クサノオウ

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クサノオウ
Chelidonium majus bgiu.jpg
ヨーロッパ産種(撮影場所:ルーマニア)
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: ケシ目 Papaverales
: ケシ科 Papaveraceae
: クサノオウ属 Chelidonium
: C. majus
変種 : クサノオウ var. asiaticum
学名
Chelidonium majus L. var. asiaticum (Hara) Ohwi
和名
クサノオウ
英名
Greater celandine

クサノオウケシ科クサノオウ属に属する一年生(越年草)の草本植物である。本項ではをあわせて解説する。

クサノオウ属[編集]

クサノオウ属 Chelidonium は、英語版Wikipediaには「1属1種で他に種はない」と記されている。ヨーロッパや北アメリカにおいては確かにそのようだが、アジアには数種が存在する見解がある。日本と中国に分布するヤマブキソウは本属に含められる場合がある[1][2]が、植物分類の権威牧野富太郎博士の所有していた標本にはヤマブキソウ属 Hylomecon の記入もされており[3]、牧野の著した牧野植物図鑑では本属ではなくそちらに分類されている。ヤマブキソウについては、YList[4]では、ヤマブキソウ属 Hylomecon を標準とし、クサノオウ属 Chelidoniumシノニムとしている[5]

分布[編集]

種としてのクサノオウ Chelidonium majusユーラシア大陸一帯とその周辺に広く分布する植物で、ヨーロッパから北アメリカへも移植され同地にも広く分布している。日本には北海道から九州まで分布している。日本を含めた東アジアの温帯域に分布するものはヨーロッパ産種の1変種として扱われ var. asiaticum の変種名が付与されている。

生態[編集]

種としてのクサノオウについて記す。野原や林縁に自生し、前年の秋に散布された種子はすぐに発芽して根出葉から成るロゼットを形成し越冬する。春になると中空の茎を直立させ草丈40-80cm程度までに育つ。葉は1-2回程度で深裂し、羽状複葉となって30cmまでに伸びる。花は直径2cm程度の鮮やかな黄色の四弁花で、稀に八重咲きの株がある。5月から7月までの長期間にわたって咲いた後に、長さ3-4cmの莢が上を向いて実る。莢中にある半球形の種子は黒く、種枕(エライオソーム)が付着しており、これに惹かれたアリにより散布される。

植物体を傷つけると多種にわたる有毒アルカロイド成分を含む黄色い乳液を流し、これが皮膚に触れると炎症を起す。皮膚の弱い人は植物体そのものも触れるとかぶれる危険がある。この性質を利用して、モーリス・ルブランの小説ルパンシリーズでは、主人公アルセーヌ・ルパンの変装の小道具の一つとしての設定がされている。

人間との関係[編集]

クサノオウの葉
上の葉を千切ったところ
莢(以上はいずれも宮城県仙台市)

本項も種としてのクサノオウについて記す。

毒草として[編集]

全草に約21種のアルカロイド成分を含み、その多くが人間にとって有毒である。本種を特徴づける黄色い乳液などはその最たるものであるが、古くから薬用に供されており毒性が知れわたっていたからか、誤食による中毒事故は少ない。なお、誤食すると皮膚同様に消化器内の粘膜がただれ、時には死に至ることとなる。

本種に含まれるアルカロイド成分の1つ、ケリドリン (Chelidonine) にはモルヒネに似た中枢神経抑制作用がある。もっともその効果はモルヒネよりはるかに弱い。ちなみにケリドリンの名の由来は本種の属名である。このほかプロトピン (protopine) やベルベリン (berberine) 、サンギナリン (sanguinarine) 、ケリジメリン、ケレリトリン、リンゴ酸などが含まれる。

薬草として[編集]

古くから主に民間療法において薬草として使用されてきた歴史がある。漢方ではつぼみの頃に刈り取った地上部を乾燥させたものを白屈菜と称し、特にいぼ取りや、水虫、インキンタムシといった皮膚疾患、外傷の手当てに対して使用された。また煎じて服用すると消炎性鎮痛剤として作用し胃病など内臓疾患に対して効果がある、ともされている。現代においても効果的な下剤として利用可能という評価がされているが、なにぶん毒性が強いのでその使用は専門家の指導を仰ぐべきである。

西洋ではケリドリンの中枢神経抑制作用を利用してアヘンの代替品として用いられたり、がんの痛み止めにも使用された。日本では晩年に胃がんを患った尾崎紅葉がこの目的で使用したことで特に有名であるが、本種自体が強い毒性をあわせもつので現在は用いられない。

多様な別名[編集]

本種の和名クサノオウについては以下の3つの命名由来説がある[6]

  1. 植物体を傷つけると黄色の乳液を流すので草の黄
  2. 皮膚疾患に有効な薬草という意味で瘡(くさ)の王
  3. 皮膚疾患以外にも鎮痛剤として内臓病に用いられたことから、薬草の王様という意味で草の王

またイボクサ(疣草)、タムシグサ(タムシ草)、ヒゼングサ(皮癬草)、チドメグサ(血止草)などの地方名があるが、いずれも皮膚病の薬として用いたことに由来する。 なお、チドメグサの名は全く別種の草本の標準和名でもあるため注意が必要。(⇒チドメグサ

属の学名Chelidonium は、ギリシャ語のツバメに由来する。これは母ツバメが本種の乳液でヒナの眼を洗って視力を強めるという伝承に基づいている。

脚注[編集]

  1. ^ 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本Ⅱ 離弁花類』(1982年)平凡社、p.123
  2. ^ YList ヤマブキソウ
  3. ^ 牧野標本館所蔵シーボルトコレクション
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  5. ^ YList ヤマブキソウ検索
  6. ^ 岩槻秀明 『街でよく見かける雑草や野草がよーくわかる本』 秀和システム2006年11月5日ISBN 4-7980-1485-0 p.124