トウモロコシ属
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Zea mays
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本文参照 |
トウモロコシ属(Zea)は、イネ目イネ科に分類される植物の一属。5種4亜種を含む。この属に分類される最もよく知られた分類群はトウモロコシであり、この属唯一の栽培化された植物である。それ以外の野生種および野生亜種は「テオシント」[2](英語: teosinte、テオシンテ[2]、ブタモロコシ[3])と総称され[4]、メソアメリカに分布している。
テオシントとトウモロコシの形態に大きな差異があったことからトウモロコシの起源については諸説あり、数十年に渡る論争となっていたが、現在ではテオシントに含まれる亜種 Zea mays subsp. parviglumis が栽培化されたものであると理解されている。
名称[編集]
学名の Zea は別の穀物(おそらくスペルトコムギ)を指すギリシア語の ζειά に由来する[5]。テオシント(teosinte)の名前は先住民族のナワトル語で聖なる乾いた穂を意味する teocintli に由来する[6]。
形態・特徴[編集]
多様な種および亜種を含む属であり、メキシコから中央アメリカにかけてのメソアメリカの多くの地域に分布する[7][8]。
多年生、一年生の両方の植物を含み、Z. diploperennis と Z. perennis は多年生であり、その他の種は一年生である[7]。テオシントは短日植物であるが、トウモロコシは中性植物である[6]。Z. perennis のみ4倍体(2n=40)であり、それ以外の種は2倍体(2n=20)である[7]。 全てのテオシントはトウモロコシと交雑可能であるが、テオシントが繁茂している条件でも交雑が起こることは一般的に少ない[7]。
テオシントは一般的に主茎の殆どの節に伸長する側枝を持つ。主茎と側枝の節間はそれぞれ15センチメートル程度かそれ以上に伸長し、1つの節につき1枚の葉を持つ。側枝の葉は突出する葉身と茎を包む葉鞘に分かれ、葉序は互生である。側枝の節数は大凡その側枝が出ている主茎の節以上の節の数と同じである。つまり主茎の上から3節目より伸びている側枝の節数は大抵3である。主茎と一次側枝の先端に雄穂ができ、一次側枝の葉の葉腋にできる二次側枝に1枚の包葉に包まれた雌穂をつける。一方で、トウモロコシは主茎の2つか3つの節の側枝しか伸長せず、二次側枝は一般的に作らない。側枝につく葉は殆どが葉鞘で葉身は小さく、互生というよりは対生に生える。側枝はテオシントの側枝よりも多くの節を持ち、例えばW22という系統では上から5つ目の節の側枝は12節持つ。また、側枝は伸長せず、先端に複数の包葉に包まれた雌穂を作る[9]。
雌穂の形態はテオシントとトウモロコシで最も劇的に異なる。テオシントの雌穂には二列生で5から10の果実がつく。果実を覆う殻斗は陥入した穂軸の節間部からなる。外包穎は殻斗の開放部に封をするように存在する。穂軸の節間部も外包穎も高度に硬化している。果実にはそれぞれ離層があり成熟すると穂から外れる。一方、トウモロコシの殻斗は1つの雌穂につき、対生に大抵100以上できる。殻斗はテオシントのものに比べて浅く、しばしば崩壊しており、果実を包んではいない。殻斗は硬化しているが、外包穎は比較的柔らかい。また、離層がなく、成熟しても果実は穂に付いたままである[9]。
種[編集]
以下の5種が認められている[2]。
- Zea diploperennis Iltis, Doebley and Guzman
- Zea luxurians (Durieu & Asch.) R.M.Bird
- Zea mays L.
- メキシコ中央および南西部からグアテマラ西部[11]。
- Zea nicaraguensis H.H.Iltis & B.F.Benz
- ニカラグア南西部[12]。
- Zea perennis (Hitchc.) Reeves & Mangelsd.
