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「クロロプレンゴム」の版間の差分

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[[画像:Polychloroprene.PNG|thumb|right|300px|クロロプレンゴムの化学構造の単位。この構造が繰り返され、高分子を形成している。[[二重結合|C=C二重結合]]の場所が''trans''体だと見て取れる。]]
[[画像:Polychloroprene.PNG|thumb|right|300px|クロロプレンゴムの化学構造の単位。この構造が繰り返され、高分子を形成している。[[二重結合|C=C二重結合]]の場所が''trans''体だと見て取れる。]]


クロロプレンゴムは2-クロロ-1,3-ブタジエンの重合体である<ref name="Hart_OrganicChemistry_8thEdition_translation_p391">Harold Hart(著)、秋葉 欣哉・奥 彬(訳)『ハート基礎有機化学(改訂版)』 p.391 培風館 1994年3月20日発行 ISBN 4-563-04532-2</ref>。[[ゴム]]には炭素同士の[[二重結合]]が含まれる例が目立つ。ほとんどのゴムが二重結合の場所が[[シス (化学)|''cis''体]]が主たる構造なのに対し、クロロプレンゴムでは[[トランス (化学)|''trans''体]]を取っている。
クロロプレンゴムは2-クロロ-1,3-ブタジエンの重合体である
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Harold Hart(著)、秋葉 欣哉・奥 彬(訳)『ハート基礎有機化学(改訂版)』 p.391 培風館 1994年3月20日発行 ISBN 4-563-04532-2
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[[ゴム]]には炭素同士の[[二重結合]]が含まれる例が目立つ。ほとんどのゴムが二重結合の場所が[[シス (化学)|''cis''体]]が主たる構造なのに対し、クロロプレンゴムでは[[トランス (化学)|''trans''体]]を取っている。


[[天然ゴム]]と比べると、クロロプレンゴムの方が耐候性、[[耐熱性]]、耐油性、耐薬品性に優れており、加工も容易である。また、ゴムに使用される場合の有る硫黄も含んでおらず、燃焼させても硫黄酸化物は発生しない。しかし、クロロと付く事からも判るように、クロロプレンゴムは[[有機塩素化合物]]であり、不適切に燃焼させると[[ダイオキシン類]]の発生原因になるため、廃棄の際は適切な処理が求められる。
[[天然ゴム]]と比べると、クロロプレンゴムの方が耐候性、[[耐熱性]]、耐油性、耐薬品性に優れており、加工も容易である。また、ゴムに使用される場合の有る硫黄も含んでおらず、燃焼させても硫黄酸化物は発生しない。しかし、クロロと付く事からも判るように、クロロプレンゴムは[[有機塩素化合物]]であり、不適切に燃焼させると[[ダイオキシン類]]の発生原因になるため、廃棄の際は適切な処理が求められる。


== 歴史 ==
== 歴史 ==
クロロプレンゴムは[[1930年]]に、[[アメリカ合衆国]]の[[デュポン|デュポン社]]の[[ウォーレス・カロザース]]が開発し、翌[[1931年]]から製造を始めた。世界初のクロロプレンゴムは、'''ネオプレン'''® (Neoprene)の商品名で発売された。[[石油製品]]1つとして造可能だが、[[コークス]]から[[カーバイド|炭化カルシウム]]経由で製造する方法もある
クロロプレンゴムは[[1931年]]に、[[アメリカ合衆国]]の[[デュポン|デュポン社]]の[[ウォーレス・カロザース]]が開発し、翌[[1932年]]から製造を始めた<ref name="安田.2017">{{Cite journal|和書 |author=安田裕 |title=戦時期日本におけるクロロプレンゴムの国産化 |journal=技術と文明 : 日本産業技術史学会会誌 |issn=0911-3525 |publisher=日本産業技術史学会 ; 1985- |year=2017 |month=mar |volume=21 |issue=1 |pages=45-57 |naid=40021226142 |url=http://150.60.45.233/kaishi_bn2/21_1yasuda.pdf |format=PDF}}</ref>。世界初のクロロプレンゴムは、'''ネオプレン'''® (Neoprene)の商品名で発売された。日本ではデュポン社の製法特許抵触回避の研究のため工業的な生産は遅れ<ref>{{Cite journal|和書
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Harold Hart(著)、秋葉 欣哉・奥 彬(訳)『ハート基礎有機化学(改訂版)』 p.391 培風館 1994年3月20日発行 ISBN 4-563-04532-2
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Harold Hart(著)、秋葉 欣哉・奥 彬(訳)『ハート基礎有機化学(改訂版)』 p.391 培風館 1994年3月20日発行 ISBN 4-563-04532-2
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、梱包材

