ローマ人の物語

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ローマ人の物語』(ローマじんのものがたり)は、イタリア在住の作家塩野七生による、古代ローマ全史を描いた歴史文学作品。ハードカバー単行本が全15巻で刊行され、文庫本では43巻に分冊されている。ラテン語での表題は"RES GESTAE POPULI ROMANI"(「ローマの人々の諸行」)としている。

新潮社が付加したC-CODEの内容を示す下2桁は「22(外国歴史)」であり、公式サイト内でのジャンルは「歴史 世界史」としている[1]。また新潮社で塩野を担当するのは文芸作品を扱う出版部ではなく、ノンフィクションを扱う出版企画部に設置された「ローマ人編集室」である[2][3]

概要[編集]

1992年以降、年に1冊ずつ新潮社から刊行、2006年12月刊行の15作目で完結した。第1巻から第5巻までは王政ローマの成立から共和制への移行という興隆期、第6巻から第9巻までは帝政の全盛期、第10巻は番外編でローマのインフラストラクチャー(社会基盤の整備)について、そして最後の5巻で衰退から滅亡までを描いている。

「歴史書」として出来事を叙述するよりも、各時代を生きた主要人物に光を当て、彼らの行動を中心にして描くスタイルをとっている。また、それまでキリスト教の立場から「悪の帝国」として描かれてしまいがちであったローマを、寛容の精神によって世界平和(パクス・ロマーナ)を実現した国家として捉え直している。塩野はたびたび、ローマ帝国が多神教ゆえ「寛容」であったが、キリスト教の浸透と、帝国支配層の改宗によりローマは「乗っ取り」を受け、以後のヨーロッパは一神教の「非寛容」性に支配されるようになったということを述べており、本書の叙述にもそれがたびたび現れている。

古代ローマが終焉した時期を、西ローマ帝国の滅亡(476年)でも、東ローマ帝国の滅亡(1453年)でもなく、東ローマ帝国がローマを奪還した時期(6世紀)と見なしている。塩野は東ローマ帝国をローマ継承国家とは認めず、東ローマ皇帝ユスティニアヌス1世のイタリア征服事業による戦乱によってローマ市民元老院、すなわちSPQRが消滅したとして、本書の筆を置いている(それ以降も一応概略として駆け足で述べられている)。

2002年から2011年にかけ、新潮文庫で単行本1巻を2冊から4冊に分け刊行、全43巻で完結した。

各巻構成と内容[編集]

  1. ローマ人の物語I ローマは一日にして成らず(1992年) ISBN 4-10-309610-1
    "ROMA NON UNO DIE AEDIFICATA EST"
    王政ローマの建国からイタリア半島統一までを描く。
  2. ハンニバル戦記 ローマ人の物語II(1993年) ISBN 4-10-309611-X
    "BELLUM HANNIBALICUM"
    ポエニ戦争カルタゴ滅亡まで。ハンニバルスキピオ・アフリカヌス
  3. 勝者の混迷 ローマ人の物語III(1994年) ISBN 4-10-309612-8
    "BELLORUM CIVILIUM"
    グラックス兄弟マリウススッラポンペイウスの活躍。「内乱の一世紀」前半。
  4. ユリウス・カエサル ルビコン以前 ローマ人の物語IV(1995年) ISBN 4-10-309613-6
    "C. IULIUS CAESAR ANTE RUBICONEM"
    カエサルの前半生とガリア戦争
  5. ユリウス・カエサル ルビコン以後 ローマ人の物語V(1996年)ISBN 4-10-309614-4
    "C. IULIUS CAESAR POST RUBICONEM"
    ローマ内戦とカエサル暗殺、その死後の内乱と収拾を描く。
  6. パクス・ロマーナ ローマ人の物語VI(1997年) ISBN 4-10-309615-2
    "PAX ROMANA"
    ローマを帝政に移行させた初代皇帝アウグストゥスが、パクス・ロマーナの実現を進める過程。
  7. 悪名高き皇帝たち ローマ人の物語VII(1998年) ISBN 4-10-309616-0
    "IMPERATORES MALAE FAMAE"
    アウグストゥスに続くユリウス・クラウディウス朝の4皇帝(ティベリウスカリグラクラウディウスネロ)の功罪。
  8. 危機と克服 ローマ人の物語VIII(1999年) ISBN 4-10-309617-9
    "CRISIS ET AB EA EXITUS"
    ユリウス・クラウディウス朝断絶後の帝国の混乱フラウィウス朝の成立、五賢帝の1人目ネルウァまで。
  9. 賢帝の世紀 ローマ人の物語IX(2000年) ISBN 4-10-309618-7
    "SAECULUM AUREUM"
    五賢帝のうちトライアヌスハドリアヌスアントニヌス・ピウスの3皇帝の時代。
  10. すべての道はローマに通ず ローマ人の物語X(2001年) ISBN 4-10-309619-5
    "OMNIAE VIAE QUAE AD ROMAM DUXERUNT"
    ローマのインフラストラクチャーをテーマとした巻。
  11. 終わりの始まり ローマ人の物語XI(2002年) ISBN 4-10-309620-9
    "FINIS PRINCIPIUM"
    哲人皇帝マルクス・アウレリウスの治世。五賢帝以後のローマと内乱セプティミウス・セウェルスの時代。
  12. 迷走する帝国 ローマ人の物語XII(2003年) ISBN 4-10-309621-7
    "TERTII SAECULI CRISIS"
    セウェルス朝後半及び軍人皇帝時代のローマ帝国、いわゆる「3世紀の危機」の時代。
  13. 最後の努力 ローマ人の物語XIII(2004年) ISBN 4-10-309622-5
    "DE ULTIMIS LABORIBUS"
    ディオクレティアヌスコンスタンティヌスの時代。テトラルキアの成立と終焉。
  14. キリストの勝利 ローマ人の物語XIV(2005年) ISBN 4-10-309623-3
    "DE CHRISTI VICTORIA"
    コンスタンティウスユリアヌスの時代からテオドシウスの時代まで。
  15. ローマ世界の終焉 ローマ人の物語XV(2006年) ISBN 4-10-309624-1
    "ROMANI MUNDI FINIS"
    ローマ帝国の東西分裂と西ローマ帝国の滅亡、ユスティニアヌスの再征服による荒廃。

