「破骨細胞」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
英名の複数形を単数形に、仮リンクなど
書誌情報
2行目: 2行目:
{{Infobox 解剖学
{{Infobox 解剖学
| name=破骨細胞
| name=破骨細胞
| 画像1=[[ファイル:Gray81.png|300px]]
| 画像1 = [[ファイル:Gray81.png|300px]]
| 画像説明1=牛の胎児の下顎の小柱骨組織上の骨芽細胞(Osteoblast)と破骨細胞(osteoclast)
| 画像説明1 = 牛の胎児の下顎の小柱骨組織上の骨芽細胞(Osteoblast)と破骨細胞(osteoclast)
| 画像2=
| 画像2=
| 画像説明2=
| 画像説明2=
| 英語=Osteoclast
| 英語 = Osteoclast
| ラテン語=
| ラテン語=
| 器官=
| 器官=
17行目: 17行目:
== 特徴 ==
== 特徴 ==
[[image:Osteoclast.jpg|thumb|200px|典型的な区別特徴を表示している破骨細胞]]
[[image:Osteoclast.jpg|thumb|200px|典型的な区別特徴を表示している破骨細胞]]
破骨細胞は大型かつ樹枝状の運動性細胞であり、骨吸収を専門に行う。[[骨髄]]由来の[[単球]]マクロファージ系の前駆細胞が[[分化]]・融合して破骨細胞になることが知られており<ref name="dentalmedres1981.21.64">宇田川信之ほか、[https://doi.org/10.11516/dentalmedres1981.21.64 破骨細胞の分化と機能を調節する骨芽細胞の役割とその分子機構] 昭和歯学会雑誌 Vol.21 (2001) No.1 p.64-69</ref>、数個から数十個の核を有して[[細胞質]]は好酸性を示し、[[酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ活性]]を有する。
破骨細胞は大型かつ樹枝状の運動性細胞であり、骨吸収を専門に行う。[[骨髄]]由来の[[単球]]マクロファージ系の前駆細胞が[[分化]]・融合して破骨細胞になることが知られており<ref name="dentalmedres1981.21.64">宇田川信之 ほか、[https://doi.org/10.11516/dentalmedres1981.21.64 破骨細胞の分化と機能を調節する骨芽細胞の役割とその分子機構]」『昭和歯学会雑誌 21 1号 2001年 p.64-69, {{doi|10.11516/dentalmedres1981.21.64}}</ref>、数個から数十個の核を有して[[細胞質]]は好酸性を示し、[[酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ活性]]を有する。


=== 分化 ===
=== 分化 ===
# 骨芽細胞が分泌する{{仮リンク|マクロファージコロニー刺激因子|en|macrophage colony-stimulating factor}}({{Lang-en-short|macrophage colony-stimulating factor}}: M-CSF) の作用により、骨髄系前駆細胞は未熟貪食細胞に分化する。
# 骨芽細胞が分泌する{{仮リンク|マクロファージコロニー刺激因子|en|macrophage colony-stimulating factor}}({{Lang-en-short|macrophage colony-stimulating factor}}: M-CSF) の作用により、骨髄系前駆細胞は未熟貪食細胞に分化する。
# [[骨芽細胞]]との相互作用の中で未熟貪食細胞が表出する。特に重要な分子として、骨芽細胞が表出するRANK-L (receptor activator of NF-κB ligand) と未熟貪食細胞が表出するRANKが関係している<ref> 田中栄、[http://medicalfinder.jp/doi/abs/10.11477/mf.1408100352 RANKL-RANK] 臨床整形外科 2004 39:1, 68-70</ref>。
# [[骨芽細胞]]との相互作用の中で未熟貪食細胞が表出する。特に重要な分子として、骨芽細胞が表出するRANK-L (receptor activator of NF-κB ligand) と未熟貪食細胞が表出するRANKが関係している<ref> 田中栄、[https://doi.org/10.11477/mf.1408100352 RANKL-RANK]」『臨床整形外科 2004 391, p.68-70</ref>。
# 成熟した破骨細胞は骨基質に結合し、基質を吸収する。
# 成熟した破骨細胞は骨基質に結合し、基質を吸収する。


