コンテンツにスキップ

「ドクツルタケ」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
形態、生態、人間との関係に整理。
中毒症状等について加筆
タグ: 曖昧さ回避ページへのリンク
19行目: 19行目:


== 形態 ==
== 形態 ==
子実体は全体が純白であり、根元には明瞭なツボ、柄の中ほどにはツバを持つ。柄は特にツバから下の部分にささくれが目立つ。傘は白く縁には条線を持たず、成長すると水平かやや反り返る程度まで開く。傘の裏のひだは密で白色で幼菌でも成菌でも色の変化はない。ツバは白色だが低地のものは黄色味を帯びることが多く別種の可能性が指摘されている(後述)。
[[子実体]]は全体が純白であり、根元には明瞭なツボ、柄の中ほどにはツバを持つ。柄は特にツバから下の部分にささくれが目立つ。傘は白く縁には条線を持たず、成長すると水平かやや反り返る程度まで開く。傘の裏のひだは密で白色で幼菌でも成菌でも色の変化はない。ツバは白色だが低地のものは黄色味を帯びることが多く別種の可能性が指摘されている(後述)。


<gallery>
<gallery>
33行目: 33行目:


== 人間との関係 ==
== 人間との関係 ==
致命的な猛毒種として有名でしばしば中毒事報告される。主要毒成分は[[アマトキシン]]類<ref>[https://doi.org/10.3358/shokueishi.51.319 山浦由郎:キノコ中毒における最近の動向と今後の課題] 食品衛生学雑誌 Vol.51 (2010) No.6 P319-324. </ref>で毒性が強く(致死量は体重1㎏あたり0.1mgとされる)解毒剤はない上に、本種に含まれる量が非常に多い(1本あたり10mg)、摂食から中毒症状が発現するまでの潜伏期が長いことなどが致命的である。症状は摂食後数時間で嘔吐や下痢があリ、いったん症状が治まる偽回復期を挟んだ後に、[[肝臓]]や[[腎臓]]を破壊されて多臓器不全で死亡する症例が多いという
キノコ狩りシーズンの全般にわたって発生する致命的な猛毒種として有名で誤食による中毒事故がしばしば報告される。中毒事例は[[クサウラベニタケ]]や[[ツキヨタケ]]に比べるとだいぶ少ないものの、致命率高いのが特徴で1989年(平成元年)から2010年(平成22年)までの期間中に死亡した24人のうちの11人が本種、4人が形態的に本種とよく似たシロタマゴテングタケであったとされる<ref>登田美桜・畝山智香子・豊福肇・森川馨 (2012) わが国における自然毒による食中毒事例の傾向(平成元年~22年). 食品衛生学雑誌53(2), pp105-120. {{doi|10.3358/shokueishi.53.105}}</ref>。主要毒成分は[[アマトキシン]]類(アマニタトキシンと呼ばれる場合もある)<ref>山浦由郎(2010)キノコ中毒における最近の動向と今後の課題. 食品衛生学雑誌51(6), pp319-324.{{doi|10.3358/shokueishi.51.319}} </ref>で毒性が強く(致死量は体重1㎏あたり0.1mgとされる)解毒剤はない上に、本種に含まれる量が非常に多いこと(1本あたり10mg)、摂食から中毒症状が発現するまでの潜伏期が長いことなどが致命的である。


=== 中毒事例 ===
=== 症状 ===
中毒症状は摂食後数時間で嘔吐や下痢([[コレラ]]的ともいわれる水のような下痢)があリ、いったん症状が治まる偽回復期を挟んだ後に、[[肝臓]]や[[腎臓]]<ref name="森下ら(2006)">森下啓明・坂本英里子・保浦晃徳・石崎誠二・月山克史・近藤国和・玉井宏史・山本昌弘 (2006) キノコ摂取によるアマニタトキシン中毒の1例. 第55回日本農村医学会学術総会セッションID: 1G109. 日本農村医学会学術総会抄録集. {{doi|10.14879/nnigss.55.0.120.0}}</ref>
<ref name="福内ら(1995)">福内史子・飛田美穂・佐藤威・猪口貞樹・澤田裕介(1995)毒キノコ (ドクツルタケ) 中毒により急性腎不全をきたした1症例. 日本透析医学会雑誌28(11), pp1455-1460. {{doi|10.4009/jsdt.28.1455}}</ref>を破壊されて多臓器不全で死亡する症例が多いという。なお[[マウス]]や[[イヌ]]も同様の症状を起こすという<ref>山浦由郎・前沢久・高畠英伍・橋本隆 (1981) ドクツルタケ抽出物のマウス肝, 血液諸成分および酵素に及ぼす影響. 食品衛生学会誌22(3), pp203-208. {{doi|10.3358/shokueishi.22.203}}</ref><ref name="大木(1994)">大木正行(1994)犬における実験的アマニタきのこ中毒. 日本獣医師学会誌47(12), pp.955-957. {{doi|10.12935/jvma1951.47.955}}</ref>。


