アカンタリア

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アカンタリア
Haeckel Acanthometra.jpg
"Acanthometra" from Ernst Haeckel's
Kunstformen der Natur, 1904
地質時代
先カンブリア時代 - 現代
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: リザリア Rhizaria
: 放散虫 Radiolaria
: アカンタリア Acantharea
(Haeckel 1881) Mikrjukov 2000
和名
棘針綱、棘針類
英名
Acantharea
下位分類
  • アカントキアズマ目 Holacanthida
  • アンフィリチウム目 Symphyacanthida
  • コナコン目 Chaunacanthida
  • アカントメトラ目 Arthracanthida

アカンタリア(Acantharea、棘針綱・棘針類とも)は原生生物である放散虫の一群である。

アカンタリアは単細胞生物で、海洋に広く分布している。藻類原生生物などの小さな有機物粒子を捕食する従属栄養生物であり、葉緑体は持たない(ただし後述する共生藻を持つ場合がある)。形状は球形や円盤型など回転対称ものが多く、直径は 50μm~5mm ほどと単細胞生物では大型の部類に入る。最大の特徴は硫酸ストロンチウムでできた棘針(棘骨とも)と呼ばれる放射状の骨格と、内外二層に分かれた細胞質である。

歴史[編集]

アカンタリアに関する最初の研究はミュラー(Müller, 1855)によるものである。彼は地中海のサンプルを観察してアカンタリアの生物を確認し、それらを "Acanthometren" と名付けた。当時観察対象となっていたサンプルはイギリスの海洋探査船であるチャレンジャー号などが長期探検航海から持ち帰ったものが主であったため、分解しやすい細胞質部分よりも、残存しやすい棘針の形態を中心に体系付けが行われていった。ヘッケルによる分類の基準や彼のスケッチ(→ Kunstformen der Natur)も棘針が主である。細胞質の特徴を加味した分類を最初に行ったのは Schewiakoff (1926)である。アカンタリアに関する彼の著書は、細胞核生活環の記述において誤ってはいたものの、特に地中海に分布する種の生態について重要な知見を含むものであった。1950年以降は電子顕微鏡の発達に伴い、細胞核分裂や細胞内共生などの微細構造観察が行われるようになった[1]。また生態学的な側面として、アカンタリアは海洋におけるストロンチウムの循環や[2][3]、共生藻である褐虫藻の光合成を通して炭素循環へも寄与している事などが明らかとなってきた[4][5]

細胞構造[編集]

棘針[編集]

アカンタリア類の棘針は硫酸ストロンチウムの結晶(→天青石)でできており[6]、10-32本が放射状に配列するなどの形態を呈する。この棘針は原生生物に見られる他の無機構造物、珪酸炭酸カルシウムなどとは異なり、微化石として残らない。

棘針の配置は非常に規則的で、ミュラー列(Müllerian law)と呼ばれる配置を為している[7]。この配置に従う種の場合、細胞を球体に見立ててその表面座標を緯度経度で表現すると、均等に引いた5本の緯線と8本の経線との各交点に棘針が位置している。全ての交点に棘針があるわけではなく、典型的なものでは棘針は互いに隣接しない交点に計20本が配置されている。細胞中心部での棘針の交わり方・融合の仕方は様々であるが、これはアカンタリアの内部分類形質として扱われている(分類の節を参照)。

細胞質[編集]

細胞質は内質と外質の二層に分かれている。細胞質内質は多くの場合色素を含んでおり、赤色、赤褐色、黒色などを呈する。細胞核ミトコンドリアゴルジ体ペルオキシソームなど、大部分の細胞小器官は内質に含まれている。アカンタリアの成体は、アンフィリチウム目のものを除いて多核である。小器官の他に、共生藻である褐虫藻も細胞質内質に含まれている。海洋に存在するアカンタリア個体のおよそ半数は共生藻を持つという報告もある[8]。共生藻の挙動は宿主の生活環の影響を受け、特に有性生殖時には共生藻が失われる事が知られている。

細胞質を内外に仕切る中心嚢はプレート状に配列した微小繊維から成り、各プレートには棘針が通る孔が空いている。微小繊維は孔部を完全に避けて配置されているわけではなく、myonemes と呼ばれる収縮性繊維を介して棘針に接続している。中心嚢の外側にある細胞質外質は、網目のように絡み合った原形質と放射状に伸びる軸足からなる。外質のさらに外側には、capsular wall や periplasmic cortex と呼ばれる複層の繊維性細胞外マトリックスがある。外質や細胞外マトリックスは柔軟で、細胞の浮力の維持や、餌の捕捉の役目を担っている。

