シャワルマ
シャワルマ شاورما | |
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種類 | 肉料理 |
発祥地 | オスマン帝国[1] |
地域 | 中東、レバント |
主な材料 |
羊肉、鶏肉、牛肉、香辛料 (サンドイッチやロールサンドの場合:薄焼きパン/ピタパン/コッペパン/イラク風サンムーンなど、野菜、ソース) (サラダの場合:野菜、ソース) |
シャワルマ (トルコ語: çevirmeもしくはçevirmek由来) は、羊肉や鶏肉を金属製の串に突き刺した状態で回転させて焼いた、レバント(レヴァント。シリア・レバノン・ヨルダン・パレスチナ)近辺の料理[2][3]。
トルコにおけるドネルケバブに対応するアラビア語名称だが、ドイツでドネルケバブのサンドが開発されるよりもかなり前に枝分かれしアラブ風のアレンジが加わったため、調理過程はそっくりだがトルコ系のケバブ料理と全く同じという訳ではない。また、アラブ諸国の場合ケバブ(カバーブ)というと日本の焼き鳥を大きくしたような別の串焼き肉を指すことが一般的である。
トルコ語由来の外来語に当て字をしているためアラビア語でのつづりと母音の補足には揺れがあり、شَاوَرْمَا(shāwarmā/口語では語末長母音の短母音化があるため shāwarma, シャーワルマー/シャーワルマ)が主な発音。他にもشَاوِرْمَا(shāwirmā,シャーウィルマー)・شَاوُرْمَا(shāwurmā,シャーウルマー)・شَوُرْمَة(shawrma,シャウルマ)・شَوِرْمَة(shawirma,シャウィルマ)といったつづり・発音[4]も用いられることがある。
なお同様の名称シャウルマ、シャヴェルマ、シャベルマについてはロシア語圏に伝わってファーストフードとして売られているドネルケバブ、シャワルマに対するカタカナ表記となっている。アラブ世界の外でシャワルマではなくシャウルマという呼び名が流布しているのはそのような違いによるものである。
イラクでは串に挿して回すグリル肉はシャワルマではなく قَصّ / كَصّ / گَصّ(gaṣṣ,ガッス)と呼ばれるが調理法等は全て同じである。
食材の肉は下味つけののち鉄串に重ねて挿していき塊状に固め、平面上に並べられた熱源に近付けじっくり焼き上げる。串は通常垂直方向に直立させられモーターで回転するが、真横の水平方向にセットするグリル器も存在する。肉は食べる度にナイフで薄く切り取られ、残った本体の塊は引き続き串に残されたまま熱せられグリルされる。(ただし家庭では回転グリル器を用意できないため肉をトレーに乗せオーブンで焼くようなレシピでもシャワルマとして扱われる。)
シャワルマ肉の塊はサイズが色々あり、比較的小さなものから大規模イベントに供される人の背丈を上回る超巨大なものまである。
シャワルマは1900年前後にシリアなどのレバント地域に伝来。当初はトルコのイスケンデル・ケバブのように羊肉のスライスを皿に乗せサラダなどと一緒に出すスタイルだった。シリアで1940年頃にアラブ風の平らなフブズ(ホブズ)にくるんだラップサンドが提供されるようになり、羊肉以外にも鶏肉を使ったチキン・シャワルマなども加わった。ちなみにピタパンにドネルケバブの肉・キャベツ・ソースを入れたサンドはドイツのベルリンで1970年代に考案されたスタイルである。
その後シャワルマはアラブの典型的なファーストフードの一つに成長。1960-1970年代頃にはアラビア半島の湾岸諸国でも提供されるようになり、80年代以降のファーストフードブームに伴い普及していった。今では各地で平たいパンに巻いたラップサンドイッチ・ロールサンド(لَفَّة,laffa,ラッファ。لَفَّة شَاوَرْمَا,ラッファト・シャーワルマーで「シャワルマ・ロール」「シャワルマ・ラップ」)形態やポケット状のピタパン類にはさんで入れられるサンド(سَنْدُوِيش,sandwīsh,サンドウィーシュ。سَنْدُوِيش شَاوَرْمَا,サンドウィーシュ・シャーワルマーで「シャワルマ・サンドイッチ」)形態などとして提供される。ファーストフードのハンバーガー同様、シャワルマのロールにフライドポテトやジュースがついたセットもポピュラーである。
パンの形状は国によって異なり、コッペパン状の細長いパンにはさんだもの、イラクのサンムーンにはさんだものもシャワルマサンドと呼ばれるなどしている。またシャワルマ自体はグリルした肉や魚本体を指すため、パンに包んでいないサラダ形態もありそれらはシャワルマ・サラダ(سَلَطَة الشَاوَرْمَا,shawarma salad)という名称となっている。
レストランでは皿の上に平たいパンを広げ具を乗せた状態で出されることもあり、料理レシピのシャワルマでも広げたパンに肉入りサラダを置いたような作り方がしばしば紹介されている。この場合、ファーストフードとしてシャワルマを単体で食べるのではなく何か別の料理と一緒に出されることも多い。一般的にタッブーレ(تَبُّولَة タッブーラ/レバント方言発音はタッブーレ)、ファットゥーシュ(فَتُّوش,ファットゥーシュ)などのサラダや、トマトやキュウリといった野菜とともに食べられるほか、タヒーニ(طَحِينَة,タヒーナ/レバント方言発音はタヒーニ)、フムス(حُمُّص,フンムス/口語発音はホンモス、ヒンミスなど)、カブの漬物などがトッピングされることもある。
同様の料理としては、トルコのドネルケバブやギリシャのギロピタなどが挙げられる[5]。
アラブ諸国初のシャワルマ屋は今から100年余り前に開店したシリア ダマスカスのالصديق(スィッディーク)だった[6]とされている。店主はトルコで技術を学び、現在同様の串に肉を通して回転グリルさせる方式のシャワルマ肉を売り出した。シャワルマ業界は今でもレバント地域が強く、アラビア半島の湾岸諸国などにもシャワルマ店はあるが店員自体は本場のレバント出身者であることが多い。
