ポリトープ
ポリトープ (polytope) は、2次元の多角形、3次元の多面体を一般次元へ一般化した図形。多角形は2次元ポリトープ、多面体は3次元ポリトープである。
多胞体(たほうたい)の訳語があるが、4次元ポリトープ (4-polytope, polychoron) に限って多胞体と呼ぶ語法もある。そのため、ここでは混乱を防ぐため、原則として多胞体と言う言葉は使わずポリトープを使うが、ポリトープでは不自然な一部の複合語では多胞体を使う。
次元ごとの名称
次元 | 英語 | カタカナ | 日本語 |
---|---|---|---|
任意 | polytope | ポリトープ | (多胞体) |
n | n-polytope | nポリトープ | (n次元多胞体) |
0 | point | ポイント | 点 |
1 | segment | セグメント | 線分 |
2 | polygon | ポリゴン | 多角形 |
3 | polyhedron | ポリヘドロン | 多面体 |
4 | polychoron | ポリコロン | (多胞体) |
5 | polyteron | ポリテロン | |
6 | polypeton | ポリペトン | |
7 | polyexon | ポリエクソン | |
8 | polyzetton | ポリゼトン | |
9 | polyyotton | ポリヨトン |
5次元以上の英語名は、ジョージ・オルシェフスキー (George Olshevsky) による提案名であり、必ずしも広く受け入れられているわけではない。それぞれ を表すSI接頭辞が元になっている。なお、 を表すSI接頭辞は を意味する数詞をもじってつけられている。たとえば、polyteron ← tera ← tetra = 4。そのため、「多面体」の「面」が2次元を意味するように、表す数はポリトープの次元数より一つ少ない。
3次元以上の英語名の語尾 -on は、複数形では -a となる。たとえば、polyhedron(多面体)の複数形はpolyhedra。ただし、polygon(多角形)の複数形はpolygonsである。
要素の名称
頂点、辺、面を一般次元へ一般化したものを要素 (element) あるいは面 (face) という。ポリトープ自体も n 次元(余次元 0)の要素「体」であるが、いくつかの性質が特殊で、別扱いすることもある。
次元 | 英語 | 日本語 | 余次元 | 英語 | 日本語 | |
---|---|---|---|---|---|---|
0 | vertex | 頂点 | 0 | body | 体 | |
1 | edge | 辺 | 1 | facet | 刻面 | |
2 | face | 面 | 2 | ridge | 稜 | |
3 | cell | 胞 | 3 | peak | 峰 | |
⋮ | ⋮ | ⋮ | ⋮ | ⋮ | ⋮ |
一般の m (0 ≤ m ≤ n - 1) 次元の要素は、m 次元面(m-face)という。頂点、辺、面はそれぞれ0、1、2次元面である。英語では、3、n - 3 ~ n - 1 次元面にも固有の名称が付いている。名称が重複している場合は、0~3次元面の名前を優先する。たとえば、正多面体の1次元面はピークではなく頂点である。
n - 3 ~ n - 1 次元面の名称には定訳はない。3次元面のセルは胞と訳す。多胞体をポリトープの意味で使う立場では、n - 1 次元面のファセットが胞と解釈できるが、その意味で使うことはあまりない。
なお三次元図形によるイメージ化を行う影響で、n - k 次元面の名称を言うべきところで 3 - k 次元面の名称をいってしまう、たとえば一般次元のポリトープについてピークと言うべきところで頂点と言ってしまうような誤りが、(言語を問わず)見られる。
さまざまなポリトープ
単体
n + 1 個の頂点を持つ n 次元ポリトープを単体 (simplex) と呼び、その次元で最も頂点数が少ない。頂点だけでなく、各次元の m 次元面の数も と一意に決まり、それぞれ最少である。
単体の各要素もまた単体である。たとえば、四面体の面は全て三角形である。
正多胞体
各ファセット(n − 1 次元面)が合同で、各頂点形状が合同なポリトープを、正多胞体 (regular polytope) と呼ぶ(この語も、4次元のものに限って使うことが少なくない)。正多胞体はシュレーフリ記号で表現できる。
正多胞体の各要素もまた正多胞体である。たとえば、正多面体の面は合同な正多角形である。
正多胞体の種数は次元によって異なるが、2次元以上のどの次元にも存在する3種類の正多胞体があり、標準正多胞体という。それぞれの標準正多胞体は、α体(正単体)、γ体(超立方体)、β体(正軸体)という。
次元 | 正多胞体 | α体 | γ体 | β体 | その他 | 個数 |
---|---|---|---|---|---|---|
0 | 点 | - | 1 | |||
1 | 線分 | - | 1 | |||
2 | 正多角形 | 正三角形 | 正方形 | 正五角形・正六角形・正七角形・… | ∞ | |
3 | 正多面体 | 正四面体 | 立方体 | 正八面体 | 正十二面体・正二十面体 | 5 |
4 | (正多胞体) | 正五胞体 | 正八胞体 | 正十六胞体 | 正二十四胞体・正百二十胞体・正六百胞体 | 6 |
n ≥ 5 | (n + 1) | (2n) | (2n) | 3 |
空間充填形
n次元ポリトープによるn次元空間充填形は、n + 1 次元ポリトープとみなすことができる。たとえば、平面充填形(2次元空間充填形)は多面体とみなすことができる。
双対
n 次元ポリトープに対し、各 m (0 ≤ m ≤ n - 1) 次元面を n - m - 1 次元面で置き換える操作で得られるポリトープを、元のポリトープの双対 (dual) という。
多面体の双対を双対多面体という。多角形の双対はそれ自身である。
シュレーフリの定理
孔や密度のない n 次元ポリトープの m (0 ≤ m ≤ n)次元要素の数を とすると、
が成り立ち、これをシュレーフリの定理と呼ぶ。
n 次元要素(常に1)を足さず、
の形で書くこともある( は偶数と奇数)。この式の値をオイラー標数という。
3次元 (n = 3) の場合は、「頂点数 − 辺数 + 面数 = 2」のオイラーの多面体定理となる。