子宮内避妊器具

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銅付加IUDパラガード英語版」T 380A
黄体ホルモン付加IUD英語版ミレーナ」。IUSに分類される場合もある

子宮内避妊器具: intrauterine device; IUD)は子宮頸部の中に留置して用いられる避妊器具である。妊娠が望まれない間はずっと子宮内に留め置かれる。連続して装着できる期間は5年から10年ほどで、IUDの種類により異なる(付加型のT 380Aでは12年)[1]。IUDの子宮への装着と除去は医療の専門家、通常は婦人科医、によって行われなければならない。IUDは医療機器であるため、その国や地域で定められている医療上の基準を満たしている必要があり、例えばヨーロッパにおいてはCEマークを取得しなければならない。

IUDは2001年の時点で世界で最も多く用いられている可逆的な避妊手段であり[2]、およそ1.6億人の女性が使用している。そのうち2/3は中華人民共和国の女性であり、中国では不妊手術よりも多く用いられている[3]

歴史

紀元前4世紀の医者ヒポクラテスは動物(ラクダが用いられた可能性がある)の子宮に異物を入れると避妊効果があることを発見し、IUDの先駆者と考えられている。しかしながら、現代的な子宮内避妊は1928年にドイツのリヒャルト・リヒターによって始められたもので、以後効率と持続期間の改良が重ねられている[4]

分類

IUDには化学的に不活性な銅タイプ(銅付加IUD)と、プロゲストゲン英語版を放出することで機能するホルモンタイプ(黄体ホルモン付加IUD英語版)の2種類がある。例えばアメリカ合衆国では、銅タイプの「パラガード英語版」とホルモンタイプの「ミレーナ」の2種のみが製造されている[5]イギリスでは7種類の銅タイプのIUDがあり、銅タイプのもののみがIUDと呼ばれている。ホルモンを用いる子宮内での避妊はIUDとは別のものと見做されており、子宮内避妊システム: intrauterine system; IUS)と呼ばれている[6]

ホルモンを用いない、非活性のIUDの大多数はプラスチック製でT字型をしており、純粋な銅の電解ワイヤが巻き付けられているか、銅製の「襟」もしくは「袖」が取り付けられている。一例として、パラガードの水平部分(T字の上の棒)は32mm、垂直部分は36mmである。Nova T 380のような一部のIUDでは線の破損を防ぐために純粋な銅線に銀の芯を入れている[7]。フレームの腕の部分が器具の子宮の底部近くの位置を保持する。GyneFixのように、T字型はなくさまざまな銅のチューブからなる輪となっているものもある。全ての銅付加IUDの名前には、銅を含む部分の表面積を平方ミリメートルで表した番号が付けられている。

有効性

第2世代の、銅タイプのT字型IUD全体での避妊失敗率は1年あたりで1%、10年通算では2-6%である[8]世界保健機関が行った大規模調査では、T380Aの12年間通算での避妊失敗率は2.2%、1年あたりでは0.18%であり、これは10年間で1.8%の失敗率となる卵管結紮英語版に匹敵する[1]。フレームなしのタイプであるGyneFixの失敗率も1年あたり1%未満である[9]。世界的に、有効性の劣る旧式モデルのIUDはもはや市場では生産されていない[10]

機序

子宮内に器具が存在することで、異物への反応の一部として子宮内膜からの白血球プロスタグランジンの放出が促進される。これらの物質は精子受精卵の双方にとって有害である。銅の存在は精子を殺す効果を高め、また着床を妨げることで効果的で信頼できる妊娠中絶薬ともなる[11][12]

IUDには性行為感染症骨盤内炎症性疾患の予防効果はない[13]。ホルモン剤を使用しない銅付加IUDは授乳の際にも安全であると考えられている。

IUDは精子と卵子を殺すことで機能するのであり、一部の医師や妊娠中絶反対のキリスト教グループらは受精後の機序がIUDの有効性に大きく寄与していると考えている[14][15]。受精を妊娠の開始と定義している団体もあり、妊娠中絶に反対する人々や団体の一部は受精後の機序のためにIUDを妊娠中絶薬と見做している。