近年トルコやヨーロッパのトルコ系レストランではサバ・サーモン・白身魚類を使ったフィッシュ・ドネルケバブが登場[7]、アラブ世界でも2010年代半ば頃から肉以外のフィッシュ・シャワルマ(شاورما السمك)[8]が一部レストランで出るようになり家庭料理としても魚シャワルマのレシピ(主にラップサンドや皿乗せのアラビックパン添え)が紹介されるようになってきている。2006年に鳥インフルエンザが流行した際はヨルダンで鶏肉の代わりに魚シャワルマを売り出したレストランがニュースで取り上げられた[9]こともある。
なお具は色々詰め込む場合があり、アラブ風豆コロッケのファラフェル(فَلَافِل,ファラーフィル/口語発音はファラーフェル)とシャワルマ肉が同時に入るサンドをشَوَافِل(shawāfil/shawāfel,シャワーフィル/口語発音はシャワーフェル)と呼ぶ造語[10]も近年登場した。
歴史
鉄串にスライスされた肉を刺して焼いたり串に積み重なったまま肉を削ぎ落としたりする調理法は、19世紀のオスマン帝国で開発された。これを最初に取り入れたのがドネルケバブでシャワルマ、ギロピタなどの起源となった。
トルコでは水平方向に串をセットする焼き方が原型で、ドネルケバブが考案された際に垂直に立てるスタイルになった。アラブのシャワルマもこの垂直設置を踏襲している。
熱源は当初炭や薪だったがガスや電気に切り替わった。しかし今でも薪火焼きの専門店がありガス式とは異なる味わい深いシャワルマ肉を売りにしている。
語源
「シャワルマ」という言葉は「回転」を意味する(ここでは肉を鉄串に挿した状態で回転させあぶり焼きにする調理方法を指す)トルコ語の çevirme(çevirmekと書かれていることもある)という単語に由来する[11]。アラビア語のشاورماはç(アラビア語には無い音)部分がچ(ペルシア語からの借用)やج(ch音借用時にしばしば使われる当て字)ではなくش(トルコ語由来の外来語で元々chだった音に当てることが多いshの文字)、v(アラビア語に無い音)を近似のوに置き換わったものである。ちなみにアラブ圏では当初قاورماというつづりを使っていたが後に現在のشاورماになった[12]という。
似たような命名の規則が、ドネルケバブ (döner kebab) の döner やギロピタ (gyros) などにも適用されたが、いずれの言葉も回転させてあぶるといった調理の手順を名称として取り入れたものである。
アラブ圏では本来シャワルマ(シャーワルマー)は串に挿して回転グリルさせて調理した肉本体のことを指すにもかかわらず、串にセットせずオーブンやフライパンで調理した具を包んだりする料理もシャワルマと呼ばれているなど、語の使われ方にはある程度の幅がある。シャワルマは肉部分を指すのでパンに包まれていない皿に乗ったミックスサラダ状のものも同じ名称で呼ばれる。
日本ではシャワルマを具として入れたラップサンド、ロールサンド、サンドイッチ全体をシャワルマと呼んで売っていることが多い。シャワルマがロールサンドという意味で使われる事例も多く、回転グリルやオーブングリルで焼かれた肉・魚が入っていない物にもシャワルマという名称が拡大適用されている例もしばしば見られる。
出典
- ^ “Thank the Ottoman Empire for the taco al pastor”. pri.org. 2017年3月19日閲覧。
- ^ Philip Mattar (2004). Encyclopedia of the Modern Middle Eastern (Hardcover ed.). Macmillan Library Reference. p. 840. ISBN 0028657713 . "Shawarma is a popular Levantine Arab specialty."
- ^ John A La Boone III (2006). Around the World of Food: Adventures in Culinary History (Paperback ed.). iUniverse, Inc. p. 115. ISBN 0595389686 . "Shawarma - An Arab sandwich similar to the gyro."
- ^ “Lughatuna辞書”. 2021年11月27日閲覧。
- ^ Aglaia Kremezi and Anissa Helou, "What's in a Dish's Name", "Food and Language", Proceedings of the Oxford Symposium on Food and Cookery, 2009, ISBN 190301879X
- ^ “شاورما الصدّيق: الاسم الأول في عالم الشاورما في الوطن العربي!”. BarakaBits. 2021年11月30日閲覧。
- ^ “Restaurant serves salmon fish döner kebab in Black Sea province”. Hürriyet Daily News. 2021年11月27日閲覧。
- ^ “شاورما سمك”. annahar.com. 2021年11月27日閲覧。
- ^ “شاورما سمك لمواجهة أنفلونزا الطيور”. Community Media Network. 2021年11月28日閲覧。
- ^ “شطيرة "شوافل".."قنبلة" الشاورما والفلافل معاّ”. arabic.cnn.com. 2021年11月27日閲覧。
- ^ Reporter, Mohammed N. Al Khan, Staff (2009年7月31日). “Shawarma: the Arabic fast food”. gulfnews.com. 2018年3月12日閲覧。
- ^ “ما هو أصل الشاورما”. 2021年11月30日閲覧。