ハミギタン山

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Mount Hamiguitan
最高地点
標高1,637 m (5,371 ft) [1]
プロミネンス1,497メートル (4,911 ft)
座標北緯6度44分24秒 東経126度10分54秒 / 北緯6.74000度 東経126.18167度 / 6.74000; 126.18167座標: 北緯6度44分24秒 東経126度10分54秒 / 北緯6.74000度 東経126.18167度 / 6.74000; 126.18167[2]
山岳名
IPA発音[[hamiɡuitan] ]
地形
Mount Hamiguitanの位置(フィリピン内)
Mount Hamiguitan
Mount Hamiguitan
フィリピンでの位置
Mount Hamiguitanの位置(ミンダナオ島内)
Mount Hamiguitan
Mount Hamiguitan
Mount Hamiguitan (ミンダナオ島)
所在地ミンダナオ島
フィリピン
地方ダバオ地方
東ダバオ州
所属山脈Hamiguitan Mountain Range
地質
山の種類成層火山
プロジェクト 山

ハミギタン山(Bundok Hamiguitan. Mount Hamiguitan [hɐmɪˈgitan])はフィリピン東ダバオ州にある標高1,637メートル (5,371 ft)[注釈 1]である。ハミグイタン山と表記するメディアもある[3]。その山と周辺地域はフィリピン国内では有数の多彩な野生生物の生息地になっており、そうした野生生物の中には、ネペンテス・ペルタタ英語版のような固有種を複数含むウツボカズラ属や、近絶滅種フィリピンワシが含まれる[4]

ハミギタン山域野生生物保護区(Mount Hamiguitan Range Wildlife Sanctuary)はその山稜一帯に設定された野生生物保護区で、2004年に6,834 ヘクタール(ha)で設定された後[注釈 2]、2007年には核心地域6,348.99 ha、緩衝地域783.77 haの計7,132.76 haへと拡大され[5]、2014年にはUNESCO世界遺産リストに登録された[6]

この山には約2,000 haの森林保護区が設定されている。その森林群は、超苦鉄質の土壌で100年育った矮林英語版が特徴であり、動物相植物相とも、希少種、固有種絶滅危惧種などを多く含む[7][6]

地理[編集]

ハミギタン山およびハミギタン山域野生生物保護区はミンダナオ島南東部にあり、行政上は東ダバオ州マティ英語版市、サン・イシドロ英語版町、ガヴァナー・ジェネロソ英語版町にまたがっている[8]

プジャダ半島に位置するその山稜は南北に伸びており、保護区内の最低地点は標高75 m、最高地点は1,637 m[9][10]、最高峰はマンサドク峰(The Mansadok Peak)ないしハミギタン峰(Mt Hamiguitan Peak)と呼ばれている[1]

年間の平均気温は27.8度で、最も低い1月でも20度を上回る[11]。月ごとの降水量の平均は126 mmで、年平均湿度は98%になる[11]

生物多様性[編集]

上述のように保護区内の標高は75 mから1,637 mで、標高の低い順に熱帯雨林雲霧林(蘚苔林)、矮林英語版[注釈 3]と植生が変化し[12]、低地には農地とフタバガキ科サラノキ属の森林、海抜420~920 mの場所にはフタバガキ科の森林、より高い山地には蘚類地衣類着生植物が生える山岳林、そして厚い蘚類が着生する蘚苔林と標高1,160~1,200 mの山頂矮林がある[13]。それらの範囲内に植物957種、動物423種の計1380種が確認されている[14]。うち、固有種は341種である[12][15]

植物[編集]

植物相は166427957が確認されており、うち163種がフィリピンの固有種である[16]。特にウツボカズラ属は8種生育しており、これはフィリピン国内で見られるものの6割近くに該当し、うち山頂付近に生えるネペンテス・ハミグイタネンシス英語版を含む3種は、ハミギタン山の固有種である[17]。フタバガキ科サラノキ属のShorea polysperma英語版Shorea astylosa英語版ラン科パフィオペディルム属Paphiopedilum adductum英語版も見られる[13]

957種の内訳は、多い順に被子植物723種、シダ植物164種、裸子植物27種、蘚類 17種、苔類地衣類各13種となっている[11][16]

サラノキ属には近絶滅種2種、危急種3種が含まれ、植物種では他に近絶滅種、絶滅危惧種、危急種があわせて30種生育している[16]

動物[編集]

ミンダナオカオグロサイチョウ英語版

鳥類は108種が確認されており、ことに近絶滅種フィリピンワシフィリピンオウムは世界遺産委員会の決議文でも特筆されている[18]ミンダナオヒムネバト英語版なども見られる[13]。また、フィリピンワシの営巣地が保護区内に適切に含まれているかどうかは、世界遺産登録に際しても論点となった[19]。ほかに、絶滅危惧種が1種(ミゾゴイ)、危急種が11種、近危急種が1種(ホシバシペリカン)含まれており、ハミギタン山域野生生物保護区は、バードライフ・インターナショナルによって重要野鳥生息地に選定されている[20]

