虐げられた人びと

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虐げられた人びと』(しいたげられたひとびと、ロシア語: Униженные и оскорбленные)は、フョードル・ドストエフスキーの長編小説で、1861年に出版された。

概要[編集]

4部からなる。

本作品の主人公である新進作家の「私」はドストエフスキーの文壇へのデビュー作品である『貧しき人々』を執筆中の自身が下敷きにされている。主人公とネリーの対話も『貧しき人々』を巡って進行する。シベリア流刑後に文壇への返り咲きを果たしたドストエフスキーの、出発点への立ち返りの試みとも見なされるメタフィクション的な作品である。

少女ネリーはイギリスの作家ディケンズの「骨董屋」に登場するネルをモデルにして創作されたものといわれている。しかし、ネリーの作中での役回りは「無垢なる子供の受難」という新たな主題を惹起し、その影響で作品の構成も最終的には崩れてしまっている。この「無垢なる子供の受難」というテーマはドストエフスキーの後の作品に受け継がれることとなった。

本作品に登場するワルコフスキー公爵は『罪と罰』のスヴィドリガイロフ、『白痴』のロゴージン、『悪霊』のスタヴローギンへと連なる悪魔的ニヒリズムを演じる登場人物の萌芽と言える。また、この人物の功利主義的人間像は、『罪と罰』のルージンに継承されている。

あらすじ[編集]

第1部[編集]

3月22日、一人の若者イヴァンがペテルブルクで下宿先を探していた。その最中に彼はひどくやせ細った老人と出会う。この老人は喫茶店に入ってもこの老人は何も注文せず、新聞にも目を向けないが、一人のリガ出身の商人をじろじろと見つめ始めた。その場に居た知人のミュラーに咎められた老人はその場を離れようとするが、ミュラーに止められる。気まずい雰囲気の中で老人は飼い犬のアゾルカを呼ぶが、犬は既に死亡していた。ミュラーは犬を剥製にする様に提案した。老人は出された酒を飲まず、死んだ犬を放置したまま帰ってしまい、その場に居たドイツ人達を困惑させた。

イヴァンは老人を追い掛けた。イヴァンは家に送り届ける為に老人の住所を聞き出したが、老人はそのまま死んでしまった。イヴァンは奔走して老人の本当の住所を探し当てたが、彼が言っていた場所とは異なっていた。死んだ老人の名はエレミア・スミスという外国出身のロシア国籍取得者で、ひどく貧乏な暮らし振りだった。スミスが最期に口にしていたワシリエフスキー島の6丁目を見に行ったイヴァンは、そこが気に入って部屋を借りる決意をした。

その頃25歳だったイヴァンは雑誌に長編小説を書いていたが、自らの死期が身近に迫っていると信じていた。彼は幼少期に両親を亡くし、ニコライ・セルゲーイッチ・イフメーネフという地主の家に引き取られた。3歳年下のナターシャという一人娘と共に実の兄妹の様に育てられ、2人は仲良くしていたが、イヴァンは17歳の時に大学受験の為に家を離れた。ニコライ・セルゲーイッチの所には農奴が150人居たが、ギャンブルで100人擦ってしまい、退官願を出した。

その後、ある日突然ピョートル・アレクサンドロヴィチ・ワルコフスキーという若い公爵が現れた。イフメーネフ家の人々はたちまち彼の虜になった。公爵はワシリエフスコエ村からドイツ系の技師を追い出し、その代わりにニコライ・セルゲーイッチにやらせようとしてこの村にやって来たのだった。ニコライ・セルゲーイッチは躊躇したが、その報酬が高かったので彼の妻アンナ・アンドレーエヴナが引き受けるべきだと主張したので、公爵の提案は成立した。公爵の友好的な態度は、ニコライ・セルゲーイッチに面倒な仕事を押し付ける為の芝居だったのである。数年が経過し、公爵の領地は繁栄し始めた。

