け団の研究書『黄金の夜明け』国書刊行会より出版。同年、西南学院大学大学院修士課程修了。
  • 1984年から1985年、イギリスのウォーバーグ研究所に留学し、黄金の夜明け団関連の研究を行う[3]。同研究所所蔵のジェラルド・ヨーク・コレクション(アレイスター・クロウリーに関するおびただしい資料を含むもの)を閲覧。
  • 1993年、『黄金の夜明け魔術全書』翻訳出版。出版を急ぐあまり、誤字や脱落など多くの不備を残したままの上梓となった(2006年の2刷にてある程度改善)。
  • 2003年、マーゴット・アドラーのネオペイガニズム研究書『月神降臨』翻訳出版。
  • 2017年、チック・シセロ著『現代魔術の源流・黄金の夜明け団入門』を翻訳出版。

人物・評価[編集]

1980年代から1990年代半ばまで西洋隠秘学関連の翻訳家ないし著作家として活動していた。自身の専攻から特にイギリスの儀式魔術分野に造詣が深く、それまで部分的な情報を伝える関係者はいたものの、日本国内ではほぼ未開拓であった西洋儀式魔術英語版の本格的な紹介に従事した。

本邦初の西洋魔術紹介となった機会は、国書刊行会から依頼されて執筆した1983年出版の世界魔法大全第1巻であり、その著述の中では取り分け団体内のトラブルや人間関係上の問題に焦点が当てられ、魔術と魔術師に対して安易に抱かれがちな神秘性を排しつつ、より現実的な視点から西洋魔術の意義を解釈する姿勢が貫かれており、魔術は趣味と定義した上で、健全な社会生活の中で行われる西洋魔術ほど楽しい趣味はない、と結論付けられた。隠秘学分野で当時話題となったこの著作によって、日本国内における西洋魔術の認識と立ち位置、及びその在り方は定まったとされる。日本の西洋魔術はあくまで楽しむ事を目的にした趣味として広まり、教養と想像力を駆使した大人の知的遊戯に位置付けられて、ビギナーからマニアまでを含む隠秘学愛好者とスピリチュアルファンの間で親しまれる様になった。

彼は単なる魔術史家や翻訳家に留まらず、黄金の夜明け団の歴史研究に裏打ちされた独自の見解を述べ、実践上の魔術師のあり方についての提言を行ったり、パワーマジックとフォースマジックの対比などユニークなコンセプトを提示してもいる。儀式魔術や隠秘学を既成の学術研究の対象としては熟していない趣味的なサブカルチャー[4]の枠内にあえて限定するスタンスを取っており、また近代魔術の唱えた神秘主義的理念を相対化し[5]ニューエイジ思潮の源流となった他の様々な秘教思想とも通底する精神性や宗教性に踏み込まないきらいがある。魔術の神秘的な意義よりも懐疑的な視点や現実的な考え方を強調している。この様な斜に構えたかのように見える彼の西洋魔術に対する姿勢は欧米の実践魔術界の主流とはやや毛色の異なるものであり、現代欧米における代替文化の一つであり、大雑把にペイガン(異教徒)という言葉で括られている実践的オカルティズムの積極的な気構えや、例えばセレマに代表される様なライフスタイルをあまり共有していない。かねてより自身を西洋儀式魔術の実践家ではなく研究家に位置付けており[6]、出版媒体上では専ら魔術研究家の肩書きで紹介されている[7]。一方で魔術結社の構成員である事をほのめかしていた時期もあり[8]、また自身の儀式魔術用のダガーについても言及していた事がある[9]

彼の著述には、著名なオカルティストのエピソードを捏造したり[10]、読者への注釈・説明なしに自ら作り出した造語を突然使用する[11]などの悪ふざけが見受けられる。欧米の魔術史家には類例のない彼のこうした軽さやトリックスター的側面により、彼の著述した本や記事はある部分において学術的資料としての利用価値が低い、もしくは取り扱い要注意なものとなっている。

趣味面では無類の釣り好きとしても知られ、こちらの専門雑誌にも寄稿している。

魔術結社O∴H∴[編集]

O∴H∴は1980年に二名の大学生が結成した日本の魔術団である[12]。この名称は the Order of H****** の略称で、人には発音しえぬ擬音を文字に写したものとも称される[13]。主要会員は江口之隆(長尾豊)と亀井勝行(草薙了)である。

