エビネ

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エビネ
Calanthe discolor2.jpg
エビネ (Calanthe discolor)
保全状況評価
NEAR THREATENED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 NT.svg
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 単子葉植物綱 Liliopsida
: ラン目 Orchidales
: ラン科 Orchidaceae
: エビネ属 Calanthe
: エビネ C. discolor
学名
Calanthe discolor
w:Lindl. (1838)
和名
エビネ(海老根)

エビネ(海老根、学名Calanthe discolor)は、ラン科エビネ属多年草。地上性のランである。ジエビネヤブエビネと呼ばれることもある。

分布[編集]

日本、朝鮮半島南部、中国江蘇省貴州省に分布する。日本では北海道西南部から沖縄島までに分布。

形態[編集]

球茎は広卵状-球状で長さ、径ともに約2cm。古い球茎は時に10年以上も残り、地表近くに連なる。和名はこの形をエビに見立てたことに由来する[1]。直径2-3mmを多数生じる。秋には翌年の新芽を生じ、冬までに少し生長してから越冬する。は2-3枚つき、薄く、形は長楕円形から倒卵状披針形で先は尖り、縦に5本のがある。基部は細い葉柄になる。冬を越すと横伏するが、数年間は枯れずに残る。

花は春咲きで、新芽の展葉とともに高さ30-40cmの花茎を伸長させる。2、3個のがある。花序の半ばより上に多数のをつける。はほぼ横向きに平開する。がく片は狭卵形、側花弁は倒卵状披針形、共に先はとがる。唇弁は三つに裂け、左右の裂片が広い。中央の裂片には縦に3本の隆起線があり、先は板状に立ち上がる。唇弁の基部は深くくぼんで後ろに突出し、長さ0.8-1.0cmの距となる。花期は4-5月[1]

変異・変種[編集]

花の色は変異が大きい。がく片と側花弁は赤褐色、褐色、黄褐色、緑褐色、緑など。唇弁は白または薄紫紅色。花の色に基づいてアカエビネ、ダイダイエビネなどの品種を認めることがある。
固有の変種とされるものにアマミエビネ(var. amamiana (Fuk.) Masam.、奄美大島および徳之島に分布)、カツウダケエビネ(var. kanashiroi Fuk.、沖縄県に分布)、ハノジエビネ(var. divaricantipentala徳之島に分布)がある。

利用など[編集]

霊仙山鈴鹿山脈)のエビネ

鉢栽培・庭園植栽用に販売される。一般には栽培が困難な植物とされていないが、春咲き系のエビネ属は栽培中にさまざまな植物ウイルスが容易に感染し、あるいは栽培下への移行によって植物内ウイルス濃度が上昇する[2]。ウイルス量の増加した個体は、葉の壊疽や落蕾、花の変形などの諸症状が出現し観賞価値が著しく低下する。 ジエビネが栽培下で長期にわたってウイルス感染を発症せず栽培できている事例は稀で、(特別な品種を除いて)同一個体が栄養繁殖により増殖普及した例はほとんどない。

植物ウイルス感染は事実上治療法が無く[3]、他の植物への感染源にもなる。そのため感染症状が出現した個体に市場価値は無く、教科書的対応としては焼却処分が推奨されている。1970年代から80年代にかけてエビネ類の栽培が爆発的に人気が高まり投機対象にもなった、いわゆる「エビネブーム」においても、ウイルス感染症の多発により栽培撤退者が続出したことでブームの終焉を迎えている。

幸いなことにエビネは無菌播種による人工増殖技術が確立されており、ウイルス感染個体でも種子を播くと病徴の無い実生を得ることができる[4]。 専門業者の多くは、感染個体を処分し、実生個体と入れ替えていくことで栽培・生産を継続している。 しかしながら原種エビネは(オオキリシマエビネを除いて)市場価値がそれほど高くないため、営利的な種苗生産はほとんど行われていない。そのため現在も、販売されている原種の一部[5]は野生採取により供給されている。

野生種保護において盗掘は大きな問題ではあるが、近年は選別交配種が営利生産され一般花卉と大差の無い価格で容易に入手できるため、相対的に原種エビネの園芸需要は減少している。採集によってほぼ絶滅状態であった自生地で個体数の回復が確認されたという報告[6]も散見されるようになっている。

種の保全状況評価[編集]

霊仙山のエビネの群落

準絶滅危惧(NT)環境省レッドリスト

Status jenv NT.png

環境省レッドリスト準絶滅危惧(NT)に指定されている[7]。総個体数は約20,000、平均減少率は約60%、減少の主要因が園芸用の採集、森林の伐採、土地造成であると推定されている[7]

日本の大多数の都道府県で、レッドリストの絶滅寸前(CR)・絶滅危惧種(EN)・危急種(VU)・準絶滅危惧の種に指定されている[8]

脚注[編集]

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  1. ^ a b 林弥栄 『日本の野草』 山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2009年10月、580頁。ISBN 9784635090421
  2. ^ [1]日本産希少ラン科植物エビネ及びキエビネにおけるウイルス発生状況 川上清久・藤晋一・三吉一光 Proceedings of NIOC 2008, Nagoya, Japan
  3. ^ メリクロンによってウイルスを除くウイルスフリー化技術は存在するが、エビネ属は生長点培養の難度が高く、実用的技術にはなっていない。
  4. ^ この経験則からラン科植物では親株から種子へのウイルス伝播は無いと言われているが、これについては異論もある。厳密にウイルス検定試験を実施している例がほとんどなく断定はできない。
  5. ^ 市販されているエビネ類のうち、どの程度が野生採集個体であるかについては統計資料が存在せず明確ではない。エビネ類全体として見れば野生採集個体に代わって観賞価値の高い人工交配個体が販売の主流になっているが、原種エビネの場合は「古い葉がすべて切除され、根に植え込み用土以外の泥がついている」といった商品が大部分を占めており、エビネ専門業者の育成した苗とは明確な商品差が認められる。
  6. ^ [2]北九州市植生調査資料
  7. ^ a b 植物絶滅危惧種情報検索(エビネ)”. 生物多様性情報システム. 2011年9月15日閲覧。
  8. ^ 日本のレッドデータ検索システム(エビネ)”. エンビジョン環境保全事務局. 2011年9月15日閲覧。

外部リンク[編集]