亜種[編集]
Zea maysはさらに4つの亜種に分けられる[2]。
- Z. m. subsp. huehuetenangensis (Iltis & Doebley) Doebley
- グアテマラ西部。Z. m. subsp. parviglumis に似るが生育が遅い[2]。
- Z. m. subsp. mexicana (Schrad.) Iltis,
- Z. m. subsp. parviglumis Iltis & Doebley
- Z. m. subsp. mays
系統樹[編集]
トウモロコシおよびテオシントのゲノムDNA上にある約1000箇所の一塩基多型を基に、次のような分子系統樹が得られている[16]。
| トウモロコシ属 |
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トウモロコシの起源とテオシント[編集]
トウモロコシの起源については遺伝学的に最も近いイネ科野生植物テオシントが祖先種であるという説が唱えられていたが、テオシントとトウモロコシの形態が大きく異なっていたことからいくつかの異論があった。その中でも有力視されていたのは、ManglesdorfとReevesによって1938年に提唱された「三部説」である。この説では、トウモロコシの祖先は既に絶滅した「野生型トウモロコシ」であり、テオシントはトウモロコシと近縁のトリプサクム属との交雑に由来するものであるとし、トウモロコシの大きな変異の多くはトウモロコシとトリプサクム属の交雑によるものであるとした。この三部説は考古学者も巻き込んで人気のある説となり、権威ある学術雑誌に掲載されたが、トウモロコシとトリプサクム属は染色体の数が異なるため自然界での交雑が起こるとは考えにくく、遺伝学者は認めていなかった[2]。
その後数十年の間に進化遺伝学的な研究が進み、染色体の形態や反復配列、アイソザイム、葉緑体DNAの解析が行われ、いずれの結果もトリプサクム属がトウモロコシの起源に関与しているという説ではなく、テオシントが祖先種であるという説を支持していた。トウモロコシとテオシントとの間には、分げつ性や、雌穂の条性、穎果を包む硬い殻の有無などの明確な形態的な差異があることが、テオシント起源説への反論の大きな論拠であったが、これらの違いは僅かに5つ程度の遺伝子の差異によって説明できることが示されている[2]。
2001年にはアメリカの遺伝学やゲノムサイエンス、進化生物学の権威である12人が、トウモロコシの祖先種はテオシントであり、他の説には何の根拠もないという趣旨の論文を考古学の雑誌に発表し、考古学の分野からもこの見解が支持されている[2]。
また、トウモロコシの祖先野生種は Z. m. subsp. parviglumis であり、約9200年前にメキシコのバルサス川流域に生息していた集団が栽培化されて分岐したことが明らかとなっている[2][6]が、品種によっては Z. m. subsp. mexicana のゲノムが最大20%移入していることも報告されている[17]。
人間との関わり[編集]
トウモロコシは多くの国で栽培されている穀物であり、アメリカ南西部の砂漠地帯からアンデス山脈の高原地帯まで多様な気候の中で栽培可能である[18]。食用だけでなく、家畜の飼料やバイオエタノールの原料としても利用される[18]。
いくつかのテオシントは放牧や農業の拡大によって絶滅のおそれがある程度まで生息数が減少しており、保全が行われている[7]。メキシコのシエラ・デ・マナントラン生物圏保護区では Z. diploperennis が、ニカラグアの Apacunca Genetic Reserve では Z. nicaraguensis がそれぞれ保護されている[10]。またメキシコ国立農牧林研究所や国際トウモロコシ・コムギ改良センターなどの種子銀行ではテオシントの系統の収集と維持が行われている[10]。その一方でテオシントは、メキシコのトルーカバレーやハリスコ東部などではトウモロコシ農場の雑草として扱われているほか、スペインやフランスでは外来種として生息域を広げていることが報告されている[10]。
出典[編集]
- ^ “Zea L., Sp. Pl.: 971 (1753).” (英語). World Checklist of Selected Plant Families. Kew. 2018年7月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年7月5日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 福永, 健二「植物のドメスティケーション : トウモロコシの起源 ―テオシント説と栽培化に関わる遺伝子―」『国立民族学博物館調査報告』第84巻、2009年3月31日、 137-151頁、 ISSN 13406787。
- ^ “Nature ハイライト:トウモロコシの粒がむき出しになるまで” (日本語). ネイチャー. シュプリンガー・ネイチャー (2005年8月4日). 2018年7月6日閲覧。
- ^ “What is maize related to?” (英語). The Teacher-Friendly Guide to the Evolution of Maize.. Paleontological Research Institution. 2018年7月14日閲覧。
- ^ Gledhill, David (2008). "The Names of Plants". Cambridge University Press. 9780521866453 (hardback), 9780521685535 (paperback). pp 411
- ^ a b c Hake, Sarah; Ross-Ibarra, Jeffrey. “Genetic, evolutionary and plant breeding insights from the domestication of maize”. eLife 4. doi:10.7554/eLife.05861. ISSN 2050-084X. PMC: PMC4373674. PMID 25807085.
