アシツキ

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アシツキ
Ashitsuki.jpg
アシツキの群体全形 (上) と細胞糸 (下)
分類
ドメ
イン
: 真正細菌 Bacteria
: シアノバクテリア門 (藍色細菌門) Cyanobacteria
: ネンジュモ目 Nostocales
: ネンジュモ科 Nostocaceae
: ネンジュモ属 Nostoc
: アシツキ Nostoc verrucosum
学名
Nostoc verrucosum
Vaucher ex Bornet & Flahault 1886[1]
シノニム
  • Nostoc rothii C.Agardh 1824 nom. inval.
  • Nostocella verrucosa Gaillon nom. inval.

アシツキ (葦附、葦付) (学名:Nostoc verrucosum)は、ネンジュモ属に属する藍藻の1種である。清冽な流水や湧水池に生育し、日本では古くから食用とされてきた[2][3]天然記念物[4]や準絶滅危惧種[5]に指定している地域もある。

別名・地方名が多く、アシツキノリ (葦附苔)[6]コトブキノリ[7] (寿苔)、コトブキタケ[7] (寿茸)、ミトクノリ[7] (三徳苔)、シガノリ[7] (滋賀苔) とも呼ばれる。アシツキの別名として、他にカモガワノリ (鴨川苔) や キブネノリ (貴船苔)、シラカワノリ (白川苔)、アネガワクラゲ (姉川水母) などが挙げられるが[2][5][8][9]、これらは近縁種のイシクラゲのことを指すこともある[6]。カワタケ (川茸、河茸) の名も使われることがあるが[5]、この名はアシツキやイシクラゲ以外に、遠縁の食用藍藻であるスイゼンジノリを指すこともある[10]。またコウタケ (Sarcodon aspratus) (担子菌門ハラタケ綱イボタケ目) も、カワタケ (革茸) と呼ばれることがある。

特徴[編集]

多数のトリコーム (細胞糸) が粘質多糖で包まれた群体を形成し、直径 10 cm 以上になることもある[2][11]。群体表面は薄いが丈夫な外皮となり、内部は軟質。色は暗褐色〜暗緑色。群体は最初は中実で球形〜半球形だが、次第に表面は凸凹で瘤状隆起の集まりのようになり、全体は平面的で不定形になる。古い群体では表面に孔が開いて内部の軟質部が露出し、また所々がわずかに中空になる。細胞糸は湾曲しており、群体周縁部では細胞糸が密集しているが、中心部では粗。群体周縁部では、各細胞糸の鞘は黄褐色で明瞭。細胞糸を構成する細胞は短樽形、直径 3-4 µm。異質細胞は亜球形、直径 5–6 µm。アキネートは楕円形、大きさ 5–7 x 7–8 µm、アキネートの細胞壁は平滑で黄色。

多量の粘質多糖 (細胞外高分子物質) を産生することやトレハロースを蓄積する点では、陸棲の近縁種であるイシクラゲと類似しているが、水棲のアシツキは乾燥耐性を示さない点で異なる[12]。細胞外高分子物質はポルフィラ-334 (porphyra-334) を主とするマイコスポリン様アミノ酸 (MAAs) を含む [他の藍藻ではふつうシノリン (shinorine) が主][13]。また細菌の増殖を抑える脂肪酸を産生することが示されている[7]

生態[編集]

低温の清流や湧水池に季節的に出現する[7]。ふつう水中の岩や石に付着している。ヨシ (アシ、葦) など植物の茎に付着して生育することもあるとされる[6]。世界各地に分布し、日本でも関東、中部、近畿、中国地方の各地から報告がある[2]

人間との関わり[編集]

日本では古くから食用とされており、『万葉集』にアシツキを採取する女性たちを詠んだ大伴家持の歌がある[2][3]。雄神河は庄川の古称。

雄神河 くれなゐ匂ふ をとめらし あしつきとると 瀬に立たすらし 『万葉集』(巻17-4021)

多数の地方名があることから (上記)、身近な食用藻であったことが伺える[7]。生育環境の悪化などにより、現在ではまれな存在になってしまったと考えられている。現在では培養が成功しており、食品にも利用されている[14][15]

引用文献・注釈[編集]

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  1. ^ Guiry, M.D. & Guiry, G.M. (2019) AlgaeBase. World-wide electronic publication, Nat. Univ. Ireland, Galway. http://www.algaebase.org; searched on 28 Septmber 2019.
  2. ^ a b c d e 廣瀬 弘幸 & 山岸 高旺 (編) (1977) 日本淡水藻図鑑. 内田老鶴圃. 933 pp. ISBN 978-4753640515
  3. ^ a b 竹中 裕行 & 山口 裕司 (2012) ノストック (イシクラゲ). In: 渡邉 信 (監) 藻類ハンドブック. エヌ・ティー・エス,東京. ISBN-13: 978-4864690027 pp.651–654.
  4. ^ 天然記念物の一覧. 富山県. 2019年9月29日閲覧.
  5. ^ a b c 日本のレッドデータブック. 2019年9月29日閲覧.
  6. ^ a b c 米田 勇一 (1962) アシツキノリとカモガワノリ. 植物分類 地理 20: 313.
  7. ^ a b c d e f g Oku, N., Yonejima, K., Sugawa, T. & Igarashi, Y. (2014) Identification of the n-1 fatty acid as an antibacterial constituent from the edible freshwater cyanobacterium Nostoc verrucosum. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 78 1147-1150. https://doi.org/10.1080/09168451.2014.918484
  8. ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典.
  9. ^ 片岡 博尚 (1990) 藻類光反応変異体分離の現状と夢. 植物の光反応機構の解析と変異株. 東北大学遺伝生態研究センター. pp.13-24.
  10. ^ 川茸. 全国観るなび. 公益社団法人 日本観光振興協会.
  11. ^ York, P. V. & Johnson, L. R. (2002) The Freshwater Algal Flora of the British Isles: an Identification Guide to Freshwater and Terrestrial Algae. Cambridge University Press. 702 pp. ISBN 0-521-77051-3
  12. ^ Sakamoto, T., Kumihashi, K., Kunita, S., Masaura, T., Inoue-Sakamoto, K. & Yamaguchi, M. (2011) The extracellular-matrix-retaining cyanobacterium Nostoc verrucosum accumulates trehalose, but is sensitive to desiccation. FEMS Microbiology Ecology 77 385-394.
  13. ^ Inoue-Sakamoto, K., Nazifi, E., Tsuji, C., Asano, T., Nishiuchi, T., Matsugo, S., ... & Sakamoto, T. (2018) Characterization of mycosporine-like amino acids in the cyanobacterium Nostoc verrucosum. The Journal of General and Applied Microbiology 64: 203-211. https://doi.org/10.2323/jgam.2017.12.003
  14. ^ アシツキ人工栽培成功.岐阜の企業が利賀で試料採取. 北日本新聞. 2019年5月28日.
  15. ^ 「万葉そば」もちもち食感 人工栽培成功のアシツキ使用. 岐阜新聞. 2019年8月30日.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]