ヒトパピローマウイルス

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ヒトパピローマウイルスの電子顕微鏡写真

ヒトパピローマウイルスHuman papillomavirusHPV)は、パピローマウイルス科に属するウイルスの一つ。ヒト乳頭腫ウイルス(ヒトにゅうとうしゅウイルス)とも言われる。パピローマまたは乳頭腫と呼ばれるを形成することから名付けられた。一部の型のウイルスに対してはヒトパピローマウイルスワクチンが開発されている。

性状[編集]

環状構造の二本鎖DNAウイルス。全世界的に古くから存在していた。現在では100種類以上の型が報告されている。正20面体のカプシドで覆われており、遺伝子サイズは種類により異なるがだいたい約8,000塩基ほどで、8から9のオープンリーディングフレーム(ORF:蛋白をコードしていると推定される遺伝子。しかしその遺伝子産物は同定されていない)を含んでいる。欧米の子宮頸癌でよく発見される16型HPVの場合、初期遺伝子 (E1,E2,E4,E5,E6,E7) と後期遺伝子(L1とL2)というORFを持っている。その中で特にE6とE7が発癌に関与していると考えられている。

E6はがん抑制遺伝子であるp53と結合し分解することで発癌に寄与している。E6はそれ以外にもhTERTの再活性化やPDZドメインを持つたんぱく質を分解することで発癌に寄与している。E7はp53と同様がん抑制遺伝子であるpRbと結合、分解・不活化することでpRbと結合している転写因子であるE2Fを遊離し活性化することで発がんに寄与している。それ以外にもE7はcdk阻害因子であるp21、p27と相互作用することで発癌に寄与している。

それ以外のウイルスがコードするタンパク質ではE1はDNAヘリカーゼ活性を有し、E2と結合することでウイルスゲノムの複製に関与している。E2はE1と同様ウイルスゲノムの複製に関与するが、ウイルス遺伝子の発現調節に関わるLCR (Long Control Region) 上に結合ドメインがあり、初期遺伝子の発現調節(特にE6、E7)に関わっている。E4はサイトケラチンのネットワーク崩壊、E5はEGFRの活性化などが報告されているが、これらのウイルスタンパクの明確な機能は明らかにされていない。L1とL2はキャプシドタンパクでL1のみでVLPを形成できることが知られている。後半に記述しているGardacilやCervarixなどはいくつかの型のL1をもとに作製したワクチンである。L2はキャプシド形成に補助的に働いていることが知られている。

通常、ウイルスは自己の複製を促すため感染細胞の増殖能を上げるために分化を抑制することが多いが、HPVのゲノム複製は分化依存的に行われる。そのため、単層培養系ではウイルスのライフサイクルを再現することが出来ず、純培養が不可能なウイルスである。

種類[編集]

HPVは現在までに100種類以上存在が確認され、発見順に番号がつけられている。

感染部位による分類[編集]

上皮型
HPV1,5,8,14,20,21,25,47型
粘膜型
HPV6,11,16,18,31,33,35,39,41,45,51,52,56,58,59,68,70型

発癌性による分類[編集]

低リスク群
6,11,40,42,43,44,54,61,70,72,81,CP6108型[1]
高リスク群
16,18,31,33,35,39,45,51,52,56,58,59,68,73,82,(26,53,66)型

感染方法[編集]

HPVは接触感染で皮膚や粘膜の微小な傷から侵入し、扁平上皮基底部の細胞に感染する。感染HPV は血中に侵入しないのでウイルス血症を起こさない。また感染した細胞を破壊せずウイルス粒子を大量に放出させることもない。このため抗原提示細胞の活性化や抗原認識の過程が回避され、免疫が誘導されにくい[2]

HPV 感染の70%が1年以内に消失し、約90%が2年以内に消失する。しかし上記のメカニズムによって、一生涯有効な免疫記憶が形成されないため、自然感染後の抗体産生が十分でなく、同じHPV型への感染が何度も起こると考えられている [3]

HPVが血液感染するかどうかは、2014年7月現在、判明していない。

臨床像[編集]