評価[編集]

作家である塩野により古代ローマの英雄達が魅力的に描かれており、ベストセラーとなった。多くの日本人読者に、古代ローマについて関心を抱かせた功績は大きい。古代ローマ研究者本村凌二は、本シリーズを(人物論という観点から)絶賛している。

一方で、『ローマ人の物語』が歴史小説ではなく歴史書として読まれる傾向があることに複数の歴史学者が懸念を示している。ローマ帝国の社会経済史を専門とする坂口明は、塩野の著作が書店や図書館などにおいて歴史書として配置されていること、また学生や市民講座の受講者によって歴史書として受容されていることを指摘した。坂口は、『ローマ人の物語』全巻を通読したうえで、エンターテイメントとして評価しつつも、根拠のない断定や重大な誤りがあることを指摘し、批判的な検証が必要であるとした[4]

小田中直樹は、南川高志の著作[5]と『ローマ人の物語』の比較を行っている[6]。小田中によれば、『ローマ人の物語』は、史料批判や先行研究の整理が不十分であり、歴史学の方法論に基づいていない。そのため、叙述の根拠が著者の感想にとどまっているため、歴史書ではなく歴史小説であるという点に留意する必要があると小田中はしている。また、叙述に考古学的成果がほとんど用いられていない点も問題視されている。

ティベリウスドミティアヌスコンモドゥスなど、一般にやや評価の低い人物への再評価を試みた一方で、ヌマンティア戦争ブーディカによる反乱への言及は少ない。共和制、帝政期を通じてローマ本国と属州との関係については、属州民の自由を相当に認めていて課税も適切であった旨の記述が見られるが[7] 、この解釈については異論を含め様々な説が存在する[8]

受賞[編集]

  • 『ローマ人の物語I ローマは一日にして成らず』は、第6回新潮学芸賞を受賞した(1993年)。
  • 『すべての道はローマに通ず ローマ人の物語X』は、社団法人土木学会より平成13年度土木学会賞のうちから「出版文化賞」を受賞した(2001年)。
  • 『ローマ世界の終焉 ローマ人の物語XV』の刊行によりシリーズ完結に際し、『ローマ人の物語』(全巻)に第41回書店新風賞を受賞した(2006年)。

装丁[編集]

基本的に単行本各巻の表紙には、その巻に登場する英雄等の彫像の写真が用いられた。文庫版では、該当する時代のローマコインの写真を用いる。

関連書籍[編集]

『ローマ人の物語』完結後、2008年から2009年にかけて『ローマ亡き後の地中海世界』(上下巻)が刊行された。『ローマ人の物語』以降の時代の地中海世界を、イスラム海賊との攻防を軸に描いたものである。厚めだが装幀も同じスタイルであり、続編と見なされる。2010年から2011年にかけて、同じ装丁で『十字軍物語』(全4巻)が刊行された。

また、新潮社から『塩野七生「ローマ人の物語」の旅 コンプリート・ガイドブック』(1999年)と、『塩野七生「ローマ人の物語」スペシャル・ガイドブック』(2007年/新潮文庫、2011年)が出版されている。

集英社から書き下しで、関連した内容の『痛快!ローマ学』(2002年/改題『ローマから日本が見える』2005年/集英社文庫、2008年)が出版された。

出典[編集]

  1. ^ 塩野七生『ローマ人の物語 41―ローマ世界の終焉〔上〕―』|新潮社
  2. ^ 定期採用2015 | 新潮社
  3. ^ 塩野七生「ローマ人の物語」制作の舞台裏BLOG | 編集作業は山場を越えた(四たび、新潮社の会議室にて)
  4. ^ 坂口明「ローマ 回顧と展望」史学雑誌』第115編第5号、2006年
  5. ^ 『ローマ五賢帝 「輝ける世紀」の虚像と実像』講談社現代新書 1998年。
  6. ^ 小田中直樹『歴史学ってなんだ?』PHP研究所、2004年
  7. ^ 『パクス・ロマーナ ローマ人の物語VI』他
  8. ^ 会田雄次『合理主義―ヨーロッパと日本』(講談社現代新書(実際の属州は、支配されたが最後、凄まじい勢いで収奪され、多くの地域では人口は数十年のうちに十分の一に減少したとの記述)、1966年/PHP文庫、2000年)、『必然と偶然と』(雷鳥社、1981年)他