セメント質

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セメント質(セメントしつ、Cementum)または白亜質とは、歯根象牙質外表を覆う非血管性の結合組織である硬組織で[1]歯根膜線維を歯根に付着させる役割を持つ[2]

歯根膜を介し、顎骨に固定されることによって咬合圧に対応している。また、組織学的にはエナメル質、象牙質、歯髄、セメント質よりなり、歯を支持する組織、つまり歯周組織として歯肉歯根膜、セメント質、歯槽骨がある[3]

構造[編集]

セメント質の厚さは根尖部や歯根分岐部では厚く、歯頸部では約30-60μm、根尖部では約150-200μmであるが[2]、加齢により肥厚する[3]。高齢者では、歯槽骨と癒着することもある。

無細胞セメント質と有細胞セメント質に分かれる[3]

  • 無細胞セメント質:歯根象牙質前面をじかに覆っている。
  • 有細胞セメント質:歯根の根尖側1/3に存在し、無細胞セメント質を被覆する。

Cateは、形成の時期、細胞の有無、コラーゲン繊維の由来により、無細胞固有繊維原生セメント質、無細胞非固有繊維原生セメント質、有細胞固有繊維第二セメント質、有細胞混合繊維第二セメント質、無細胞無繊維セメント質、中間セメント質、混合性層状セメント質に分類している[4]

境界部[編集]

歯頸部にあるエナメル質とセメント質の境界をセメント・エナメル境英語版(エナメル-セメント境とも、英語:Cementoenamel junction、略称:CEJ)とよび、これは解剖学的歯頸線と一致する。歯頸線は唇(頬)側および舌(口蓋)側では歯根側に凸弯し、近心側および遠心側では歯冠側に凸弯する[5]。拡大して見た場合、なめらかな曲線ではなく、鋸歯のような複雑な形を示す[6]。境界部でエナメル質とセメント質は約30%が移行的に連続するが、約60%はセメント質がエナメル質を覆い、約10%が連続せずに象牙質が露出している[7][8]。エナメル質を覆っている部分のセメント質はセメント舌と呼ぶ[8]。また、大臼歯では、歯頸部から歯根部にかけて球状のエナメル質塊が存在することがあり、これをエナメル滴と呼ぶ[9]

セメント質と象牙質の境界は、セメント象牙境(dentinocemental junction、略称:DCJ)と呼ぶ[10]

加齢変化[編集]

加齢とともに歯根膜側に添加されていき、セメント質が年輪のように厚くなっていくことから、哺乳類などの年齢を割り出す齢査定法のセメント質年輪法として利用される[11][12]

構成成分[編集]

約60%が無機質、25%が有機物、15%が水からできている[13]

無機質はヒドロキシアパタイトを主成分とする[13]。 有機質の大部分はコラーゲンであり[14]、I型コラーゲンを中心とする。この他、プロテオグリカン糖タンパク質が含まれている。

セメント質の異常[編集]

セメント質形成不全セメント芽細胞腫骨形成線維腫家族性巨大型セメント質腫などがある。

脚注[編集]

  1. ^ Cate p.317
  2. ^ a b 須田 2007, p. 47.
  3. ^ a b c 田中, p.24
  4. ^ Cate p.321-322
  5. ^ 藤田恒太郎ら (2000) p.18
  6. ^ 藤田恒太郎ら (2000) p.19
  7. ^ Oral Studio歯科辞書 セメント - エナメル境
  8. ^ a b 栁澤 (1996)p.19
  9. ^ 栁澤 (1996)p.11
  10. ^ 福島, 千史; 山本, 恒之; 川浪, 雅光; 脇田, 稔 (2006). セメント象牙境の構造と機能に関する免疫組織化学的研究. doi:10.14833/amjsp.2006f.0.36.0. https://doi.org/10.14833/amjsp.2006f.0.36.0. 
  11. ^ 紀之, 大泰司 (1977). “齢査定法に関する総説”. 哺乳類科学 17 (1): 1_1–7. doi:10.11238/mammalianscience.17.1_1. https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/17/1/17_1_1_1/_article/-char/ja/. 
  12. ^ 大泰司, 紀之「第33回シンポジウム記録「哺乳類の歯について」,歯の年輪による哺乳類の年齢査定」1990年、doi:10.11238/mammalianscience.30.19 
  13. ^ a b 中塚, p.72
  14. ^ Cate p.8
  15. ^ 哲成, 西川 (1998). “う蝕病巣の進展と病理”. 歯科医学 61 (2): 135–139. doi:10.18905/shikaigaku.61.2_135. https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikaigaku/61/2/61_KJ00001278794/_article/-char/ja/. 
  16. ^ Okano, Hiroyuki (2000). “Study to the Case Group that Cemental Tear was Doubted Clinically”. The Journal of Clinical Dentistry 21 (2): 187–191. doi:10.14399/jacd1999.21.187. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jacd1999/21/2/21_2_187/_article. 
  17. ^ 森, 厚二 (1992年4月30日). “Hypercementosisの1症例”. 松本歯学. pp. 60–63. 2023年12月15日閲覧。

参考文献[編集]

  • A.R. Ten Cate『tenCate 口腔組織学』川崎堅三ほか訳(第5版)、医歯薬出版、2001年3月20日(原著1998年)。ISBN 4-263-45515-0 
  • 田中昭夫 著「第1章 歯周疾患を正しく理解するための基礎知識 2.歯周組織の構造・組織学」、和泉雄一沼部幸博山本松男木下淳博 編『ザ・ペリオドントロジー』(第1版)永末書店京都市上京区、2009年10月14日、24-29頁。ISBN 978-4-8160-1208-2NCID BA9190312X 
  • 中塚敏弘『口腔解剖学サイドリーダー -歯科のための頭頚部解剖学・口腔解剖学要説-』(第1版第4刷)学建書院東京都文京区ISBN 4-7624-0106-4 
  • 原著藤田恒太郎改訂桐野忠大山下靖雄『歯の解剖学』(第22版第6刷)金原出版、2000年1月30日。ISBN 4-307-45007-8 
  • 栁澤孝彰 著「第1章 保存修復学総論 B 歯の構造と機能 2 歯の構造」、石川, 達也藤井, 弁次勝山, 茂 編『標準保存修復学』(第3版第1刷)医学書院、1996年7月15日、11-20頁。ISBN 4-260-13724-7 
  • 【Oral Studio歯科辞書】”. Oral Studio. デンタルアロー. 2011年1月22日閲覧。
  • 須田立雄、小澤英浩、高橋榮明、田中栄、中村浩彰、森諭史『新骨の科学』医歯薬出版、2007年。ISBN 978-4-263-45609-5 

関連項目[編集]