フロイド・ローズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
"Floyd Rose Original"モデル

フロイド・ローズ(英語名:Floyd Rose)は、ギタリストエンジニアのフロイド・D・ローズ氏が考案したビブラート・ユニット。1977年に開発され、1980年代の初頭からエドワード・ヴァン・ヘイレンニール・ショーンブラッド・ギルスジョー・サトリアーニスティーヴ・ヴァイらの使用によって爆発的な人気となった。大きな音程の可変幅とチューニングの安定性で知られる。ギター界の最も革新的な技術のひとつと見なされる事も多く[1][2]、今日でもエレクトリック・ギターのブリッジとして非常に良く見られるユニットである。

歴史[編集]

ローズ氏はジミ・ヘンドリクスディープ・パープルにインスパイアされたロックを演奏するギタリストであったが、昼間の仕事は宝飾品の職人であり、鉄工用の道具と知識を持っていた。同時代のギタリストの常としてシンクロナイズド・トレモロの不安定さに悩んでいた彼は1976年よりこの機構の製作に取り組んでおり、初期のユニットは自身がガレージで製作していた手作りのものであった。

彼の発明はすぐさま影響力のあるギタリストの注目を浴び、初期型ユニットのシリアル番号「1」はエドワード・ヴァン・ヘイレン[3]、「2」はニール・ショーン[4] 、「3」はブラッド・ギルス[4]に渡っている(スティーブ・ルカサーも、自らが使用していたものはシリアル番号「3」であると語っている[要出典])。スティーヴ・ヴァイ[5]もこれを入手した。

ローズ氏は1979年には特許を取得した[6]。その後、前述のミュージシャンの影響による人気と需要の高まりに応じ、アメリカ市場向けは1982年にKramer Guitarsに販売が委託された(実際の生産はドイツSchaller社)。また、日本市場向けは1983年、既に前年から独自に類似品を「FRT-1」という品番で製造・販売していたフェルナンデスに生産が委託され、「FRT-3」という品番で販売された。

その後、ナット部の規格が制定され、弦をロックしたままでもチューニングの微調整ができるファイン・チューナーを搭載したモデルが登場する。初期「FRT-4」はツマミの位置がサドルに近く、演奏中に手がツマミに触れてしまう難点があったが、後にツマミの位置をサドルから離したモデルが登場し、これが弦をロックする種類のトレモロ・ユニットのスタンダードとなった。これらのタイプについて、日本国内ではフェルナンデスが「FRT-5」「FRT-7」という品番で販売していた(現在は“Floyd Rose Original”として販売)。

人気急増の為、他各社は同様なユニットを開発し、特許侵害を犯す事となった。実際にKahler社は1億ドルの損害賠償の訴えを起こされている[7]。そのため、ローズ氏とKramer社は他社へのライセンス生産を許諾する契約を行い、各社からライセンス品が製造・販売されるようになった。Kramer社との契約は1991年を持って終了、以降アメリカ市場ではフェンダー社が販売を行っている。日本ではESP社。

2005年に特許は時間切れで失効し、一部のライセンス品は安価になった。

概要と解説[編集]

ロック式ナット

このトレモロユニットの基本的な概念は以下の2点である。

  • ナットとブリッジサドルで弦を固定する
→ これにより、アーミング時に弦がナットやブリッジ部分で動き、チューニングが変化するのを防いでいる。
  • 従来のシンクロナイズド・トレモロのような面接点の6点支持を廃し、ナイフ・エッジによる2点支持とすることで、アーミング時のビブラート・ユニットの摺動を滑らかにする
→ これにより最大で5度から7度[8]という大きな音程変化を実現すると共に「フラッター奏法」もしくは「クリケット奏法(Cricket, コオロギ)」と呼ばれる小刻みな音程変化も可能となった。


フロイド・ローズ・トレモロユニットの基本概念
I
緑色の部分がフロイド・ローズユニットである。左端にあるのがロック式のナットで、ここで上下から弦を挟み込んで固定している。右端にあるのがブリッジ部分で、弦は各サドル内で前後から挟み込まれて固定されている。この場合、ブリッジ部分は弦の張力とボディ裏のスプリング・キャビティ内に張られたばねの張力を受けて平衡状態にある。
II
これはアーム・ダウン時の概念図である。弦はナットとサドルで固定されているので、シンクロナイズド・トレモロユニットのようにナット・糸巻き間やサドルとテイルピース(シンクロナイズド・トレモロユニットの場合、テイルピースはブリッジプレート下部に装着されたサスティン・ブロックである)間の張力変化が発生しない。
III
これはアーム・アップ時である。やはり弦の張力変化はナット・サドル間でのみ発生する。



