コンテンツにスキップ

「狭鼻小目」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
m 下位分類修正
編集の要約なし
 
17行目: 17行目:
}}
}}


'''狭鼻小目'''(きょうびしょうもく、Catarrhini)は、哺乳綱霊長目に分類される小目。別名'''狭鼻類'''(狭鼻猿や旧世界ザルはオナガザル科のみを指す)<ref name="iwamoto1985">岩本光雄「[https://doi.org/10.2354/psj.1.45 サルの分類名その1:マカク)]」『霊長類研究』第1巻 1号、日本霊長類学会、1985年、45 - 54頁。</ref>。
'''狭鼻小目'''(きょうびしょうもく、Catarrhini)は、哺乳綱霊長目に分類される小目。別名'''狭鼻類'''(狭鼻猿や旧世界ザルはオナガザル科のみを指す)<ref name="iwamoto1985">{{Cite journal|和書|author=岩本光雄 |date=1985 |url=https://doi.org/10.2354/psj.1.45 |title=サルの分類名(その1:マカク) |journal=霊長類研究 |ISSN=0912-4047 |publisher=日本霊長類学会 |volume=1 |issue=1-2 |pages=45-54 |doi=10.2354/psj.1.45 |CRID=1390282680142171008}}</ref>。


狭鼻類の由来となったように鼻の穴の間隔が狭く、穴が下方または前方に向いている。その他の特徴として、恒常的な[[3色型色覚]]がある。
狭鼻類の由来となったように鼻の穴の間隔が狭く、穴が下方または前方に向いている。その他の特徴として、恒常的な[[3色型色覚]]がある。


== 分類 ==
== 分類 ==
学名Catarrhiniは古代ギリシャ語で「下方」の意があるkataと、「鼻」の意があるrhisに由来する<ref>岩本光雄「[https://doi.org/10.2354/psj.4.83 サルの分類名その5:オマキザル科)]」『霊長類研究』第4巻 1号、日本霊長類学会、1988年、83 - 93頁。</ref>。
学名Catarrhiniは古代ギリシャ語で「下方」の意があるkataと、「鼻」の意があるrhisに由来する<ref>{{Cite journal|和書|author=岩本光雄 |year=1988 |url=https://doi.org/10.2354/psj.4.83 |title=サルの分類名(その5:オマキザル科) |journal=霊長類研究 |ISSN=0912-4047 |publisher=日本霊長類学会 |volume=4 |issue=1 |pages=83-93 |doi=10.2354/psj.4.83 |CRID=1390282680143673088}}</ref>。


広鼻小目と分岐したのは3000-4000万年前と言われている<ref name=kyoto>三上章允[http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/official/tokyo2004/mikami.pdf 霊長類の色覚と進化]2004年9月18日。 [http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/official/tokyo2004/ 京都大学霊長類研究所 東京公開講座「遺伝子から社会まで」]のレジュメ</ref><ref>{{cite journal|last1=Surridge|first1=Alison K.|last2=Osorio|first2=Daniel|last3=Mundy|first3=Nicholas I.|title=Evolution and selection of trichromatic vision in primates|journal=Trends in Ecology & Evolution|volume=18|issue=4|year=2003|pages=198?205|issn=01695347|doi=10.1016/S0169-5347(03)00012-0}}</ref>。
広鼻小目と分岐したのは3000-4000万年前と言われている<ref name=kyoto>三上章允、「{{PDFlink|[http://pri.ehub.kyoto-u.ac.jp/official/tokyo2004/mikami.pdf 霊長類の色覚と進化]}}」 2004年9月18日。 [http://pri.ehub.kyoto-u.ac.jp/official/tokyo2004/index.html 京都大学霊長類研究所 東京公開講座「遺伝子から社会まで」]のレジュメ</ref><ref>{{cite journal|last1=Surridge|first1=Alison K.|last2=Osorio|first2=Daniel|last3=Mundy|first3=Nicholas I.|title=Evolution and selection of trichromatic vision in primates|journal=Trends in Ecology & Evolution|volume=18|issue=4|year=2003|pages=198?205|issn=01695347|doi=10.1016/S0169-5347(03)00012-0}}</ref>。


