代替乳

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いろいろな代替乳
アーモンドミルク

代替乳(だいたいにゅう)とは、の替わりとなる食品のことである。豆乳、アーモンドミルクライスミルクココナッツミルクオーツミルクなどの飲料(植物性ミルク)や、乳を使用しないチーズクリームアイスクリームヨーグルトなどの乳製品まで、範囲は広い。乳を使用しないため、乳糖不耐症の人や牛乳アレルギーの人も摂取できる。

背景

代替乳の広がりの背景には、環境問題や動物福祉への意識の広がり、健康志向、乳糖不耐症などいくつかの要因がある[1]

世界最大の乳製品輸出地域であるEUでは、温室効果ガスや窒素排出量の削減、動物福祉の強化、持続可能な食料システムへの移行といった動きの中で、生乳生産量の減少が予測されている[2]。EUでは、2019年に発表した気候変動対策であるグリーンディール戦略の結果、生乳生産量が10%程度減少すると予測されている[3]

環境問題

世界中の酪農家は温室効果ガス排出を削減することを求められている[4][5]

2020年、米国農業貿易政策研究所(IATP)は、世界最大の酪農企業13社による温室効果ガス総排出量が、経済大国であるイギリス全体の総排出量と同じだという報告書をまとめた[6]。温室効果が特に高いメタンに限ると、アメリカの牛乳販売協同組合 Dairy Farmers of America英語版だけで、イギリス全体と同程度のメタンを生成している。

オックスフォード大学の研究によると、1杯の乳製品製造にかかる温室効果ガス排出量は、代替乳製品のほぼ3倍になる[7]。また代替乳製品は乳製品と比較して、最大で、温室効果ガスの排出量が97%少なく、水の使用量は最大99%少ないという[8]

環境関連規制の影響で、ニュージーランドでは酪農地の拡大が制限された[9]。また同国は2022年、牛などの家畜のげっぷや尿による温室効果ガスを排出する農家へ直接課税する計画を発表している[10]

環境対策として畜産動物のふん尿に多く含まれるリン酸塩の排出削減計画を策定しているオランダでは、2016年から2017年にかけて、総飼養頭数の1割を超える経産牛13万頭、子牛を含む未経産牛15万頭が淘汰され、約600戸が営農を中止した[11]。主要生乳生産国であるオランダでは、乳牛飼養頭数の減少に伴い、生乳生産量も減少している[2]

水不足は世界的な問題となっているが、1 リットルの牛乳を生産するには、約 11,000 リットルの水が必要とされることから、各国で酪農における水削減の手法が模索されている[12]

2021年には欧州最大の機関投資家が、気候変動リスクへの対応が不十分だという理由で、中国のトップ乳製品国有企業の中国蒙牛乳業の持ち株を売却すると発表している[13]

また、地球温暖化による暑さと干ばつは、牛に多大なストレスを与え、牛乳の生産の低下につながっている。米国だけでも、気候変動によって今世紀末までに酪農産業が年間22億ドルの損害を受けると試算される[14]

動物福祉

EUにおける飲用牛乳の消費が減少している要因の一つに、「動物由来製品の摂取に反対する消費者が増えている」ことがあげられる[15]。また主要生乳生産国のドイツでは、乳牛飼養頭数の減少に伴い、生乳生産量も減少しているが、その要因は、動物福祉に関連する規制強化だとされている[2]

代替乳製品市場の拡大

市場調査によると、世界的に代替乳製品市場が拡大しており、2020年に226億米ドル、2026年までには406億米ドルに達すると予測されており、[16]2027年に向けて年平均12%の市場成長が見込まれている[17]

2022年に、アメリカ、日本、ドイツ、オーストラリアの四か国を対象に行った調査では、乳製品代替食品を子どもに摂取させることに対して全体として69%が意欲的であった[18]。アメリカでは植物由来の代替乳は、牛乳の売上の16%を占めるまでに成長している[19]。酪農の長い伝統を持つアイルランドでも、成人の 3 分の 1 が、牛乳、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品に代わる植物ベースの代替乳製品を消費しており、15 ~ 24 歳の 44% 以上が、これらの代替品の定期的な消費者であることがわかった[20]

主要乳製品輸出国の一つであるアルゼンチン最大手乳業のセレニシマ代替乳市場に参入する[21]など、乳業界も代替乳市場に参入しており[2]、世界の乳製品上位 20 社の製品ポートフォリオで、乳代替品が一般的となっている[22]

アーモンドや大豆由来の代替乳製品を展開するホワイトウェーブ社やアルプロ社を買収した[23][24]大手乳製品メーカーのダノン社は、2025年までに世界市場における植物ベースの売上高を約50億ユーロに倍増させるとする計画を2020年に発表した[25]。2022年には、世界最大の乳製品グループ企業であるラクタリス英語版が、オンタリオ州の乳製品工場を完全に植物ベースの生産に転換することを発表した[26]。同年9月、ネスレが代替乳のスタートアップとと提携し、非動物性のな乳タンパク質を使用した製品開発に参入することを発表した[27]

