完全数

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完全数(かんぜんすう,perfect number)とは、その数自身を除く約数の和が、その数自身と等しい自然数のことである。例えば 6 (=1+2+3)、28 (=1+2+4+7+14) が完全数である。新ピタゴラス学派は、最初の完全数が 6 なのは「神が6日間で世界を創造した」こと(天地創造)、次の完全数が 28 なのは「公転周期が28日である」ことと関連があると考えていたとされる[1]。2009年11月現在、発見されている完全数はメルセンヌ素数と同じく47個である。紀元前より考察されている対象であるにもかかわらず、偶数の完全数が無数に存在するか、奇数の完全数は存在するか、末尾が6か8以外の完全数は存在するか、という問題は未解決である。

完全数の定義より、自分自身を含めて約数を足し合わせると、元の数の2倍になる。すなわち、n が完全数であるとは、約数関数 σ に対して σ(n) = 2n を満たすことであると表現してもよい。

概要

完全数はメルセンヌ素数と関係が深く、M (= 2n - 1) がメルセンヌ素数ならば 2n-1 × M が完全数であることが、ユークリッドによって証明されている。このことから、紀元前には、21(22 - 1) = 6, 22(23 - 1) = 28, 24(25 - 1) = 496, 26(27 - 1) = 8128 が完全数であることが知られていた。また、メルセンヌ素数 2n - 1 に対応する完全数 2n-1(2n - 1) は 2n - 1 番目の三角数でもある。

その後、オイラーが登場するまでは、212 (213 - 1) = 33550336, 216(217 - 1) = 8589869056, 218(219 - 1) = 137438691328 が完全数であることが発見されただけであった。オイラーは、全ての偶数の完全数が、メルセンヌ素数に対応するものであることを示した。これによって、偶数の完全数を探すことは、メルセンヌ素数を探すことと同等であることが分かった。また、オイラーは 231 - 1 が素数であることを確かめ、その結果 230(231 - 1) が完全数であることを示した。

リュカは19年かけて39桁の自然数 2127 - 1 が素数であることを確かめ、その結果、77桁の完全数を発見した。2127 - 1 は、手計算で発見された素数のうち、最大のものである。現代においては、巨大素数の発見にはコンピュータが用いられる。特に、メルセンヌ素数の発見においては、分散コンピューティングによるプロジェクト GIMPS が有名であり、35個目以降の完全数の発見は全て GIMPS によるものである。

完全数は、小さい順に

6, 28, 496, 8128, 33550336, 8589869056, …(オンライン整数列大辞典の数列 A000396

である。知られている完全数の一覧についてはメルセンヌ数を参照のこと。

偶数の完全数

M = 2n - 1 が素数であるとき 2n - 1M 約数は 1, 2, 4, …, 2n - 2, 2n - 1, M, 2M, 4M, …, 2n - 2M, 2n - 1M であり、これらの約数のうち
2n-1M 自身を除く総和

となる。したがって 2n - 1M はその数自身を除く約数の総和がその数自身に等しい完全数である。偶数の完全数は全てこの形のものであるが、無数に存在するか否かは未解決である。

また逆に偶数の完全数が 2n - 1M の形に限られることもオイラーによって以下のように証明されている。

まず偶数の完全数ならば 6 以上かつ2の累乗数でない偶数である。これは最小の完全数が 6 であることと、2 の累乗数 2n の自身を除く約数の総和が 2n - 1 となる(概完全数)ことから導かれる。そこで 6 以上かつ 2 の累乗数でない偶数 NN = 2m(2k + 1) (m, k は自然数) とおく。この N が完全数だと仮定する。2 と 2k + 1 は互いに素であるので N の約数の総和 σ(N) は以下のようになる。

N が完全数という仮定より σ(N) = 2N なので

σ(N) = 2{2m(2k + 1)} = 2m + 1(2k + 1)

したがって

(2m + 1 - 1) σ(2k + 1) = 2m + 1(2k + 1)

いま M = 2m + 1 - 1 とおくとこの式は以下のようになる。

M σ(2k + 1) = (M + 1)(2k + 1)