イフメーネフ家に現れた頃、ワルコフスキー公爵は社交界で頭角を現し、有力な資産家の娘と結婚した。それから公爵の態度が一変し、イフメーネフ家とは不仲になった。そうした中でナターシャが公爵の息子アレクセイを誘惑しているという根も葉も無い中傷が行われ始めた。公爵自らが村に来て真相を突き止めようとするが、村人達は話に尾ひれを付けて公爵に報告し、ニコライ・セルゲーイッチを中傷した。両者の対立は取り返しの付かない段階にまで到達し、裁判沙汰になった。

イフメーネフ家はペテルブルクに引っ越した。この時にイヴァンは四年振りにナターシャと再会する。この頃に彼が書いた長編小説が世間で褒められ、当初は職業に就いていないイヴァンを叱り付けていたニコライ・セルゲーイッチも徐々に認める様になった。 アレクセイはなぜかイフメーネフ家に出入りする様になった。その事を父親のワルコフスキー公爵に知られると、公爵は息子にイフメーネフ家への出入りを禁止し、再び容赦の無い中傷工作を繰り返した。

3週間振りに会ったナターシャは何か様子が変だった。彼女の話を聞いてみると、家出してアレクセイの所に行くのだと言う。イヴァンは家に戻れと説得するが、効果は無かった。そこにアレクセイが現れ、二人は強く抱きしめ合った。イヴァンはアレクセイに今後の予定を聞いた。彼は両家を和解させる積もりだという。現実を突き付けられたナターシャは失神してしまった。意識を取り戻した彼女はイフメーネフ夫妻への手紙をイヴァンに託して、アレクセイと共に馬車で出発してしまった。

エレミア・スミスの住まいだった部屋に引っ越して五日が経ち、イヴァンはすっかり体調が悪くなった。具体的に何に対してなのかは不明だが、兎に角重苦しい恐怖心に襲われた彼は、スミスがそこに居るのではないかと想像した。実際に少女がそこに居た。彼が少女にスミスが死んでしまった事を告げると、少女は驚きもせず愛犬アゾルカも一緒に死んだと答え、その場から消えてしまった。

帰宅する途中でイヴァンは偶然ニコライ・セルゲーイッチに出会い、ニコライ・セルゲーイッチは再び養女を貰いたいと語った。アンナ・アンドレーエヴナはその計画に否定的な反応を示した。それからナターシャ達の様子を見に行ったイヴァンは、その質素な暮らし振りに驚いた。最終的にナターシャはアレクセイと別れる決意を固めた。

第2部[編集]

第3部[編集]

第4部[編集]

登場人物[編集]

イヴァン・ペトローヴィチ(愛称ヴァーニャ)
物語のナレーター。長編小説を書く若者。
アレクセイ・ペトローヴィチ(愛称アリョーシャ)
ワルコフスキー公爵の息子。後にナターリアと駆け落ちする。
ナターリア・ニコラーエヴナ(愛称ナターシャ)
イフメーネフ夫妻の娘。
ニコライ・セルゲーイッチ・イフメーネフ
小地主。
アンナ・アンドレーエヴナ
イフメーネフの妻。
ピョートル・アレクサンドロヴィチ・ワルコフスキー公爵
怪しげな人物。
ジナイーダ・フョードロヴナ
伯爵夫人。
カチェリーナ
伯爵夫人の継娘。
エレミア・スミス老人
ナターリアの実の父親。愛犬アゾルカが死んだ後、喫茶店から帰宅途中に死亡する。
ネリー
エレミア・スミス老人の孫。
ネリーの母
ネリーが生まれる前に男に金を騙し取られる。
マスロボーエフ
ワーニャの中学時代の友人。
アレクサンドラ・セミョーノヴナ
マスロボーエフの妻。
アンナ・トリフォーノヴナ
孤児だったネリーを引き取って養育するが、虐待もしていた。

主な日本語訳[編集]