細分化しすぎだとして1997年に本小目を認めない説が提唱されたり、1998年にオナガザル上科にヒト上科に分類される科を含める説が提唱されたこともある<ref name="groves" />。
細分化しすぎだとして1997年に本小目を認めない説が提唱されたり、1998年にオナガザル上科にヒト上科に分類される科を含める説が提唱されたこともある<ref name="groves" />。
40行目: 40行目:
[[ヒト]]を含む旧世界霊長類(狭鼻類)の祖先は、約3000万年前、[[X染色体]]にL錐体から変異した緑を中心に感知する新たなタイプの錐体(M錐体)視物質の遺伝子が出現し、[[ヘテロ接合体]]の2本のX染色体を持つメスのみが3色型色覚を有するようになり、さらにヘテロ接合体のメスにおいて[[相同組換え]]による遺伝子重複の変異を起こして同一のX染色体上に2タイプの錐体視物質の遺伝子が保持されることとなりX染色体を1本しか持たないオスも3色型色覚を有するようになった。これによって、第3の錐体細胞が「再生」された。3色型色覚は果実等の発見に有利だったと考えられる<ref name=nig>岡部正隆、伊藤啓 「[http://www.nig.ac.jp/color/barrierfree/barrierfree1-4.html 1.4 なぜ赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝子が並んで配置しているのか]「第1回色覚の原理と色盲のメカニズム」 『細胞工学』7月号をWEBに掲載。</ref><ref name=kyoto/>。
[[ヒト]]を含む旧世界霊長類(狭鼻類)の祖先は、約3000万年前、[[X染色体]]にL錐体から変異した緑を中心に感知する新たなタイプの錐体(M錐体)視物質の遺伝子が出現し、[[ヘテロ接合体]]の2本のX染色体を持つメスのみが3色型色覚を有するようになり、さらにヘテロ接合体のメスにおいて[[相同組換え]]による遺伝子重複の変異を起こして同一のX染色体上に2タイプの錐体視物質の遺伝子が保持されることとなりX染色体を1本しか持たないオスも3色型色覚を有するようになった。これによって、第3の錐体細胞が「再生」された。3色型色覚は果実等の発見に有利だったと考えられる<ref name=nig>岡部正隆、伊藤啓 「[http://www.nig.ac.jp/color/barrierfree/barrierfree1-4.html 1.4 なぜ赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝子が並んで配置しているのか]「第1回色覚の原理と色盲のメカニズム」 『細胞工学』7月号をWEBに掲載。</ref><ref name=kyoto/>。


