カラマーゾフの兄弟

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カラマーゾフの兄弟』(Братья Карамазовы) は、フョードル・ドストエフスキーの最後の長編小説1879年に文芸雑誌『ロシア報知』 (Русский вестник) に連載が開始され、翌1880年に単行本として出版された。『罪と罰』と並ぶドストエフスキーの最高傑作とされ、『白痴』、『悪霊』、『未成年』と併せ後期五大作品と呼ばれる。この作品に題をとった映画が数多く作られている。

目次

[編集] 概要

複雑な構成を持つ長大な作品で信仰国家教会貧困児童虐待、父子・兄弟・異性関係などさまざまなテーマを含む小説である。「思想小説」「宗教小説」「推理小説」「裁判小説」「家庭小説」「恋愛小説」としても読むことができる。

三兄弟の親子・兄弟・異性など複雑な人間関係が絡む中で父親殺しの嫌疑をかけられた子の刑事裁判について三兄弟の立場で向き合うことがメインストーリーと目されているが、作中ではこのメインストーリーからやや離れたサイドストーリーも多く書かれている。

作者自身による前書きにもあるとおり、当初の構想ではこの小説はそれぞれ独立したものとしても読める二部によって構成されるものであったが、作者の死によって第二部(第一部の13年後の物語)は書かれることなく中絶した。ただし、小林秀雄は「およそ続編というようなものがまったく考えられぬほど完璧な作品」と評している。

続編に関しては、創作ノートなどの資料がほとんど残っておらず、友人知人に宛てた手紙に物語のわずかな断片が記されているのみである。ドストエフスキー本人は続編執筆への意欲を手紙に書き表していたが、その3日後に病に倒れた。残された知人宛への手紙では、「リーザとの愛に疲れたアリョーシャがテロリストとなり、テロ事件の嫌疑をかけられて絞首台へのぼる」というようなあらすじが記されてあったらしいが、異説も出されている。この説を裏付ける要素として、ドストエフスキーが序文で、アリョーシャを本編から受ける印象とは全く異なる「奇人とも呼べる変わり者の活動家」と評していることが挙げられる。この評は1866年に起き、「ヴ・ナロード運動」の先駆となった皇帝暗殺未遂事件の犯人ドミトリイ・カラコーゾフ」に一致する。エピグラフで用いられている福音書の「一粒の麦」の喩えはカラコーゾフがロシア革命運動で果たした役割を暗示するとも読める。シベリア抑留による「改心」によってドストエフスキーに長く貼られて来た「反動的作家」という一方的なレッテルは、この点において一考察の余地があるかも知れない。[要出典]革命家ピョートル・クロポトキンは拷問を受けた体で絞首台に上ろうとするカラコーゾフの凄惨な姿を、現場に居合わせた知人からの伝聞として回想録の中で強い印象をもって記している[1]。いずれにせよ、続編の真相は闇の中である。

哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは、第一次世界大戦従軍時の数少ない私物の一つが本書であり「最低でも50回は精読した」と言っている。作家の村上春樹は「これまでの人生で巡り合った最も重要な本の3冊」として、F・スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』とレイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』と並んで本書を挙げている。また、東京大学の教員を対象に行われたアンケートでは、全ての分野の本の中で『カラマーゾフの兄弟』が「新入生に読ませたい本」の1位に選ばれてもいる。

2006年から2007年にかけては、新訳(亀山郁夫訳)が古典文学としては異例のベストセラーになった[2]。ただしこれについては、その後、国際ドストエフスキー学会副会長・木下豊房から、余りに誤訳が多いなどの批判がなされた[3]

2008年宝塚歌劇団雪組で舞台化された。

[編集] 登場人物

フョードル
カラマーゾフ家の家長。強欲で好色な成り上がり地主。前妻には駆け落ちされ、後妻には先立たれている。
ドミートリイ(ミーチャ)
フョードルの長男。27歳。フョードルと前妻の子。退役軍人。放埒で堕落した生活から抜けきれない、直情型の人物。フョードルの企みによって、自分の全財産がどれほどなのか知らぬままありったけの金を使い込み、それによって婚約者のカチェリーナに借金をしてしまう。さらにグルーシェンカをめぐってフョードルと醜悪な争いを繰り広げ、それが最悪の結果を呼び起こす。
イヴァン(ワーニャ)
フョードルの次男。24歳。フョードルと後妻の子。理科大を出た知識人。合理主義・無神論を気取っている。「神がいるのであれば、どうして虐待に苦しむ子供たちを神は救わないのか?」との言葉を語る。
アレクセイ(アリョーシャ)
フョードルの三男。フョードルと後妻の子。修道僧であり、純情で真面目な美青年。神の愛によって肉親を和解させようとする。ゾシマ長老の命で、彼の死後は還俗する。
アグラフェーナ(グルーシェンカ)
妖艶な美貌を持つ奔放な女性。ドミートリイとフョードルのどちらともが狙う妖艶な美女だが、どっちつかずの態度を崩さない。かつては清純な娘で、婚約者に捨てられた過去がある。
カチェリーナ(カーチャ)
ドミートリイの元上司の令嬢。ドミートリイの婚約者。高慢で自尊心が非常に高い。
リーザ(リーズ)
アリョーシャの女友達で相愛の仲。足が不自由で車椅子を常用している。
グリゴーリイ
カラマーゾフ家の忠実な老使用人。
スメルジャコフ
カラマーゾフ家の使用人。イヴァン独特の無神論に心酔している無神論者。てんかんの発作という持病を抱えている。「神がいなければ、全てが許される」として猫を縛り首にしたり、ピンを含ませたパンを犬に与えるなど動物虐待をしている。母は町の乞食女で、スメルジャコフを産んだ直後に死亡している。
ゾシマ
アリョーシャの修道院の長老。余命幾許もない。聖人君子とされ、修道院には彼のご利益にあやかろうとする人でいつもあふれている。だが、死後、彼の遺体によって、一つの事件が起こる。長老アンヴロシイ、およびザドンスクのティーホンがモデルとされる[4][5]