調整方法[編集]

上記の図 I にあるような「フローティング」状態にするのが最も一般的な使用方法であるが、この場合に弦が切れるとブリッジは後傾方向へ傾いてしまい(図 III の状態)、他の弦のチューニングも狂ってしまう[8]。更に、一本の弦のテンションが他の弦に影響を及ぼす為、通常のやり方では最終的なチューニングが決まるまでの過程で各弦を何度もチューニングし直さなければならない。

この場合は、スプリングの本数を減らした上でキャビティに木片等を挟み、ブリッジが前傾しない状態に固定した上で一度チューニングをし、その後木片とスプリングを元に戻し、スプリングの締め込みネジによって最終調整を行う。[9][10]

エドワード・ヴァン・ヘイレン、ジョージ・リンチなどを含む一部のギタリストは「ハーフ・フローティング」状態(日本では「ダウンオンリー」若しくは「ベタ付け」セッティングとも呼ぶ)でこのユニットを使用する事を好む[11]。 キャビティが完全には掘り込まれていない状態もしくはスプリングと平行に設置されたストッパーによってブリッジが後傾しない状態を利用するのである。この場合、弦切れによるチューニングの大幅変化が防げ、また6弦を全音下げたドロップDチューニング等への演奏中の移行も可能であるという利点がある[12]

この場合はスプリング調整ネジの締め込みをややきつくし、ブリッジが後傾しない状態で一度チューニングをし、その後スプリングの締め込みネジを適度に戻すという調整手順となる。

デメリット[編集]

ギターの音質へのブリッジの影響はブリッジ自身の材質やボディ材とのマッチング等諸説あるが、一般的にフロイド・ローズを搭載する事によってサステインは向上し、倍音(ハーモニクス)も出しやすくなるものの、音質は「冷たく」(酷い場合には「薄っぺらく」)なると言われる[9]。これに対処する為にサステインブロックを大型のものに交換する方法が知られている。ブラス製やチタン製等が各社から発売されている[13][14]

また、他のビブラートユニットと同様、ダブルストップベンド(チョーキングを織り交ぜて複数弦を同時に弾く事)で正確なピッチを出すことは難しい。

バリエーション[編集]

アイバニーズの「エッジ・プロ2」
後藤ガットのGE1996T
初期型
最初のフロイド・ローズユニットは1977年に発売された。ファイン・チューナーは搭載されていなかった。ブラッド・ギルスガスリー・ゴーヴァンらこのモデルにこだわって使用しているギタリストも存在する。
フェンダーはこれに近いものをAmerican Deluxe Stratocasterに搭載している。
Floyd Rose Original
ファイン・チューナ搭載型のスタンダードなモデルとして一世を風靡した。
Floyd Rose II
かつて生産されていた廉価版。この初期型はブリッジ側にロック機構が無かったが、後にダブル・ロック方式へと改められた。
Floyd Rose Pro
ロープロファイル(ボディ面に対して低く設置される)用に設計し直されたモデル。弦間の寸法がOriginalよりも狭い。
Floyd Rose SpeedLoader Tremolo
専用の弦を使用し、ブリッジサドルとナット部のクランプに、スタインバーガーのダブルボールエンド弦の様に弦を固定する砲弾型のエンドを引っ掛けてレンチで固定するとチューニングが即座に終了するというシステムで、自身のブランドのギターに標準搭載されていた。現在では専用弦の入手がほぼ不可能となっており実用には耐えない。
Floyd Rose Special
Originalの同等品で韓国製。単体での市場供給はされておらず、ギター工場からの「ストック」(無改造)状態のギターのみに付属。
(名称不明)
1980年代にはレスポールタイプのギターに、ボディを削る事無くほぼ無改造で取り付けられるユニットも発売されていたが、それ程の人気を得られず生産中止となっている[要出典]

ライセンス製品 (Floyd Rose Licensed)[編集]

特許使用料をフロイド・ローズ社に支払った上で製造される、他社製の製品も存在する。以下に列挙する。

Ibanez Edge
Edge, LoPro Edge, EdgePro, EdgeZeroと様々なヴァリエーションが存在する。後藤ガット社による製造。
Ibanez Zero Resistance
ナイフエッジではなくボールベアリングによる支点を持つ。
Ibanez Fixed Edge
ダブル・ロック方式だが、アームが無く、音程は変化させれられない。チューニング上の利点のみを取り入れたモデル。
Schaller社の「S・FRT-II」
Floyd Roseの生産を受け持つSchaller社によるライセンス品。Originalと各部同寸法で部品の互換性があるが、ベースプレートの材質に若干の違いがある。
後藤ガット社の「GE1996T」
YAMAHAの「Rockin' Magic」シリーズ
ポールエンドを切らずに弦をセットすることが可能である。

