九曜
九曜(くよう)とは、インド天文学やインド占星術が扱う9つの天体とそれらを神格化した神である。中国へは『宿曜経』などにより漢訳された。
サンスクリットではナヴァグラハ (नवग्रह, navagraha) で、「9つの惑星」という意味である(実際は惑星以外も含む)。部分的に訳して9グラハとも言う。
繁栄や収穫、健康に大きな影響を与えるとされた。東アジアでは宿曜道や陰陽道などの星による占いで使う。
一覧
神 | 梵字 | 英字 ()内は簡易表記 | 音写 | 意訳 | 天体 |
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スーリヤ | सूर्य | Sūrya (Surya) | 蘇利耶 | 日曜星 | 太陽 |
チャンドラ / ソーマ | चंद्र / सोम | Candra (Chandra) / Soma | 戦捺羅 / 蘇摩 | 月曜星 | 月 |
マンガラ / マンガル | मंगल | Maṅgala (Mangala) | 盎哦囉迦 | 火曜星 | 火星 |
ブダ | बुध | Budha (Budha) | 部陀 | 水曜星 | 水星 |
ブリハスパティ | बृहस्पति | Bṛhaspati (Brihaspati) | 勿哩訶娑跛底 | 木曜星 | 木星 |
シュクラ | शुक्र | Śukra (Shukra) | 戌羯羅 | 金曜星 | 金星 |
シャニ / シャナイシュチャラ | शनि / शनैश्चर | Śani (Shani) / Śanaiścara (Shanaishchara) | 賖乃以室折囉 | 土曜星 | 土星 |
ラーフ | राहु | Rāhu (Rahu) | 羅睺(らごう) | 羅睺星 | 月の昇交点 |
ケートゥ | केतु | Ketu | 計都(けいと) | 計都星 | 月の降交点 |
漢名の「星」の読みは、呉音で「しょう」、漢音で「せい」となる。
チャンドラとソーマは異なる神だが、月神としては同一視される。
一部の経典などではケートゥについて、月の遠地点、彗星や流星という異説を取る。
インド神話
これらの多くがインド神話に登場する。
スーリヤ、ソーマ、ブリハスパティは『リグ・ヴェーダ』をはじめ多くの聖典にみられる。
またブダはイダー(イダが呪いで女性化した人物、イラ、イラーとも)との間に、ウルヴァシーとの恋愛物語で知られるプルーラヴァスをもうけた。
ラーフとケートゥ
月の交点(黄道と白道の交点)のうち昇交点がラーフ、降交点がケートゥである。シャニ、ラーフ、ケートゥは凶兆の星とされ、南インドの寺院ではよく祀られた。
月の交点は、日食と月食の食に深く関係する。そのため神話化されインド神話のバラモン教の聖典「ヴェーダ」では、乳海攪拌の時不老不死の霊薬であるアムリタを盗み飲んだがスーリヤ(太陽神)とチャンドラ(月神)の告げ口でヴィシュヌのチャクラムで首を切られたアスラであった。アムリタを飲んだ首が不死のラーフ、胴体がケートゥという星となった。ラーフは太陽と月を飲み込むが胴体がないのですぐに太陽と月は現れてしまい、これが日食・月食になる。
ラーフ(羅睺)は転じて「障害をなすもの」の意味で、ラーフラ(Rāhula)(羅睺羅、らごら)として釈迦が息子に名づけたといわれる。
日本への影響
土曜(聖観音)、水曜(弥勒)、木曜(薬師)、火曜(虚空蔵)、金曜(阿弥陀)、月曜(勢至)、日曜(千手観音)、計都(釈迦)、羅睺(不動明王)の9つの星を「九曜曼荼羅」として信仰した。平安時代には交通安全に霊験があるとして車文に多く使用された[1]。
羅睺星は平安時代の神仏習合の際、日食を引き起こしたスサノオと結び付けられ災いを引き起こす天体と考えられた。また、羅睺星を祭り上げる場合は黄幡神として道祖神のように奉られる。
ちなみに土曜から日曜は「七曜」(北斗七星)といい、また土曜から金曜の5星より五行説が表れたとされる[1]。
家紋
家紋の「星紋」の図案ともなり、中央の星を八星が囲む九曜紋が満月の意味を持つ望月氏によって用いられた。ほか、千葉氏、佐久間氏で、また細川氏で、『九曜、離れ九曜(細川九曜 ※肥後細川家五代藩主細川宗孝が、細川家の「九曜紋」と自身の本家筋の家紋である「九曜巴」とを誤認した板倉勝該に、殿中にて背後から切りつけられ絶命せられたとされる事件により意匠が変更)』が用いられた。伊達政宗の代から伊達氏も用いている。相馬藩(現在の福島県相馬市)も用いた。