十の災い

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十の災い(とおのわざわい)とは、古代エジプトで奴隷状態にあったイスラエル人を救出するため、エジプトに対して神がもたらしたとされる十種類の災害のことである。

災いの内容について[編集]

出エジプト記に記載されており、概要は以下の通り[1]

なお、理由は定かではないがローマ時代にこれらを説明しているフラウィウス・ヨセフスの『ユダヤ古代誌』と偽フィロンの『聖書古代誌』といった本の記述では4番目の災いに当たるものがヘブライ語の記述とも七十人訳聖書の「犬蝿」とも異なり、「様々な種類の野獣」としている[注釈 1]

"エジプト第七の災い", ジョン・マーティン, 1824年
"最後の災い" エラストゥス・ソールズベリー・フィールド
  1. ナイル川の水をに変える(7:14-25)
  2. を放つ(8:1-15)
  3. ぶよを放つ(8:16-19)[注釈 2]
  4. を放つ(8:20-32)[注釈 2]
  5. 家畜に疫病を流行らせる(9:1-7)
  6. 腫れ物を生じさせる(9:8-12)
  7. を降らせる(9:13-35)
  8. を放つ(10:1-20)
  9. 暗闇でエジプトを覆う(10:21-29)
  10. 長子を皆殺しにする(11章、12:29-33)

その他の宗教などにおける似たような記述[編集]

イスラム教
クルアーン7番目の章高壁133節に、「そこでわれ(アッラー)はかれら(フィルアウン(アラビア語でファラオの事))に、自らの様々な力の明証として洪水やバッタやシラミ、カエルや血などを送った。だがかれらは高慢な態度を続け,罪深い民であった。」[5]。この説話は、旧約聖書を参考にしたクルアーンのアレンジ(聖書の説話とクルアーンの関係)によるものと考えられる。
エジプト神話
血に飢えた疫病と殺戮と戦いの女神セクメトが、ナイル川に投げ込まれた血のような赤い酒に酔って、疫病と殺戮を止めた話がある。

歴史[編集]

考古学者ウィリアム・オルブライトやジョン・S・マー(John S. Marr)などの学者達は、実際に起きた事でないかという学説を唱えている。エジプト第12王朝に書かれた Ipuwer Papyrus の後半には「ナイル川が血のように赤くなっている」という記述がみられる(ただ、洪水のときに運び込まれる赤い土によるものの可能性がある。)。これらが起こる理由に、火山噴火(地中海のサントリーニ島噴火)をあげ、酸性度の高い酸性雨や火山灰による異常気象によるものではないかとしている[6]。なお、この十の災いはすべて火山の噴火によるものであると知るとき、様々な虫が放たれたのは火山噴火による異常気象、長子皆殺しは疫病の蔓延による(体力がまだ十分でない)子供の死となる。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ これ以外にヨセフスは「家畜の疫病」、偽フィロンは「腫物」の話を乗せておらず、偽フィロンの場合は順番が出エジプト記の1・2・4・7・5・8・3・9・10の順番で乗っている[2]
  2. ^ a b この「ぶよ」と次の「虻」という訳は便宜上のもので、本来何の虫を指すのかよくわかっていない(「虻」は群れをなす害虫の一般名詞だったらしい)、なお、この2つの災いは内容が酷似しているので元々同じ話だったものを編集者が別々に記載した可能性がある[3]。ちなみに「ぶよ」の原文は「スクニフェス」といい複数形主格の「スクニペス」が『詩篇』(104:31)にもみられる、他の訳では七十人訳聖書ではこれが「毛虱」、次の災いが「犬蠅(犬にたかる蝿)」と訳されている[4]

出典[編集]

参考文献[編集]

  • 関根正雄『旧約聖書 出エジプト記』((第3版))株式会社岩波書店、1999年。ISBN 4-00-338011-8 
  • フラウィウス・ヨセフス 著、秦剛平 訳『ユダヤ古代誌1 旧約時代編[I][II][III][IV]』株式会社筑摩書房、1999年。ISBN 978-4-480-08531-3 
  • 秦剛平『書き換えられた聖書 新しいモーセ像を求めて』京都大学学術出版会、2010年。ISBN 978-4-87698-850-1 
  • 秦剛平 訳『七十人訳ギリシャ語聖書 モーセ五書』講談社、2017年。ISBN 978-4-06-292465-8 

関連項目[編集]