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ Gill, Chris (December 2006). “10 Most Earth Shaking Guitar Innovations”. Guitar World. http://www.guitarworld.com/article/10_most_earth_shaking_guitar_innovations 2010年10月2日閲覧。. 
  2. ^ Blackett, Matt. “101 Greatest Moments in Guitar History 1979 - 1983”. Guitar Player. http://www.guitarplayer.com/article/101-greatest-moments/mar-05/4282 2010年10月7日閲覧。. 
  3. ^ Vinnicombe, Chris; Leonard, Michael (2009-04-09). The 10 guitars that changed music. pp. 3. http://www.musicradar.com/news/guitars/the-10-guitars-that-changed-music-202799 2010年10月2日閲覧。. 
  4. ^ a b Gold, Jude. Whammy Bar Pyrotechnics. http://www.guitarplayer.com/article/whammy-bar-pyrotechnics/May-08/35259 2010年10月2日閲覧。. 
  5. ^ di Perna, Alan. Steve Vai: Flex Appeal. pp. 4. http://www.guitarworld.com/article/steve_vai_flex_appeal 2010年10月2日閲覧。. 
  6. ^ US patent 4171661, Floyd D. Rose, "Guitar tremolo method and apparatus", issued 1979-10-23  - bridge mechanism patent;
  7. ^ http://www.plainsite.org/flashlight/case.html?id=1797989
  8. ^ a b Ganaden, Gerry (April 2009). “Trem Wars: The Whammy Arms Race”. Premier Guitar: 4. http://www.premierguitar.com/Magazine/Issue/2009/Apr/Trem_Wars_The_Whammy_Arms_Race.aspx 2010年10月7日閲覧。. 
  9. ^ a b 『ギターの構造に強くなる本』シンコーミュージック 宮脇俊郎 1998年 ISBN 4401142586 pp 93-96.
  10. ^ 『ギターマガジン 2012年1月号』リットーミュージック 「マイギターチューンナップ」 竹田豊 p.141
  11. ^ Bradley, Simon (2009-09-04). “EVH Wolfgang”. Guitarist (magazine): 3. http://www.musicradar.com/gear/all/guitars/electric/6-string-solid-body/wolfgang-218864/review 2010年10月7日閲覧。. 
  12. ^ Gill, Chris (2009-06-30). “Eddie Van Halen: Of Wolf and Man”. Guitar World: 6. http://www.guitarworld.com/article/eddie_van_halen_of_wolf_and_man 2010年10月7日閲覧。. 
  13. ^ Ganaden, Gerry (February 2009). “Big Block Floyd Rose Tremolo Review”. Premier Guitar. http://www.premierguitar.com/Magazine/Issue/2009/Feb/Big_Block_Floyd_Rose_Tremolo_Review.aspx 2010年10月7日閲覧。. 
  14. ^ Kirkland, Eric (May 2010). “FloydUpgrades.com Brass "Big Block" and Titanium Sustain Blocks”. Guitar World. http://www.guitarworld.com/floydupgradescom-brass-big-block-and-titanium-sustain-blocks 2012年4月4日閲覧。. 

特許[編集]

フロイド・ローズ氏の保持する関連特許は下記である。

  • US patent 4171661, Floyd D. Rose, "Guitar tremolo method and apparatus", issued 1979-10-23  - bridge mechanism patent;
  • US patent 4497236, Floyd D. Rose, "Apparatus for restraining and fine tuning the strings of a musical instrument, particularly guitars", issued 1985-02-05  - first fine tuners and saddle patent;
  • US patent 4549461, Floyd D. Rose, "Apparatus for restraining and fine tuning the strings of a musical instrument, particularly guitars", issued 1985-10-29  - second fine tuners and saddle patent;
  • US patent 4555970, Floyd D. Rose, "Tremolo apparatus capable of increasing tension on the strings of a musical instrument", issued 1985-12-03  - spring and claw mechanism;
  • US patent 4882967, Floyd D. Rose, "Tremolo apparatus having broken string compensation feature", issued 1989-11-28  - early patent for a tremstopper device;
  • US patent 4967631, Floyd D. Rose, "Tremolo and tuning apparatus", issued 1990-11-06  - patent for Floyd Rose Pro, low-profile version;

外部リンク[編集]