=== 診断と治療 ===
問診および食べ残しや採取場所での類似種を採取しての分析による食べたキノコの推定、血液分析によるアマトキシン類の検出など。また、解剖の結果イヌでは[[回腸]]([[小腸]]の後半)に出血<ref name="大木(1994)"/>、人では[[結腸]]([[大腸]]の一部)に粘液便がある<ref name="村上(1994)"/>ことなども中毒の特徴だという。

治療としては血液透析<ref name="福内ら(1995)"/>、[[活性炭]]投与、[[ペニシリン]]の大量投与などが行われる<ref name="森下ら(2006)"/>。

=== 中毒事例 ===
1993年7月ドクツルタケを食べた50代男性が嘔吐後病院を受診、一時期無尿になるが血液透析を繰り返し50日後退院<ref name="福内ら(1995)"/>。同年10月70代男性と60代妻が自宅の裏山で採ったキノコをナスと共に食べ妻は2日後、夫も2週間後に死亡<ref name="村上(1994)">村上行雄(1994)ドクツルタケによる食中毒. 食品衛生学会誌35(5), pp568.{{doi|10.3358/shokueishi.35.568}}</ref>。


== 類似種等 ==
== 類似種等 ==
テングタケ属内で幾つかの類似種が知られているほか、形態的生態的な差や水酸化カリウム水溶液への反応の違いによってドクツルタケとされているものでも複数種を含んでいる可能性が指摘されていた。糟谷(2020)ではDNA解析の結果日本にはドクツルタケ(広義)には少なくとも9種類が含まれており<ref>糟谷大河・横瀬萌絵・保坂健太郎(2020)日本産ドクツルタケとその近縁種の分類学的整理. 日本菌学会第64回大会セッションID: A-3</ref>、以下に一部を挙げる。
テングタケ属内で幾つかの類似種が知られているほか、形態的生態的な差や水酸化カリウム水溶液への反応の違いによってドクツルタケとされているものでも複数種を含んでいる可能性が指摘されていた。糟谷(2020)ではDNA解析の結果日本にはドクツルタケ(広義)には少なくとも9種類が含まれており<ref>糟谷大河・横瀬萌絵・保坂健太郎(2020)日本産ドクツルタケとその近縁種の分類学的整理. 日本菌学会第64回大会セッションID: A-3</ref>、以下に一部を挙げる。


; シロタマゴテングタケ ''Amanita verna''
; シロタマゴテングタケ ''Amanita verna''
63行目: 72行目:


=== 食用類似種 ===
=== 食用類似種 ===
ドクツルタケ類は[[シロオオハラタケ]]、[[ウスキモリノカサ]]や[[シロマツタケモドキ]]などの白色の子実体を持ち地上から発生する食用きのことの誤判定による中毒が多いといわれる。ツバやツボの有無、傘裏のひだの形状と色、子実体の発生場所を観察し共生樹木の有無を見ることなどにより判別可能であるが、ドクツルタケ類の毒性が極めて強ために素人は白いキノコは食すのを避けるべきとする人やキノコの会もある。
ドクツルタケ類は[[シロオオハラタケ]]、[[ウスキモリノカサ]]や[[シロマツタケモドキ]]などの白色の子実体を持ち地上から発生する食用きのことの誤判定による中毒が多いといわれる。ツバやツボの有無、傘裏のひだの形状と色、子実体の発生場所を観察し共生樹木の有無を見ることなどにより判別可能であるが、ドクツルタケ類の毒性が極めて強く事故防止のために、特に素人は白いキノコは観察だけに留め、摂避けるべきとする意見もある。


<gallery>
<gallery>
71行目: 80行目:


