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トロフィー (兵器)

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トロフィーのレーダーと模擬発射器
イスラエル国防軍に所属する、トロフィーAPSを装備したメルカバMk. IV戦車。訓練中の写真。

トロフィーはイスラエルで開発されたアクティブ防護システム(APS)の一種である。軽量級、また重量級装甲戦闘車輌の装甲防護能力を増強することを目的に開発された。別名をASPRO-Aともいう。イスラエル国防軍での制式呼称は「מעיל רוח」であり、「ウィンドブレーカー」の意となる。飛来したミサイルやロケットを散弾銃に似た弾幕で迎撃、破壊する。トロフィーは10年にわたる共同開発計画によって作り出された。提携した企業はラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズ社と、イスラエル・エアロスペース・インダストリーズの一員であるエルタグループである。

2009年8月、一連のテストの後に、イスラエル国防軍の地上軍司令官はトロフィーが運用可能であると発表した [1]。この兵器は2010年までに、イスラエル機甲軍団の全大隊に配備されている戦車へ装備されることが予定された [2]

2011年3月1日、トロフィーは、ニール・オズの付近において、ガザ地区からメルカバMK.IV戦車の方に向けて発射された対戦車ミサイルを破壊することに成功した[3]

設計

このシステムは一般に、イスラエル陸軍のメルカバ主力戦車に搭載されている。この装備の設計にはエルタ社によるEL/M-2133火器管制レーダーが含まれる[1]。これはF/Gバンドを使用し、4枚のフラットパネルアンテナを車輌に装着することで360度全周囲の索敵範囲を得るものである。車輌へと兵器が発射されたとき、内蔵されたコンピューターは飛来する兵器からの信号を用いて接近時の方向量を計算する。飛来した兵器を完全に分析すると、コンピューターは迎撃体を射出するのに最適な時間と角度を計算する。車輌側面上部に装備された2基の回転式発射器から迎撃がなされる。発射器は迎撃体を発射するが、これは通常、散弾銃のバックショットのような小さな金属製のペレットである。この装備では、迎撃を行う車輌に近接する友軍を危険にさらさないよう、非常に小さな危険界を持つようになっている。

トロフィーの機構は、全種類の対戦車ミサイルおよびロケットに対抗して作動するよう設計され、これにはRPGのような携行型の兵器が含まれる。このシステムでは、異なる方向からの複数の脅威に同時に対処でき、装備車輌が静止状態でも走行状態でも効果的である。また近距離と長距離の脅威の両方に対して能力が発揮される。システムのより新しいバージョンには複数発射のための再装填機能が搭載された。トロフィーの開発工程には、将来の運動エネルギー弾頭に対する防護が可能な、強化された迎撃装置が含まれる。

利点

トロフィーの主要な任務はミサイルの直撃に対する防護であり、特に、非常に軽量な装甲兵員輸送車のようにロケット攻撃に脆弱な車輌の防護を行う。トロフィーをストライカー装甲車に搭載すれば、成形炸薬弾(HEAT)からの防御に必要な、重量のあるスラットアーマー(金網などによる増加装甲)を撤去でき、また戦闘準備の整った車輌をC-130ハーキュリーズのような輸送機に搭載できる。スラットアーマーは、航空機の搭載前に車輌から撤去されなければならず、また目的地で再び取り付けねばならない。このような過程では100時間の切断と溶接が繰り返され、これは戦争という状況下では非実用的である。加えて、新規に小型化された装備は、市街地での車輌の走行能力を改善する。

トロフィー軽量型

2007年9月、「Trophy Light」と呼ばれる新型が、ラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズ社により公表された。標準型のトロフィーが主力戦車のために設計された一方、トロフィー・ライトは軽量級から中量級の車輌に搭載されるよう構想された。例としてはラファエル社のゴラン装甲車が挙げられる。この装備は標準型よりも重量と容積が半減され、費用も安価となることが予測された。ラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズ社によれば、開発作業にはデザインと、発射器/再装填機そして弾薬に技術研究を要するとされる[4]

アメリカ合衆国による試験

MSNBCは、アメリカ陸軍内にはトロフィー導入に対する抵抗があると報告した。アメリカ国防総省は、同様な兵装システムであるクイックキルAPSを開発するために、レイセオン社と契約を結んでいた。この計画は2011年より早期に準備ができるものではなかった。また、未だにこの計画が最終期限に間に合うよう正常に進行しているかについて、言及は謝絶されている[5]。しかしトロフィーはすぐにも配備可能だった。クイックキルは、イスラエルで開発途上にあった別種のアクティブ防護システム「アイアンフィスト」により類似していた。MSNBCの情報によると、トロフィーをその時点で導入しなかった理由はレイセオン社の開発計画を取り下げるためだった[6]