軸足[編集]

アカンタリアは軸足(axopodium / axopodia)と呼ばれる仮足を持つ。これは細胞から放射状に伸びる分岐や合流の無い仮足で、内部には微小管が通っている。この微小管配置は一般的な鞭毛のような9+2構造ではなく、太陽虫と同様に分類群特有の配置をとる。アカンタリアでは微小管が12角形(アカントキアズマ目)に並ぶものと、6角形(アカントメトラ目、コナコン目)のものとが知られている。軸足の微小管形成中心MicroTubule Organizing Center; MTOC)は細胞質内質の中心付近に存在する。

分布・生態[編集]

アカンタリアは非常に繊細な生物で、撹乱の少ない外洋を中心とした海域に広く分布する。極域からも少数が確認されている。淡水に棲む種は知られていない。前述の通り、棘針は成体の死と共に消滅するので、アカンタリアの観察には外洋におけるプランクトンネット曳航などの採集作業が必要である。海洋におけるアカンタリアの個体群密度の推定はしばしば為されており(例えば[8])、1000-50,000 個体/m3 ほどであると見積もられている。細胞が大きく、多層構造で浮力を得るアカンタリアは水表面に最も多く、深度と共に個体数が低下する。これは共生藻の光合成効率に関係した生態的戦略であると考えられている。

アカンタリアが捕食する生物は主に単細胞の生物で、珪藻珪質鞭毛藻渦鞭毛藻円石藻など様々である。大きな種では、カイアシ類や浮遊性の軟体動物を捕食しているという報告もある[9]。食胞内にはしばしばバクテリアも見られるが、一般には大きな餌を好むとされる。共生藻からの光合成産物の還流や栄養塩のやり取りについては、詳しい事は分かっていない。

生活環[編集]

トロフォントと呼ばれる無性世代と、ガモントと呼ばれる有性世代を持つ。とは言え、無性生殖は過去に一度報告された[10]のみで、その後は報告がない。アカンタリアの有性生殖は、ガモントの細胞内もしくはシスト(gamontocyst)内で行われる。この時シストの中では棘針が再構築されるほか、一連の体細胞分裂および減数分裂が行われる。分裂の結果、2本の鞭毛を持つ鞭毛虫様の遊走細胞が大量に生じ、放出される。アカンタリアの生活環は未だ全てのステージが解明されたわけではない。これは培養の困難さ、特に生活環を進行させる事の難しさが足枷となっている部分が大きい。

進化[編集]

アカンタリアの起源は定かでない。これはアカンタリアの化石が残存しない為である。同じ放散虫で珪酸質の骨格を持つポリキスティナとは異なり、アカンタリアの棘針を構成する硫酸ストロンチウムは溶解度が大きい。したがって生体の死後、棘針は速やかに海水に溶解してしまう。説としては先カンブリア代カンブリア紀頃、他の放散虫や有孔虫といった主な原生生物と共に出現したとするものが有力である。

分類[編集]

アカンタリアはアカンタリア綱や棘針綱として、レベルの分類群と見なされる場合が多い。下位分類としてはおよそ42050140が知られている。これらは棘針の形態や細胞核の分布、シストの有無などに基づいて分類されている。

