ドゥカティ・916

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ドゥカティ・916
Monoposto STRADA
基本情報
排気量クラス 大型自動二輪車
メーカー イタリアの旗ドゥカティ
エンジン 916 cm3 4ストローク
水冷L型ツイン デスモドロミック 4バルブ
内径×行程 / 圧縮比 94 mm × 66 mm / 11:1
最高出力 80 kw (109 hp)
乾燥重量 198 kg
車両重量 208 kg
      詳細情報
製造国 イタリア
製造期間 1994年-1998年
タイプ スーパースポーツ
設計統括
デザイン マッシモ・タンブリーニ
フレーム クロームモリブデン鋼
トレリスフレーム
全長×全幅×全高 2050 mm × 685 mm × 1090 mm
ホイールベース 1410 mm
最低地上高 150 mm
シート高 790 mm
燃料供給装置 ウェーバー(マニエッティ・マレリ)
フューエルインジェクション
始動方式 スターター・モーター式
潤滑方式 ウエットサンプ
駆動方式 チェーンドライブ
変速機 常時噛合式6段リターン
乾式クラッチ
サスペンション ショーワ
GD051 43mm 倒立フォーク
軽合金 片持ち式スイングアーム
キャスター / トレール 2段階変更式
24°30' 97mm(ノーマル)
23°30' 91mm(サーキット)° / __
ブレーキ 320mm フローティング・ダブルディスク
220mm シングルディスク
タイヤサイズ 120/70-ZR17
180/55-ZR17
190/50-ZR17
最高速度 260 km/h
乗車定員 1人
燃料タンク容量 17 L
燃費 19.2 km/L
カラーバリエーション
本体価格
備考
先代
後継 ドゥカティ・996
姉妹車 / OEM ドゥカティ・748
同クラスの車
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ドゥカティ・916(Ducati 916)は、1994年から1998年までドゥカティが製造したオートバイである。スーパースポーツタイプに分類される。

概要[編集]

851および888の後継車種として開発された。916ccの8バルブデスモドロミック水冷90度Vツインエンジンを、片持ちスイングアームと倒立式フォークを備えたトレリスフレームに搭載する。

ドゥカティのオートバイのパフォーマンスを当時最大のライバルであった日本車と肩を並べるレベルにまで向上させ、技術面でもリードする立場にまで押し上げた[1]。モーターサイクル・デザインの世界に革命を起こしたと評されることもあるコンパクトでエレガントかつスタイリッシュなデザインにより、世界中で熱狂的なファンを獲得した車種である[2]

販売面でも成功し[2]アメリカ合衆国では、初年度に販売予定であった全台数を、実際に入荷する前に完売してしまった。また、スーパーバイク世界選手権での活躍でも知られる[2]

1999年に後継車種となるドゥカティ・996英語版が発売され、生産を終了した。

2019年、916の誕生25周年を記念して、パニガーレV4の特別仕様車「25°アニバーサリオ916」が発売された[2]

2023年、30周年を記念したドゥカティ・パニガーレv4 sp2 30°アニバーサリオ916 が発表された。

メカニズムとデザイン[編集]

開発を手掛けたのは、ビモータの設立者であり多くのオートバイのデザインや設計を担当したマッシモ・タンブリーニと、オートバイデザイナーのセルジオ・ロッビアノイタリア語版を中心としたチームである。

エンジンの開発はカジバの研究センターで行われた。基本設計は888のものを踏襲しつつも、94mmのボア径はそのままにストロークを64mmから66mmに増やすことで排気量を888ccから916ccに拡大した。吸排気バルブの開閉はバルブスプリングではなくカムとロッカーアームの機構によって開閉するデスモドロミックを、888から引き続き採用している。エンジンの出力自体は当時の日本のライバルメーカーが採用していた直列4気筒エンジンやV型4気筒エンジンと比べ劣ったが、より全域でトルクフルなトルク特性を売りとした。

車体のサイズは888よりも小さく、フレームにはクロモリのトレリスフレーム(鋼管を三角形状に組み合わせたフレーム)が採用された。車体のボディワークはデザイン性と機能性を両立したものに仕上げられ、アグレッシブかつエレガントで印象的なものとなった[1]。スタイリッシュな片持ちスイングアームは、レース中にタイヤ交換を高速化できるように設計された。また、シートカウル下に配された2本のサイレンサー(センターアップマフラー)は空力性能を改善すると同時に、ボディサイドに排気管を張り出させない非常にクリーンなデザインを実現し、その後他メーカーも採用するに至った[1]。これはホンダ・NRで最初に導入されたものであり、ドゥカティが元祖というわけではないが、現在に至るまで916のデザインの象徴となっている。ジャーナリストのケヴィン・アッシュ英語版は、916について「過去20年間で最も影響力のあるマシンのひとつ」であると評しつつ、「そのデザインは実際にはホンダ・NR750から派生したものであり、センターアップマフラーとそれによって達成したスリムなスタイリング、角目2灯のヘッドライト、太いリアタイヤを支える片持ちスイングアームといった共通点を持っている」と指摘している[3]