時代を下ってヒトの[[色覚]]の研究成果から、狭鼻猿のマカク類に[[色盲]]がヒトよりも非常に少ないことを考慮すると、[[ヒト]]の祖先が狩猟生活をするようになり3色型色覚の優位性が低くなり、2色型色覚の淘汰圧が下がったと考えられる<ref name=nig/>。色盲の出現頻度は狭鼻猿の[[カニクイザル]]で0.4%、[[チンパンジー]]で1.7%である<ref name=kyoto/>。広鼻下目の[[ヨザル]]は1色型色覚であり、[[ホエザル]]は狭鼻猿と同様に3色型色覚を再獲得している<ref>平松 千尋霊長類における色覚の適応的意義を探る」、『霊長類研究』2010年 26 2 85-98。DOI https://doi.org/10.2354/psj.26.004</ref>が、これらを除き残りの新世界ザル(広鼻小目)はヘテロ接合体のX染色体を2本持つメスのみが3色型色覚を有し、オスは全て色盲である。これは狭鼻猿のようなX染色体上での相同組換えによる遺伝子重複の変異を起こさなかったためである<ref name=kyoto/>。ヒトは上記のような狭鼻猿の祖先のX染色体の遺伝子変異を受け継いでいるため、M錐体を欠損したX染色体に関連する赤緑色盲が伴性[[劣性遺伝]]をする。男性ではX染色体の赤緑色盲の遺伝子を受け継いでいると[[色盲]]が発現し、女性では2本のX染色体とも赤緑色盲の遺伝子を受け継いでいる場合に色盲が発現する<ref>岡部正隆、伊藤啓 「[http://www.nig.ac.jp/color/barrierfree/barrierfree1-6.html 1.6 女性で赤緑色盲が少ない理由]「第1回色覚の原理と色盲のメカニズム」 『細胞工学』7月号をWEBに掲載。</ref>。なお、日本人では男性の4.50%、女性の0.165%が先天赤緑色覚異常で、白人男性では約8%が先天赤緑色覚異常であるとされる。
時代を下ってヒトの[[色覚]]の研究成果から、狭鼻猿のマカク類に[[色盲]]がヒトよりも非常に少ないことを考慮すると、[[ヒト]]の祖先が狩猟生活をするようになり3色型色覚の優位性が低くなり、2色型色覚の淘汰圧が下がったと考えられる<ref name=nig/>。色盲の出現頻度は狭鼻猿の[[カニクイザル]]で0.4%、[[チンパンジー]]で1.7%である<ref name=kyoto/>。広鼻下目の[[ヨザル]]は1色型色覚であり、[[ホエザル]]は狭鼻猿と同様に3色型色覚を再獲得している<ref>{{Cite journal|和書|author=平松千尋 |year=2010 |url=https://doi.org/10.2354/psj.26.004 |title=霊長類における色覚の適応的意義を探る |journal=霊長類研究 |ISSN=09124047 |publisher=日本霊長類学会 |volume=26 |issue=2 |pages=85-98 |doi=10.2354/psj.26.004 |CRID=1390001205165751552}}</ref>が、これらを除き残りの新世界ザル(広鼻小目)はヘテロ接合体のX染色体を2本持つメスのみが3色型色覚を有し、オスは全て色盲である。これは狭鼻猿のようなX染色体上での相同組換えによる遺伝子重複の変異を起こさなかったためである<ref name=kyoto/>。ヒトは上記のような狭鼻猿の祖先のX染色体の遺伝子変異を受け継いでいるため、M錐体を欠損したX染色体に関連する赤緑色盲が伴性[[劣性遺伝]]をする。男性ではX染色体の赤緑色盲の遺伝子を受け継いでいると[[色盲]]が発現し、女性では2本のX染色体とも赤緑色盲の遺伝子を受け継いでいる場合に色盲が発現する<ref>岡部正隆、伊藤啓 「[https://www.nig.ac.jp/color/barrierfree/barrierfree1-6.html 1.6 女性で赤緑色盲が少ない理由]「第1回色覚の原理と色盲のメカニズム」『細胞工学』7月号をWEBに掲載。</ref>。なお、日本人では男性の4.50%、女性の0.165%が先天赤緑色覚異常で、白人男性では約8%が先天赤緑色覚異常であるとされる。


== 出典 ==
== 出典 ==

2024年3月5日 (火) 02:51時点における最新版

狭鼻小目
ダイアナモンキー
ダイアナモンキー Cercopithecus diana
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 霊長目 Primates
亜目 : 直鼻亜目 Haplorrhini
下目 : 真猿型下目 Simiiformes
小目 : 狭鼻小目 Catarrhini
学名
Catarrhini É. Geoffroy, 1812[1]
和名
狭鼻小目[2]
上科

狭鼻小目(きょうびしょうもく、Catarrhini)は、哺乳綱霊長目に分類される小目。別名狭鼻類(狭鼻猿や旧世界ザルはオナガザル科のみを指す)[3]

狭鼻類の由来となったように鼻の穴の間隔が狭く、穴が下方または前方に向いている。その他の特徴として、恒常的な3色型色覚がある。

分類[編集]

学名Catarrhiniは古代ギリシャ語で「下方」の意があるkataと、「鼻」の意があるrhisに由来する[4]

広鼻小目と分岐したのは3000-4000万年前と言われている[5][6]

細分化しすぎだとして1997年に本小目を認めない説が提唱されたり、1998年にオナガザル上科にヒト上科に分類される科を含める説が提唱されたこともある[1]

以下の分類は、日本モンキーセンター霊長類和名リスト(2018)に従う[2]

色覚[編集]

脊椎動物色覚は、網膜の中にどのタイプの錐体細胞を持つかによって決まる。魚類両生類爬虫類鳥類には4タイプの錐体細胞(4色型色覚)を持つものが多い。よってこれらの生物は長波長域から短波長域である近紫外線までを認識できるものと考えられている。一方ほとんどの哺乳類は錐体細胞を2タイプ(2色型色覚)しか持たない。哺乳類の祖先である爬虫類は4タイプ全ての錐体細胞を持っていたが、2億2500万年前には、最初の哺乳類と言われるアデロバシレウスが生息し始め、初期の哺乳類は主に夜行性であったため、色覚は生存に必須ではなかった。結果、4タイプのうち2タイプの錐体細胞を失い、青を中心に感知するS錐体と赤を中心に感知するL錐体の2錐体のみを保有するに至った。これは赤と緑を十分に区別できないいわゆる「赤緑色盲」の状態である。この色覚が哺乳類の子孫に遺伝的に受け継がれることとなった[7]

