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フェルミ縮退

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フェルミ縮退(フェルミしゅくたい)とは、フェルミ粒子フェルミ分布に従うために低温で示す振る舞いのこと。

フェルミ粒子はパウリの排他原理により複数の粒子が同一の状態を取ることができない。従ってあるエネルギーの値を取れる粒子の数はそのエネルギーの状態の数までが限界である。温度、すなわち粒子の平均運動エネルギーを下げていくと粒子はエネルギーの低い状態へ移っていこうとする。しかしエネルギーの低い状態がこの粒子数の限界に達してしまうと、エネルギーが高いままで残らざるを得ないことになる。このような状態になることをフェルミ縮退もしくは単に縮退という。

粒子の密度が高ければ粒子数の限界に達しやすくなるのでフェルミ縮退が起こりやすくなる。恒星の中心核は超高密度であるため数億Kという高温でありながらフェルミ縮退が起こることがある。

フェルミ縮退が起こるとそれにより物性に影響が現れる。以下にその例を示す。

金属の自由電子

金属自由電子は室温程度ではフェルミ縮退している。そのため低いエネルギー準位にある電子はその上のエネルギー準位が粒子数の限界に達しているために加熱してもエネルギーの高い状態になることができない。このため熱を受け取れる電子はエネルギーの高い電子に限られるので自由電子の熱容量は古典粒子として考えた場合よりもずっと小さい値になる。また磁場をかけた場合に電子がそのスピン状態を変えようとしても、変わる先の状態がすでに占有されているのでスピン状態が変わることができない。そのため磁化率も古典粒子として考えた場合よりもずっと小さい値になる(パウリ常磁性)。

恒星の中心核

恒星の質量が小さい場合、中心核の温度に対して密度が高くなるため、プラズマ中の電子がフェルミ縮退を起こす。フェルミ縮退すると温度の割りにエネルギーの高い電子が多くなるので圧力が高くなる。このようにして生じる余分な圧力を縮退圧という。通常のプラズマの圧力は密度と温度に依存するが、縮退圧は密度だけに依存し、温度には依存しない。

フェルミ縮退していない場合には、核融合の加速によって温度が上昇すると圧力を一定に保つために密度が減少する。つまりガスの膨張が起きるのでその仕事に発生した熱が使われて温度が下がり、もとの温度に戻る。しかしフェルミ縮退した中心核では、核融合の加速によって温度が上昇しても圧力が変化しないので密度はそのままである。そのため温度が上昇し核融合反応はさらに加速されて暴走する。この暴走はフェルミ縮退が解ける温度に上昇するまで続く。

太陽程度の質量の恒星ではヘリウム燃焼が開始するときに中心核がフェルミ縮退しているためにこの現象が起こる。これをヘリウムフラッシュという。なお、ヘリウムフラッシュには、フェルミ縮退とは関係ない機構で起こる場合もある。

また、太陽の7 - 8倍程度の恒星では炭素燃焼が開始するときにこの現象が起き、フェルミ縮退が解ける温度まで上昇する前に星全体が吹き飛ばされてしまう。これは超新星爆発の一種であり、炭素爆燃型超新星という。

縮退星

核融合反応が起こらなくなった恒星は縮退圧と重力が釣り合うところまで収縮する。このように縮退圧で支えられている星を縮退星という。

電子の縮退圧で支えられている星が白色矮星であり、中性子の縮退圧で支えられている星が中性子星である。また、クォークの縮退圧で支えられている星、クォーク星の存在が予言されている。

縮退圧には上限があり、電子の縮退圧で支えられる質量の上限はチャンドラセカール限界、中性子の縮退圧で支えられる質量の上限はトルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ限界と呼ばれている。質量がそれらの限界を超えると重力崩壊が起こる。

白色矮星が質量降着や合体によって重くなりチャンドラセカール限界を超えると重力崩壊が始まり一気に重力エネルギーが解放されて熱が発生する。すると高温になり炭素の核融合反応が開始する。白色矮星は縮退しているのでこの核融合は暴走して星全体が吹き飛び炭素爆燃型超新星となる。

中性子星が質量降着や合体によって重くなりトルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ限界を超えると重力崩壊によってブラックホールになると考えられている。この際に莫大な重力エネルギーが解放されるので、この現象はガンマ線バーストの原因の候補として挙げられている。