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== 脚注 ==
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=== 出典 ===
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== 関連項目 ==
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2021年4月16日 (金) 13:56時点における版

クロロプレンゴム(polychloroprene)とは、英語名のpolychloropreneが示すように、クロロプレンを重合させて得られる合成ゴムである。なお、polyとは「多数の」といった意味である。略称はCR。chloroと付く事からも判るように、構造中に塩素を含む高分子化合物である。

性質

クロロプレンゴムの化学構造の単位。この構造が繰り返され、高分子を形成している。C=C二重結合の場所がtrans体だと見て取れる。

クロロプレンゴムは2-クロロ-1,3-ブタジエンの重合体である[1]ゴムには炭素同士の二重結合が含まれる例が目立つ。ほとんどのゴムが二重結合の場所がcisが主たる構造なのに対し、クロロプレンゴムではtransを取っている。

天然ゴムと比べると、クロロプレンゴムの方が耐候性、耐熱性、耐油性、耐薬品性に優れており、加工も容易である。また、ゴムに使用される場合の有る硫黄も含んでおらず、燃焼させても硫黄酸化物は発生しない。しかし、クロロと付く事からも判るように、クロロプレンゴムは有機塩素化合物であり、不適切に燃焼させるとダイオキシン類の発生原因になるため、廃棄の際は適切な処理が求められる。

歴史

クロロプレンゴムは1931年に、アメリカ合衆国デュポン社ウォーレス・カロザースが開発し、翌1932年から製造を始めた[2]。世界初のクロロプレンゴムは、ネオプレン® (Neoprene)の商品名で発売された。日本ではデュポン社の製法特許抵触回避の研究のため工業的な生産は遅れ[3]、基本特許を利用する方法1938年東京芝浦電気が生産量500kg/月の試験設備を稼働させた[2]が、1945年3月の空襲で焼失した[2]。同時期に日本タイヤ日本カーバイド工業が相次いで工業生産に着手した[2]

工業的製法

モノマー製造法(アセチレン法)[4]
アセチレンを2量化して得られるモノビニルアセチレンに塩酸を付加する。
ブタジエン[4]
ブタジェンを塩素化,異性化して得られる3,4-ジクロルブテン-1 をアルカリ脱塩酸する。

石油製品の1つとして製造可能だが、コークスから炭化カルシウム経由で製造する方法もある[5]

工業用のホース[6]、靴底[6]、梱包材[6]、窓枠の気密部品[6]ウェットスーツ[注釈 1]Oリングなどに使用されてきた。

脚注

注釈

  1. ^ 1950年代にクロロプレンゴムを素材として作られた潜水服である。

出典

  1. ^ Harold Hart(著)、秋葉 欣哉・奥 彬(訳)『ハート基礎有機化学(改訂版)』 p.391 培風館 1994年3月20日発行 ISBN 4-563-04532-2
  2. ^ a b c d 安田裕「戦時期日本におけるクロロプレンゴムの国産化」(PDF)『技術と文明 : 日本産業技術史学会会誌』第21巻第1号、日本産業技術史学会 ; 1985-、2017年3月、45-57頁、ISSN 0911-3525NAID 40021226142 
  3. ^ 駒田勤「クロロプレン系合成ゴムに就て」『日本護謨協會誌』第12巻第10号、日本ゴム協会、1939年、639-642頁、doi:10.2324/gomu1928.12.10_639ISSN 0029-022XNAID 130006132999 
  4. ^ a b 門脇孝「ポリクロロプレンゴム (CR):合成ゴムとその製造法 (第3回)」『日本ゴム協会誌』第44巻第5号、日本ゴム協会、1971年、420-424頁、doi:10.2324/gomu.44.420ISSN 0029-022XNAID 130001288269 
  5. ^ 儲かる石 TBSがっちりマンデー!(2010年5月30日放送)
  6. ^ a b c d Harold Hart(著)、秋葉 欣哉・奥 彬(訳)『ハート基礎有機化学(改訂版)』 p.391 培風館 1994年3月20日発行 ISBN 4-563-04532-2

関連項目