ヒトを含む旧世界霊長類(狭鼻類)の祖先は、約3000万年前、X染色体にL錐体から変異した緑を中心に感知する新たなタイプの錐体(M錐体)視物質の遺伝子が出現し、ヘテロ接合体の2本のX染色体を持つメスのみが3色型色覚を有するようになり、さらにヘテロ接合体のメスにおいて相同組換えによる遺伝子重複の変異を起こして同一のX染色体上に2タイプの錐体視物質の遺伝子が保持されることとなりX染色体を1本しか持たないオスも3色型色覚を有するようになった。これによって、第3の錐体細胞が「再生」された。3色型色覚は果実等の発見に有利だったと考えられる[7][5]

時代を下ってヒトの色覚の研究成果から、狭鼻猿のマカク類に色盲がヒトよりも非常に少ないことを考慮すると、ヒトの祖先が狩猟生活をするようになり3色型色覚の優位性が低くなり、2色型色覚の淘汰圧が下がったと考えられる[7]。色盲の出現頻度は狭鼻猿のカニクイザルで0.4%、チンパンジーで1.7%である[5]。広鼻下目のヨザルは1色型色覚であり、ホエザルは狭鼻猿と同様に3色型色覚を再獲得している[8]が、これらを除き残りの新世界ザル(広鼻小目)はヘテロ接合体のX染色体を2本持つメスのみが3色型色覚を有し、オスは全て色盲である。これは狭鼻猿のようなX染色体上での相同組換えによる遺伝子重複の変異を起こさなかったためである[5]。ヒトは上記のような狭鼻猿の祖先のX染色体の遺伝子変異を受け継いでいるため、M錐体を欠損したX染色体に関連する赤緑色盲が伴性劣性遺伝をする。男性ではX染色体の赤緑色盲の遺伝子を受け継いでいると色盲が発現し、女性では2本のX染色体とも赤緑色盲の遺伝子を受け継いでいる場合に色盲が発現する[9]。なお、日本人では男性の4.50%、女性の0.165%が先天赤緑色覚異常で、白人男性では約8%が先天赤緑色覚異常であるとされる。

出典[編集]

  1. ^ a b Colin P. Groves, "Order Primates," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 111 - 184.
  2. ^ a b 日本モンキーセンター霊長類和名編纂ワーキンググループ 「日本モンキーセンター 霊長類和名リスト 2018年11月版」(公開日2018年12月16日・2021年8月7日閲覧)
  3. ^ 岩本光雄「サルの分類名(その1:マカク)」『霊長類研究』第1巻第1-2号、日本霊長類学会、1985年、45-54頁、CRID 1390282680142171008doi:10.2354/psj.1.45ISSN 0912-4047 
  4. ^ 岩本光雄「サルの分類名(その5:オマキザル科)」『霊長類研究』第4巻第1号、日本霊長類学会、1988年、83-93頁、CRID 1390282680143673088doi:10.2354/psj.4.83ISSN 0912-4047 
  5. ^ a b c d 三上章允、「霊長類の色覚と進化 (PDF) 」 2004年9月18日。 京都大学霊長類研究所 東京公開講座「遺伝子から社会まで」のレジュメ
  6. ^ Surridge, Alison K.; Osorio, Daniel; Mundy, Nicholas I. (2003). “Evolution and selection of trichromatic vision in primates”. Trends in Ecology & Evolution 18 (4): 198?205. doi:10.1016/S0169-5347(03)00012-0. ISSN 01695347. 
  7. ^ a b c 岡部正隆、伊藤啓 「1.4 なぜ赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝子が並んで配置しているのか「第1回色覚の原理と色盲のメカニズム」 『細胞工学』7月号をWEBに掲載。
  8. ^ 平松千尋「霊長類における色覚の適応的意義を探る」『霊長類研究』第26巻第2号、日本霊長類学会、2010年、85-98頁、CRID 1390001205165751552doi:10.2354/psj.26.004ISSN 09124047 
  9. ^ 岡部正隆、伊藤啓 「1.6 女性で赤緑色盲が少ない理由「第1回色覚の原理と色盲のメカニズム」『細胞工学』7月号をWEBに掲載。

関連項目[編集]