== 名前 ==
== 名前 ==
種小名''virosa''は「有毒の」という意味で本種の強毒性に因む。和名ドクツルタケは毒があることに加えて、[[ツルタケ]]に似ているからとも、純白な形態が[[ツル]]を連想させるからなど諸説ある。地方名は形態的な特徴や毒性に因んだものが多く、シロコドク(秋田県)、食べると死んでしまうことから鉄砲と掛け合わせたテッポウタケ、ヤタラタケの地方名がある。欧米ではDestroying Angel(破壊の天使)と呼ばれ、やはり毒性の強さに由来する。
種小名''virosa''は「有毒の」という意味で本種の強毒性に因む。和名ドクツルタケは毒があることに加えて、[[ツルタケ]]に似ているからとも、純白な形態が[[ツル]]を連想させるからなど諸説ある。地方名は形態的な特徴や毒性に因んだものが多く、シロコドク(秋田県)、食べると死んでしまうことから鉄砲と掛け合わせたテッポウタケ、ヤタラタケの地方名がある。欧米ではDestroying Angel(破壊の天使)と呼ばれ、やはり毒性の強さと白く美しい形態的特徴に由来する。


== 脚注 ==
== 脚注 ==

2023年9月28日 (木) 09:44時点における版

ドクツルタケ

Amanita virosa

分類
: 菌界 Fungus
: 担子菌門 Basidiomycota
: 菌じん綱 Hymenomycetes
: ハラタケ目 Agaricales
: テングタケ科 Amanitaceae
: テングタケ属 Amanita
: ドクツルタケ virosa
学名
Amanita virosa
和名
ドクツルタケ
英名
Destroying Angel

ドクツルタケ(毒鶴茸、Amanita virosa)は、ハラタケ目テングタケ科テングタケ属キノコ

形態

子実体は全体が純白であり、根元には明瞭なツボ、柄の中ほどにはツバを持つ。柄は特にツバから下の部分にささくれが目立つ。傘は白く縁には条線を持たず、成長すると水平かやや反り返る程度まで開く。傘の裏のひだは密で白色で幼菌でも成菌でも色の変化はない。ツバは白色だが低地のものは黄色味を帯びることが多く別種の可能性が指摘されている(後述)。

生態

他のテングタケ科同様にブナ科カバノキ科などの広葉樹、もしくはマツ科針葉樹などに外生菌根を形成し栄養や抗生物質のやり取りなどを行う共生関係にあると考えられている。子実体は林床から発生し、日本では初夏から晩秋にかけてに多い。

人間との関係

キノコ狩りシーズンの全般にわたって発生する致命的な猛毒種として有名で誤食による中毒事故がしばしば報告される。中毒事例はクサウラベニタケツキヨタケに比べるとだいぶ少ないものの、致命率が高いのが特徴で1989年(平成元年)から2010年(平成22年)までの期間中に死亡した24人のうちの11人が本種、4人が形態的に本種とよく似たシロタマゴテングタケであったとされる[1]。主要毒成分はアマトキシン類(アマニタトキシンと呼ばれる場合もある)[2]で毒性が強く(致死量は体重1㎏あたり0.1mgとされる)解毒剤はない上に、本種に含まれる量が非常に多いこと(1本あたり10mg)、摂食から中毒症状が発現するまでの潜伏期が長いことなどが致命的である。

症状

中毒症状は摂食後数時間で嘔吐や下痢(コレラ的ともいわれる水のような下痢)があリ、いったん症状が治まる偽回復期を挟んだ後に、肝臓腎臓[3] [4]を破壊されて多臓器不全で死亡する症例が多いという。なおマウスイヌも同様の症状を起こすという[5][6]

診断と治療

問診および食べ残しや採取場所での類似種を採取しての分析による食べたキノコの推定、血液分析によるアマトキシン類の検出など。また、解剖の結果イヌでは回腸小腸の後半)に出血[6]、人では結腸大腸の一部)に粘液便がある[7]ことなども中毒の特徴だという。

治療としては血液透析[4]活性炭投与、ペニシリンの大量投与などが行われる[3]

中毒事例

1993年7月ドクツルタケを食べた50代男性が嘔吐後病院を受診、一時期無尿になるが血液透析を繰り返し50日後退院[4]。同年10月70代男性と60代妻が自宅の裏山で採ったキノコをナスと共に食べ妻は2日後、夫も2週間後に死亡[7]