σ(2k + 1) は自然数であるから上の式の も自然数でなければならない。 とおくと、

σ(2k + 1) = (2k + 1) + a

である。ここで a ≠ 1 と仮定すると、

σ(2k + 1) ≥ (2k + 1) + a + 1

(この不等式は 2k + 1 = aM より 2k + 1 が少なくとも 1, a, aM を異なる約数として持つことによる)となり矛盾。

ゆえに a = 1 が導かれる。これを上の等式に代入すると

σ(2k + 1) = (2k + 1) + 1

であり、2k + 1 は素数であることが分かる。a = 1 から 2k + 1 = M なので M は素数でなければならないことが証明された。

ゆえに偶数の完全数 NN = 2m(2m + 1 - 1) (2m + 1 - 1 は素数) の形に限られる。

奇数の完全数

奇数の完全数が存在するか否かは未解決であるが、数多くの研究がなされており、もし奇数の完全数 N が存在すれば、N は以下の各条件を満たさなければならないことが知られている。

計算機を用いないで得られた条件

  • N素因数分解 という形である。ここで q, p1< p2, …, <pk は相異なる素数で q ≡ α ≡ 1 (mod 4) を満たす[2]
    • N より小さい[3]
    • p1 < 2k/3 + 2 である[4]。また i = 2, 3, 4, 5, 6 のとき、pi より小さい[5]
    • e1e2 ≡ … ≡ ek ≡ 1 (mod 3) ではない[6]
    • e1 = e2 = … = ek = β とすると、k は 4β2 + 2β + 2 以下である[7]
    • もしくは である。

[8][9][10][11]

計算機を用いて得られた条件

  • N は 10300 よりも大きい[12]
  • N は少なくとも9個の相異なる素因数を持つ[13]
    • これは2006年に発表されたものであるが、「7個」の場合は1972年までにカール・ポメランスによって示され、「8個」の場合は1980年頃に Chein[14] と Hagis[15] によってほぼ同時に示されており、その後多くの数学者の努力[16]にもかかわらず、26年もの間「9個」の場合は示されなかった。
  • N が 3 で割り切れない場合は、少なくとも12個の素因数を持つ[13]。3 でも 5 でも割り切れない場合は15個以上の、3 でも 5 でも 7 でも割り切れない場合は27個以上の相異なる素因数を持つ[17]
  • N は重複も数えて少なくとも75個の素因数を持つ[18]
  • N は 108 より大きい素因数を持つ[19]
    • これは2006年に発表されたものであるが、より古い下界としては2003年の 107 [20]や、1998年の 106 [21]などがある。
  • N の2番目に大きな素因数は 104 より大きい[22]
  • N の3番目に大きな素因数は 100 より大きい[23]
  • 上記で e1 = e2 = … = ek = β とすると、β は 1, 2, 3, 5, 6, 8, 11, 12, 14, 17, 18, 24, 62 ではない[24][25]

関連する数

約数の和を考えることで特徴付けられる数の種類には他にも次のようなものがある。完全数と合わせて、これらの名称には古代ギリシャの数秘学の影響が見られる。

不足数 (deficient number)
その数を除いた約数の和がその数より小さいとき、この数を不足数という。
過剰数 (abundant number)
その数を除いた約数の和がその数より大きなとき、過剰数という。
友愛数 (amicable number)
その数を除いた約数の和が互いに等しいような2つの数のペアを友愛数という。
社交数 (sociable number)
友愛数と同様の関係が、2つよりも多くの数の組で成立しているとき、その組を社交数という。
準完全数 (quasiperfect number)
準完全数とは、約数の和が 2n + 1 に等しい数 n である。これは過剰数である。そのような数はいまだに見つかっていないが、存在するならばそれは奇数の平方数で 1035 より大きく、少なくとも7つの約数を持つということが示されている。
概完全数 (almost perfect number)
概完全数とは約数の和が 2n - 1 に等しい数 n である。これは不足数である。2k (1, 2, 4, 8, 16, …) の形をした自然数はこの条件を満たしているが、この形で表される自然数以外でこの条件を満たすものが存在するのかどうかは知られていない。
倍積完全数 (multiply perfect number)
約数の和が元の数の倍数に等しい数を倍積完全数という。特に、それがk倍に等しいものをk倍完全数という。完全数とは2倍完全数のことである。

その他

小川洋子の小説『博士の愛した数式』(2003年)では登場人物の「博士」が阪神タイガースの江夏豊投手のファンであったことの理由として江夏の背番号が28であったことをあげ、その際に完全数の説明がなされている。

