使用者責任

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

使用者責任(しようしゃせきにん, Employers' liability)とは、ある事業のために他人を使用する者(使用者)が、被用者がその事業の執行について第三者に損害を加えた場合にそれを賠償しなければならないとする使用者の不法行為責任のことをいう(民法第715条第1項本文)。なお、使用者に代わって事業を監督する者も使用者としての責任を負うとされている(民法第715条第2項)。

  • 民法は、以下で条数のみ記載する。

目次

総説

参考条文

第715条(使用者等の責任)

  1. ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
  2. 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
  3. 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

無過失責任との関係

使用者責任の根拠として挙げられるのが、報償責任の法理である。これは、「利益を得ているものが、その過程で他人に与えた損失をその利益から補填し均衡をとる。」という考えで、無過失責任の根拠の一つでもある。また、「危険を伴う活動により利益を得ている者は、その危険により発生した他人への損害について、過失の有無にかかわらず責任を負うべきである」とする危険責任の法理も根底にある。

715条第1項ただし書きは免責事項として、「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」を挙げており、これを使用者が立証すれば免責されることから、使用者責任の性質は中間責任である。しかし、判例におけるただし書きの解釈は極めて限定的であり、免責を容易に認めていない[1][2]。そのため、実質的には無過失責任に近い運用がなされている。[3][4] [5]

使用者責任の要件

  • 使用関係が存在すること
使用者責任が発生するには、使用・被用の関係にあることが必要であるが、雇用関係の有無、有償・無償、継続的・臨時的等の区別を問わず、実質上の指揮監督関係があればよい(大判大正6年2月22日民録23輯212頁)。したがって、下請負人の場合は、原則的には使用関係にないが、元請負人の実質上の指揮監督下にある場合には、使用者責任が発生する可能性がある。また、暴力団の子分の行為につき、その親分に使用者責任が認められた[6]
宗教団体世界基督教統一神霊協会(統一教会)の信者の加害行為(違法な献金勧誘)が問われた民事訴訟で、信者らのうち、多くの者が教団に献身していたこと、教団の教義の実践として行われたこと、献金が教団に納められたことなどの事実から教団の”事業の執行についてなされたものである”、教団と信者らとの間には”実質的な指揮監督の関係があったもの”と認定された[7][8][9]
  • 事業の執行についてなされたものであること
事業の執行に伴って損害を与えたことが条件となるが、その範囲は本来の事業の範囲に限らず、客観的・外形的に使用者の支配領域下にあればよい(外形標準説)。
ただし、事業執行性が肯定されても、当該行為が職務権限外であることについて被害者が悪意又は重過失である場合には、当該取引行為に基づく損害賠償請求が認められない(最判昭和42年11月2日民集21巻9号2278頁)。
  • 第三者に損害を加えたこと
  • 第三者へ被用者が損害を加えたことが709条の不法行為の成立要件を満たすこと
この要件については不要であるとする説もある。
  • 使用者に免責事由のないこと
使用者が相当な注意を払った等の免責事由についての立証責任は使用者側が負担する。
  • 公設秘書暴行傷害に対する国会議員への使用者責任が認定された。東京地方裁判所・平成16年(ワ)5197号事件、東京高等裁判所・平成18年(ネ)第2948号事件、最高裁判所・平成19年(オ)第212号事件、最高裁判所・平成19年(受)第249号事件。[10]


脚注

[ヘルプ]
  1. ^ 大正4年4月29日大審院判決「相当に注意をしても到底損害の発生を避けられなかったことが明らかな場合を指し、相当の注意をしてもあるいは損害が発生したかもしれないような場合を意味するものではない」。
  2. ^ 潮見佳男 『入門民法(全)』 有斐閣、2007年、393-395頁。ISBN 978-4-641-13499-7この点について、潮見は「使用者責任が過失責任の原理ではなく、危険責任・報償責任の原理という無過失責任を根拠づける責任原理に支えられていることから、免責の成立する場面はおのずから狭くなるのである」と述べている。
  3. ^ 尾崎哲夫 『条文ガイド六法 民法』 自由国民社、2012年、第3版、397頁。ISBN 978-4-426-11474-9
  4. ^ 『法律用語事典』 小野幸二・髙岡信男 編、法学書院、2008年、第3版、295頁。ISBN 978-4-587-03812-0
  5. ^ 内田貴 『民法II 債権各論』 東京大学出版会、2011年、第3版、482-484頁。ISBN 978-4-130-32332-1
  6. ^ 平成16(受)230 損害賠償請求事件 平成16年11月12日 最高裁判所第二小法廷裁判所ウェブサイト
  7. ^ 平成6年(1994年)5月27 福岡地裁判決、平成8年(1996年)2月19日福岡高裁控訴棄却、平成9年(1997年)9月18日最高裁上告棄却(『判例時報』1526号121頁、 『判例タイムズ』880号247頁)
  8. ^ 福岡地裁判決(平成6年5月27日)霊感商法の実態
  9. ^ 有田芳生 『「神の国」の崩壊―統一教会報道全記録 』(教育史料出版会 1997年9月) ISBN 978-4876523177
  10. ^ 参議院議員の公設第一秘書への使用者責任認定判決(平成19年3月15日) 朝日新聞

関連項目

外部リンク