アルブミン/グロブリン比

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血清蛋白の分画:左の大きなピークがアルブミン、右のα1からγまでがグロブリン。
上は健常人、下は多発性骨髄腫でモノクローナルな免疫グロブリンが増加しA/G比が低下した状態。

アルブミン/グロブリン比(A/G比)とは、血清中のアルブミングロブリンの比であり、アルブミンやグロブリンの増減を来す様々な病態のスクリーニング検査として用いられる。

概要[編集]

アルブミン/グロブリン比(A/G比)(()albumin/globulin ratio、 albumin-globulin ratio、AGR)とは、血清蛋白のうちのアルブミングロブリンの比である[※ 1]。 通常、血清のアルブミン血清総蛋白の測定値から算出される[※ 2]

  アルブミン/グロブリン比(A/G比) = アルブミン /(総蛋白 - アルブミン)

A/G比は、日常初期診療における基本的な検査[1]に含まれる、血清総蛋白と血清アルブミンの値から簡単に算出することができ、同時に報告されることも多い。 単独で特定の疾患を診断できる項目ではないが、アルブミンやグロブリンの増減を来す様々な病態を検出することができる、全身状態のスクリーニング検査として用いられる。 [2]

基準値[編集]

A/G比の基準値は、日本の共有基準範囲では、1.32 ー 2.23 である。

臨床的意義[編集]

A/G比は、通常、低下が問題になる。

A/G比低値がみられる病態[編集]

(主に)アルブミンの低下によるもの[編集]

アルブミンの低下とグロブリンの増加によるもの[編集]

(主に)グロブリンの増加によるもの[編集]

[5]

A/G比高値がみられる病態[編集]

アルブミンの増加によるもの[編集]

アルブミンのみが増加する病態は知られていない。

グロブリンの低下によるもの[編集]

原発性免疫不全症候群無ガンマグロブリン血症など抗体産生不全のあるタイプ)、 および、糖質コルチコイド免疫抑制剤、などによる続発性の免疫不全においては、 免疫グロブリンの産生が低下して A/G比が高くなる。[5]

なお、小児では免疫グロブリンが成人に比べ低値であり、A/G比は高めになる。また、健常人でのA/G比高値の多くは、免疫グロブリン(特にIgG)の僅かな低値が原因である[6]

疾患の予後予測[編集]

一般に、スクリーニングの場で、A/G比が低下していれば、より状態が悪いと推定される。 「栄養不良や慢性炎症によるアルブミンの低下」と「慢性炎症によるグロブリンの増加」のいずれか、または、両方の存在が示唆されるからである。

各種の悪性腫瘍患者(大腸癌、肝細胞癌、胃癌、食道癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、悪性リンパ腫、上咽頭癌、肺癌、脳膠芽腫) において、A/G比の低値が、全生存期間の短縮とリンパ節転移に有意に関連するとされる[7]。 また、慢性腎臓病(CKD)[8]心不全[9]においても、A/G比低下が予後不良の予測因子であると報告されている。

脚注[編集]

  1. ^ 血漿血清に含まれないフィブリノーゲンを含むので、血漿でのA/G比は低値に算出される。
  2. ^ 蛋白分画検査セルロースアセテート膜電気泳動法により得られたアルブミン分画とグロブリン分画から計算する方法もあるが、値がやや高めとなる。
  3. ^ 急性相反応物質(急性期反応蛋白ともいう)とは、炎症が生じたときに血中に増加する各種の蛋白を指し、代表的なものが、α1グロブリンに含まれるα1-アンチトリプシン、α2グロブリンに含まれるハプトグロビン、βグロブリンにふくまれるC反応性蛋白(CRP)である。

出典[編集]

  1. ^ 日本臨床検査医学会 臨床検査のガイドラインJSLM2021:初期診療の検査オーダーの考え方(2022年12月13日閲覧)
  2. ^ Primary Care sysmex 検査項目スピード検索 A/G比
  3. ^ 白木啓三, 久岡文子「妊婦貧血と栄養学的対策について」『栄養と食糧』第25巻第5号、日本栄養・食糧学会、1972年、431-435頁、doi:10.4327/jsnfs1949.25.431ISSN 00215376CRID 1390001205330148224 
  4. ^ Patil, Ranjit; Raghuwanshi, Uplabdhi (2009). “Serum protein, albumin, globulin levels, and A/G ratio in HIV positive patients”. Biomedical & Pharmacology Journal (Biomedical and Pharmacology Journal) 2 (2): 321. https://biomedpharmajournal.org/vol2no2/serum-protein-albumin-globulin-levels-and-ag-ratio-in-hiv-positive-patients/. 
  5. ^ a b 日本電気泳動学会 藤田清貴 『血清蛋白異常症における電気泳動解析の基礎と判読のポイント(PDF)』(2022年12月12日閲覧)
  6. ^ 臨床検査データブック2021-2022. 医学書院. 高久史麿 監修. 2021年1月15日発行. 100、979、982、983頁. ISBN 978-4-260-04287-1
  7. ^ Chi, Jieshan; Xie, Qizhi; Jia, Jingjing; Liu, Xiaoma; Sun, Jingjing; Chen, Junhui; Yi, Li (2018). “Prognostic value of albumin/globulin ratio in survival and lymph node metastasis in patients with cancer: a systematic review and meta-analysis”. Journal of Cancer (Ivyspring International publisher) 9 (13): 2341-2348. doi:10.7150/jca.24889. PMC 6036713. PMID 30026830. https://doi.org/10.7150%2Fjca.24889. 
  8. ^ Wu, Pin-Pin; Hsieh, Yao-Peng; Kor, Chew-Teng; Chiu, Ping-Fang (2019). “Association between albumin:globulin ratio and mortality in patients with chronic kidney disease”. Journal of clinical medicine (MDPI) 8 (11): 1991. doi:10.3390/jcm8111991. PMC 6912628. PMID 31731708. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6912628/. 
  9. ^ Li, Kuan and Fu, Wanrong and Bo, Yacong and Zhu, Yongjian (2018). “Effect of albumin-globulin score and albumin to globulin ratio on survival in patients with heart failure: a retrospective cohort study in China”. BMJ open (British Medical Journal Publishing Group) 8 (7): e022960. doi:10.1136/bmjopen-2018-022960. https://doi.org/10.1136/bmjopen-2018-022960. 

関連項目[編集]