また、M&Mやスニッカーズなどのブランドを有する大手菓子企業マース社は、代替乳のスタートアップであるPerfectDayと業務提携し、2022年に乳不使用のチョコレートバーの販売を開始した[8][28]。同年、穀物メジャーのADMは非動物性の乳製品の開発と商品化に向けて、代替乳開発のスタートアップNew Cultureと戦略的パートナーシップを提携した[29]

非動物性の乳の開発者であるイスラエルのフードテックスタートアップ Remilk が、1億2000万ドルを資金調達したと2022年に報じられたが、投資した企業の一つに、乳製品会社のHochlandバスク語版がいる[30]

関連項目

  • 代用乳 - 主に動物の乳の代用として調整された飲料または飼料。人工乳。
  • 植物性ミルク -植物から採れるミルク。

脚注

  1. ^ Insights into the plant-based dairy market”. 20220729閲覧。
  2. ^ a b c d 海外情報 EU 畜産の情報  2022年8月 EU酪農・乳業の現状と展望~欧州乳製品輸出入・販売業者連合(EUCOLAIT)総会より~”. 20220728閲覧。
  3. ^ 海外情報 畜産の情報 2022年9月号 酪農大国ドイツにおける持続可能性への取り組み”. 20220825閲覧。
  4. ^ How dairy farms can reduce carbon footprint”. 20221025閲覧。
  5. ^ Methane emissions from 15 meat and dairy companies rival those of the EU”. 20221119閲覧。
  6. ^ Emissions from 13 dairy firms match those of entire UK, says report”. 20220617閲覧。
  7. ^ Climate change: Which vegan milk is best?”. 20220617閲覧。
  8. ^ a b Meet the low-carbon masterminds behind Mars’ latest climate innovation”. 20220617閲覧。
  9. ^ 特集:海外の牛乳・乳製品需給の動向について~新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえて~畜産の情報2022年3月号 ニュージーランド酪農における新型コロナウイルス感染症の影響”. 20220617閲覧。
  10. ^ NZ、牛げっぷ課税へ 25年までに導入、農業団体は猛反発”. 20221012閲覧。
  11. ^ 海外情報 畜産の情報  2020年1月号 オランダ酪農乳業の現状と持続可能性(サステナビリティ)への取組み~EU最大の乳製品輸出国の動向~”. 20220617閲覧。
  12. ^ Dairy farm water management around the globe”. 20221024閲覧。
  13. ^ Legal & General Divests From U.S. Insurer AIG Over Climate Policies”. 20220617閲覧。
  14. ^ Cows Are Too Stressed Out to Keep Up With Global Dairy Demand”. 20221111閲覧。
  15. ^ EU農畜産業の展望 ~2016年EU農業観測会議から~”. 20221115閲覧。
  16. ^ Dairy Alternatives Market by Source (Soy, Almond, Coconut, Oats, Rice, Hemp), Application (Milk, Yogurt, Ice creams, Cheese, Creamers), Distribution Channel (Supermarkets, Health Food Stores, Pharmacies), Formulation, and Region - Global Forecast to 2026”. 20220417閲覧。
  17. ^ Insights into the plant-based dairy market”. 20220729閲覧。
  18. ^ 海外情報 実態調査 畜産の情報 2022年9月号 食肉加工品および乳製品の子どもへの摂取に関する意識と実態調査”. 20220825閲覧。
  19. ^ Got plant-based milk? Climavores”. 20220815閲覧。
  20. ^ Protein levels of alternative products vs dairy”. 20221014閲覧。
  21. ^ 海外情報/アルゼンチン 畜産の情報 2022年12月号 アルゼンチン酪農・乳業の現状と展望 ~2022年酪農アウトルック会議などから~”. 20221125閲覧。
  22. ^ Combined turnover of Global Dairy Top 20 firms sees jump”. 20220922閲覧。
  23. ^ 仏ダノン、米ホワイトウェーブ買収 債務含め総額1.2兆円”. 20220617閲覧。
  24. ^ 海外情報 畜産の情報 2021年5月号 欧州における食肉および乳製品代替食品市場の現状”. 20220617閲覧。
  25. ^ Danone Essential Dairy and Plant Based moves into new chapter in North America”. 20220617閲覧。
  26. ^ Lactalis Canada Fully Converting Ontario Dairy Plant to Plant-Based Production”. 20220912閲覧。
  27. ^ ネスレ、アニマルフリーな乳製品開発で精密発酵スタートアップと提携”. 20220918閲覧。
  28. ^ MARS’ NEW VEGAN CHOCOLATE BAR IS AS SMOOTH AS DOVE BARS THANKS TO PERFECT DAY’S ANIMAL-FREE WHEY”. 20220617閲覧。
  29. ^ ADM partners with alt-dairy startup New Culture”. 20220904閲覧。
  30. ^ Israeli food tech startup Remilk raises $120m investment for cow-free milk”. 20220916閲覧。