36行目: 36行目:
* [[副甲状腺機能亢進症]]では、[[副甲状腺ホルモン]]が増えすぎることによって破骨細胞が増え、活動が亢進することによって骨がもろくなる。
* [[副甲状腺機能亢進症]]では、[[副甲状腺ホルモン]]が増えすぎることによって破骨細胞が増え、活動が亢進することによって骨がもろくなる。
* [[骨粗鬆症]]では、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨融解のバランスが崩れ、骨量の低下が出現する。破骨細胞を抑制する薬剤には、[[ビスフォスフォネート]]や[[抗RANKL抗体]]などがある。
* [[骨粗鬆症]]では、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨融解のバランスが崩れ、骨量の低下が出現する。破骨細胞を抑制する薬剤には、[[ビスフォスフォネート]]や[[抗RANKL抗体]]などがある。
* [[関節リウマチ]]では、活性化した[[T細胞]]が[[滑膜]]に浸潤し 複数のサイトカインが関係して骨の破壊が進行する<ref>松下功、[https://doi.org/10.14961/cra.26.235 関節リウマチにおける骨破壊のメカニズム] 臨床リウマチ Vol.26 (2014) No.3 臨床リウマチ p.235-237</ref>。
* [[関節リウマチ]]では、活性化した[[T細胞]]が[[滑膜]]に浸潤し 複数のサイトカインが関係して骨の破壊が進行する<ref>松下功、[https://doi.org/10.14961/cra.26.235 関節リウマチにおける骨破壊のメカニズム]」『臨床リウマチ 26巻 3号 2014 p.235-237, 臨床リウマチ, {{doi|10.14961/cra.26.235}}。</ref>。
* [[歯周病]]では、炎症の増大と慢性化によって歯槽骨が破壊される<ref name="perio.57.120">臼井通彦ほか、[https://doi.org/10.2329/perio.57.120 歯周病における骨破壊メカニズム~破骨細胞を形成・活性化する因子~] 日本歯周病学会会誌 Vol.57 (2015) No.3 p.120-125</ref>。
* [[歯周病]]では、炎症の増大と慢性化によって歯槽骨が破壊される<ref name="perio.57.120">臼井通彦 ほか、[https://doi.org/10.2329/perio.57.120 歯周病における骨破壊メカニズム~破骨細胞を形成・活性化する因子~]」『日本歯周病学会会誌 57 3号 2015年 p.120-125, {{doi|10.2329/perio.57.120}}</ref>。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* Luiz Carlos Junqueira. 坂井 建雄訳: ジュンケイラ組織学, 丸善 ISBN 978-4-621-07821-1
* Luiz Carlos Junqueira. 坂井 建雄訳: ジュンケイラ組織学, 丸善 ISBN 978-4-621-07821-1
* Barbara Young et al: Wheater's Functional Histology, Elsevier ISBN 9780443068508
* Barbara Young et al: Wheater's Functional Histology, Elsevier ISBN 9780443068508


== 出典 ==
== 出典 ==
* 酒井昭典、[http://medicalfinder.jp/doi/abs/10.11477/mf.1408903342 骨芽細胞] 臨床整形外科 2001 36:8, 956-957
* 酒井昭典、[http://medicalfinder.jp/doi/abs/10.11477/mf.1408903342 骨芽細胞] 臨床整形外科 2001 36:8, 956-957
* 久木田明子ほか、[https://doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu.50.488 破骨細胞の分化と機能を制御する転写因子の役割] 化学と生物 Vol.50 (2012) No.7 p.488-497
* 久木田明子 ほか、[https://doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu.50.488 破骨細胞の分化と機能を制御する転写因子の役割]」『化学と生物 50 7号 2012年 p.488-497, {{doi|10.1271/kagakutoseibutsu.50.488}}
* {{PDFlink|[http://www.torii.co.jp/health/lifescience/pdf/45_1.pdf 鳥居薬品 マンガライフサイエンス 第40回 破骨細胞物語]}} 監修:多田富雄
* {{PDFlink|[http://www.torii.co.jp/health/lifescience/pdf/45_1.pdf 鳥居薬品 マンガライフサイエンス 第40回 破骨細胞物語]}} 監修:多田富雄


61行目: 61行目:
== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* [http://www.jst.go.jp/pr/announce/20130117/index.html 世界初 破骨細胞が骨を壊す様子のライブイメージングに成功] 2013年1月17日科学技術振興機構(JST)
* [http://www.jst.go.jp/pr/announce/20130117/index.html 世界初 破骨細胞が骨を壊す様子のライブイメージングに成功] 2013年1月17日科学技術振興機構(JST)
* [https://iss.jaxa.jp/kiboexp/theme/second/medakaosteoclast/ メダカにおける微少重力が破骨細胞に与える影響と重力感知機構の解析 Medaka Osteoclast実験] 2013年1月 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
* [https://iss.jaxa.jp/kiboexp/theme/second/medakaosteoclast/ メダカにおける微少重力が破骨細胞に与える影響と重力感知機構の解析 Medaka Osteoclast実験] 2013年1月 宇宙航空研究開発機構(JAXA)