禁忌

世界保健機関とその「避妊薬使用のための医療的適格性基準」および英国産婦人科医師会・家族計画とリプロダクティブヘルス部会はIUDの挿入が推奨されない条件(カテゴリ3)と忌避される条件(カテゴリ4)を定義した以下のリストを作成している[16][17]

カテゴリ3

理論上、もしくは立証済のリスクがIUDによる恩恵よりも大きいと考えられる条件――

カテゴリ4

IUDの挿入に許容できないリスクが伴う条件――

銅もしくはニッケルに過敏な女性の場合にはIUDの副作用が現れる懸念がある。IUDに使用される金属は99.99%が銅であるが、研究によれば最大で0.001%のニッケルが含まれる。ニッケルはアレルギー性が高いため、これほどの少量であっても問題を引き起こす可能性があると一部の研究者は示唆している。銅とニッケルを含むIUDを装着している患者のグループに、全身的吸収による湿疹英語版皮膚炎蕁麻疹が見られる場合があることをいくつかの研究が示している。しかしながら、IUDから1日に体内に吸収される金属の量は食事による摂取量よりも遥かに少ないため、多くの皮膚科医たちはこうした症例で記述されている症状が金属の過敏症であるかは疑わしいとしている[18] [19][20]

出産を経験したことのない女性(未産婦)は副作用のリスクが高くなるが、このことはIUDの使用を忌避する理由とはならない。一部の医療専門家は挿入時に妊娠していないことを確認するために月経中にIUDを挿入することを好む。しかしながら、妊娠中もしくは受精の可能性がある時を除けばIUDは月経周期のどの時点でも挿入可能である[21]子宮頸部が自然に広がる月経中期に挿入を行えばより楽である[22]