- ^ a b c d e Trtikova, Miluse; Lohn, Andre; Binimelis, Rosa; Chapela, Ignacio; Oehen, Bernadette; Zemp, Niklaus; Widmer, Alex; Hilbeck, Angelika (2017-05-08). “Teosinte in Europe – Searching for the Origin of a Novel Weed” (英語). Scientific Reports 7 (1). doi:10.1038/s41598-017-01478-w. ISSN 2045-2322.
- ^ Fukunaga, Kenji; Hill, Jason; Vigouroux, Yves; Matsuoka, Yoshihiro; G, Jesus Sanchez; Liu, Kejun; Buckler, Edward S.; Doebley, John (2005-04-01). “Genetic Diversity and Population Structure of Teosinte” (英語). Genetics 169 (4): 2241–2254. doi:10.1534/genetics.104.031393. ISSN 0016-6731. PMC: PMC1449573. PMID 15687282.
- ^ a b John Doebley (2003年). “The Morphology of Maize and Teosinte”. Doebley Lab. John Doebley. 2018年7月6日閲覧。
- ^ a b c d González, José de Jesús Sánchez; Corral, José Ariel Ruiz; García, Guillermo Medina; Ojeda, Gabriela Ramírez; Larios, Lino De la Cruz; Holland, James Brendan; Medrano, Roberto Miranda; Romero, Giovanni Emmanuel García (2018-02-16). “Ecogeography of teosinte” (英語). PLOS ONE 13 (2): e0192676. doi:10.1371/journal.pone.0192676. ISSN 1932-6203. PMC: PMC5815594. PMID 29451888.
- ^ “Zea mays L., Sp. Pl.: 971 (1753).” (英語). World Checklist of Selected Plant Families. Kew. 2018年7月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年7月7日閲覧。
- ^ “Zea nicaraguensis Iltis & B.F.Benz, Novon 10: 382 (2000).” (英語). World Checklist of Selected Plant Families. Kew. 2018年7月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年7月6日閲覧。
- ^ “Zea mexicana (Schrad.) Kuntze in T.E.von Post & C.E.O.Kuntze, Lex. Gen. Phan.: 599 (1904).” (英語). World Checklist of Selected Plant Families. Kew. 2018年7月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年7月6日閲覧。
- ^ “Zea mays subsp. parviglumis Iltis & Doebley, Amer. J. Bot. 67: 1001 (1980).” (英語). World Checklist of Selected Plant Families. Kew. 2018年7月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年7月6日閲覧。
- ^ “ポップコーン用に使用されるとうもろこしの品種などについておしえてください。:農林水産省” (日本語). 農林水産省. 農林水産省. 2018年7月14日閲覧。
- ^ Wusirika, Ramakrishna; Bohn, Martin; Lai, Jinsheng et al., eds (2014-08-05). “Basic Information”. Genetics, Genomics and Breeding of Maize. CRC Press. p. 9. ISBN 978-1482228120.
- ^ Hufford, Matthew B. (2013年5月9日). “The Genomic Signature of Crop-Wild Introgression in Maize” (英語). PLOS Genetics. pp. e1003477. doi:10.1371/journal.pgen.1003477. 2018年7月6日閲覧。
- ^ a b “トウモロコシ” (日本語). U.S. GRAINS COUNCIL. アメリカ穀物協会. 2018年7月11日閲覧。