哺乳類フィリピンヒゲイノシシ(危急種)、ハミギタンモリネズミ英語版ローレンスフルーツコウモリ英語版など26種で、うち15種はコウモリである[13][21]両生類爬虫類は特に固有種が多く、前者は75%(Philautus acutirostris英語版など)、後者は84%が該当する[10][18]

は142種確認されており、ここでしか見られない4種以外にも、さらに40種の固有種が生息している[21]。ここでしか見られない蝶のうち、矮林に生息するカザリシロチョウ属英語版の一種は日本人が発見したものであり[12]、そのデリアス・マグサダナオランダ語版は1995年に報告された[22]

世界遺産[編集]

世界遺産 ハミギタン山域
野生生物保護区
フィリピン
ネペンテス・ハミグイタネンシス(英語版) (ハミギタン固有種のウツボカズラ)
英名 Mount Hamiguitan Range Wildlife Sanctuary
仏名 Sanctuaire de faune et de flore sauvages de la chaîne du mont Hamiguitan
面積 16,923.07 ha ha (緩衝地域 9,729.77 ha)
登録区分 自然遺産
IUCN分類 Unassigned[23]
登録基準 (10)
登録年 2014年(第38回世界遺産委員会
公式サイト 世界遺産センター(英語)
使用方法表示

ハミギタン山域野生生物保護区は2001年に設定が決まり[23]、その年には重要野鳥生息地に選定された[24]。野生生物保護区は2004年に正式に設定され、2007年には範囲が拡大された[23]

世界遺産の暫定リストに記載されたのは、2008年9月10日のことだが、その時点ではアポ山と一緒に「アポ山とハミギタン山 : ミンダナオの固有生物保護区群」(Mount Apo and Mount Hamiguitan: Sanctuaries of Endemism in Mindanao)という名称になっていた[25]。しかし、翌年12月21日には「アポ山自然公園」(Mount Apo Natural Park)と「ハミギタン山域野生生物保護区」(Mount Hamiguitan Range Wildlife Sanctuary)という2件に分割して記載し直された[26]。このうち、ハミギタンの保護区が生物多様性の価値を根拠に正式推薦されたのは、2012年1月30日のことだった[27]

世界遺産委員会の諮問機関である国際自然保護連合(IUCN)は、同年10月の現地調査なども踏まえ、翌2013年4月に勧告を出した[28]。その内容は、生物多様性について顕著な普遍的価値を認めうる潜在性を指摘しつつも、範囲設定が完全性を満たしていないことなどを挙げ、「登録延期」を勧告した[29]。それに対し、その年の第37回世界遺産委員会では、一段階上の「情報照会」決議となった。

フィリピン当局は決議も踏まえて登録範囲の見直しなどを行い、改訂した推薦書を2014年1月13日に提出した[30]。それに対するIUCNの勧告は「登録」で[31]、その年の第38回世界遺産委員会で勧告通りに登録が認められた[32][注釈 4]フィリピンの世界遺産としては、1999年のプエルト・プリンセサ地底河川国立公園ビガン歴史都市の登録以来、15年ぶり6件目(自然遺産としては3件目)の新規登録である[注釈 5]

登録名[編集]

この世界遺産の正式登録名は、英語: Mount Hamiguitan Range Wildlife Sanctuary およびフランス語: Sanctuaire de faune et de flore sauvages de la chaîne du mont Hamiguitanである。その日本語訳は、以下のように揺れがある。

登録基準[編集]

この世界遺産は世界遺産登録基準のうち、以下の条件を満たし、登録された(以下の基準は世界遺産センター公表の登録基準からの翻訳、引用である)。

  • (10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。
    • 世界遺産委員会はこの基準の適用理由について、この保護区が「フィリピンの重要な生物地理学的地方における、完全で、ほぼ手付かずの高度に多様な山岳生態系を代表する」[38]等とした。

なお、フィリピンの世界自然遺産はトゥバタハ岩礁自然公園プエルト・プリンセサ地底河川国立公園に続き3件目だが、いずれの物件でも基準(10)は適用されている。

脚注[編集]

ハミギタンの「盆栽」林

注釈[編集]

  1. ^ フィリピン政府の世界遺産推薦書 の第三部、すなわちPhilippines 2014(Management plan for MHRWS, p.47) による。ただし、ウェブサイトの中には、標高を1,620 m 、プロミネンスを1,497 m としているものがある (Philippine Mountains - 29 Mountain Summits with Prominence of 1,500 meters or greater”. 2016年5月16日閲覧。 )。日本語文献でも古田 & 古田 2016は1,620 m を採用している。
  2. ^ 古田 & 古田 2016には、2004年の保護区指定に先立ち、2003年に国立公園になっている旨の記述があるが、UNEP-WCMC 2015の保護区の年表には、国立公園指定の記述はない。
  3. ^ 世界遺産決議文では「熱帯『盆栽』林」(tropical “bonsai” forest) と表現されている (World Heritage Centre 2014 p.163)。
  4. ^ なお、アポ山自然公園の方は、この年までは暫定リストには記載されていたものの (WHC-14/38.COM/8A)、翌2015年の暫定リストで取り下げられた (WHC-15/39.COM/8A)。
  5. ^ 拡大登録も考慮に入れると、第33回世界遺産委員会(2009年)でトゥバタハ岩礁海中公園がトゥバタハ岩礁自然公園へと拡大登録されて以来、5年ぶりとなる。

