ミネソタ多面人格目録

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ミネソタ多面人格目録(ミネソタためんじんかくもくろく、Minnesota Multiphasic Personality Inventory)は、質問紙法心理検査で、質問に対して「あてはまる」、「あてはまらない」、「どちらでもない」を選択する3件法が用いられる。英語名の頭文字をとってMMPIとも呼ばれる。

作成の経緯と内容[編集]

MMPIは、1943年アメリカミネソタ大学病院の精神神経科の心理学者ハサウェイ(Hathaway, S. R.)と、精神科医マッキンリー(Mckinley, J. C.)によって開発された人格目録で、550の質問項目で構成されている。

開発の目的[編集]

MMPI開発の目的は、精神医学的診断の客観的尺度を作成することであった。これは、当時ハサウェイとマッキンリーが既存の尺度を使用してみたところ、それらが役に立たなかったことが影響している。

項目の収集と臨床尺度の設定[編集]

彼らは検査を作成するに当たって、1000以上の質問項目を集めることからはじめた。集めた質問項目の中から重複するものや、検査の目的と一致しないものを除いた結果、504項目が残った。そこで、彼らはその504項目を正常者に実施した。正常群はミネソタ大学病院の精神疾患を持たない患者や見舞い客、ミネソタ大学の入学前ガイダンスの出席者、事業促進局(Works Progress Administration)の労働者から選ばれた。これらの正常群はミネソタ正常群(the Minnesota normals)と呼ばれる。次いで、臨床群にも実施した。臨床群はミネソタ大学病院の精神科患者の中から、診断に疑問のある患者、二つ以上の診断名がつけられている患者などを除いたもの、つまり診断名が「抑うつ」のみや「統合失調症」のみのような患者が選ばれた。臨床群はさらに心気症抑うつヒステリー精神病質的偏奇パラノイア神経衰弱統合失調症軽躁病の診断名ごとに分けられた。 MMPIは、これら正常群と臨床群を比較して応答に有意な差のあった項目をそれぞれの尺度の弁別に用いることにした。この結果、心気症尺度(Hs)、抑うつ尺度(D)、ヒステリー尺度(Hy)、精神病質的偏奇尺度(Pd)、パラノイア尺度(Pa)、神経衰弱尺度(Pt)、統合失調症尺度(Sc)、軽躁病尺度(Ma) の8つの臨床尺度が作成された。その後さらに、男性の同性愛者を弁別することが目的の男性性・女性性尺度(Mf)と、ドレイク(Drake, 1946)の作成した社会的内向性尺度(Si)が加えられ10尺度となった。これら10尺度は臨床尺度(clinical scales)と呼ばれる。また、Mf尺度は500余の項目に追加する形であったため、項目数は今日の総項目数と同じ550項目となった。

妥当性尺度の設定[編集]

MMPIには臨床尺度のほかに、検査の妥当性を測る、?、L、F、Kの4つの妥当性尺度(validity scales)が設定された。それぞれの詳細は以下の通りである。

?尺度(疑問点)
被験者が「どちらともいえない」と答えた項目の数を表しており、これが多い場合は妥当性が疑わしくなるため、判定の中止、あるいは再検査を検討する必要がある。
L尺度(虚構点)
Lはうそ(Lie)を表し、被験者が自分を好ましく見せようとすることによっておこる反応の歪みの程度を調べるものである。
F尺度(妥当性点)
正常な成人においては出現率の低い回答をした数を表しており、これが多い場合は検査の結果の信頼性が低いと考えられる。
K尺度(修正点)
自己に対する評価、検査に対する警戒の程度を調べるもので、これが高いほど自己防衛の態度が高いといえる。また自己に対する評価、検査に対する警戒による回答の歪みを修正するための点数としても扱われる。

発表後の評価とその後[編集]

MMPIの発刊後、実際に使用されるにつれて、検査に問題点があり、精神医学的診断の客観的指標を作成するという当初の目的をはたせていないことが明らかになってきた。その問題点とは、「特定の症状を持つ患者は対応する臨床尺度で高い得点をとることが多かったが、同時に他の臨床尺度でも高い得点をとることが多い」ということである。この問題をグレイアム(Graham,1997)は「臨床尺度がその尺度名が示す症状症候群の純粋な尺度ではないのは明らかである」としたうえでその理由について、臨床尺度が相互に高い相関関係にあることを指摘した。しかし、これらの問題はMMPIの診断価値を完全に否定するものではなかった。それは、後の研究によってそれぞれの臨床尺度の程度よって起きやすい特徴が明らかにされ、新たな情報を引き出すことに成功したことにより、当初の目的とは異なった方向で役立つこととなったためである。しかし、こういった経緯により今日では臨床尺度の診断名はあまり重視されないようになっていることも事実である。また、これらの問題が重大視されない背景には精神医学的疾病分類がMMPIの開発された1940年代ほど有用視されていないということも関係している。そのため、精神医学的疾病分類が行われているという誤解を招かないようにするために、それぞれの項目を当初の臨床尺度名ではなく第1尺度、第2尺度といった風に表すことが一般的になってきている。

使用状況[編集]

MMPIは出版後、130の言語に翻訳され90以上の国で用いられている。また、研究文献数ではロールシャッハテストを超えているほか、ピオトロスキーら(Piotrowski et al., 1985)がアメリカ人格査定学会(Society for Personality Assessment)を対象にして行った調査によるとMMPIの使用頻度はウェクスラー成人知能検査ロールシャッハテストに次いで第3位であり、本国アメリカなど英語圏の国を中心に、世界的に使用頻度の高い検査である。しかし、この世界的な使用頻度と比べて、日本での使用頻度は日本語版が1963年に発刊されているにもかかわらず高くない。

日本版[編集]

前述のように日本版は1963年に阿部らによって発刊された(Hathaway & McKinley, 1943; 阿部・住田・黒田,1963)。しかし、阿部らが発刊した日本版には翻訳段階の誤りや、標準化作業における疑問などの問題点が指摘されていた[要出典]。そこで、 1990年からそれらの問題点を踏まえて翻案、標準化が始められ、1993年に発刊されたのが新日本版(MMPI新日本版研究会編,1993)である。この新日本版の発刊によって、これまで指摘されていた日本版の問題点はほぼ解決されたと言われている[要出典]

公務員の採用試験での実施例が人権侵害にあたるとして2012年6月に衆院法務委員会で質疑があり、滝実法相(当時)が「認識が薄かった」と釈明した。しかし、2013年毎日新聞による調査では4自治体が実際に使わっていた。日本で流通している出版社のMMPIによれば、同性に強く心をひかれるとか、キリストの再臨を信じるなど性的指向や宗教に触れる内容が含まれているという[1]

参考文献[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 毎日新聞2014年11月16日。