アラジン (ニールセン)

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『アラジン』より、「黒人の踊り」のピアノスコア

アラジン』(Aladdin, アラディン)作品34は、カール・ニールセンが作曲し1919年に初演された劇付随音楽、および7曲の抜粋から成る管弦楽組曲。アダム・エーレンシュレーアー (Adam Gottlob Oehlenschlägerの同名戯曲の上演のためコペンハーゲン王立劇場の委嘱によって書かれた。

背景[編集]

エーレンシュレーアーの戯曲アラジン[編集]

コペンハーゲン王立劇場にて、アラジンを演じるヨハネス・ポールセン

千夜一夜物語』の『アラジンと魔法のランプ』に基づく、対話体の韻文によるエーレンシュレーアーの戯曲『アラジン』は、1805年7月に『Poetiske Skrifter』の第2巻に収録される形で出版された。 この戯曲は元々、劇場で実際に上演されることを念頭に置いて書かれた訳では無かったが、発表後はさまざまな形態で上演された[1]

例えば1839年4月17日には、西ユトランド地方で発生した洪水の被災者支援のためのチャリティーイベントとして、フリードリヒ・クーラウピーダ・フンクデンマーク語版ニルス・ゲーゼの音楽、及びオーギュスト・ブルノンヴィルの演出によりアラジンの上演が行われている[1]。 また、1888年にはベンヤミーン・フェザスンデンマーク語版がエーレンシュレーアーの戯曲に基づいて書いた台本による4幕のオペラが初演された。作曲はクレスチャン・ホアネマン英語版が担当し、その序曲は後に単独で演奏されるようになり、ニールセンも指揮している[1]

ニールセンが音楽を担当したのは1919年コペンハーゲン王立劇場における上演であった。演出家のヨハネス・ポールセン英語版は、戯曲の従来の上演では慣習的にカットされてきた部分を敢えて用い、それらのカットによって目立たなくなっていた主人公と悪役の対立の要素を強調させた。劇は2夜構成の大がかりなものとなり、舞台装置はスヴェン・ゲーゼドイツ語版トーロルフ・ピーダスンデンマーク語版、衣装デザインは著名な挿絵画家であるカイ・ニールセンが手掛けた[1]

作曲の経緯[編集]

最初にニールセンが王立劇場からアラジンの作曲を依頼されたのは1917年初頭であった。当初ニールセンはこの仕事を受けることを渋った。かつて1908年から1914年まで勤めた王立劇場の楽長(指揮者)として、また同劇場で初演された『領主オールフは馬を駆り』(1906年)の付随音楽の作曲者として、ニールセンは劇場との面倒な関係に嫌気が差していたからである[1][2]

劇場側は説得する手紙を送り続けたが、ニールセンは乗り気で無かった。しかし途中、1917年3月26日の返信では、ニールセンは一つの舞曲の断片を作曲しており、その結果に満足している旨が書かれていた。 結局、作曲者が折れて仕事を引き受ける事となり、しばらく作曲は遅々としていたが、1918年の夏にはユトランド半島の北東端に位置するスケーイン英語版の別荘にて本格的に筆が進められた[1]

1918年秋、ニールセンはヨーテボリ交響楽団の指揮者のポストにあったヴィルヘルム・ステーンハンマルが休暇を取るに当たって代役を引き受けたが、そのままスウェーデンヨーテボリにてアラジンの作曲を続けた。この頃に妻に宛てた手紙の中で作曲者は、納期までの残り時間の不足を訴えている。また9月2日にはステーンハンマルに、思っていたよりも大きな仕事で大変だということや、しばしば装飾的な内容に過ぎない楽句を書き連ねなくてはいけないがこれは自分の得意とする事では無いということを書き送っている。9月11日にステーンハンマルに宛てた手紙では、何群かに分割した小オーケストラで実験した箇所の効果に感銘を受けたことや、民族音楽の安直なまねごとに終わらないように異国風の世界を手探りで進むのには時間を要したが最善を尽くしたことを記している[1]

上演があと一か月に迫った翌1919年1月15日の時点でも、ニールセンは未だに作曲を終えていなかった[1]

舞台の初演[編集]

舞台の初演にあたってニールセンは苦い思いをする事となった。まず、演出家のポールセンがステージを拡張するためにオーケストラピットを埋めてしまったため、オーケストラは舞台セットの大きな階段の下に押し込まれる形となってしまい、曲の音量や音響は台無しにされてしまった。加えて、ポールセンは作者に無断で曲を大幅にカットしたり並び替えたりし、またオーケストラ編成も縮小してしまった。音楽の粗雑な扱いに憤ったニールセンは、芸術的な面での責任を負う事が出来ないとして、公演のポスターやプログラムから自分の名前を消すことを要求した[1][2][3]

