アーサー帝戦記

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アーサー帝戦記』は、本田透/著・前田浩孝/イラストによる日本ライトノベル。2009年に幻狼ファンタジアノベルス幻冬舎)から第1巻が刊行された。

概要[編集]

アーサー王物語を題材としている。 特徴的な点をあげるなら、『アーサー王の死』などアーサー王を題材にした作品ではアーサー王よりも円卓の騎士聖杯伝説の冒険が重点的に語られるところ、本作品ではアーサー王自身を主人公とし、またサクソン人ケルト人との対立を主にしていること。また、ファンタジー系の作品にはありがちな魔法は一切登場せず、登場人物は全て普通の人間であることなどである。

一般的には「アーサー王」と表記されるのが一般的であるが、本作品で「アーサー帝」という表記が用いられているのは、『ブリタニア列王史』など初期の文献でアーサー王がローマに遠征し、ローマ皇帝を倒して自ら帝位に就いていることを反映しているため。なお、アーサー王のローマ遠征という題材はあまりに荒唐無稽と言うであるという理由で、現代風の作品では省略されていることが多い。

なお、著者は同じくアーサー王物語を題材にしたライトノベル、『円卓生徒会』も執筆している。同じ題材を扱っていながら両作品は大きく作風が異なっており、著者によれば、凄惨なシーンや暗いテーマをも扱っている本作品は「黒本田」、萌えやラブコメを中心とする『円卓生徒会』は「白本田」が担当しているとのこと。

あらすじ[編集]

時はローマ帝国が衰退し始めたころ。数世紀にわたってブリタニアを統治し、防衛してきたローマはブリタニアから撤退した。ローマの庇護を失ったブリトン人は、サクソン人ピクト人スコット人など様々な民族の攻撃に晒される暗黒時代に突入した。この混沌の時代、ブリトン人にアーサーは、荒廃した国土を立て治すべく王位に就くのだった。

登場人物[編集]

アーサー
この物語の主人公。ケルノウの王妃、イグレーヌの息子。父親は不明。ケルノウ王ゴルロイスからイグレーヌを奪った三代目ペンドラゴン・ウーゼルの庶子として育てられる。
11歳のころ、ロット王の謀反によりウーゼルが死亡し、ティンタージェル城が陥落すると、マーリンの手引きによりエクトルの養子として5年を過ごす、そして、16歳のとき「石に刺さった剣」を抜いて王となった。
身体的特徴として、アレクサンドロス大王と同じく虹彩異色症という身体的特徴を備えている。このことから、マーリンにより「アーサーはアレクサンドロスの転生だ」とのプロパガンダが行われている。また、5歳上の姉、モルゴスに対しては特別な感情を抱いており、未だ不安定な王位を揺るがすことにもなった。
若くして革新的な思想を抱く天才的な政治家、戦略家。ただし、その若さと有り余る激情ゆえに時に過ちをも犯す。姉モルゴスとの間にモルドレッドを、姉モルガンの侍女リオノルスとの間にボールを、それぞれもうける。
マーリン
幼名はタリエシン。ブリタニアで最も強いと言う魔力をもつドルイド。齢300歳を越えるという噂があるが、その外見は青年にしか見えない。政略をも得意とし、アーサーを権威付けるため「石に刺さった剣」やアレクサンドロス大王の転生説などを流布した。
マーリンの名は古くからドルイドの間に伝えられてきた一種の称号であり、その名に不死性を付与する為の詐術でもある。先代のマーリンと共にエジプトのアレクサンドリア図書館に赴き、ヒュパティアに師事した。キリスト教徒によるヒュパティアの虐殺の際、自らも性器を喪う傷を負う。以来、一神教を始めとする宗教による思考の停止を憎悪する無神論的思想を自己の中で確立するが、その反面ヒュパティアを守れなかったトラウマから女性に対して断固とした態度を取れなくなる。
アーサーの軍師としてサクソン人との12度に及ぶ激戦の全てに勝利するが、弟子のニミュエとのすれ違いから瀕死の重傷を負い、最期は命を懸けてサクソンの王ヘンギストとアーサーとの間の和睦を取り纏め、自らの死後の処置についてアーサーに遺言を残して死を迎える。
ランスロット
円卓の騎士団のリーダー。アーサーの無二の親友
幼名はガラハッド。フランスのブルターニュ地方に位置するアルモリカの王子。アーサーやグィネヴィアとは幼馴染の関係。ティンタージェル城が陥落したさい、叔母のニミュエに連れられてアルモリカに逃れ、アーサーが王位に就く時に役立てるため、大規模に軍馬を育てたり、フルプレートの鎧などを製作していた。当時としては馬は非常に貴重であり、また製鉄技術も未熟なため、ランスロットのもたらした重装騎兵はアーサー軍にとって驚異的な戦力となった。
基本的に女性に対して興味はない。ただし幼馴染のグィネヴィアに対してだけは別であり、グィネヴィアがアーサーと結婚するさいには複雑な感情を抱いていた。
幼い頃から叔母である女ドルイドのニミュエから戦闘に関してのみ徹底的な教育を施された純粋培養の狂戦士であり、天才的な戦術家。
ガウェイン
ロット王の長子。巨大な体躯と赤毛が特徴的であり、ロット王の家臣クランの番犬を素手で縊り殺した事によりクー・フリン(クー・フーリン)の異名を得る。生きながらにして伝説的な戦士としてピクト人などから恐怖の対象となっている。特にその戦闘能力は他を圧倒するものがあり、騎乗した完全装備のランスロットと互角の戦闘を繰り広げた。
コッツウォルズの会戦を経て、アーサーに臣従。円卓の騎士の一人として、その覇業に協力することとなる。
モルゴス
ケルノウ王ゴルロイスと、その王妃イグレインの娘。アーサーより5歳年上の異父姉。モルガンの双子の姉。三人の姉の中で幼少時のアーサーと最も親しく、かつ憧れの存在でもあった。多民族が混在するブリタニアを統一し、共存させるという理想郷アヴァロンの夢をアーサーに託した。
ティンタージェル城が陥落後、半ば略奪婚のようにロット王の妻にされる。その夫婦生活と言うのはひたすらロット王の性的虐待に耐え続けると言う凄惨なもので、後にアーサーが救出した時点ではすでに精神が崩壊していた。姉の惨状に思い余ったアーサーとの近親相姦の結果、その精神は再び元に戻るものの、その代償として不義の子であるモルドレッドを産む。
不義の大罪を犯したが故に世界から孤立しつつある弟アーサーと、その弟と確執を深めつつある妹モルガンの行く末に心を痛めている。
ロット王
ロージアンの王。ガウェインの父。野心家で欲深く、肥満体のサディスト。自らがペンドラゴンとしてブリタニアを手中に収めんと、新たに王となったアーサーと激しく対立する。最終的にはアーサー軍側の騎士、ペリノア王と相討ちになって戦死した。

書誌情報[編集]

  1. 曙光のエクスカリバー 2009年8月発行 ISBN 978-4-344-81741-8
  2. 最後の"魔術師" 2010年1月発行 ISBN 978-4-344-81862-0

外部リンク[編集]