非営利団体の一つであるIDAでは、トロフィーとアイアンフィストを含む15種類のアクティブ防護システムを分析しており、トロフィーは最も優れていると評価した。2006年3月、ペンタゴンの試験官たちが、ダールグレン海軍洋上戦センターでトロフィーを試験した。試験に携わった当局者がNBCに語ったことによれば、トロフィーは「全ての状況で作動した。唯一の例外は一件のテストで生じ、トロフィーの射弾がRPGの頭部の代わりに尾部を撃った。しかし我々の評価基準に従えば、この装備は30点満点中30点だった」としている[7]。アメリカ政府の関係当局はアメリカ陸軍の行動について既に報告しており、レポートを提出した。それは射撃管制装置の、偏差照準システムを取りまとめる陸軍とボーイング社が、利害の対立を避けるために規定に従うだろうと結論するものだった。レイセオン社の技術は熟成されていないものの、現用の車両に使用する試作品は2009年までに配備可能であるとアメリカ陸軍は見積もった。アメリカ陸軍当局は、トロフィーの試験が非現実的であり、またトロフィーの搭載により、防御や他の能力に遅延をもたらすおそれについて懸念を表した[8]

軍事オンラインサイトのドッド・バズの情報によれば、アメリカ合衆国は2010年にストライカー装甲車を用いてトロフィーを試験している[9]

2011年2月28日、トロフィーの製造者であるラファエル社は、この装備がアメリカにおいて成功裡に評価を終了したと発表した。イスラエル国防軍(IDF)に所属する1輛のストライカー装甲車が、ラファエル社のAPSであるトロフィーを装備し、アメリカ国防長官の部局による6週間の試験と評価プログラムのもとで、数種類のミサイルとロケット攻撃に持ちこたえた[10]

戦歴

2011年3月1日、1輛のメルカバMK.IVがガザ境界線付近に配置されており、この車輌のトロフィーは、自己に向かって放たれたミサイル攻撃を妨害した。これはトロフィーの運用上の最初の成功となった[11]。2011年3月20日、イスラエル区域内に配置された1輛のメルカバMK.IV戦車へ向け、ガザ地区周辺のフェンス沿いからミサイルが撃たれた。この戦車はトロフィーを搭載しており、システムは発射を感知したものの戦車にとって危険性はないと計算し、迎撃は生じなかった。システムは発射についての情報を通過させ、戦車の搭乗員は発射の行われた方向へ撃ち返した[12][13][14]

迎撃装置への可能な対抗策

ウラジミール・コレンコフ博士は2000年から2009年にかけ、ロシアの国家的な統一企業である「Basalt」を率いており、彼は「イスラエルの戦車用アクティブ防護装置であるトロフィー、またそれと同様のシステムは回避可能である」と述べた。この企業の活動の一つには、現用兵器を撃破するために設計される、対戦車擲弾発射器(RPG)の開発があった。ウラジミール・コレンコフ博士によれば、ロケット推進式擲弾であるRPG-30は戦車の迎撃装置を克服できるよう設計されている。「世界にある既存のアクティブ防護システムは全て、同じアイデアを共有している。これは近距離や長距離という幾種類かの距離においてレーダー照準を行うもので、目標撃破にあたっては、爆発による場と破片流を作りだす弾頭が用いられる。こうしたシステムには共通の欠陥が存在する。まず第一には機能のサイクルであり、例えば、システムが脅威に反応するまでの時間的間隔が挙げられる。RPG-30は容易にこうした防護システムを破るが、これには本体弾頭の前に、より直径が小型の前方弾頭が加えられている。この前方弾頭が迎撃状態に入ったAPSをだます偽の目標として作動することで、本体弾頭は前方弾頭にわずかに遅れて後を追い、目標への障害のない経路を通過できる。APSが次の迎撃を開始するには0.2秒から0.4秒間の遅延を要し、停止する。この時間的間隔は、イスラエルのシステムを打破するに充分である。[15]

関連項目

外部リンク

参考文献

  1. ^ Katz, Yaakov (2009年8月6日). “Anti-tank missile defense system operational”. The Jerusalem Post. http://fr.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1249418540354&pagename=JPost/JPArticle/ShowFull 2009年8月6日閲覧。 
  2. ^ Weiss, Efrat (2009年8月7日). “IDF successfully tests new tank defense system”. Ynetnews. http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-3758478,00.html 2009年8月7日閲覧。 
  3. ^ HARTMAN, BEN. “Anti-tank missile system stops attack on IDF tank”. News Article. Jerusalem Post. 2011年12月25日閲覧。
  4. ^ http://www.defense-update.com/products/t/trophy.htm
  5. ^ Israel field-tests effective anti-RPG weapon - Lisa Myers & the NBC News Investigative Unit - MSNBC.com
  6. ^ Army shuns system to combat RPGs - Lisa Myers & the NBC News Investigative Unit - MSNBC.com
  7. ^ Experts contradict Pentagon on anti-RPG tests - Lisa Myers & the NBC News Investigative Unit - MSNBC.com
  8. ^ Analysis of Processes Used to Evaluate Active Protection Systems GAO-07-759
  9. ^ Colin Clark, US to try Israeli tank protector, DoD Buzz, 25 October 2010
  10. ^ http://www.defense-aerospace.com/articles-view/release/3/123048/trophy-demos-capabilities-against-real-missile.html
  11. ^ IDF armor-defense system foils attack on tank for first time Haaretz, By AMOS HAREL, 01/03/2011 20:11
  12. ^ http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4044891,00.html
  13. ^ http://www.ynet.co.il/articles/0,7340,L-4044859,00.html
  14. ^ http://www.nrg.co.il/online/1/ART2/223/833.html
  15. ^ Russian The Israeli system of active protection of tanks, “Trophy”, as any other similar systems, can be evaded, APMC-TACC, 12 November 2009