敗血症

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感染症と全身性炎症反応症候群と敗血症の関係。

敗血症(はいけつしょう、: sepsis)とは、病原体によって引き起こされた全身性炎症反応症候群(SIRS:systemic inflammatory response syndrome)である[1]。細菌感染症の全身に波及したもので非常に重篤な状態であり、無治療ではショックDIC多臓器不全などから早晩死に至る。元々の体力低下を背景としていることが多く、治療成績も決して良好ではない。

これに対し、傷口などから細菌が血液中に侵入しただけの状態は菌血症と呼ばれ区別される。 また、敗血症とSIRSは似た概念だが、SIRSは感染によらない全身性の炎症をも含む概念である[1]

症状

悪寒、全身の炎症を反映して著しい発熱倦怠感鈍痛、認識力の低下を示す。末梢血管の拡張の結果、末梢組織に十分な栄養と酸素が届かず、臓器障害や臓器灌流異常、血圧低下が出現する。進行すれば錯乱などの意識障害を来たす。DICを合併すると血栓が生じるために多臓器が障害(多臓器不全)され、また血小板が消費されて出血傾向となる。起炎菌が大腸菌などのグラム陰性菌であると、菌の産生した内毒素(エンドトキシン)によってエンドトキシンショックが引き起こされる。また代謝性アシドーシス呼吸性アルカローシスの混合性酸塩基平衡異常をきたす。敗血症性ショック症状を起こすと患者の25%は死亡する[2]

原因

肺炎腹膜炎をはじめとした重症細菌感染症の進行した場合にみられる。また、糖尿病悪性腫瘍の化学療法によって免疫力が低下した場合に合併することがある。この場合は、主な感染源はセラチア菌などの腸内細菌であると言われる[3]

検査

各種感染症検査の他、プレセプシン, エンドトキシンプロカルシトニンの測定がおこなわれる。ショックの確認のために収縮期血圧(90mmHg)や血漿乳酸値(4mmol/L)などを確認する。全身性炎症反応症候群の診断には下記項目の測定が必要である。下記の4項目のうち2項目を満たした場合、全身性炎症反応症候群と診断される。

体温の変動
38度以上、ないし36度以下。
脈拍数の増加
90回/分以上。
呼吸数の増加
呼吸数増加(20回/分以上)またはPaCO2が32 Torr以下。
白血球数
12,000/μl以上、ないし4,000/μl 以下。あるいは未熟顆粒球が10%以上。

病態

全身性炎症反応症候群のうち、感染を基盤とする全身性炎症反応症候群が敗血症である。言いかえると敗血症は感染を基盤として発症する急性循環不全である。初期には血液分布異常性ショックを呈する。血管内皮細胞の障害が深くかかわると考えられており脳の血管内皮が障害されれば脳浮腫が起こり、肺の血管内皮が障害されれば急性呼吸窮迫症候群が起こり、四肢の血管内皮細胞が障害されれば浮腫が起こると考えられている。初期には高心拍出量性ショックをしめすが、血管内皮細胞障害が進行すると低心拍出量ショックに移行する。適切な輸液負荷を行っても低血圧が持続する場合もある。

治療

Surviving Sepsis Campaign Guideline(SSCG)という診断と治療に関するガイドラインがある。surviving sepsis campaign guideline 2008(SSCG2008)[4]では循環管理だけではなく感染対策、続発する臓器不全や周辺病態に対しての集中治療が示されている。内容としては初期蘇生、感染症治療、急性呼吸障害や腎障害の管理、血糖管理、その他に分かれている。特に初期蘇生の循環管理がearly goal-direct therapy(EGDT)として纏められている。初期治療の第1選択は、輸液負荷を行いバイタルサインや臨床症状の推移を見極める。 近年の研究から、体温を冷却しながら治療を行った方が、冷却しない場合に比べて死亡率が低かったという結果が得られています[5]

EGDT

初期蘇生の循環管理(early goal-direct therapy)の略。敗血症では適切な抗菌薬を1時間以内に投与することを推奨している。これは1時間投与が遅れると7.6%ずつ予後が悪化するとされているからである。この場合は広域な抗菌薬を使用する。そして速やかに大量輸液を行う。目標値としては中心静脈圧を8~12mmHgとなる輸液管理および平均血圧>65mmHg、尿量>0.5ml/Kg/h、中心静脈酸素飽和度あるいは混合静脈血酸素飽和度>70%を目指す。通常最初の6時間で6~10lの輸液が必要となる。人工呼吸器管理をしている場合は胸腔内圧が高くなるので中心静脈圧を12~15mmHgを目標とする。中心静脈圧を保っても平均血圧が65mmHgを下回るのならば昇圧剤の投与を開始する。ノルアドレナリンドパミンが用いられる場合が多い。平均血圧が90mmHg以上となった場合は硝酸薬(ニトログリセリン)を併用する。平均血圧が保てれば中心静脈酸素飽和度あるいは混合静脈血酸素飽和度を確認し、ヘマトクリット値が30%以下ならば輸血を行い、それでも30%以上を保てなければドブタミンを使用する。

なおEGDTを行う場合は大量輸液によって肺の酸素化が障害される場合がおおく、人工呼吸器管理となることが多い。急性肺障害(ALI)の基づいて呼吸管理する場合が多い。

その他の治療

昇圧剤の選択
ドブタミンは充分な輸液がなされていないと血管拡張により血圧の低下を招きやすい。昇圧剤はノルアドレナリンを用いることが多い。
副腎不全対策
少量ステロイド療法を行うことがある。ハイドロコルチゾンならば、1日200~300mgの3~4分割または持続静注で7日間行う。投与前に採血を行い血漿コルチゾルが34ug/ml以上ならばステロイドを結果を中止し、9~34ug/mlならばACTH250ug/mlの負荷試験を行う。
血糖管理
高血糖の持続が血管内皮細胞障害を起こすため血糖を150mg/dl以下を目標に速効型インスリンの持続静注を行う。
持続濾過透析
抗サイトカイン療法として行うこともある。PMMA-CHDFなど。
エンドトキシン吸着
DICの対応
ストレス性潰瘍
H2ブロッカープロトンポンプ阻害薬の投与。
栄養管理
経腸栄養を優先する。

関連項目

脚注

  1. ^ a b 『日本版敗血症診療ガイドライン』2013年版による
  2. ^ 敗血症性ショックメルクマニュアル家庭版
  3. ^ セラチア菌愛知県衛生研究所
  4. ^ Surviving Sepsis Campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2008Crit Care Med、2008年1月;36(1):296-327.PMID:18158437
  5. ^ 体を冷やすと生存率向上、敗血症性ショックでは体温を何度まで下げる? - MEDLEYニュース

参考文献