拡大自殺

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拡大自殺(かくだいじさつ 英語:extended suicide または Suicide by cop)とは、広意義的な自殺の一種として、直接自分自身で手を下すはずの自殺ではなく、他人又は国家などの力を借りて本人を自滅に追い込む行為のこと。

概要

わざと犯罪者警察官に抵抗して射殺される、あるいは死刑になるのを見越した上で、その犯罪行為に及ぶ自殺志願者の行為である。警察官に銃を向けるなどし、わざと射殺されることを「Suicide by cop(警官による自殺)」という。自殺志願者が自身で自殺できない場合「死刑になって死にたい」として、わざと他人を殺害する場合もある。

拡大自殺を企図した者は、確実に死刑となるために凶悪犯罪を起こすことが多く、大量殺人テロ行為を行う場合もあるため、社会問題になりやすい。まれに死刑になることを目的として重犯罪を犯す者がおり、また国家が死刑制度存続の根拠のひとつと主張する、死刑による犯罪抑止力をあざわらう行為との指摘もされる。

アメリカ合衆国の拡大自殺

アメリカ合衆国では銃犯罪や凶悪犯罪が多い。その為、銃器を主とする警察官の致死性武器の使用規定や、その根拠となる正当防衛要件が実情に即したものになっており、警察官は銃器を他者に向けたり至近距離で鈍器等を振りかざす被疑者に対しては、執行実包で速やかに制圧するよう訓練されている。これを逆手にとって、警察官が銃器を使用しなければならない状況を作り出し、射殺を誘発して自殺する者がいる。

例えば、カリフォルニア州で発行されている「ロサンゼルス・タイムズ」の2008年12月24日によれば、同州のラハブラで拳銃自殺をしようとしていた70歳女性が、駆けつけた警官に拳銃を向けたため射殺されるという事件が起こっている。この事例の女性が持っていた銃は致命傷を与えられないタイプであったという。他にも同様の事例はいくつもあり、高速道路を故意に蛇行運転し、警察官が停車指示を出すように仕向け、停車後に車両を降りて警察官に銃を向け射殺を誘導した事案も過去に起きている。この事案で自殺志願者が用いた銃はおもちゃであり、殺傷能力は無かった。車には警察官に対する詫び状を兼ねた遺書が残されていた。このような自殺事案は、警察官に対し過大な精神的ストレスをかけるという[1]

また警察に射殺される、あるいは自殺することを前提に破滅的な犯罪行為をする自殺志願者もいる。例えば学校を襲撃するスクールシューティングである。コロンバイン高校銃乱射事件ヴァージニア工科大学銃乱射事件のように大量殺人をしたあとで自殺するケースも多いが、テキサスタワー乱射事件のように警察に射殺された場合もある。また仮に逮捕起訴されたとしても死刑存置国(ただし全米15州で死刑は廃止されている)であるため、死刑制度が残っている州では判決が下る可能性が高い。

日本の拡大自殺

日本の警察はどちらかというと致死性手段による執行を忌避する傾向がある為[2]、凶悪犯罪を起した現行犯でも銃による制圧にまで至るケースは多くはなく[3]、「Suicide by Cop」は殆ど起こらない。一方死刑制度を持っているため、死刑になるため重罪を犯したと主張する者が存在する。宅間守付属池田小事件)は他の死刑囚が長い間死刑執行まで待つことが多い中、本人の希望で1年足らずで執行された。

最初に死刑が確実な犯罪を犯した者が大量殺人に走るとの主張もある。この立場からは小平義雄栗田源蔵大久保清なども、死刑があるため連続殺人に走ったと言われ[4]、しばしば死刑廃止論の論拠の一つとなるが、死刑囚全体に占める割合は極めて少ない。もっとも2008年に発生した秋葉原通り魔事件の加害者の犯行動機は「たくさん人を殺せば死刑になれるから」であった。また同じ年に発生した土浦連続殺傷事件の加害者も同様で、裁判の判決文で「死刑になりたいための犯行」と認定した上で死刑判決を出したが、本人は判決公判で満足な判決と受け止めたかのような笑顔を見せた上、弁護人の控訴を自ら取り下げている。このような場合に被害者の関係者が感じる理不尽さは、他の殺人事件よりも強く増すといえる。

脚注

  1. ^ CBS「60 ミニッツ」
  2. ^ 但し国家公安委員会が定める「警察官等けん銃使用及び取扱い規範」及び、その解釈と運用を例規した「警察官等けん銃使用及び取扱い規範の解釈及び運用について(pdf)」では射撃について定められており、法令上は闇雲に銃の使用を制限しているわけではない。後者では「予告することなく相手に向けてけん銃を撃つことができる具体例」もあり、アメリカなどと同様の状況を想定した規則はある。致死性武器忌避の傾向は江戸時代の町奉行所でもあり、戦前の警察官もサーベルの使用は極力避けた。
  3. ^ 三菱銀行人質事件瀬戸内シージャック事件函館市銃撃戦など射殺にまで至った事例もあるが、少数派である。
  4. ^ 菊田幸一『いま、なぜ死刑廃止か』(丸善ライブラリー、1994)54頁

関連項目