出典[編集]

  1. ^ a b Philippines 2014(Management plan for MHRWS, p.47)
  2. ^ Philippine Mountains - 29 Mountain Summits with Prominence of 1,500 meters or greater”. 2009年1月9日閲覧。
  3. ^ 白い浜に観光投資を」『まにら新聞』ウェブ(2014年7月14日)および「フィリピンワシが射殺されて見つかる」『デイリーアジアニュース』(2015年8月20日)
  4. ^ Nepenthes species in the Philippines”. The International Carnivorous Plant Society (2008年4月). 2009年1月9日閲覧。
  5. ^ UNEP-WCMC 2015(p.3)。ただし、この出典の面積は小数点以下を切り捨てているので、フィリピン当局の推薦書 (Philippines 2014) に基づき、より正確な数値に差し替えた。
  6. ^ a b Nine new sites inscribed on World Heritage List”. UNESCO. 2014年6月23日閲覧。
  7. ^ “Davao Oriental wants Hamiguitan declared as world heritage site”. GMA 7. (2008年5月5日). http://www.gmanews.tv/story/93472/Davao-Oriental-wants-Hamiguitan-declared-as-world-heritage-site 2009年1月9日閲覧。 
  8. ^ An Act Declaring Mount Hamiguitan Range And Its Vicinities As Vicinities As Protected Area Under The Category of Wildlife Sanctuary And Its Peripheral Areas As Buffer Zone and Appropriating Funds Therefor”. Congress of the Republic of The Philippines (2003年7月23日). 2009年1月9日閲覧。
  9. ^ UNEP-WCMC 2015, p. 1
  10. ^ a b c 世界遺産検定事務局 2017, p. 258
  11. ^ a b c UNEP-WCMC 2015, p. 4
  12. ^ a b c d 日本ユネスコ協会連盟 2014, p. 27
  13. ^ a b c d Mount Hamiguitan Range Wildlife Sanctuary” (英語). UNESCO World Heritage Centre. 2023年5月10日閲覧。
  14. ^ UNEP-WCMC 2015, pp. 2, 4–5
  15. ^ IUCN 2014, p. 18
  16. ^ a b c IUCN 2013, p. 56
  17. ^ IUCN 2013, pp. 56, 60
  18. ^ a b World Heritage Centre 2014, p. 163
  19. ^ IUCN 2013, pp. 58, 61
  20. ^ UNEP-WCMC 2015, pp. 1, 5 ; Mount Hamiguitan Range Wildlife SanctuaryBirdLife International
  21. ^ a b UNEP-WCMC 2015, p. 5
  22. ^ 山本 晃・竹井 慎「ミンダナオ島東南部産Delias属の1新種」(『蝶と蛾』第46巻3号、日本鱗翅学会、pp.141-144、1995年)
  23. ^ a b c UNEP-WCMC 2015, p. 3
  24. ^ Mount Hamiguitan Range Wildlife SanctuaryBirdLife International
  25. ^ Tentative Lists submitted by States Parties as of 15 April 2009, in conformity with the Operational Guidelines (WHC-09/33.COM/8A)(ユネスコ世界遺産センター、2017年5月16日閲覧)
  26. ^ Tentative Lists submitted by States Parties as of 15 April 2010, in conformity with the Operational Guidelines (WHC-10/34.COM/8A)(ユネスコ世界遺産センター、2017年5月16日閲覧)
  27. ^ List of nominations received by 1 February 2012 and for examination by the Committee at its 37th Session (2013) (WHC-12/36.COM/INF.8B3) (ユネスコ世界遺産センター、2017年5月16日閲覧)
  28. ^ IUCN 2013, p. 55
  29. ^ IUCN 2013, pp. 58–61
  30. ^ IUCN 2014, p. 15
  31. ^ IUCN 2014, pp. 17–19
  32. ^ Six new sites inscribed on World Heritage List”. UNESCO. 2014年6月23日閲覧。
  33. ^ 『なるほど知図帳・世界2015』昭文社、2015年、p.132
  34. ^ 世界遺産検定事務局 2016, p. 295
  35. ^ 「[世界遺産]フィリピン」『ブリタニカ国際大百科事典・小項目電子辞書版』2015年版
  36. ^ 古田 & 古田 2016, p. 79
  37. ^ 西和彦「第38回世界遺産委員会の概要」『月刊文化財』2014年11月号、p.43
  38. ^ World Heritage Centre 2014(p.163) より翻訳の上、引用。

参考文献[編集]