道具屋 (落語)
道具屋(どうぐや)は古典落語の演目の一つ。古くからある小咄を集めて、一席の落語にしたオムニバス形式の落語である。
主な演者
[編集]物故者
[編集]現役
[編集]道具屋が初高座の落語家
[編集]あらすじ
[編集]原話がある場合は、各章の末尾に記載しておく。
発端
[編集]神田三河町の大家・杢兵衛の甥っ子の与太郎。もう二十歳にもなるのに、働かないで遊んでばかりいるため、叔父さんは常にハラハラさせられている。
「お前のお袋がな、『何か商売を覚えさせてくれ』と言っていたが…何かやるか?」
「いいよ、そんなの」
彼自身も、遊んでばかりいてはいけないと考えており、この前珍しく商売をしてみたというのだが…?
「伝書鳩を買ってね、あたいのところに戻るよう訓練するんだよ。そうすれば、他人に売っても絶対にあたいの所へ戻ってくるだろ? それを繰り返して大儲け…」
「へんなことを考える奴だな。で、上手くいったのか?」
「いんや。放してみたんだけど、鳥屋に帰っていっちゃった」
叔父さんは唖然。それでも、ほうっておく訳にはいかないと思い、自分が『副業』でやっている"あること"をやらないかと提案した。
「知ってるよ、アタマに『ド』の字のつくやつだろ?」
「何だ、知っていたのか」
「うん、泥棒!」
「道具屋だよ…」
元帳があるからそれを見て、いくらか掛け値をすれば儲けになるから、それで好きなものでも食いなと言われて与太郎早くも舌なめずり。
しかし…その品物というのが凄かった!
「その鋸はな、火事場で拾ってきた奴なんだ。紙やすりで削って、柄を付け替えたんだよ」
股引は履いて"ヒョロッ"とよろけると"ビリッ"と破れちゃう『ヒョロビリ』だし、カメラの三脚は脚が一本取れて『二脚』になっている。
お雛様の首はグラグラで抜けそうだし、唐詩選は間がすっぽ抜けていて表紙だけ…。
「まぁ、置いとけば誰かが買ってくれるよ。場所は蔵前の伊勢屋っていう質屋の前だ。友蔵っていう人が采配をやっているから、訊けば色々教えてくれる」
下準備
[編集]いわれた場所へやってくると、煉瓦塀の前に、日向ぼっこしている間に売れるという通称『天道干し』の露天商が店を並べている。
「おい、道具屋」
「へい、何か差し上げますか?」
「おもしれえな。そこになる石をさしあげてみろい」
道具屋ビックリ…。
「友蔵っていう野郎はいるか?」
「俺だよ」
「なるほど。海老蔵っていうツラじゃねぇや」
友蔵さん度肝を抜かれたが、「ああ、あの話にきいている杢兵衛さんの甥で、馬…」…と言いかけて口を押さえ、商売のやり方を教えてくれた。
最初の客
[編集]最初にやってきたのは、威勢のよさそうな大工の棟梁。
「おい、その"ノコ"見せろ」
「のこ…ノコニある?」
「"ヤリトリ"だよ」
「命の?」
要は『鋸』の事だった。
「(焼きが)甘そうだなぁ…」
「(味が)甘いの?」
勘違いして鋸をなめ、ゲーゲーしたりと大混乱。その上、『火事場で拾ってきた』という内輪の話を喋ってしまったため、棟梁はあきれて帰ってしまった。
「アーぁ、"ションベン"されちゃったな」
「しょんべん? トイレは向こうですよ…?」
「違うよ! 道具屋の符丁で、【買わずに逃げられること】を言うんだ!」
二人目の客
[編集]次に来たのは車屋。
「"タコ"見せろ」
「蛸? 魚屋はそこの角を曲がって六件目…」
「股引の事だ!」
手にとるとなかなかいい品物なので、買おうとすると。
「あなた、断っときますが、小便はだめですよ」
「だって、割れてるじゃねえか」
「割れてたってダメです」
これでまた失敗…。
三人目の客
[編集]お次は田舎出らしい中年紳士。
「カメラの三脚か。ちょっと、それを見せてくれんか?」
「あ、それ…、足が二本しかないんですよ」
「それじゃ、立つめえ」
「だから、石の塀に立てかけてあるんです。この家に話して、塀ごとお買いなさい」
がっくり来た紳士がひょいと横を見ると…なかなかよさそうな短刀がおいてある。
「おい、その短刀を見せんか」
刃を見ようとするが、錆びついているのか、なかなか抜けない。
「反対側から引っ張れ。抜くのを手伝うんだ。一・二の…サン!! ぬーけーなーい!」
「抜けないはずです…! 木刀です!! 」
ギャフン。
「"抜ける物"はないのか?」
「えーと…あ、お雛様の首!」
「それは抜けん方がいいな。じゃあ、その鉄砲を見せい」
手にとると、なかなかいい品物だ。
「これはなんぼか?」
「一本です」
「代じゃ」
「樫です」
「金じゃ!」
「鉄です」
「値(ね)は!?」
「ズドーン!」
最後の客
[編集]次に来たのはご隠居さん。
「ひどい埃じゃな。ちゃんとハタキをかけておかなくてはいかんよ」
小言を言いながら、傍らにある笛を手に取った。
「ホレ、見なさい。この笛なんか、穴に煤がたまっておる。買う前に掃除しなければ…指が抜けない!」
なんと、掃除しようと突っ込んだ指が抜けなくなったのだ。
「困るなぁ。それ、売り物なんだけど」
「仕方がない。これ、幾らじゃ?」
「お有難うござい!! 掛け値、掛け値…十万円です」
「高すぎる! 貴様、足元を見たな?」
「いいえー、手元を見ました」
概略
[編集]その形態ゆえにどこで切ってもよく、人物の出入りも自由なため、寄席の時間調整には重宝がられている。