一般に上皮に対する親和性が強く、それぞれ種類によって生じてくる疾患は異なっている。

  • 尖圭コンジローマ:主にHPV6、11型が原因。外生殖器に鶏冠状の乳頭腫を形成する。
  • 子宮頚癌:主にHPV16、18型が原因。
  • 疣贅:皮膚に出来るイボ。ウイルスの種類により形状・発生場所が異なる。詳しくは内部リンク参照のこと。
  • 咽頭乳頭腫:HPVが尖圭コンジローマを有する母親から乳幼児へ経産道感染することにより、咽頭に形成される良性腫瘍。声門部が好発であり、気道まで進展し稀に狭窄をきたすおそれがあるため、周産期の管理が必要となる。

ワクチン[編集]

米国メルク社より尖圭コンジローマ子宮頸癌の原因ウイルスであるHPV6 、11、16、18型のワクチン「商品名GARDASIL(ガーダシル)」が開発され、2006年6月にアメリカ食品医薬品局で承認された。WHO世界保健機関から品質や安全性の基準など満たすワクチンとして認定されている。 米国でのHPV未感染女性を対象にした、ガーダシルを用いた4つの大規模臨床試験の結果を総合すると、前癌状態であるCIN2、CIN3、AISに対し、99%の発症予防効果があった[4][5]

次いで英国グラクソ・スミスクライン社よりHPV16、18型のワクチン「商品名Cervarix(サーバリックス)」が開発され、2007年5月に10歳~45歳の女性用としてオーストラリアの医薬品審査当局で承認された。なお、有効性認可はないがHPV31、45型などの他の腫瘍性HPV型に対しても予防効果も示唆されている。

日本では2007年9月にグラクソ・スミスクライン社がサーバリックスの承認を申請し、2009年10月に承認された。次いで2007年12月に萬有製薬(現メルク社日本法人MSD社)がガーダシルの承認を申請した。欧米ではHPV 16型と18型の割合が多い(約70 - 80%)のに対し、日本では割合がやや低い(約60 - 70%)ので欧米より有効性が低い可能性がある。

HPVワクチンはあくまでも予防ワクチンであり、治療ワクチンではない[6]。しかし、抗体陽性であるがウイルスDNA陰性(過去の感染が排除された証拠)の女性においては、ブースター効果によって抗体価が増幅され、その結果、同じ型のHPVのその後の感染は防がれる[7]。CIN治療ワクチンは現在治験中である [8]

26歳以上の女性に安全・有効であるかの検証は現在進行しているところであるが、臨床試験の中間報告ではHPV抗体価の10倍以上の上昇と、従来の接種対象年齢と変わらぬ安全性が示されている[7]。注意しなければならないのは、本ワクチンは子宮頸癌等の定期健診を不要にするものではないことである。ガーダシルなら6、11、16、18型、サーバリックスなら16、18型以外が原因になる癌(子宮頸癌では20 - 30%)には効果が認定されていない。ワクチン接種時点での既感染ウイルスにも無効である。WHOなど世界の多くの機関・団体で、ワクチン接種に加えて接種後の定期健診が重要だとしている。

日本では、2013年4月よりHPVワクチンは定期接種となった。しかしその後、ワクチン接種後に、持続的な疼痛等の有害事象が見られワクチンによる副反応の可能性があるとして、厚生労働省は、定期接種の中止は行わないものの積極的な接種勧奨を差し控えるよう、2013年6月14日、自治体向けに勧告した [9]。しかし、日本発の有害事象の報告を受けて実施された大規模臨床試験、およびそれ以前から実施されている大規模臨床試験によって、それらの有害事象の因果関係は否定されている。WHOは、日本が根拠のない予防接種の制限をしており、若い女性を癌リスクに晒しているとして名指しで非難をしており、国内の学会や専門家も因果関係は否定しているのだから、早急に接種の再開に向けて作業を開始すべきだとしている。

関連項目[編集]

  • 性行為感染症
  • 腫瘍ウイルス
  • デデ・コサワ - 当該ウイルスを原因とする皮膚病の患者
  • p16 - p16蛋白免疫染色はHPV検査に対する病理組織上での代理マーカーである。HPVに感染して宿主細胞の細胞増殖機構に異常をきたした不死化細胞はp16過剰発現を示す。

脚注[編集]

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外部リンク[編集]