類似種等

テングタケ属内で幾つかの類似種が知られているほか、形態的生態的な差や水酸化カリウム水溶液への反応の違いによってドクツルタケとされているものでも複数種を含んでいる可能性が指摘されていた。糟谷(2020)ではDNA解析の結果日本にはドクツルタケ(広義)には少なくとも9種類が含まれており[8]、以下に一部を挙げる。

シロタマゴテングタケ Amanita verna
子実体はドクツルタケに比べて比較的小型で柄のささくれが無い。肉は水酸化カリウム水溶液で変色しない。
ニオイドクツルタケ Amanita oberwinklerana
肉に塩素臭およびツボが柄に癒着するなどの特徴があるといわれる。肉は水酸化カリウム水溶液の滴下で黄色に変色する。
アケボノドクツルタケ Amanita palidorosea
子実体の傘の真ん中が薄い赤や薄い黄色に染まる
ドクツルタケ(暖地型、里山型)
子実体は比較的小型の個体で、柄のささくれも控えめ、全体的に白いがツバは黄色味を帯びるのが特徴。暖地の広葉樹林や針広混交林に発生するとされる。下記の寒冷地型とは別種であるとする研究者が多い。
ドクツルタケ(寒冷地型、亜高山型)
暖地型に比べて大型で、ツバも含めて純白。モミ属トウヒ属を中心とした寒冷地のマツ科針葉樹林に発生すると言われ、このタイプが狭義のドクツルタケだとする研究者が多い。

食用類似種

ドクツルタケ類はシロオオハラタケウスキモリノカサシロマツタケモドキなどの白色の子実体を持ち地上から発生する食用きのことの誤判定による中毒が多いといわれる。ツバやツボの有無、傘裏のひだの形状と色、子実体の発生場所を観察し共生樹木の有無を見ることなどにより判別可能であるが、ドクツルタケ類の毒性が極めて強く事故防止のために、特に素人は白いキノコは観察だけに留め、摂食は避けるべきだとする意見もある。

名前

種小名virosaは「有毒の」という意味で本種の強毒性に因む。和名ドクツルタケは毒があることに加えて、ツルタケに似ているからとも、純白な形態がツルを連想させるからなど諸説ある。地方名は形態的な特徴や毒性に因んだものが多く、シロコドク(秋田県)、食べると死んでしまうことから鉄砲と掛け合わせたテッポウタケ、ヤタラタケの地方名がある。欧米ではDestroying Angel(破壊の天使)と呼ばれ、やはり毒性の強さと白く美しい形態的特徴に由来する。

脚注

  1. ^ 登田美桜・畝山智香子・豊福肇・森川馨 (2012) わが国における自然毒による食中毒事例の傾向(平成元年~22年). 食品衛生学雑誌53(2), pp105-120. doi:10.3358/shokueishi.53.105
  2. ^ 山浦由郎(2010)キノコ中毒における最近の動向と今後の課題. 食品衛生学雑誌51(6), pp319-324.doi:10.3358/shokueishi.51.319
  3. ^ a b 森下啓明・坂本英里子・保浦晃徳・石崎誠二・月山克史・近藤国和・玉井宏史・山本昌弘 (2006) キノコ摂取によるアマニタトキシン中毒の1例. 第55回日本農村医学会学術総会セッションID: 1G109. 日本農村医学会学術総会抄録集. doi:10.14879/nnigss.55.0.120.0
  4. ^ a b c 福内史子・飛田美穂・佐藤威・猪口貞樹・澤田裕介(1995)毒キノコ (ドクツルタケ) 中毒により急性腎不全をきたした1症例. 日本透析医学会雑誌28(11), pp1455-1460. doi:10.4009/jsdt.28.1455
  5. ^ 山浦由郎・前沢久・高畠英伍・橋本隆 (1981) ドクツルタケ抽出物のマウス肝, 血液諸成分および酵素に及ぼす影響. 食品衛生学会誌22(3), pp203-208. doi:10.3358/shokueishi.22.203
  6. ^ a b 大木正行(1994)犬における実験的アマニタきのこ中毒. 日本獣医師学会誌47(12), pp.955-957. doi:10.12935/jvma1951.47.955
  7. ^ a b 村上行雄(1994)ドクツルタケによる食中毒. 食品衛生学会誌35(5), pp568.doi:10.3358/shokueishi.35.568
  8. ^ 糟谷大河・横瀬萌絵・保坂健太郎(2020)日本産ドクツルタケとその近縁種の分類学的整理. 日本菌学会第64回大会セッションID: A-3

参考文献

関連項目

外部リンク