{{Myeloid blood cells and plasma}}
{{Myeloid blood cells and plasma}}

2020年5月29日 (金) 00:47時点における版

破骨細胞
牛の胎児の下顎の小柱骨組織上の骨芽細胞(Osteoblast)と破骨細胞(osteoclast)
英語 Osteoclast
テンプレートを表示

破骨細胞(はこつさいぼう、: osteoclast)とは、再構築(骨リモデリング)過程において、骨を破壊(骨吸収)する役割を担っている細胞で、5個から20個(あるいはそれ以上)の核をもつ多核巨細胞である。ただし、単核の破骨細胞も確認されている。

特徴

典型的な区別特徴を表示している破骨細胞

破骨細胞は大型かつ樹枝状の運動性細胞であり、骨吸収を専門に行う。骨髄由来の単球マクロファージ系の前駆細胞が分化・融合して破骨細胞になることが知られており[1]、数個から数十個の核を有して細胞質は好酸性を示し、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ活性を有する。

分化

  1. 骨芽細胞が分泌するマクロファージコロニー刺激因子: macrophage colony-stimulating factor: M-CSF) の作用により、骨髄系前駆細胞は未熟貪食細胞に分化する。
  2. 骨芽細胞との相互作用の中で未熟貪食細胞が表出する。特に重要な分子として、骨芽細胞が表出するRANK-L (receptor activator of NF-κB ligand) と未熟貪食細胞が表出するRANKが関係している[2]
  3. 成熟した破骨細胞は骨基質に結合し、基質を吸収する。

機能

破骨細胞は骨基質を溶かして吸収する。具体的には周りにコラゲナーゼ水素イオン、そのほかのサイトカインを放出し、コラーゲンの分解やカルシウム塩結晶の融解を引き起こす[3]。また、酵素によって浸食された部位ではハウシップ窩 (Howship's lacuna) というくぼみが生じる。活発な破骨細胞の骨基質に接する表面、つまりハウシップ窩側は不規則なひだ状である。この突起は波状縁 (ruffled border) と呼ばれ、この周囲はアクチンフィラメントが多いことから明帯と呼ばれる。

破骨細胞は、副甲状腺ホルモン (parathyroid hormone: PTH) やカルシトニン (calcitonin: CT) により、その働きがコントロールされている。カルシトニンは血中のカルシウム濃度を下げる働きをするほか、破骨細胞の働きを抑制する。副甲状腺ホルモンは骨芽細胞によるカルシウムイオンの細胞外液への輸送と破骨細胞による骨吸収を促進し、反対にカルシウムイオンの量を増やす。

破骨細胞や骨芽細胞とこれらをコントロールするホルモンなどのバランスにより、血中カルシウムイオン濃度や骨が保持されている。

関連疾患

  • 骨ページェット病では、破骨細胞による骨融解が異常に亢進する。これを直そうと骨芽細胞が未熟な骨(線維骨)を作ることから、骨がもろくなる。
  • 大理石骨病では、破骨細胞は波状縁を欠いて骨吸収ができないことから、骨が異常に成長して硬くなる。結果的に血液細胞の形成(造血)が減少し、貧血や感染症にかかりやすくなる。
  • 副甲状腺機能亢進症では、副甲状腺ホルモンが増えすぎることによって破骨細胞が増え、活動が亢進することによって骨がもろくなる。
  • 骨粗鬆症では、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨融解のバランスが崩れ、骨量の低下が出現する。破骨細胞を抑制する薬剤には、ビスフォスフォネート抗RANKL抗体などがある。
  • 関節リウマチでは、活性化したT細胞滑膜に浸潤し 複数のサイトカインが関係して骨の破壊が進行する[4]
  • 歯周病では、炎症の増大と慢性化によって歯槽骨が破壊される[3]

参考文献

出典

脚注

  1. ^ 宇田川信之 ほか、「破骨細胞の分化と機能を調節する骨芽細胞の役割とその分子機構」『昭和歯学会雑誌』 21巻 1号 2001年 p.64-69, doi:10.11516/dentalmedres1981.21.64
  2. ^ 田中栄、「RANKL-RANK」『臨床整形外科』 2004年 39巻 1号, p.68-70
  3. ^ a b 臼井通彦 ほか、「歯周病における骨破壊メカニズム~破骨細胞を形成・活性化する因子~」『日本歯周病学会会誌』 57巻 3号 2015年 p.120-125, doi:10.2329/perio.57.120
  4. ^ 松下功、「関節リウマチにおける骨破壊のメカニズム」『臨床リウマチ』 26巻 3号 2014年 p.235-237, 臨床リウマチ, doi:10.14961/cra.26.235

関連項目

外部リンク