劇自体の新聞評は概ね好評であったが、元々のエーレンシュレーアーの戯曲から内容が逸脱している事に懸念を示す批評もあった。230-240クローネという当時としては破格の予算が投じられ、豪華絢爛な舞台セットが組まれたのにも関わらず、結果的には1919年の2月から3月に行われた劇場での初演はそれほど成功せず、15回程度の上演で打ち切られてしまった[1]

その後、1929年11月から12月にかけて、この劇はハンブルクでのドイチュ・シャウシュピールハウス英語版にて12回再演されている。なお、この時もニールセンの音楽は大幅にカットされていたことが当時の批評から判明している[1]

音楽[編集]

イ調を基調とした劇付随音楽は全5幕31曲、80分以上にも及び、作曲者のスタイルを維持しつつも、やや異国風の音楽となっている。独創的で豊かな音楽語法には、後の交響曲第5番に通じるものが見られる。例えば、狭い音域や音程で短いフレーズを反復する原始的とも呼べる手法が用いられている。また、特定の動機や音響効果を脚本のモチーフと関連付けて何度も登場させることによって、音楽全体としてのまとまりを維持し、主人公と悪役の対比などを表現した。その他、「イスパハンの市場」では4群の独立したオーケストラが異なる調性とテンポで演奏するなど、実験的な試みもなされている[1][2]

作曲者による演奏記録[編集]

ニールセンはしばしば「アラジン」からの抜粋を指揮し、デンマーク国内外で好評を得る事ができた。作曲者による主な演奏記録としては、1919年2月6日にコペンハーゲンにて劇に先立って5曲の抜粋を先行初演したほか、1923年6月22日ロンドンクイーンズ・ホール英語版での演奏が挙げられる。さらに、1925年11月12日には作曲者の生誕60年を祝う催しにてコペンハーゲンの音楽協会 (da:Koncertforeningenで劇付随音楽のほぼ全曲を振っている[1]

ニールセンは1931年10月1日にもデンマーク放送交響楽団でアラジンの抜粋を指揮する予定であったが、その日、ニールセンは激しい心臓発作を起こした。それにもかかわらず、病院のベッドの上で作曲者は鉱石ラジオから流れる「祝祭行進曲」「ヒンドゥーの踊り」「黒人の踊り」を聴くことが出来た。その26時間後、作曲者は逝去した[1]

出版とアラジン組曲[編集]

作曲者の死後の1940年、劇付随音楽から第3幕の踊りの場面を中心に抜粋された以下の7曲が出版された。これが今日「アラジン組曲」として知られているものであるが、これはニールセン自身によって編纂された訳では無い(1940年の出版譜は、ニールセンの存命中に写譜された7曲の抜粋の総譜に基づいているが、ニールセン自身がこの写譜に係わった形跡は見つかっていないのである)[4]。ただし、作曲者が生前に劇付随音楽からの抜粋を指揮した際には、曲目は以下の7曲のいずれかであることが殆どであった[4]。演奏会用組曲として演奏される際は、「イスパハンの市場」と「黒人の踊り」の合唱パートは普通は省略される[4]

  1. 祝祭行進曲
  2. アラディンの夢と朝霧の踊り
  3. ヒンズーの踊り
  4. 中国の踊り
  5. イスパハンの市場
  6. 囚人の踊り
  7. 黒人の踊り

なお、これ以前にも1919年には劇中の3曲の歌曲が抜粋されて出版されている[1]。また、1926年には4曲が、1937年にはそれに1曲を追加した5曲が、小管弦楽用に編曲された上で出版されている。この1937年版の5曲の曲目と曲順は、上記の1940年版の組曲からイスパハンの市場と囚人の踊りを差し引いたものと同じである[4]

編成[編集]

フルート3(ピッコロ2持替)、オーボエ2、コーラングレクラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバティンパニタンバリン小太鼓(組曲版は1台、全曲版では4台)、トライアングル大太鼓シンバルカスタネットシロフォングロッケンシュピール(全曲版のみ)、チェレスタオルガン(全曲版のみ)、ハープ(全曲版のみ)、弦五部、合唱(全曲版のみ)、独唱(全曲版のみ)

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o "Preface" to Aladdin, Carl Nielsen Edition. Royal Danish Library.
  2. ^ a b c Toben Schousboe, Liner notes for Chandos recording by Gennady Rozhdestvensky and the Danish National Symphony Orchestra (CHAN 10498 X).
  3. ^ Family Life”. Carl Nielsen Society. 2010年10月26日閲覧。
  4. ^ a b c d "Preface" to Aladdin Suite, Carl Nielsen Edition. Royal Danish Library.

関連項目[編集]