評価[編集]

しかし、1994年の本当に大きなニュースは、画期的な916の登場であった。このマシンの排気量はコードナンバーと一致し、888のエンジンのストロークを64mmから66mmに増やすことで達成された。これは、20世紀後半の最も偉大なオートバイデザイナーの一人と称されるマッシモ・タンブリーニの作品であり、その理由もまた然りである。…世界中の多くの愛好家にとって、916は単に最新であるだけではなく、これまでで最高のスーパーバイクである。性能、ハンドリング、ブレーキ、そしてスタイリングとカリスマ性において、新たな基準を打ち立てたのである。…916は、スズキ・GSX-R750だけが10年前に成し遂げた方法で、スポーツバイクの顔を変えたのである。
ミック・ウォーカー英語版、Motorcycle: Evolution, Design, Passion[4]
1994年、ドゥカティが916で世界を驚かせたことを、誰が忘れることができようか?これは、高性能スポーツオートバイというカテゴリーにおいて、ドゥカティが起こしたもう一つの革命であった。916では、技術とスタイリング、性能と端正な美しさが最大レベルに達した。…世界で最も権威あるバイク雑誌からの「Motorcycle of the Year」などの授与をはじめ、多くの称賛を受けた。
Mirco De Cet、The Complete Encyclopedia of Classic Motorcycles[5]

916は1994年にデビューすると、新鮮なデザインと優れた技術機能で賞賛された。導入当時、916は「すべての雑誌のバイク・オブ・ザ・イヤー賞 1994」(every magazine's Bike of the Year award for 1994)を受賞した。

916 セナ[編集]

1994年12月のボローニャモーターショーで発表された916 セナは、熱心なドゥカティ愛好家であったF1ドライバーのアイルトン・セナを記念した特別版であり、セナは同年5月、サンマリノグランプリでの事故で亡くなる直前に発売を承認した。この特別仕様車の発売には、当時、ドゥカティのオーナーであったクラウディオ・カスティリオーニがセナと友人であったことが関係していた。1995年、1998年、2001年の間に、ドゥカティは3つの「916 セナ」をリリースし、純収益はいずれもアイルトン・セナ財団英語版に寄付された。

レース活動[編集]

ドゥカティはスーパーバイク世界選手権に916を投入し、1994年から1996年、及び1998年に、カール・フォガティ(1994年・1995年・1998年)とトロイ・コーサー(1996年)で選手権を制覇し、いずれの年においてもマニュファクチャラーズタイトルを獲得した。

ライダー 優勝回数
1994 カール・フォガティ 11
1995 カール・フォガティ 13
1996 トロイ・コーサー 7
1998 カール・フォガティ 3

また、1999年3月1日と2日、デイトナ・インターナショナル・スピードウェイで行われたAHRMA クラシック・デイズで、デビン・バトリー英語版が1998年モデルの916に乗って2勝を挙げた。まず、8周のフォーミュラ・ワン・クラスで、次にバトル・オブ・ザ・ツインズ・オープン・クラスで優勝した。

後継車種[編集]

916の後継車種として、1999年にドゥカティ・996英語版が、2002年ドゥカティ・998英語版がドゥカティから発売された。エクステリアのデザインは916を踏襲しつつも、エンジンを改良し、よりハイパワーとなった。

一方で、916を設計したマッシモ・タンブリーニも、916の後継車種としてMVアグスタ・F4シリーズを開発し続けた。MVアグスタ・F4は、特にテール部分に916との類似点が見られる。これらのタンブリーニのデザインは、いずれもソロモン・R・グッゲンハイム美術館で1998年に開催された「オートバイの芸術展」で紹介された。その後も916のデザインは、美術館や雑誌、デザインの専門家などによって、モーターサイクル史における重要なデザインのトップリストに常連入りしている。アメリカのモーターサイクリスト英語版誌は、1990年代を振り返って「1994年:ドゥカティ・916がデビュー。その年、他に何があったのか?」と述べている[6]

脚注[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]