自然吸気

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自然吸気(しぜんきゅうき)とは、ターボチャージャースーパーチャージャーなどの過給機を使わず大気圧でシリンダー内に吸気する、エンジンの区別方法のひとつ。NA(エヌエー:Natural Aspiration〈ナチュラル アスピレーション〉)や無過給や「ノンターボ」と呼ばれることもある[1]。特に自動車においてこのように過給機を持たないエンジンのことを自然吸気エンジンと呼ぶ。本項ではこの自動車エンジンにおける自然吸気について述べる。

概要

本来、自動車に限らずエンジンはすべて自然吸気であったので、過給機が自動車に普及し始めてから生まれた「自然吸気」と言う呼び名は、過給機付きエンジンの対立項としてのレトロニムである。自然吸気エンジンは特に低燃費や低排出ガスなどの面により、現在の小 - 中排気量の一般自動車向けガソリンエンジンの主流のエンジンとなっている。大排気量の自動車に対してはコストとパフォーマンス面での両立が難しく、スポーツカースーパーカーなどの一部を除いてはターボエンジンが主流となっている。

特性

一般に言われる自然吸気エンジンの特性は、上においてそもそもの語の成り立ちが過給エンジンの対義語であったことに反映されているのと同様に、過給機のもたらす長所を得ていないこと、過給機の持つ短所を持っていないことにある。

一般に同排気量の自然吸気エンジンは過給機付エンジンに比べ構造が単純かつ軽量である。これは過給機付きエンジンが、過給機を持つだけでなく、過給機を冷却/潤滑するためのオイルパイプラインを持ち、さらに排気系統と吸気系統を引き合わせるような構造を必要とすることによる。また、過給エンジンには自然吸気エンジン以上に膨大な圧力がかかるので、ブロックは頑丈であることが必要で、強度上昇のため必然的にエンジン重量も増加する。

自然吸気エンジンは熱効率が高く、燃費もよい傾向がある。ただし、ディーゼル直噴ターボなどを含む最先端のエンジンには当てはまらない。適度な排気過給は、排気エネルギーの再回収という面で、原理的には熱効率が上がるはずだからである。また、燃費の良い傾向があることは、エンジンの軽さや、低出力ゆえの軽い車体(頑丈でなくとも良い)によるところも大きい。

自然吸気エンジンは発熱が過給エンジンより低い。過給エンジンは、同体積の燃焼室内で、燃料を圧縮空気で大量に燃やすことができるので、発熱が高くなる。これは熱効率を低下させる。熱効率は基本的には低温と高温の温度差が広いほど良く(大きく)なるからである。

圧縮比が過給エンジンより高く、過給ガソリンエンジンでは7前後であるのに対し、自然吸気では9以上を持つことが多い。また、低い圧縮比も熱効率を低下させる。この低圧縮比も、高温によるノッキングを避けるための処置である(ディーゼルエンジンでは過給機付きであっても圧縮比を下げることは少ない。このことがディーゼルエンジンの熱効率を高めている。)。

自然吸気エンジンは高回転型である。過給エンジンでは、吸気を強制的に行うことができる。しかし過給機は同時に、排気ガスを吸入空気の圧縮に使う際、排気ガスの流速を奪ってしまう。このことは、燃焼済みガスの排気がうまく行われない、すなわち排気効率が下がった状態を生み出す。排気効率が下がれば、排気工程でシリンダが上昇する際に排気ガスから受ける抵抗が上昇する。すなわち、エンジンの出力の一部がガスの排気のために消耗される。高回転時のピストンスピードの早い領域ではこの効果がより顕著になるので、過給機付きエンジンは高回転領域でトルクが下がる傾向にある。自然吸気ではこの性質がないので、高回転までもたつきなくトルクを発揮する。高回転型NAエンジンの代表格として著名なものにホンダB16AF20C日産・VQ37VHR等がある。

自然吸気エンジンは出力分布が平坦である。過給エンジンでは、過給機の内部が回転して過給を始めた以降には膨大なトルクを発生する。従って、上記の高回転でのトルク低下と合わせ、トルクの分布は急峻な山をなすこととなる。これはしばしば「ドッカンターボ」と俗され、アクセルの加減のしづらさを表現する。自然吸気エンジンにはその特性はない。

自然吸気エンジンはスロットル(アクセル)操作に対する出力応答に優れる。これは吸気に過給機が介在しないためである。過給機が介在すると、アクセルを踏み込んだときにその過給器の内部が回転するために一瞬の時間を要してしまう。過給機が慣性モーメントをもつということと同様である。この応答に優れる特性がもたらす長所は、運転のしやすさ・操縦性という意味で決して小さいものではない。前述の平坦なトルク特性と併せ、絶対的な出力として過給エンジンに一歩劣ることの多い自然吸気エンジンがスポーティカー、GTカーにおいて根強い支持を得ている一因といえる。

改造

自然吸気エンジンは、アクセルに対する反応が俊敏かつリニア(踏んだ量に比例して増える)である反面、同排気量の過給エンジンよりも非力である。したがって、より出力を上昇させるためにさまざまな工夫が考えられた。

出力上昇のための方法には、過給機追加とメカチューンとがある。過給機追加では過給エンジンの特性を持つようになる。単に出力を重視する場合はこれを選ぶ。同一モデルの車に過給機付きエンジンがある場合は、そのエンジンに載せ換えたり、アフターパーツとして過給機を追加[2]することがある。 メカチューンは高価であり、1馬力1万円(1馬力を上昇させるために1万円の費用が掛かる)と言われることがある。手段も限定的であるが、自然吸気の特性を保存あるいは増強することができる。しかし、ストリートチューンの世界においては、VVT等の可変バルブ機構といったメカを逆に取っ払う事もある。

自然吸気による実用的高出力エンジン

可変バルブタイミング機構(リフト機構)により出力(特に馬力)を上げることができる。自動車メーカーでは積極的に採用している。代表的な物にホンダのVTECi-VTEC)やトヨタのVVT-i(派生版のVVTL-i、およびDual VVT-i、VVT-iE、Dual VVT-iE含む)、日産のNEO VVL、三菱のMIVEC(派生版のMIVEC-MD含む)などがある。

脚注

  1. ^ 記述の際には「N/A」あるいは「N.A.」と書かれることもある。
  2. ^ このような後付けによるものを、ターボチャージャーの場合は「ボルトオンターボ」または「ボルトオンターボチャージャー」、スーパーチャージャーの場合は「ボルトオンスーパーチャージャー」という。

関連項目