口語訳聖書

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口語訳聖書(こうごやくせいしょ)とは、口語文に翻訳された聖書のことである。日本国においては、日本聖書協会が出版した『聖書 口語訳[注 1]』を指す場合もある。

聖書が各国語に翻訳される際、口語は変遷して行くものであり、時間と共に文語と口語に乖離が起こる[2]。この乖離を埋めるための翻訳は、その時代の口語と近しい文体となり、文語訳聖書との対置として口語訳聖書と呼ばれる。

ドイツ語[編集]

ルター訳(2017年改訂)

ドイツ聖書協会(独: Deutsche Bibelgesellschaft)は、宗教改革から500年を迎える2017年に先立つ2016年10月に、マルティン・ルター: Martin Luther)による聖書翻訳『ルター訳聖書: Lutherbibel)』の2017年改訂版を公にした[2]。置き換えられる言語も時代によって変化しているゆえに、聖書の翻訳は常に刷新され続けなければならず、ルター訳聖書の校訂作業も1522年に完成以来、教会が責任も持って行う公的な校訂(: Kirchenamtliche Revision)としては、1892年に第一回、1912年の第二回、1984年の第三回に続き,2017年改訂版が第四回目となる[2][3]。2017年改訂版は、1984年の改訂の際の行き過ぎた現代語への置き換えを改め,近代ドイツ語を整えつつもルターの言葉遣いを取り戻そうとする試みが行われた[3]

英語[編集]

新改訂標準訳

改訂訳: Revised Version・RV)』は、1611年に完成した『ジェームズ王欽定訳: King James Version・KJV)』を英国で大幅に改訂して1885年に完成したものである[4]。また、RVに参加した米国の聖書学者によって1901年に『アメリカ標準訳: American Standard Version・ASV)』が発行された[4]。ASVは、1952年の『改訂標準訳: Revised Standard Version・RSV)』を経て、さらに約40年後の1989年に出版された『新改訂標準訳: New Revised Standard Version・NRSV)』では、過去50年間の学究的成果を反映し、1950年代以降英語に起こった変化にも注意を払われたものとなった[4]

日本語[編集]

『新約聖書 口語訳』(ドン・ボスコ社)
フェデリコ・バルバロ: Federico Barbaro)は、1910年(明治43年)刊行の『我主イエズスキリストの新約聖書』を参考にして、1953年(昭和28年)に『新約聖書 口語訳』をドン・ボスコ社[注 2]から出版した[6]
口語聖書』(日本聖書協会)(新約1954年、完訳1955年)
日本聖書協会では、1950年(昭和25年)ごろになると戦後現代かなづかい当用漢字の制定などによる国語の変化や聖書学の急速な進歩で、1887年(明治20年)刊の『舊約全書』並びに1917年(大正6年)刊の『改譯新約聖書』への改訳要求が次第に高まってきたことを受け、1951年(昭和26年)4月、米英の聖書協会の協力を得て翻訳を始めた[7][8]。この翻訳は、初めて日本人の聖書学者によってなされ、1955年(昭和30年)までに完成し『口語聖書[注 1]』として出版された[7]
新共同訳聖書』(新約1987年、完訳1988年)
プロテスタントカトリックの共同により、『口語訳聖書』と同じく日本聖書協会が発行。
新約聖書 共同訳』(新約1978年)
『新共同訳聖書』に先がけ、同訳者らが訳し、同協会が発行。
新改訳聖書』(新約1965年、初版完訳1970年、2版1978年、3版2003年、2017[4版に相当]2017年)
プロテスタント福音主義による。現在はいのちのことば社発行。
リビングバイブル
ケネス・テイラー英語版による英語版の翻訳方針を踏襲しつつ、福音主義に基づく平易な訳文を提供している[9]。いのちのことば社が発行。
現代訳聖書』(完訳1983年)
『新改訳聖書』の旧約聖書『出エジプト記』『ヨシュア記』などの訳者尾山令仁による訳。注解書や解説書なしに読むだけですぐ分かる、パラフレーズで動的等価な意訳である。ちなみに、『創造主訳聖書』は本書の本文から創造主なる神を指す「神」ということばをすべて「創造主」に置換したものである。
聖書』(改訂訳1980年)
カトリック宣教師フェデリコ・バルバロデル・コルの訳(1964年版)により講談社改訂版発行。
原文校訂による口語訳聖書』(完訳2002年)
同じくカトリックのサンパウロ発行フランシスコ会聖書研究所訳註。

脚註[編集]

註釈[編集]

  1. ^ a b 日本聖書協会が、1955年に出版した当初の書名は『口語聖書』であったが、後に『聖書 口語訳』に改題された[1]
  2. ^ ドン・ボスコ社は、宗教法人カトリック・サレジオ修道会出版事業部の通称[5]

出典[編集]

  1. ^ 口語聖書 (日本聖書協会): 1955”. 書誌詳細. 国立国会図書館サーチ. 国立国会図書館. 2023年1月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年1月16日閲覧。
  2. ^ a b c 宗教改革500年と聖書」『ソア』第44号、日本聖書協会、東京、2017年3月1日、3-9頁、2023年1月10日閲覧 
  3. ^ a b 吉田新「聖書翻訳の過去・現在・未来 ルター訳聖書2017年改訂版について」『東北学院大学キリスト教文化研究所紀要』第35号、東北学院大学キリスト教文化研究所、2017年6月30日、43-49頁、ISSN 1348-4621全国書誌番号:01000924 
  4. ^ a b c 本多峰子「英語聖書の歴史」『ソア』第39号、日本聖書協会、東京、2012年3月1日、3-7頁、2023年1月10日閲覧 
  5. ^ 代表就任のご挨拶”. お知らせ. ドン・ボスコ社. カトリック・サレジオ修道会 (2022年4月1日). 2023年1月8日閲覧。
  6. ^ 高橋虔「日本における聖書の翻訳」『日本の神学』第1984巻第23号、日本基督教学会、東京、1984年、195-204頁、doi:10.5873/nihonnoshingaku.1984.195ISSN 0285-4848全国書誌番号:00012017 
  7. ^ a b 『口語新約聖書について』日本聖書協会、東京、1954年。 NCID BA45547987https://www.bible.or.jp/wp-content/uploads/2021/03/jc_new_testament.pdf2023年1月8日閲覧 
  8. ^ 和訳史06 文語訳から口語訳へ”. 聖書翻訳の歴史. 聖書を知る. 日本聖書協会. 2023年1月8日閲覧。
  9. ^ 「あとがき」 『リビングバイブル 新約』いのちのことば社、1975年、574-575頁。