オシリスとイシスの伝説

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イシス

オシリスとイシスの伝説(-でんせつ)とは、オシリスイシス及びセトホルス神を巡るエジプト神話上の一連のエピソード。ギリシャの歴史家プルタルコスによって紹介され、ファラオの王権にも密接に関わっている。神話学の観点からは、オシリスの死と再生を象徴しているとされる。

概要

神話時代の昔。オシリスとセトは兄弟であったがある日、オシリスが館を留守にしている間にセトは72名の廷臣達と暗殺の謀り事を企む。オシリスが帰ってきたとき、木棺にピッタリ入った者には褒美が贈られるという催しがあった。木棺はオシリスの体に合わせてセトらが作らせた物であったが、何も知らないオシリスはピッタリした棺に気持ちよく横たわった。するとオシリスが抵抗する暇もない間に蓋がかぶせられ、隙間には鉛が流し込まれた。そして棺はナイル川に流されることとなる。

古代ローマのイシス像(2世紀ナポリウィーン美術史美術館

オシリスの妻であり妹でもあるイシスは心を痛め、自らの長けた魔術を駆使し、乳母に化けてビブロスの宮殿に潜入した。流れ着いた場所でヒースの木に包みこまれ、そのまま加工され宮殿の柱となっていた棺を探し当てて見つけた。イシスは世話していた赤子を不死にする為に炎の中に入れ、自身はツバメに変身して柱の周りを飛び回った。宮殿に住む赤子の母親である王妃がこの様子を見て驚き、イシスは元の姿に戻って素性と事情を明かして納得してもらい、柱を回収して秘密の場所に隠した。

だが、それを知ったセトは執念で棺を探し回り、木棺の中の遺体を14の部分に切断してしまう。イシスは再び救出に赴き、パピルスの舟で遺体の破片を探し出し、オクシリンコスで魚に飲み込まれた男根を除く繋ぎ合わせた体を強い魔力で復活させたが、不完全な体だった為現世には留まれなかった。そうしてオシリスは冥界の王として蘇る。

さて一方では、オシリスとイシスの間に生まれた息子ホルスが叔父に当たるセトへの復讐を決意していた。ホルスとセトは抗争を初め、オシリスの正当な後継者はどちらなのか、神々の間で評定が開かれた。ラーはセトの肩を持つ為セトは不利にならず、そこでイシスは評定が行われた中の島への渡し守・アーンティを老婆に化けて金の指輪を与えて騙し、中の島へ乗り込んだ。イシスは今度は若い女性に化けてセトを計略にはめ、彼に「父の財産は息子が継ぐべきで、その財産を奪う者は追放する」という発言をさせてセトの正当性を彼自身に否定させ、彼から神々の支持を奪った。怒るセトは九柱の神々にアーンティを罰させ、踵の皮を剥いでサンダルをぴったり履けなくした。アーンティは金を呪うようになり、彼女の属する町では金は忌むべき物となった。ラーは機嫌を損ねて裁判官の役割を放り出したが、ハトホルが自分の秘所をラーに見せて喜ばせ、彼を再び裁判官の役割に就かせた。

だがセトはそれを認めず、ホルスと共にカバに変身して川に潜り、先に陸に上がった者が負けという勝負を行った。イシスは銅の釣り針を水中に投じてホルスを援護しようとするも誤って釣り針を息子に引っかけてしまい、息子が苦しんだので針に命じて外させた。次はセトに針を引っかける事に成功するが、セトが「自分とお前は同じ母から生まれただろう」と彼女を言いくるめ、同情したイシスは釣り針を外した。これに怒ったホルスはイシスを追いかけ、その首を刎ね落とした。トートがイシスの死体をラーの元へ運び、ラーはホルスに罰を下し、ホルスの両目を奪って山中に埋め、その目からはロータスの花が咲いた。しかしハトホルが彼の眼窩に雌アカシカの乳を与えて復元させた。

その後もホルスとセトは激しい戦いを繰り広げ、復活したイシスは再び息子を守ろうとする。ホルスは左目を失ってしまうものの、最後の戦いでセトはホルスに対して石の船を作って勝負する事を持ちかけ、言った通りに石の船を作るが、ホルスは杉の木を漆喰で覆った船を作った。その為セトの船は水に沈み、ホルスの船は水に沈まなかった。しかしセトはカバに変身して水中からホルスを殺そうとしたが、ホルスはセトに槍を突き付けた。このようにして最終的にホルスが勝利し、父の仇討ちを果たすことに成功する。それでオシリスはトートとの相談の末、地上の王権をホルスに譲位することができた。これ以来、地上を統治する王(ファラオ)はホルスの化身と見なされるようになった。

ウィーン美術史美術館所蔵の「ホルエムヘブ王とホルス神座像」は、王とホルス神を同一の石から彫り抜いて並べた新王国第18王朝時代末期の石灰岩像であるが、ホルス神の名として神聖文字で「ホルス、父の仇を打つ者」と刻まれている。

なお、ホルスとセトの戦いの際、ホルスが失った左目は古代エジプトでよく見られる眼のシンボルとなり「ウジャト」と呼ばれる。セトを撃退したことから魔除け的な意味を持ったようだ。

関連項目