[編集] あらすじ


注意:以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。免責事項もお読みください。


地主フョードル・カラマーゾフの息子たち、性格がお互いにまったく異なる3人の兄弟ドミートリイ、イヴァン、アレクセイ(アリョーシャ)の物語である。フョードルの殺害、また、その事件をめぐる裁判を描く。

直情的な性格の長男ドミートリイは、借金に悩み、遺産の相続や、グルーシェンカという女をめぐって父親と激しくいがみ合う一方、婚約者であり気位の高いカチェリーナからの借金もあって婚約破棄できずにいた。皮肉屋で知的な次男のイヴァンは、カチェリーナのことを愛しており、カチェリーナを冷たくあしらう腹違いの兄ドミートリイに憤る。皆に愛される性格の敬虔な三男アレクセイは敬愛する老僧ゾシマに導かれ、修道院での生活を始める。

フョードルの他殺体が発見されたとき、真っ先に嫌疑がかけられたのは事件当日にフョードルの屋敷に忍び込んで使用人のグリゴーリイを襲って大怪我をさせたドミートリイであった。女性問題をめぐってフョードルと争っていたことや、殺害されたフョードルの傍にあった大金が無くなっていたが借金を抱えていたのに大金を持っていたこともあり、ドミートリイへの嫌疑が深まった。

人々はドミートリィの父親殺しを信じて疑わない。だが、ドミートリイは一貫して無罪を主張する。婚約者のカチェリーナはドミートリィの有罪と考えているが、減刑のためにドミートリイに弁護士をつけている。ドミートリィに愛されたグルーシェンカはあくまでもドミートリイの無罪を信じている。末弟のアレクセイは許婚のリーザから長兄ドミートリイの殺人嫌疑を理由にリーザとの別れを切り出される中でドミートリィの無罪を信じている。一方でリーザはアレクセイの次兄のイヴァンに惹かれていた。次兄のイヴァンは当初はドミートリィ犯行説を信じていたが、その後に別の結論にたどり着く。

裁判は進んでいくが、判決の前日には使用人のスメルジャコフが自殺、直後にイヴァンが精神病で発狂して寝込んでしまうなど周辺では不穏な事態が絶えない。そんな中、ついに運命の判決が下る。

[編集] 正教会からの評価

フョードル・ドストエフスキーの作品は正教会側からも高く評価されるものであり、時には「正教の神髄の代弁」とまで評される。特に『カラマーゾフの兄弟』については、正教会における人間の救いについての基本的な考えが一応網羅されているとされる[6]

長老ゾシマのモデルが長老アンヴロシイ、およびザドンスクのティーホンであるとされるほか、「神の像と肖」といった概念や、「永遠の記憶」といった永眠者のための祈りなどの文言が、作品にも盛り込まれている。

[編集] 日本語訳

[編集] 品切・絶版の訳書

  • 米川正夫訳 (河出書房新社、「全集 12・13巻」他、複数の版で刊行)
  • 小沼文彦訳 (筑摩書房、「全集 10・11巻」他、複数の版で刊行)、表記はカラマーゾフ兄弟
  • 原卓也訳 (新潮社、「全集 15・16巻」他)
  • 池田健太郎訳 (中央公論社、「世界の文学 17・18巻」1966年、のち中公文庫全5巻1978年)、表記はカラマゾフの兄弟
  • 江川卓訳 (集英社版「世界文学全集45・46巻」他)
  • 北垣信行訳 (講談社版「世界文学全集19・20巻」、講談社文庫全3巻他)、表記はカラマーゾフ兄弟 
  • 中山省三郎訳 (戦前の三笠書房版「全集」訳者、角川文庫全5巻のち全3巻で再刊)、表記はカラマゾフの兄弟
  • 原久一郎訳 (原卓也の父、旧新潮文庫全5巻)、表記はカラマアゾフの兄弟
  • 米川和夫訳 (米川正夫の四男、集英社の旧版「デュエット版世界文学全集. 28・29巻」)

[編集] 関連書籍

[編集] 脚注

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  1. ^ 荒畑寒村『ロシア革命運動の曙』岩波新書ISBN 978-4004130314.
  2. ^ 亀山郁夫訳「カラマーゾフの兄弟」 全5巻累計100万部突破!” (日本語). 光文社. 2009年12月26日閲覧。
  3. ^ 『週刊新潮』2008年5月22日号の記事、また木下のウェブサイトを参照。
  4. ^ 高橋保行『ギリシャ正教』146頁、講談社学術文庫 1980年 ISBN 9784061585003 (4061585002)
  5. ^ パーヴェル・エフドキーモフ著、古谷 功訳『ロシア思想におけるキリスト』95頁 - 97頁(1983年12月 あかし書房)ISBN 4870138093
  6. ^ 高橋保行『ギリシャ正教』222頁 - 232頁、講談社学術文庫 1980年 ISBN 9784061585003 (4061585002)

[編集] 外部リンク

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