O∴H∴は黄金の夜明け団の魔術を日本に普及すべく、国書刊行会や学習研究社の出版物を通じて翻訳出版活動を行った。魔術団体の種類にはOTOのように秘儀参入を主眼とする友愛結社や、SOLやI∴O∴S∴のような通信教育団体があるが、招待制をとるO∴H∴はそのいずれでもなく、その内実は未確認である。I∴O∴S∴の学習主任である秋端勉や一時期オカルトライターであった朝松健によって、O∴H∴が少数の達人のみで構成された高度な結社であるかのような紹介やほのめかしが行われたこともあった[13][14]。しかし後に江口本人が「実体があるのかないのかよくわからない」と記しており[12]、そうした宣伝の虚飾性を示唆している。O∵S∵W∵や青狼団のような虚構の団体ではないものの、ウェブサイト上でO∴H∴を「ペーパー・オーダー」としたこともあった。

著書[編集]

  • 長尾豊『黒魔術・白魔術 よみがえる魔術の秘儀』学習研究社、1984年
  • 長尾豊『「魔術」は英語の家庭教師』はまの出版、1985年
  • 『西洋魔物図鑑』翔泳社、1996年

共著[編集]

翻訳[編集]

  • アレイスター・クロウリー『魔術 理論と実践』(世界魔法大全)島弘之,植松靖夫共訳 国書刊行会 1983
  • フランシス・キング『黄金の夜明け魔法大系 6 性魔術の世界』長尾豊訳 国書刊行会 1992
  • アレイスター・クロウリー『ムーンチャイルド』創元推理文庫 1990
  • アレイスター・クロウリー『黒魔術の娘』創元推理文庫 1991 
  • 『アレイスター・クロウリー著作集 5 777の書』国書刊行会 1992
  • イスラエル・リガルディー編『黄金の夜明け魔法大系 黄金の夜明け魔術全書』国書刊行会 1993
  • フランシス・キング『英国魔術結社の興亡 黄金の夜明け魔法体系』国書刊行会、1994 
  • フランシス・キング編『飛翔する巻物 高等魔術秘伝』国書刊行会、1994 
  • 『アレイスター・クロウリー著作集 別巻2 アレイスター・クロウリーの魔術日記』スティーヴン・スキナー編 国書刊行会 1997
  • マーゴット・アドラー『月神降臨』魔女たちの世紀 第4巻 秋端勉監修 国書刊行会 2003
  • チック・シセロ『現代魔術の源流・黄金の夜明け団入門』ヒカルランド 2017

脚注[編集]

  1. ^ 媒体は学習研究社の「ムー」誌やその関連ムック、新人物往来社の「AZ」誌など。
  2. ^ 朝松健 『魔術戦士 VOL.1 蛇神召喚』 スーパークエスト文庫、小学館、1997年、ISBN 4094405216、「SQ文庫版へのあとがき -マジカル・ファイル1-」
  3. ^ [1]
  4. ^ ここではサブカルチャーという言葉を、絵画や純文学、クラシック音楽などのハイカルチャーに対し、日本でしばしばサブカルと略される、アニメやゲームを含む娯楽を主目的とするマイナーな趣味的文化を指すものとして限定的に用いる。『西洋魔物図鑑』では江口のこの傾向が如実に出ている。
  5. ^ 「魔術とはなにか」参照。
  6. ^ 例外として、『魔術は英語の家庭教師』では見返しに「研究者」とあるが本文中には「魔法使い」を自称している箇所がある。
  7. ^ 初の公刊書『黄金の夜明け』(1983年)の著者プロフィールでは、片方の共著者が「魔法使い」であるのに対し、江口は「魔法研究家」となっている。
  8. ^ 主に1980年代から1990年代前半に刊行された書籍の中で、魔術結社「O∴H∴」の団員であることを幾度となくほのめかしていた。
  9. ^ ダガー所持の違法化にともない処分したという。英文エッセイ Giving up the dagger 参照。
  10. ^ たとえば彼が放った与太話の例として、アレイスター・クロウリーが江ノ島の裸弁天を拝観したという話がある。『法の書』(国書刊行会)の「アレイスター・クロウリーの生涯」参照。
  11. ^ アレイスター・クロウリー『法の書』(国書刊行会)の解説の中でクロウリーとは全く関連性の見出せない「ケレパヤ」という自己の造語を連発している。
  12. ^ a b [2]参照。
  13. ^ a b 秋端勉「魔術結社覚書」(「ユリイカ」1992年2月号、青土社)
  14. ^ 朝松健 『高等魔術実践マニュアル』 学習研究社、1987年、「エピローグ」

外部リンク[編集]