脚注

  1. ^ 淡中忠郎「メルセンヌ数物語」数学セミナー、1973年9月号
  2. ^ オイラーが証明した。参考文献の Dickson, Chapter 1, 98.
  3. ^ P. P. Nielsen, "An upper bound for odd perfect numbers", Integers, 3 (2003), A14, 9 pp. (electronic).
  4. ^ O. Grün, "Über ungerade vollkommene Zahlen", Math. Z. 55 (1952), 353-354.
  5. ^ M. Kishore, "On odd perfect, quasiperfect, and odd almost perfect numbers", Math. Comp. 36 (1981), 583-586.
  6. ^ W. L. McDaniel, "The non-existence of odd perfect numbers of a certain form", Arch. Math. (Basel) 21 (1970), 52-53.
  7. ^ T. Yamada, "Odd perfect numbers of a special form", Colloq. Math. 103 (2005), 303-307.
  8. ^ J. Touchard, "On prime numbers and perfect numbers", Scripta Math. 19 (1953), 53-59.
  9. ^ M. Satyanarayana, "Odd perfect numbers", Math. Student 27 (1959), 17-18.
  10. ^ J. A. Holdener, "A theorem of Touchard on the form of odd perfect numbers". Amer. Math. Monthly, 109 (2002), 661-663.
  11. ^ T. Roberts, "On the Form of an Odd Perfect Number", Australian Mathematical Gazette, 35:4 (2008), 244
  12. ^ R. P. Brent, Graeme L. Cohen, H. J. J. te Riele, "Improved techniques for lower bounds for odd perfect numbers", Math. Comp. 57 (1991), 857-868
  13. ^ a b P. P. Nielsen, "Odd perfect numbers have at least nine different prime factors", Math. Comp. 76 (2007), 2109-2126. preprint
  14. ^ J. E. Z. Chein, "An odd perfect number has at least 8 prime factors", Doctoral Thesis, Pennsylvania State University, 1979.
  15. ^ P. Hagis Jr., "Outline of a proof that every odd perfect number has at least eight prime factors", Math. Comp. 35 (1980) 1027-1032.
  16. ^ G. L. Cohen, R. M. Sorli, "On the number of distinct prime factors of an odd perfect number", J. Discrete Algorithms 1 (2003), 21-35.
  17. ^ K. K. Norton, "Remarks on the number of factors of an odd perfect number", Acta Arith., 6 (1960/1961), 365-374.
  18. ^ K. G. Hare, "New techniques for bounds on the total number of prime factors of an odd perfect number", Math. Comp. 76. (2007), 2241-2248. preprint
  19. ^ T. Goto and Y. Ohno, "Odd perfect numbers have a prime factor exceeding 108", Math. Comp. 77 (2008), 1859-1868. "奇数の完全数の最大素因子について" - preprint を入手可能。
  20. ^ P. M. Jenkins, "Odd perfect numbers have a prime factor exceeding 107", Math. Comp. 72 (2003), 1549-1554.
  21. ^ P. Hagis, Jr. and G. L. Cohen, "Every odd perfect number has a prime factor which exceeds 106", Math. Comp. 67 (1998), 1323-1330.
  22. ^ D. E. Iannucci, "The second largest prime divisor of an odd perfect number exceeds ten thousand", Math. Comp. 68 (1999), 1749-1760.
  23. ^ D. E. Iannucci, "The third largest prime divisor of an odd perfect number exceeds one hundred", Math. Comp. 69 (2000), 867-879.
  24. ^ W. L. McDaniel and P. Hagis Jr., "Some results concerning the non-existence of odd perfect numbers of the form paM", Fibonacci Quart. 13 (1975), 25-28.
  25. ^ G. L. Cohen, R. J. Williams, "Extensions of some results concerning odd perfect numbers", Fibonacci Quart. 23 (1985), 70-76.

参考文献

  • 数学セミナー編集部編『数の世界』日本評論社、東京、1982年。 
  • L. E. Dickson, "History of the theory of numbers. Vol. I: Divisibility and primality", Chelsea Publishing Co., New York, 1966 ISBN 978-0486442327
  • R. K. Guy, "Unsolved Problems in Number Theory", 3rd Edition, Springer-Verlag, New York, 2004. ISBN 978-0387208602
  • J. Sándor, B. Crstici, "Handbook of number theory. II", Kluwer Academic Publishers, Dordrecht, 2004. ISBN 978-1402025464

関連項目