Holacanthida Schewiakoff, 1926
「アカントキアズマ目」[11]、もしくは「ホルアカンタ類」[12]。棘針は10本もしくは16本。これは対向する位置の棘針が互いに中心部で融合して長い1本の棘針となっているためで、外見的には20本もしくは32本である。中心嚢は細胞質の外側寄りか、もしくは存在しない。細胞質内質は色素と多数の細胞核を含む。シストを形成する種が含まれ、シスト壁を構成する小板はゴルジ体由来の lithosome と呼ばれる小胞内で形成される。
AcanthochiasmaAcanthocollaAcanthoplegma
Symphyacanthida Schewiakoff, 1926
「アンフィリチウム目」[11]、もしくは「シムピアカンタ類」[12]。棘針は20本もしくは32本。全ての棘針は細胞の中心部分で融合し、細胞全体として球や星型の形状を成す。中心嚢は細胞質の外側寄り。細胞質内質は色素を含む。細胞の中心には単一の大きな細胞核がある。シストを形成する種が含まれ、シスト壁は lithosome で形成される。
AmphilithiumAstrolonchePseudolithium
Chaunacanthida Schewiakoff, 1926
「コナコン目」[11]、もしくは「カウヌアカンタ類」[12]。棘針は20本で、細胞の中心部分で緩く接合する。アンフィリチウム目とは違い強固な結合ではない。中心嚢は細胞質の外側寄りか、もしくは存在しない。細胞質内質は色素と多数の細胞核を含む。細胞質外質は透明。軸足の微小管配置は6角形。ほぼ全種がシストを形成し、シスト壁は lithosome で形成される。
AmphiaconConaconGigartaconHeteraconStauracon
Arthracanthida Schewiakoff, 1926
アカントメトラ目[11]、もしくは「アルトゥルアカンタ類」[12]。棘針は20本で、細胞の中心部分で緩く接合する。他の目とは異なり、中心嚢は細胞の中心付近に密接する。細胞質内質は色素と多数の細胞核を含んでおり、外質と明瞭に区別される。軸足の微小管配置は6角形。全ての種が共生藻を含む。シストを形成しない。
AcanthometraDaurataspisDictyacanthaDiploconusPhractopeltaPhyllostaurusPleuraspisStauracantha

参考文献[編集]

  1. ^ Febvre J. “Phylum Actinopoda. Class Acantharia”. In Margulis L, Corliss O, Melkonian M, Chapman DJ. Handbook of Protoctista. Boston: Joes and Bartlett. pp. 363-79. 
  2. ^ Bernstein RE, Byrne RH, Betzer PR, Greco RM (1992). “Morphologies and transformations of celestite in seawater - the role of acantharians in strontium and barium geochemistry”. Geochem Cosmoshim Acta 56: 3273-9. 
  3. ^ Bernstein RE, Betzer PR, Feely RA, Byrne RH, Lamb MF, Michaels AF (1987). “Acantharian fluxes and strontium to chlorinity ratios in the North Pacific Ocean”. Science 237: 1490-4. 
  4. ^ Caron DA, Michaels AF, Swanberg NR, Howse FA (1995). “Primary productivity by symbiont-bearing planktonic sarcodines (Acantharia, Radiolaria and Foraminifera) in surface water near Bermuda”. J Plankton Res. 
  5. ^ Michaels AF (1995). “Acantharian abundance and symbiont productivity at the VERTEX seasonal station”. J Plankton Res 13: 399-418. 
  6. ^ Bütschli O (1906). “Ueber die chemische Natur der Skeletsubstanz der Acantharia”. Zool Anz 30: 784-89. 
  7. ^ Müller J (1858). “Einige neue Polycysten und Acanthometren des Mittelmeers”. Physic abhandlungen der KoniglisherAkademie der Wissenschaften aus der Jahre: 1-62. 
  8. ^ a b Michaels AF (1988). “Vertical distribution and abundance of Acantharia and their symbionts”. Mar Biol 97: 559-68. 
  9. ^ * Caron DA, Swanberg NR (1990). “The ecology of planktonic sarcodines”. Rev Aquat Sci 3: 147-80. 
  10. ^ Schewiakoff W (1926). “Dia Acantharia des Golfes von Neapel.”. Fauna und Flora des Golfes von Neapedl. Monographie. Bardi, Roma, Friendlader und Sohn, Belrin.: 1-753. 
  11. ^ a b c d 原生生物図鑑 棘針綱 Acantharea に基づく日本語名。
  12. ^ a b c d 原生動物図鑑(猪木、p353)に基づく日本語名。
  • Lee JJ, Leedale GF, Bradbury P. (2000) The Illustrated Guide to The Protozoa, 2nd. vol. II pp. 783-803. Society of Protozoologists, Lawrence, Kansas. ISBN 1-891276-23-9
  • Hausmann K, Hulsmann N, Radek R. (2003) Protistology 3rd. E. Schweizerbart'sche Verlagsbuchhandlung, Stuttgart. ISBN 3-510-65208-8
  • Adl et al (2005). “The New Higher Level Classification of Eukaryotes with Emphasis on the Taxonomy of Protists”. J Eukaryot Microbiol 52 (5): 399-451.  PMID 16248873
  • 『原生動物図鑑』 猪木正三 監修 講談社(1981) ISBN 4-06-139404-5

関連項目[編集]

外部リンク[編集]