脚注

  1. ^ a b World Health Organization(世界保健機関) (1997). “=Long-term reversible contraception. Twelve years of experience with the TCu380A and TCu220C”. Contraception 6: 341-52. PMID 9494767. 
  2. ^ Institut national d'études démographiques (INED): “What are the most widely used contraceptive methods across the world?”. Births / Birth control (2006年). 16-11-2006閲覧。
  3. ^ 世界保健機関 (2002). “The intrauterine device (IUD)-worth singing about”. Progress in Reproductive Health Research 60: 1–8. http://www.who.int/reproductive-health/hrp/progress/60/news60.html. アーカイブ
  4. ^ Historia de la anticoncepción, en Portal de la Sociedad Canaria de Medicina de Familia y Comunitaria, España
  5. ^ Treiman K, Liskin L, Kols A, Rinehart W (1995). “IUDs—an update”. Popul Rep B (6): 1–35. PMID 8724322. http://www.infoforhealth.org/pr/b6/b6.pdf. 
  6. ^ French, R (2004). “Hormonally impregnated intrauterine systems (IUSs) versus other forms of reversible contraceptives as effective methods of preventing pregnancy”. Cochrane Database of Systematic Reviews (3). PMID 15266453. 
  7. ^ Schering (2003年5月). “Nova T380 Patient information leaflet (PIL)”. 27-04-2007閲覧。
  8. ^ IUDs-An Update. Chapter 2.3: Effectiveness.
  9. ^ O'Brien, PA; Marfleet C (25 de enero de 2005). “Frameless versus classical intrauterine device for contraception”. Cochrane Database of Systematic Reviews (1). PMID. 
  10. ^ IUDs—An Update. Chapter 1: Background.
  11. ^ Mechanisms of the Contraceptive Action of Hormonal Methods and Intrauterine Devices (IUDs)”. Family Health International (2006年). 05-07-2006閲覧。
  12. ^ Keller, Sarah (Winter 1996, Vol. 16, No. 2). Family Health International: “IUDs Block Fertilization”. Network. 05-07-2006閲覧。
  13. ^ Farley TM, Rosenberg MJ, Rowe PJ, Chen JH, Meirik O (1992). “Intrauterine devices and pelvic inflammatory disease: an international perspective”. Lancet 339 (8796): 785–8. PMID 1347812. 
    Grimes DA (2000). “Intrauterine device and upper-genital-tract infection”. Lancet 356 (9234): 1013–9. PMID 11041414. 
    Mishell Jr., Daniel R. (2004). “Contraception”. In Elsevier Saunders. Yen and Jaffe's Reproductive Endocrinology (5th ed. ed.). Philadelphia. pp. 899–938. ISBN 0-7216-9546-9 
    Grimes, David A. (2004). “Intrauterine Devices (IUDs)”. In Ardent Media. Contraceptive Technology (18th rev. ed. ed.). New York. pp. 495–530. ISBN 0-9664902-5-8 
    Speroff, Leon; Darney, Philip D. (2005). “Intauterine Contraception: The IUD”. In Lippincott Williams & Wilkins. A Clinical Guide for Contraception (4th ed. ed.). Philadelphia. pp. 221–257. ISBN 0-7817-6488-2 
    Hall, Janet E. (2005). “Infertility and Fertility Control”. In McGraw-Hill. Harrison's Principles of Internal Medicine (16th ed. ed.). New York. pp. 279-83. ISBN 0-07-139140-1 
    Soper, David E.; Mead, Philip B. (2005). “Infections of the Female Pelvis”. In Elsevier Chuchill Livingston. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases (6th ed. ed.). Philadelphia. pp. 1372–81. ISBN 0-443-06643-4 
    Glasier, Anna (2006). “Contraception”. In Elsevier Saunders. Endocrinology (5th ed. ed.). Philadelphia. pp. 2993–3003. ISBN 0-7216-0376-9 Stubblefield, Phillip G.; Carr-Ellis, Sacheen; Kapp, Nathalie (2007). “Family Planning”. In Lippincott Williams & Wilkins. Berek & Novak's Gynecology (14th ed. ed.). Philadelphia. pp. 247–311. ISBN 0-7817-6805-5 
  14. ^ Stanford J, Mikolajczyk R (2002). “Mechanisms of action of intrauterine devices: update and estimation of postfertilization effects”. Am J Obstet Gynecol 187 (6): 1699-708. PMID 12501086. , which cites: :Smart Y, Fraser I, Clancy R, Roberts T, Cripps A (1982). “Early pregnancy factor as a monitor for fertilization in women wearing intrauterine devices”. Fertil Steril 37 (2): 201-4. PMID 6174375. 
  15. ^ Marquette University Press, ed. “Arguments against contraception--do they make sense to the general public? Importance of ethics, religion and "natural morality" in choice of family planning methods”. Milwaukee. ISBN 0874620112 
  16. ^ 世界保健機関 (2004). “Intrauterine devices (IUDs)”. In Reproductive Health and Research, WHO. Medical Eligibility Criteria for Contraceptive Use (3rd ed. ed.). Geneva. ISBN 92-4-156266-8 
  17. ^ Royal College of Obstetricians and Gynaecologists (2006年). “The UK Medical Eligibility Criteria for Contraceptive Use (2005/2006)”. unknown時点のオリジナルよりアーカイブ。11-01-2007閲覧。
  18. ^ Jouppila P, Niinimäki A, Mikkonen M (1979). “Copper allergy and copper IUD”. Contraception 19 (6): 631-7. PMID 487812. 
  19. ^ Frentz G, Teilum D (1980). “Cutaneous eruptions and intrauterine contraceptive copper device”. Acta Derm Venereol 60 (1): 69-71. PMID 6153839. 
  20. ^ Wohrl S, Hemmer W, Focke M, Gotz M, Jarisch R (2001). “Copper allergy revisited”. J Am Acad Dermatol 45 (6): 863-70. PMID 11712031. 
  21. ^ IUDs-An Update. Chapter 3: Insertion.
  22. ^ Understanding IUDs”. Planned Parenthood Federation of America (2005年7月). 22-07-2006閲覧。

関連項目