《香菜里屋》シリーズ

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《香菜里屋》シリーズ』(かなりやシリーズ)は、北森鴻による日本推理小説のシリーズ。

概要[編集]

三軒茶屋の路地裏にあるビアバー《香菜里屋》のマスター・工藤が、客が持ちかける相談事や謎を、解き明かす(または推理する)、一種の安楽椅子探偵ものである。工藤の推測に過ぎないため、その推理が正解かどうかは明確には語られないが、作中にて相談を持ちかけた人々は大抵満足している。

作中に登場する数々の料理もこのシリーズの人気の理由の一つで、作者である北森自身は調理師免許を所持しているという。

全4作で、第1作目『花の下にて春死なむ』は第52回日本推理作家協会賞短編及び連作短編集部門を受賞した。

2作目、3作目で匂わせるに留まった主人公・工藤の過去や、《香菜里屋》の名前の由来などが、4作目『香菜里屋を知っていますか』にて明かされる。

登場人物[編集]

主人公[編集]

工藤 哲也(くどう てつや)
三軒茶屋の路地裏のビアバー《香菜里屋》のマスター。年齢不詳。ヨークシャーテリアが刺繍されたワインレッドのエプロンをしている。ヨークシャーテリアが間違って人間になってしまったような風貌で、小首をかしげた様子がよく似ている。
ちょっとした発言から客の出身地を当てる、1度しか訪れたことのない客のことを覚えている、10年以上前の事件と客の関係などを当ててしまうなど、鋭い推理力と記憶力の持ち主。
工藤が自分でビールを飲む時は、話の聞き役に徹するというサインである。また、「今日は少し変わった食べ方を……」「○○(食材)が手に入ったのですが……」などと言って調理されるものに決して外れはなく、必ず客の舌を満足させる。

常連客[編集]

飯島 七緒(いいじま ななお)
フリーライター。初登場時29歳。最多登場。
ライターとしての守備範囲は生活記事一般。自由律句同人結社「紫雲律」に所属している。
北 君彦(きた きみひこ)
渋谷センター街占い師をしている。通称・ペイさん。やや小太りの体型。「人生設計は堅実に」がモットー。
東山 朋生(ひがしやま ともお)
北とよく連んでいる。石坂修の叔父。兄(修の父親)が転勤族だったため、小さい頃一時期預かっていた。
長峰(ながみね)
医師。「紫雲律」の幹事。
木村(きむら)
世田谷署警察官
笹口 ひずる(ささぐち ひずる)
派遣プログラマー。七緒と仲が良い。
百瀬 健次(ももせ けんじ)
警察官。ひずるの幼なじみ。
石坂 修(いしざか おさむ) / 美野里(みのり)
夫婦。かつて同じ会社に勤めていた。出会った時、工藤も偶然居合わせた。東山は修の叔父である。
有坂 祐二(ありさか ゆうじ)
1年に1度だけ島原から上京し、東京滞在中は必ず《香菜里屋》を訪れる。
浅海 重蔵(あさみ じゅうぞう)
浅海石材店の主人。元世田谷署捜査一課の警察官。父親が急死し跡を継いだ。

その他[編集]

香月 圭吾(かづき けいご)
《香菜里屋》から歩いて15分ほどのところ、池尻大橋で《プロフェッショナル・バー香月》というバーを営む体格のいい男。工藤とは横浜にあった店で共に修業した仲で、15年以上の友人。店は茶室を思わせる和風テイストをしており、醸し出す雰囲気がどことなく《香菜里屋》と似ている。

ビアバー・香菜里屋[編集]

新玉川線(東急田園都市線)三軒茶屋駅前の商店街アーケードをくぐって、通りから1本外れた細い路地の奥、袋小路の手前の左側にある。

白い縦長の提灯に、「香菜里屋」と伸びやかな字が書かれている。扉は焼き杉造り。中は、10人程が座れるL字型のカウンターと2人用の小卓が二脚のみ。

度数の異なる4種類のビールがあり、マスターによる創作季節料理は、『ビアバーにしておくにはもったいない』と言われるほど絶品である。最も度数の高い12度のビールはロックスタイルで供される。最も低いもので3度、他に5度のラガーなど。工藤はビールの飲み方について、「グラスに注がれたら最後、寸暇を惜しんでグラスを空にする努力が必要である」と述べている。その他、数種類のワールドビール、焼酎などが備えられている。まれに、工藤がシェイカーを振り、カクテルを作ったり、香月からその他の様々な酒を提供してもらうこともある。

シリーズ一覧[編集]

作品はいずれも講談社(後に講談社文庫)から刊行されている。

関連項目[編集]

  • 蓮丈那智フィールドファイル
    • 作中にて工藤が「民俗学者の先生がごくまれに訪れる」と発言。『凶笑面』収録の「双死神」では、那智・三國・陶子が《香菜里屋》で会っている。
  • 旗師・冬狐堂
    • 上述の那智との他、プロフェッサーDとも店を訪れている。